歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

“ピーター=フランクルになりそびれた男”の母国での評判(2)

2010-01-07 23:30:07 | トルコ関係

→(1)からの続き

前述の朝日の記事でも少し触れられていますが、このセルカンという人物については経歴詐称のみならず、“業績”詐称の事実もまた続々と判明しているとのこと。

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2009年11月9日 日経新聞

[東大の30代男性助教、業績論文の存在確認できず 不正の疑い]
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20091109AT3K0900H09112009.html

東京大学工学系研究科の30代の男性助教が、自らの業績として発表している学術論文の中に、他の研究者の論文の著者名がこの助教の名前に換わっているものや、存在が確認できない論文が複数あることが9日、関係者らへの取材で分かった。

文部科学省も不正の疑いを把握し、東大に通報。東大も採用時の業績に捏 造(ねつぞう)があったかどうかを含め、事実関係の調査に乗り出した。

この助教は2003年に東大で博士号(建築学)を取得。05年まで、任期付き研究員として独立行政法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」に所属して いた。JAXAは9日までに、JAXAの03年度年次要覧に記載された助教の研究発表11本を調べ、4本について「存在が証明できない」などの理由で削除 した。

JAXAによると、4本のうち1本は、米国土木学会に所属する論文の著者名が、助教の名前に換わっていた。(16:00)
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これらについては、2ch理系版の有志の方々による綿密な調査で徹底的に洗い出されていますが、

セルカン事件についてのまとめサイト
http://sites.google.com/site/introserkan/

セルカン氏の経歴詐称、業績捏造の追及blog
http://blog.goo.ne.jp/11jigen/

セルカン事件、まとめwiki
http://www29.atwiki.jp/serkan_anilir/

要するに、セルカン氏当人がこれまで語っていた自らの過去‐“スイスや米国で学び、“NASAで宇宙飛行士としての訓練を受け、かつてはスキーのオリンピック代表選手であり、30台の若さにしてケンブリッジ大学物理賞を初めとする世界的に権威のある学術賞をいくつも受賞し…”といった“嘘みたいに”華麗な経歴は、文字通りその大半が嘘だったという話なのです。

もちろん、(特に日本において)そうした経歴に信憑性を与え続けてきた東大の博士号は“本当の”肩書きです。しかしながら、その博士論文の内容は、実は他の複数の論文から剽窃を行い、それを切り貼りして作ったような内容のいわゆる“コピペ論文であったことが,前述の2ch理系版有志の方々の尽力で明らかにされつつあります。将来的に“博士号の剥奪”といった事態が起こりうるか否かは別にして、とりあえず、それすらもインチキだったということで。

また、もう一つの有力な“本当の”肩書きである“東大大学院の助教”という職にしても、虚偽の経歴+業績で採用されたのが明らになった以上、クビになる可能性は“博士号剥奪”のそれ以上に高いらしい。

だとしたら、セルカン氏が自らについて語る情報で確実に信用できるものといったら、もはや名前と国籍、それに性別くらいのものでしょう。

まあ、もし仮にそれらもまた全てがウソであって、その真の正体は、ちょっと顔が濃くてトルコ語が上手いだけで、実際には生まれも育ちも埼玉県の日本人“芹澤寛(せりざわ・ひろし)”-通称“セリカン”だったと。でもって、語感が近いということで“セルカン”なる偽名を使っていたのだ。とか言われても、大して驚かないかもしれませんがw。

しかし、このセルカンなる人物は、それほど凄腕の詐欺師だったのでしょうか?例の有名な宇宙飛行士コラージュ写真wを初めとして、見る人が見れば一目で気づくような爪の甘い捏造工作の数々を見る限り、とてもそうは思えなかったりします。というか、もしこれが日本以外の先進国だったとしたら、ここまで事がうまく運んだのやら。

個人的には、セルカン氏がどうこうというよりも、やっぱり“日本人はチョロいんだなあ”というのが一連の“セルカン事件”についての印象だったりしますね。さすがは“オレオレ詐欺が可能な国”というか。

もちろん、そうした騙されやすさは“他人に対する信頼度の高さ”だとか“基本的に性善説的な人間観”といった、日本社会の美点とされているものと表裏一体なわけで、ある程度は仕方が無いのかもしれません。我々は、それだけ恵まれた社会で暮らしているってことで。

ただ、それでも、東大の先生までもがスルタンアフメット(←イスタンブル旧市街の代表的な観光地区)の絨毯屋に騙される普通の日本人観光客と同じようなレベルで、口八丁手八丁で丸め込まれるのはさすがにまずいと思うわけです。

いや、個人で騙される分にはいくら騙されても構わないのですよ。被害がその先生当人の私的な領域に止まるのであれば、偽物の絨毯でもキリムでもじゃんじゃん買えばよいし、家でも土地でも適当に取られれば良い。

でも、いかに自分の教え子だからと言って、適当なコピペ論文に情実でほいほい博士号を出してやったり、詐欺師に教職を斡旋していたのだとしたら、これは完全に公的で、社会を巻き込む問題となります。それも、単にこの手のモラルハザードが蔓延するとメリトクラシー(能力主義)が十全に機能しなくなり、大学の研究水準が下がるというだけでない、日本の社会システムの根幹に関わる大問題なわけで…..。

何せ、日本社会において東大の博士とか助教とかいった肩書きには絶大な権威+信用があります。詐欺師が金儲けをするのに、これ以上のお墨付きはありませんよ。現にセルカン氏は、その肩書きを最大限に生かして一般向けの本を何冊も書いては売り、日本のあちこちで講演会やら有料の私塾(その名を“セルカン・カレッジ”と言うらしい)を開いてきました。

さらには、日本の“第三の権力”である大手メディアは、“東大”や“NASA”といった権威の前では一切のチェック機能を停止してしまうらしく….。朝日や日経はちゃんとセルカン氏の不正を記事にしているではないか?と言われるかもしれませんが、こちらが引用した記事が掲載された2009年の11月以前は、両紙ともセルカン氏のことをさんざん持ち上げた挙句、氏のホラ話をまったく裏を取らないまま、“事実”としてそのまま垂れ流していたのです。

もしセルカン氏が経歴不明の“謎のトルコ人”だったとしたら、そんなことは起こり得なかったはず(多分)で、やはりこれも、“東大助教”の肩書き(+“NASA認定の宇宙飛行士候補”等の実在しない諸々の経歴と業績)あったればこそでしょう。

こうした不甲斐ない大手メディアと世間を覚醒させ、法螺吹きセルカン氏の実像を白日の下に晒すきっかけを作ったのはネット、特に2chの理系板でした。

これまでの流れとしては、

セルカン氏、東大にて博士号を取得した前後から旺盛な社交活動によって開拓した人脈を駆使し、自らを大手メディアに売り込む。その際に“NASAで訓練を受けた宇宙飛行士候補”等の架空の経歴・業績を自ら吹聴
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大手メディア、セルカン氏の法螺をほぼ100%信用。劇的な半生の持ち主であり、日本語に堪能で幅広い才能に恵まれたピーター=フランクルの如き文部両道の才人としてセルカン氏を持ち上げる。メディアに露出する機会も増加
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セルカン氏が金になるとふんだ人々や組織が氏に接触するようになり、一般向けの講演や私塾が頻繁に開催される。何冊か一般向けの書物を日本語で出版(ゴースト・ライター説あり)し、さらに知名度は上昇。それに伴って架空の経歴・業績の数もより増え、より多彩になる。
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セルカン氏の怪しい経歴はかねてより2chの理系板で話題になっていたが、氏の経歴の中にあった、ある物理関係の権威ある学会誌への論文掲載が明らかに虚偽であることが判明。それがきっかけになって、理系版の有志による検証作業が急速に進むが、既に出版されていた一般向けの書物や、ネット上のあちこちに転がっていた諸々のインタビュー記事があだとなって、経歴・業績上の矛盾が次から次に暴露される。その一つが例の宇宙飛行士コラージュ写真w。 
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ネット上の一部で“セルカン祭り”が発生。それをかぎつけた大手メディア、特に日経や朝日は掌を返したようにセルカン氏の経歴・業績詐称を報道し始める。これに応じて、勤務先の東大も調査を開始。
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そして伝説へ…..(悪い意味で)


要は、嘘もほどほどにしておけば、恐らく“チョロい”日本社会なんぞは完全に騙しとおせたわけで、能力に不相応な栄達もそれなりにできた筈なのです。それが失敗したのは、当人が欲をかきすぎて自滅した結果に他なりません。アッラーは、悪しき信徒には必ずや罰を与え給うのでありましょう。

それにしても、権威に弱く役立たずの大手メディアを尻目に、この件における2ch理系板の活躍は目覚しいものがありました。昨年の“アタデュルク銅像騒ぎ”の際はほとんど“マヌケ時空発生装置”にしか思えなかった2chですが、正直、見直した次第です。数ある板も、玉石混交なのですね。

ところで、グーグルなんかで“セルカン=アヌルル”の名で検索すると、トルコ語の過去の新聞記事が大量に出てくるのですが、それらをざっと流し読みした感じだと、どうやらセルカン氏は日本での“成功”を手土産にトルコでも自らの知名度を高め、将来的には凱旋帰国しようとしていた節があります。

ちょうど3年ほど前のスタル(Star)新聞の記事は以下の通り。

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「日本人たちのトルコ侍」   スタル紙  2006年12月11日
原文:Japonlar’ın Türk samurayı
http://www.stargazete.com/mobil/guncel/japonlar-in-turk-samurayi-haber-61182.mob

東京大学建築学科のセルカン=アヌルル博士の十本の指には、十個の才能が宿っている。彼は日本のNASAたるJAXAで働く唯一のトルコ人であり、その著書の売り上げは50万部に達する。彼が関わった子供番組もまた、放映されるや視聴率記録を塗り変えているのだ。

日本において、その技術を主導する科学者らの第一線にあるセルカン=アヌルル准教授(←原文ママ)は、新たなイルハン=マンススのように振舞っている。執筆した科学書の売り上げは50万部に達し、有名な日本のTV局‐NHKで彼が製作した子供番組も、37%もの視聴率を記録。

東京大学建築学部で研究を続けるアヌルルは、日本のNASAに相当するJAXAで働く唯一の外国人である点、またその研究が科学界に大きな反響をもたらしている点において、他の多くの同僚とは一線を画しているのだ。

※ イルハン=マンスス(1975~):トルコのサッカー選手。2003年の日韓ワールドカップにトルコ代表チームの一員として出場した際、その端正な(というか、日本人好みの)容貌から、日本では主に女性の間で人気が急上昇。大会後は来日し、Jリーグに在籍したこともあった。なお、日本ではあまり話題にならなかったが、その家系は19世紀に帝政ロシアの支配を逃れ、クリミア半島(現ウクライナ領)からオスマン帝国領に移住したテュルク系民族“クルム=タタール人”の末裔にあたる。

<パムック作品の序文を依頼される>

8年もの間東京に暮らす33歳のアヌルルは、最近、オルハン=パムックの諸作品を出している出版社(←藤原書店のことか?)から、それらの序文を依頼されたという。

※ オルハン=パムック(1952~):トルコ人として初めてノーベル文学賞を受賞した文学者。政治的には左派的な言動が目立ち、近年もトルコ政府はオスマン帝国時代末期のアルメニア人大虐殺の事実を認めるべきだ、などと発言して物議を醸している。ノーベル文学賞云々といい、保守派からの嫌われようといい、日本で言えば、ちょうど大江健三郎みたいなポジションか。

(以下略)
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 2006年12月の時点でのセルカン氏の著書といったら、

『宇宙エレベーター こうして僕らは宇宙とつながる』(2006年、大和書房)
『タイムマシン』(2006年、日経BP社)

の2冊でしょうか。

出版されたその年に50万部も売れたのか。すげえ(棒読み)。

まあ、それが事実だとしても、単に同国人だというだけで、30そこそこの畑違いの研究者がオルハン=パムックのような大物作家の作品の序文を任されるなんて、普通はまず有り得ない。恐らく、セルカン氏の脳内での出来事でしょう。

また、セルカン氏のJAXAでの任期は2005年で切れているはずなので、2006年の時点で“JAXAで働く唯一のトルコ人”というのは明らかな詐称です。

というか、これまでのエントリーを読んでいる方はお分かりでしょうが、トルコのメディアの報道というのもかなりいい加減なのですよ。 だから、セルカン氏当人が言ったのか、記者の脳内変換によるものか、しばしば判断がつかなかったりするのですが、この“JAXAで働く唯一のトルコ人”という肩書きはかなり後の時期に記録されたセルカン氏のインタビューでも出てくるので、多分本人が語っていた言葉ではないかと思われます。 

→(3)に続く


Жаңы жылыңыз менен!

2010-01-07 22:42:36 | 管理人より
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。

本ブログでよく出てくる言葉だと、露語では“С новым годом!”ス・ノーヴィム・ゴーダム、土語では“Yeni y遵dl遵dn遵dz kutlu olsun!”イェニ・ユルヌズ・クトゥル・オルスンですか。日本語に直訳すると、それぞれ“新年を(祝福します)!”貴方の一年が幸福なものでありますようにみたいな感じですね。

現在こちらが居る中央アジアの某国だとЖаңы жылыңыз мененジャヌ・ジュルヌズ・メネン!。これは言葉の系統的にはトルコ語に近い(“イェニ=ジャヌ”、“ユルヌズ=ジュルヌズ”と対応)ですが、フレーズとしては上述の露語“С новым годом!”をそのまま直訳したものだったりします。

まあ、それを言ったらロシアにしろトルコにしろ、革命以前は片やユリウス暦(別種の太陽暦)、片やヒジュラ暦(イスラーム世界共通の太陰暦)を使っていたのであって、“グレゴリオ暦新年”を祝う決まり文句なんぞ無かったわけですが....。

ちなみに、今日はロシア正教のクリスマスです。ロシアだけでなくロシア人が多く住んでいる国ではどこでも公休日なのですが、欧米諸国におけるクリスマスのような盛り上がりはありません。

というのも、ソ連時代に共産党=政府が宗教勢力の影響力を根絶するために宗教的な休日は全廃し、特に新年を祝うのはグレゴリオ暦の12/31~1/1の間に固定してしまったからで、ソ連が潰れてから20年近くになる現在においても、やはり盛大に祝われるのはそちらの方なのです。この辺りは旧ソ連のイスラーム圏においても同じで、断食明けの祭りみたいな宗教的な祝祭は、イランやトルコほど盛大には祝われません。

それと、日本ではあまり知られていませんが、ロシアを初めとする旧ソ連圏の国々(除バルト三国)には何故か“干支”が存在します。モンゴル帝国の時代に広まったとか、比較的後代に漢人が持ち込んだものだとか諸々の説があるのですが、

現に、こんな↓カレンダーが普通に売られているのです。





<ГОД ТИГРА>は“寅年”の意。

年末はぐずぐずしてる間に近所のネット屋が閉まってしまい、結局、更新ができませんでした、お陰で“トルコ版法螺吹き男爵=セルカン氏”のネタが年を跨いで続くという、新年早々実に不吉な状態に陥っているわけですが、来年はそうした事態を招かぬよう、もう少し細めな更新を心掛ける所存です。

ともかくも、今年もよろしくお願い致します。