前回と前々回の記事でも触れたように、ここ最近の極東に対するクレムリンの仕打ちは、なかなか厳しいものがあります。プーチンら政府首脳も“ムチ”だけではまずいと考えているのか、前々から計画されているバイカル湖以東の地域(=東シベリアや極東)における政府主導の大経済開発計画といった“アメ”を強調しては、極東人の歓心を買おうと努めているようですね。
でも、今のような世界的な大不況の下では、そうした計画がいつ実行されるかなんて怪しいものですから、結局は絵に描いた“アメ”なわけですよ。こんなんじゃ彼らの怒りは鎮められないでしょう。何せ、イデオロギーとか理念ではなく“生活”の問題ですから。愛国心で腹は膨れないし、ただでさえ、中央との格差に対する不満は大きいのです。今はまだ地道にデモをやったりしてますが、状況が一向に改善されないと、その内腹に据えかねて「もう分離独立だ!モスクワの指図なんか受けずに暮らすんだ!」みたいなことを言い出す極東人も出てくるのではないか。もちろん、それは極端な話ですが、より広範な自治権を求める声が出てきてもおかしくはありません。
そもそも、今の極東でも沿海州やアムール州といった地域は、日本で言えば幕末頃に帝政ロシアが清朝からもぎ取った土地です。ロシア人の入植が本格的に進むのはそれよりさらに後、明治中期以降の話ですから、時期的にちょうど日本人にとっての北海道のようなもなのだと考えていい。それによって、人口の少ない先住民が同化もしくは排除されていった所もよく似ています。いわば、住民のほとんどが外来者で、(先住民のそれを含まなければ)百数十年ほどの歴史しか無い社会ですよ。
もし日本が同じような状況に置かれたとして、四国とか九州は何があろうが中央についていきそうな雰囲気ですが、それが北海道だと分離独立も“多少は”無いでもないような感じがしませんか?あくまでイメージですが。ちなみに、これは某王国のことを念頭に置いているわけではありません。w
そんなことを考えながら「Mail.ru」の掲示板を眺めていたら、こんな↓スレを見つけました。
------------------------------------------
<教えて!ナロード>
「クレムリンから独立した新“極東共和国”は神話か?それとも具体的な展望か?」
原文:Новая ДВР(Дальневосточная республика) независмая от Кремля это миф или перспектива?
http://otvet.mail.ru/question/20425156/
※「極東共和国(Дальневосточная республика、略称:ДВРデー・ヴェー・エル)」というのは、1920年から22年にかけて現在の極東地域に存在した独立国家のことです。
詳しくは堀江則雄著「極東共和国の夢」、上田秀明著「極東共和国の興亡」といった書籍か、あるいは、これら↓のサイトを参照していただきたいのですが、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%B5%E6%9D%B1%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD
http://www.a-saida.jp/russ/vetvi/dvr_istor.htm
まあ、独立国とはいっても、その内実はロシア革命とその後の内戦を経て成立したばかりのソヴィエト・ロシア、より正確にはモスクワのボリシェヴィキ政権が、シベリア出兵のどさくさに紛れて沿海州などに居座っていた日本軍との衝突を避けるために立ち上げた「緩衝国家」でした。
当時のソヴィエト・ロシアは欧州方面ではポーランドなど外国の干渉軍+白軍と未だ戦争中であり、日本と事を起こして東西から挟撃されるのを非常に恐れていたのです。 その領域には、極東地方の他に、その西方にある現在のザバイカリエ地方やブリャーチヤ共和国の辺りまでも含まれていました。
当初の首都はヴェルフネ・ウヂンスク(現ブリャーチヤ共和国の首都“ウラン=ウデ”。世界一巨大なレーニンの頭部象があることで有名)。後に中国との国境に近いチタ(現ザバイカリエ地方の中心都市)へと遷都されますが、政治の中心は「極東」よりもむしろ東シベリアの方にあったことになります。
↓“極東共和国”の領域図。オレンジ色の区域が共和国の領土で、その中にある左側の赤い点が最初の首都「ヴェルフネ・ウヂンスク(現ウラン=ウデ)」。右側の赤い点が後期の首都「チタ」。緑の部分は1922年までの日本軍の占領区域。
Wikipedia(日本語版)より
日本は日本で、ロシアの革命が自国や満洲に飛び火するのではないかと警戒していましたから、それを刺激しないためにも、「極東共和国」ではソヴィエト・ロシアのようなボリシェヴィキの一党独裁体制ではなく、議会の存在と複数政党制を認める“ブルジョワ民主主義”w的な政体が採用されたのでした。でも、首班のクラスノシチョーコフをはじめ、政治の主導権を握っていたのはボリシェヴィキであり、彼らはソヴィエト・ロシアの中枢にあったレーニンの指示で動いていましたから、この国が“クレムリンから独立”していたなんていうのは、ちょっと買いかぶり過ぎでしょう。
これ↓が当時の極東共和国の国旗です。何だか投げやりなデザインですね。w赤地なのは、当時のソヴィエト・ロシアや後のソ連と同じ。左上の青地に描かれた「Д・В・Р」の文字はそれぞれロシア語での「極」、「東」、「共和国」の頭文字。
Wikipedia(日本語版)より
1922年、日本軍が沿海州から撤退するとともに極東共和国はその役割を終え、ソヴィエト・ロシアに吸収されます。この後の極東は「沿海州」や「アムール州」などとロシアの中の普通の州に分けられ、特別な自治単位が設けられることはありませんでした。
この質問者(極東人だと思われ)にとっては、恐らく実際の“極東共和国”がいかなるものであったかということよりも、短い期間ながらも極東人が自前の国家を持ったことがあるということの方が重要なのでしょう。そうした歴史を踏まえて、極東がロシアから分離して新たなる「極東共和国」を打ち立てられるか否かを問うているものと思われます。
<ナロードの答え>
回答ナロード1号
チャンコロ※にとっては良い展望になるだろうな。
※漢人に対する蔑称「キタヨーザ(китаёза)」が使われている。ちなみに、日本人に対するそれは「イポーシカ(Япошка)」。
回答ナロード2号
......誇張するなよ※。
※直訳すれば、「蝿から象を作ることなかれ」
回答ナロード3号
これは現実だよ。ただ残念なのは、現時点ではそれは不可能だということだ。
回答ナロード4号
あり得るな。もう一つ、「シベリア共和国※」というのもあるぞ。
※内戦時に西シベリアのオムスクに政権を置いた白軍側のコルチャーク政権のことか?
回答ナロード5号
より正確には、“伝説”だな。
回答ナロード6号
期待するな!そんな国は絶対に出現しえない!
回答ナロード7号
楽しくてファンタジーな十代向けのお話だな。
回答ナロード8号
これは、神話でも具体的な展望でもない! “寝言”だ!
回答ナロード9号
何でそんなことを考えるんだ?
回答ナロード10号
今の政権なら......これは具体的な展望となるだろう!!
※極東人か?
回答ナロード11号
まさか、極東ってもう独立してるのか?うちは隣の地域なんだけど、俺が知ってる限り、あそこの財源の大体80%以上は独自にまかなってるはずだぞ※。どこにも送られてない。一体何か依存しているところがあるのか?
※事実か否かは不明。
ウラジヴォストークからモスクワまで飛行機でいくらかかるか、知ってるか?列車では?ヴォロネジ(ウクライナの都市。極東よりははるかに近い)じゃないんだぞ。彼らは欧州部分のロシア人と同じように暮らしている。ただ、遠くに住んでいて、(時差が7時間くらいあるので)朝は早く目覚めるんだ。
回答ナロード12号
初めて聞いたよ。それって、中華人民共和国の新しい自治単位の名前かな?
※ ソ連の場合と違って、中国には「民族共和国」はない。なお、ソ連の「民族共和国」は中国の「民族自治区」とは違って、形式的ながらもソ連からの脱退の権利が認められていた。
回答ナロード13号
これは、極東地方にとっては素晴らしい展望だ!もし独自の財政を確立すれば、生活レベルは向上するだろう。基本的な問題を解決するために、どうして何万ルーブリもかけてモスクワまで飛ばないといけないんだ?石油もある。ガスもある。産業も発達させるのです!
独自の軍隊、独自の警察、独自の徴税・金融システムを築き上げねばならない。その金融システムの中においては、独自通貨の発行、独自の銀行制度の創設も行われる。そして、中央銀行は12%なんて滅茶苦茶な公定歩合は設定しない。
憲法においては、大統領の任期は4年にしましょう。(最近改正された現行のロシア憲法のように)6年ではなくてね!あと、独自のTV局とラジオ局も立ち上げましょう!
※原文では相手に呼びかける形をとっており、この人自身は極東の人間ではないらしい。どちらかと言えば現政権への批判に重きが置かれているところを見ると、共産党員かもしれません。なお、かつての「極東共和国」はモスクワの指導下にあったとはいえ、これらの条件を全て備えていました。
<ナロード・ベストアンサー>
もし、全てのナショナリストと海外からの知恵者がうまく協力し、またそういう状況をお上が見過ごせば、それは完全に現実となるだろう。極東だけでなく、マリ=エル共和国※についてもそういう話を聞いたことがある。
※マリ=エル共和国についてはこちら↓を参照していただきたいんですが、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%AB%E5%85%B1%E5%92%8C%E5%9B%BD
http://www.murase.nuie.nagoya-u.ac.jp/~hishi/yoshkarola/
ロシア連邦の西部、ウラル山脈のそばにある、ロシア連邦に属する人口70万くらいの小さな共和国です。ここの名称民族で人口の4割を占めるマリ(チェレミス)人はフィン・ウゴル系の民族で、文化・言語的にフィン人とは縁戚関係にあることから、フィンランドの方とは何らかの交流はあるんでしょうが....ここの「独立運動」なんて聞いたことがないですね。多分、この人はその近くでより独立志向の強い「タタールスタン共和国」と混同してるんじゃないかと思います。
なお、連邦内の少数民族の共和国の間で民族主義的な風潮や独立運動が盛り上がっていたのは中央政府の権力が弱体化していたイェリツィン時代の話で、プーチン時代になってからはガンガン中央集権化が進められ、自治権は縮小していきました。今では普通の州や地区と、そんなに変わりはありません。
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この中に極東人のコメントがあるかどうかはよく分からないのですが、一般ロシア人にとっての極東のイメージは大体こんな感じかと思います。歴史的なロシアとは違うけれども、その不可分の一部、みたいな。感覚としては、やはり日本人にとっての北海道に近いのでしょう。だから、「極東の独立」なんて話は我々にとっての「北海道独立」と同じくらい、非現実的に響くのでしょうね。
→(2)に続く。
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モノカルチャー経済は相場に振り回されるのがオチ。
じゃあベネズエラみたいに社会主義にするか?っていったら
ロシア人にはもはや絶対ありえない選択でしょうし。
>「住民投票」による「人民の意志」でもって
>中国編入なんてことになったりして……
「固有の領土」回復という大義名分もあります。w
>余談だけど、クラスノシチョーコフはボルシ
>ェヴィキって言うよりメンシェヴィキのよう
>な気が…結局はボルシェヴィキとの対立の結
>果、大統領の座から排除されてしまって乙で
>したが。
思想的にはともかく、立場としてはボルシェヴィキ扱いなんじゃないですかね。モスクワに戻ってからも、ソ連政府内でポストを得ているし。最期は粛清されましたけど。
2009-04-17 10:22:24殿
>どこからどこまでが本気なのかぜんぜんわ
>からんw
次のはもう少し真面目です。w
>ポプラ殿
>北海道出身者の一人として、誠に興味深いテ
>ーマですw
あの辺の地名は、ツングース系等の先住民の言語に由来するもの(アムール、ウスリー、ハンカ等)とロシア名が混在しています。そういうところも、北海道に似てるかもしれません。
>極東に住んでいる人は、元々はモスクワや欧
>州の方から移ってきた人ですから民族的な独
>立心のようなものは成立しないでしょうね。
中央アジア等のロシア人も基本的にそういう感じですね。これが遠い海の彼方とかなら、他称は違うんでしょうけど。
>極東ロシアが自立できる経済モデルが無いと
>厳しいのかも知れません。
経済的な自立を担保するのは政治的な独立であり、その政治的な独立を担保するのは軍事力であり、その点では結局ロシアか中国のいずれかに頼らざるを得ないとしたら、結局無理かなと。
>たなか殿
>こんばんは。
>いやあ、俺むちゃくちゃ言っているけど、
20年くらい前は実際そうだったかもしれないw。
ちなみに、最近の極東カジノは中国人だらけです。
>むちゃくちゃついでにあそこの女の子ってど
>うなのでしょうか?
ユルいですねw。あっちの大学の寮は普通は男女混合なのですが、その中での“でき婚”は非常に多かったりします。
そうかもしれませんw。しかし、東京にできたという王国の飛び地はその後どうなったのでしょうか?
>にょろ殿
>クラスノシチョーコフはスターリンのソヴィ
>エトとは違った社会主義国家を目指していた
>とわたしは思ってます。
まあ、スターリンも最初からああいう国を目指したわけでは無かったと思うので..wでも、メンシェヴィキの方が主導権を握ってればどうなっていたかなあとはたまに考えます。
>裸族殿
> ( ゜д゜) P
> ( )
>雪だるまが旗振ってるみたいで、とってもラブ>リーだし、寒いシベリアにもピッタリw
いや、でも一応国旗なんで...w。「新極東共和国」の国旗は、ДВРの代わりにカタカナで「トヨタ」とか「ホンダ」でもいいかもしれません。w
>ちゅうこくの場合、金持ちになれる奴からド
>ンドンなってちょwという事で、今では遅れ
>た内陸部と東北部の開発に政府は力を入れて
>るけど、露西亜はどうなんでしょうね?
基本的には同じだと思います。ただ、こちらの場合は売り物が主に資源ですからね。
>中央から見たら今でも極東は”化外の地”扱
>いなのかしら。
まあ、“ど田舎”扱いではあると思います。彼らもロシア人なので。”化外の地”は中央アジアとかあっちの方ですかね。
>2009-04-17 01:04:04殿
>独立後の政府は日本やアメリカに接近せざる
>を得ないでしょうね。
日本というよりアメリカでしょうね。
ロシア極東は行ったことがないので偏見というかイメージでしか知らなかった。
軍港とか、自動車貿易とか、
昔で言えば「ウラジオの女子大生、電卓一個でさせてくれるんだぜ、ウヒヒヒ」って話とか。
中国の東北人から見ると「あそこ(中露国境線界隈)は治外法権だ。危ない。怖い」って話とか。
農作物は地面を掘るとマンモスが採れて、って感じのひどいイメージw
いやあ、俺むちゃくちゃ言っているけど、
むちゃくちゃついでにあそこの女の子ってどうなのでしょうか?
どのくらい極東現地の人の声が入っているのかは不明ですが、あまり現実味のある話とは受け止められていないようですね。
極東に住んでいる人は、元々はモスクワや欧州の方から移ってきた人ですから民族的な独立心のようなものは成立しないでしょうね。
あくまで自立する事による経済的なメリットがあるか否かがポイントなのだと思います。
ウラルの向こう側に依存した今の状況も問題ですが、経済的に自立して生活できるのかが分からないので、具体性のある話にはなりにくいのかも知れません。
依存する先がモスクワから東京や北京に変わるだけでは意味無いですしね。
極東ロシアが自立できる経済モデルが無いと厳しいのかも知れません。
その(2)も期待しています。
勉強になるのう
「住民投票」による「人民の意志」でもって中国編入なんてことになったりして……
何せ幕末の頃は清王朝の持ち物だし。
で、ナロード4号が言わんとするのはコルチャーク政権で間違いないかと。
どちらも内戦期の産物ですし、質問者の話に引っ掛けてるんでしょう。
余談だけど、クラスノシチョーコフはボルシェヴィキって言うよりメンシェヴィキのような気が…
結局はボルシェヴィキとの対立の結果、大統領の座から排除されてしまって乙でしたが。
まさしく回答ナロード1号が言ってるような事態になるんじゃないか……?
そうなると、拡大する中国の影響力を排除するために、
独立後の政府は日本やアメリカに接近せざるを得ないでしょうね。
特に貿易も盛んで資源も売りつけられる日本はちょうどいいはず。
極東地域が日本と中国の勢力争いの場になりそう……
どうせなら、こんなデザインにすれば良かったのにww
↓
( ゜д゜) P
( )
雪だるまが旗振ってるみたいで、とってもラブリーだし、寒いシベリアにもピッタリw
>極東における政府主導の大経済開発計画といった“アメ”
ダメでしょー。どうせ開発したって、み~んなクレムリンが吸い取ってカスも残らんに決まっとるし、下手にエサやったら一夜にしてグレムリンばっかりになるぞw Yamu!Yamu!
今だって、開発され無くてもマフィアが蔓延っているんだから。サハリンが良い例じゃね?一般の大衆には、結局良い事なんて全然無かったじゃん。
ちゅうこくの場合、金持ちになれる奴からドンドンなってちょwという事で、今では遅れた内陸部と東北部の開発に政府は力を入れてるけど、露西亜はどうなんでしょうね?
前スレでも極東地区との温度差及び、差別が激しくなっているようでしたが、中央から見たら今でも極東は”化外の地”扱いなのかしら。
(´・ω・`)ショボーン
極東人民カワイソス・・・。
ところで回答ナロード12号ひどすぎる。
ムツゴロウ王国ですね分かります