歐亞茶房(ユーラシアのチャイハナ) <ЕВРАЗИЙСКАЯ ЧАЙХАНА> 

「チャイハナ」=中央ユーラシアの町や村の情報交換の場でもある茶店。それらの地域を含む旧ソ連圏各地の掲示板を翻訳。

怒れる極東(1)

2009-04-15 00:15:37 | ロシア関係

グルジア情勢について何か書こうと思いましたが、事態は未だ進行中なのでとりあえず静観。結局、サアカシュヴィリは今回も命拾いしそうな雰囲気ですね。下手したら、このまま2013年まで任期を全うするかもしれない。

ちょっと古いですが、こんな↓ニュースをみつけました。

プーチン+ヒトラー 造語「プトラー」使用禁止 ロ検察「侮辱表現」(04/07)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/international/157527.html

【ユジノサハリンスク6日津野慶】

ロシア沿海地方ウラジオストク検察は、「プーチン」と「ヒトラー」を組み合わせた造語「プトラー」を、プーチン首相に対する違法な侮辱表現と判断し、集会で使った共産党に使用禁止を通告した。日本車の輸入規制などを批判する反政府集会で登場した言葉で、同党は「集会つぶしだ」と通告に反発している。

この造語は1月31日、ウラジオストクで開かれた集会で使われた。 ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーを連想させる「プトラーは終わりだ」との文字が 横断幕に書かれており、これを問題視した沿海地方のセルゲイ・ダリキン知事が、 違法性を審議するよう検察当局に求めていた。 これに対し共産党関係者は、プトラーは「自動車業界で働く特定の人物だ」と反論し、 輸入車ビジネスの行き詰まりで「もう終わりだ」と訴えた、と主張。 検察による使用禁止通告は「抗議集会への圧力だ」と批判している。


この記事では「ヒトラー」とありますが、ロシア語で「ヒトラー」は“Гитлер(ギートレル)”と言います。これは、ロシア語には「h」に相当する音素が無く、外来語に「h」が含まれている場合は大抵「g」に転化してしまうからで、“Hitler”→“Gitler”となるわけです。語尾の“r”も、巻き舌ではっきりと発音しないといけない。

※例えば、「ハンバーガー(Hamburger)」は「ガーンブルゲル(Гамбургер)」、「ハノーヴァー(Hannover)」は「ガノーヴェル(Ганновер)」みたいな音になります。

その「ギートレル」をもじったというのなら、「プトラー」も本当は“Путлер(プートレル)”と読むんでしょう。ちなみに、スローガンとして使われているという「プトラーは終わりだ!」は「プートレル・カプート!(Путлер Капут!) 」。「カプート」は「滅亡」とか「死」とかいった意味の言葉です。

プーチンの顔は、どちらかと言えばヒトラーよりもデスラーに似ている気がしますね。共産党も、そんな苦しい言い訳をするくらいなら、もう,いっそのこと「デスラー」でいいじゃないですか。デスラーの肖像画にプーチンの顔写真をはめ込み、それをさらに青く塗って、「デスラーは終わりだ!(デースレル・カプート!)」と訴えるのです。

これなら、お上から何か言われても、「俺たちは単なるアニメファンだ!デスラーの破滅を皆で再確認して何が悪い?」とより説得力のある言い逃れができる。言い逃れられるだけで、結局また弾圧されるとか、あと普通のロシア人にはまるで意味が分からないだろうとか、その辺りがちょっと辛い所ですが。

まあ、そういう与太話はともかく、昨年の11月ごろから、極東ではこの種の大きな反政府デモが頻発しています。その原因は上の記事にもある通りで、ロシア政府が今年の1月から、輸入自動車への関税を大幅に引き上げたことにあります。そうなると、どうして極東人が怒らねばならないのか?

これには少々複雑な事情があります。あちらに行ってみると分かりますが、通りを走っている車の多くは外国車です。しかも古いモデルが目立つ。それらは輸入された「中古車」だからです。大まかには、欧州部分から西シベリア辺りまでは西欧、特にドイツから流れてきた車が目に付き、そこから東、特に極東は日本車ばかりといった感じでしょうか。ロシアの交通法規だと車は右側通行なので、右ハンドル・右ペダルの日本車は運転しにくいはずなのですが、それでも売れています。つまり、それくらい、ロシア=ソ連の国産車は質が低いということなのですよ。

宇宙ステーションを作れる国が、どうしてロクな車を作れなかったのか?と不思議に思われるかもしれませんが、ソ連というのはそういう構造の国だったのです。彼の国では経済を国家が一元管理していた訳ですが、冷戦下にあって米国と軍拡競争を行う必要から、人材や予算は専ら軍事部門や宇宙開発に注ぎ込まれたのです。その分、民需用の消費財なんかについては大分手が抜かれ、特に大衆車なんかは、70年代のイタリア車のコピーみたいなのが90年代に至るまで作られ続ける有様でした。

こんな感じです↓この車も、田舎の方では未だ現役ですが。


現在では、民営化された旧国営企業がそれなりに今っぽい車を作ってはいるのですが、やはり値段の割に性能がイマイチなため、買う人は少ない。何せ、富裕層は海外や国内生産の外車をポンと買い、小金持ちは日本製やドイツ製の中古車を買い、あまり金の無い連中は、古いモデルのソ連車を中古で買いますから。今のロシアの自動車界全体において国産メーカーの占めるシェアは、3割以下といわれています。

そうした状況の中、極東の人々は日本の対岸にあるという地の利を生かし、在日パキスタン人の中古車商を介して日本製の中古車を輸入、それを鉄道網を使って他地域に転売するというビジネスモデルを独自に発展させてきました。人口密度が低く、全体的に農業も工業も振るわないほとんど過疎地域みたいな極東にあっては数少ない成長産業であり、これに携わる人間の数は、それに関連する他の業種も含めれば20万人に及ぶといわれています。

それがですね、今回の関税引き上げ+円高+ルーブリ安により、もはや、採算がまったくとれなくなったらしいのです。それから3ヶ月が経ちましたが、今や日本からの中古車輸入自体が完全に止まっているのだとか。

参考:岐路に立つ中古車ビジネス-極東市場の輸入激減
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/toyama/feature/toyama1238203148387_02/news/20090328-OYT8T00367.htm


文字通りの“飯の食い上げ”ですよ。デモをやるのも当然ではありませんか。

もちろん、政府側の言い分にも一理はあります。昨年以来の世界的な不況の煽りを受けて、ロシアの自動車メーカーもロシア国内に工場を置いている海外メーカーも生産の縮小を余儀なくされつつある。このままだと、それらの会社で働く労働者は職を失いかねないわけで、彼らの雇用を守るためにも、国内の自動車産業の保護は必要である。ゆえに、外国車に対する関税引き上げもやむを得ない。確かに正論です。正論ではあるんだけども、やはり極東人には納得できないでしょう。

まず、ロシアという国は富と権力が極端に大都市、特にモスクワとサンクト・ペテルブルクに集中しています。物価にしても生活水準にしても、完全に別世界といってよいでしょう。最近では、ロシアでは日本産のブランド苺「あまおう」が1パック数千円で売れている、みたいなバブルな噂も聞こえてくるわけですが、それはあくまでそういう都会での話です。

地方の人間は、普段はジャガイモばかり食ってつつましく暮らしていますよ。都会に住む富裕層は、中古車なんて貧乏くさいものは買わない。wかどうかは実際のところ何ともいえませんが、少なくとも極東人はそう思っているはずです。「だからこんなに冷たいんだ!」と。

また、ロシアは広大で、東西に細長い国でもあります。モスクワとウラジヴォストーク間の時差は7時間くらいだったかな。この国の中で、国産メーカーにしても、海外自動車メーカーにしても、工場を置いているのは専らウラル山脈以西の欧州地域です。少なくとも、極東には一つも無い。だから、政府が「関税を上げるのは、自動車産業に関わる労働者の雇用を守りたいからだ」とかいったところで、極東人には寒々しい印象しか与えないでしょう。「じゃあ、俺たちの雇用はどうなるの?」といった感じで。

さらに、国産の自動車メーカーはいずれも現政権に近いオリガルヒ(新興財閥)に属しますロシアで現地生産をしている海外メーカーにしても、単に税金をきちんと納めてくれるというだけでなく、政権担当者らは何らかの利権を得ているはずだ、と少なくとも極東人は考えるはずで、「国内産業の保護」=財閥と政権担当者自身の利権の護持」にしか見えないのではないでしょうか。

つまり、極東人から見たプーチンは、多くの極東人の食い扶持を奪い、一方的に犠牲にすることでロシアの欧州地域に住む財閥や労働者の利益を守ろうとしている。その上で、国産のボロ車を高値で買わせてさらに金を搾り取ろうとしている悪党ってことになるのでしょう。

これ↓は昨年11月にウラジヴォストークで行われた「関税引き上げ反対」デモの映像ですが、日本車が列を成してクラクションを鳴らし、日章旗を掲げて行進しています。同じようなデモは他の地域でも発生しており、中には「君が代」を歌いながら行進したところもあったようで….我々からしたら、かなり不思議な光景なんですが、今のような状況下だとこうなるのも仕方がないのかもしれない。

↓日章旗は3分35秒辺りから出現w

このような極東の不穏に動きに対して、モスクワの当局はわざわざ中央から内務省部隊を送り、実力でこれを鎮圧(現地の警官は地元人どうしで馴れ合う可能性があるため)する一方で、国民に対してはTVなどのメディアを活用してデモの参加者=「政府の雇用政策を理解しない、愛国心無き利己主義者」だと刷り込むためのプロパガンダを盛んに行っているようです。

→(2)へ続く



最新の画像もっと見る

9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (裸族のひと)
2009-04-15 03:07:06
>造語「プトラー」使用禁止
プーチンの顔は、どちらかと言えばヒトラーよりもデスラー

↓こんな感じでしょうかw

「愚民ごときが我の事をプトラー呼ばわりだと?」
         ↓
「総統も相当っ冗談がお好きなようで・・・うひひ~」
         ↓
         ↓
ぷーちん
 ('ー`)        ストーン
 ( V )⊃o ポチッ     i i i  
  |||| | ̄|     |_|_|___
           /| | |   / 
     あ~~!/ (゜∀゜∩) / 
          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄パカッ
         ↓
         ↓
         ↓
「我が帝国に下品な男は不要だ・・・乾杯。」
↓イメージ画像
http://lalabitmarket.channel.or.jp/site/feature/img/yamatowine/head.jpg

>ロシア政府が今年の1月から、輸入自動車への関税を大幅に引き上げた

そっそうだったのか!関税が14%になって顧客の中国車が売れんくなったのは、ぷーちんの仕業かコノヤロー!←私情入りまくり

実は私は物流関連の仕事で、中国自動車メーカーの輸出などに関わってきました。露西亜向けが非常に多かったのですが、現在は各社軒並みストップです・・・orz

くそ~! いいぞッもっとやれいッ!競争力の無い露西亜製のボロ車とオルガルヒなんか、ブっ潰せ~


我の雇用確保の為に露助人民達よ、日章旗を振り回して頑張るのだww


返信する
Unknown (Unknown)
2009-04-15 06:31:51
自動車産業は裾が広いだろうけどシェアが3割程度ならおもいきって見捨てて
他の産業に力をいれられないのだろうか?
せっかく政府が強い力をもっているのだから
返信する
Unknown (Unknown)
2009-04-15 06:56:58
国産メーカーはエンストしやすいもんだから
沿海州やシベリアじゃ寒冷な気候の関係上
冬は命にかかわるとか聞いたような……

どっちにせよ極東民には死活問題ですね
返信する
Unknown (Unknown)
2009-04-16 00:01:42
ハッキリ言って、デモしてる極東の中古車の職能団体(ギルドみたいなもんかな?)は"マフィア"と呼ばれてて、本人たちもそれに甘んじているようです。

ウラジオのアルメニア人系の中古車修理業ギルドの人に会ったけど、拳銃持ってたwww

おそロシア
返信する
Unknown (円谷@管理人)
2009-04-16 07:03:47
>裸族殿
>「総統も相当っ冗談がお好きなようで・・
>・うひひ~」

デスラーと言えば、やっぱりこいつですかwww。
自分の中での、「出来れば避けたい人生終結パターン」の中では、間違いなく5本の指に入ります。

>実は私は物流関連の仕事で、中国自動車メー
>カーの輸出などに関わってきました。露西亜
>向けが非常に多かったのですが、現在は各社
>軒並みストップです・・・orz

そういうお仕事だったんですね。ちかし、中国の自動車メーカーというと咄嗟に思い浮かばないのですが、「五菱」とかですか?

>2009-04-15 06:31:51殿
国産車のシェア8割以上にするのが国策らしいです。

>2009-04-15 06:56:58殿
>国産メーカーはエンストしやすいもんだから

昔、シベリアの田舎の方で乗っていた車のタイヤが外れ、凍結した道を滑ってそのまま道路脇の雪の中に突っ込んだことがありました。幸い、けが人は出なかったのですが...。

>2009-04-16 00:01:42殿

>デモしてる極東の中古車の職能団体(ギル
>ドみたいなもんかな?)は"マフィア"

もしかして浦潮在住者ですか?まあ、あちらでの“マフィア”の指す範囲は広いので。w問題は、何だかんだであれに多くの一般人の生活がかかっていることだと思います。


返信する
Unknown (裸族のひと)
2009-04-16 19:02:26
>中国の自動車メーカー
しかし五菱なんて良く知っていましたね~ 中国大手3大メーカーは
・第一汽車(VWトヨタ、マツダ等と提携)
・東風汽車(プジョー、ルノー、起亜、日産、ホンダ等と提携)
・上海汽車(VW、GMと合弁しており、ローバーも製造)*いまだに昔懐かしのサンタナを生産

ですが、実は訳の分らん自動車を含めると、なんと100社以上のメーカーが中国内で乱立していすのですよ。(単気筒のトラクター的な産業車両を含む)

デザインもロゴも、何でもパクれる物はコピーしまくっていますww 例えばトヨタのHIACEとかサーフとか、カローラとか。しかし安いだけで、もし事故ったらオモチャの様に潰れますw
衝突試験ではエアバックが作動しても、頭部に深刻なダメージが残る結果だったそうです。

*You Tube:Crash Test Chinese carで検索して見てねー。死にたくなければ中国車は絶対に買っても、乗ってもいけませんよー!!!


ところでラーダって、まだ現役でエジプトへ輸出しているようですね。去年エジプト人と打ち合わせした時に、露西亜から輸入したラーダのKD部品(写真)を見せて貰いましたよ。
デザインは、正に走る棺桶って感じですねー 上の動画では、ゴミ扱いされていたのがワロタwww
返信する
Unknown (円谷@管理人)
2009-04-16 21:51:56
>衝突試験ではエアバックが作
>動しても、頭部に深刻なダメージが残る結果
>だったそうです。

ひどすぎる。w

>死にたくなければ中国車は絶対に買っても、
>乗ってもいけませんよー!!!

まずいです。wビジネス・チャンスが萎みますよw。しかし、日本を五菱車が走り回る日はくるんでしょうか?

>デザインは、正に走る棺桶って感じですねー

ウズベキスタンに韓国の大宇が工場を作り、そこで中型の自家用車を生産しているのですが、現地の人間によれば、その手の車がラーダと衝突した場合、ぺしゃんこになるのは韓国車の方なのだそうです。何でも、ラーダの方は分厚い鉄でできており、がっしりしているので衝突には強いのだそうで...。そんなこと自慢されても困るんですがね。中の人が死んだら同じだろうって言う...。w
 
返信する
Unknown (裸族のひと)
2009-04-17 00:13:48
>まずいです。wビジネス・チャンスが萎みますよw。しかし、日本を五菱車が走り回る日はくるんでしょうか?

それは両方とも

       ,、‐ " ̄:::゛:丶、
    ,r::::l3゛::::::::/ハヽ:ヽ::::、:ヽ
    {::://:::::::// ヽ\ト、:::::::!
    ヾ l:::::::/ 丶   `ヾ ィ、:::|
     |;:r::|  O`  'O ゛ハ|   < ないない
      ヽハ :.:.    :.: レ
        ´\ r‐--‐、,ノ
 r、     r、/ヾ ̄下ヘ
 ヽヾ 三 |:l1、_ヽ/__ .ィヽ
  \>ヽ/ |` }    n_n| |
   ヘ lノ `'ソ     l ゜ω゜| |
    /´  /      ̄|. |
    \. ィ   ___ |  |
        | ノ     l |  |
      | |      i:|  |


最近は中国メーカーでなく日産・VWやフォードなどしか、基本的に相手にしてませんw 金払いとかも心配無いし。
中国企業は金払わん恐れが有るし信用しちゃイカン!という事を、ここ数年でよ~く勉強させて頂きましたです。ハイ。

中国車が売れる国は今まで露西亜と中近東ぐらいしか無かったのだから、エコ・省エネ・高品質が要求される日本市場じゃ100年早いし。韓国車だって全く売れないのだから、まして中国車なぞ・・・。

ただ最近、中国製電動自転車がコッソリ日本に輸入されて問題にはなっています。悪徳販売店が免許の必要性を隠して販売し、警察に捕まっている人が増えているらしいですよん。(結構パワーが有るので、運転には原付免許が必要らしい)
みなさーん、中国製電動自転車にも注意して下さいねー!


返信する
Unknown (        )
2009-04-17 23:23:56
俺はてっきり関税強化されて日本車が輸入できなくなったらロシア製自動車だとシベリアでは止まって凍え死ぬから死活問題になるからデモをやるんだと思ってたよ
なるほどね雇用が消えて死活問題だからデモをしていたわけか
興味深かったのウラジオストックって叫んでたデモしてた人は全員白人だったことだな
極東での白系ロシア人と中国系との関係も気になるところだ
返信する