今日の秋櫻写

こちら新宿都庁前 秋櫻舎

プロの高橋さん

2011年05月27日 22時27分07秒 | きもの

今日は何とか雨ざーざーにならず。
お召を着ていたので、
やったね、ありがとうよーという感じ。

とはいえ、お手入れのプロフェッショナルである
高橋さんがいるから、心底ドキドキはしていないんだけど。

かつて家路の途中でバケツをひっくり返したような雨に
遭ったことがある。
今「ような」とは云ったけれど、事実は誇張ゼロ。
空に巨大なバケツがあって、そこから大量の雨が
ざざーっとにわかに降ってきたというものだった。
で、そのときに着ていたのがお召の単。

ご存じのとおり、お召は水を吸うと、
きゅうううーっと糸が縮こまる。
なぜか。
制作過程で、水を吸わせながら強く撚った糸で
織ってあるため、水を吸うと、また「あのとき」みたいに
縮まなきゃという記憶が糸に残っているからだ。

傘はもっていたので、差してはみたけれど、
もう全然間に合わない雨量だった。
上からも雨、またアスファルトに打ちつけられて
跳ね上がった雨は下からもくる。
しかも風が強かったので横からも雨とくる。


(これは明治の女)


啄木は雨にも負けず、風にも負けずと
云ったけど、どっちにも負けっぱなしだ。
誰か助けて、なんとかして・・・
ほんとに思った。

辺りは暗かったし人通りもなかったので、
裾をたくし上げ、必死にきものを守ろうとしたが、
雨があたらなかったのは、傘から近い肩エリアのみ。

果たしてきものは、わずか5分足らずで
縮みに縮んで、雑巾をかたーく絞ったように
すっこんこんになった。

初めて凄まじく縮んだお召というものを
体験したが、ほんとうにぎゅーーう。
かたい、かたい。

ああ、お気に入りだったのに。
ダメにしてしまった・・・。

このときのものすごく暗い気もちは今も思い出せる。
それでもダメもとで、次の日、
高橋さんに来てもらって見せたら。

「ああ、こりゃダメかもしれねーなあ。
 ここまでやっちゃうとねえ。
 まあ、やってみるけどさ。
 最悪、きものを解いて洗い張りになるからね」

生地が3分の2くらいの分量になり(マジで)、
あげくコチコチで、原形なんて留めていないのだから
もうダメだと端から思っていたワタシ。
だから洗い張りしたら、元通りとはいかなくても
まあ何とかはなる、というのは知らなかったので、
これには喜んだ。

しかし数日後に高橋さんが持ってきたのは、
洗い張りしていない状態で、
ちゃんと元通りになったお召だった。
なってしまったのだ。
すごい。
そして本当にうれしかった。

これは高橋さんは確実に腕のあるプロなのだと
改めて痛感したエピソードでもある。

その後ワタシは、焼肉を食べに行って肉汁のシミをつけたり、
厚焼トーストをたべてバターシミをつけたり、
あとトマトソースもあったな、兎に角
ときどき(と云っておく)お世話になっているけど、
高橋さんはいつも元通りにしてくださるのだった。

高橋さんがいる限り安心して汚せるわ!
というのは完ぺきに間違っているけど
(そんなことも思っていないが。念のため)、
ただ、何かあっても「高橋さんがいるわ」
という事実があるのとないのとでは、心持ちがちがう。
まず、必要以上にビクビクしないもの!

おっかなびっくり着ていても
楽しくないし、動きが不自然になる。
大体、周りにはその神経質な緊張感は必ず伝わるし。

だから大らかな心もちできものを着ている
というのは大切なのだ。

洗うのも、水とふのりを使った正統の本格派だ。

今きものを洗うというと、
実際はほとんどが、もうそのほとんどが
ドライクリーニングのやり方だったりするが、
これだと表面上はきれいになっても生地はヤラれるし、
衿元なんかをぴしーーっとアイロンで
プレスしてしまうので、やはりきものに
ダメージを与え、おかしくしてしまう。

きものは水で洗い、ふのりをかけて
生き返らせるのが一番喜ぶ。
だけど、多くの専門の人たちは水を使わない。
それは判断を迷うから、使うのが怖い、
つまりは使えないのだ。
もし判断を誤って水で洗い、きものに何かあったら、
当然責任をとらなくてはならないんだもの。

逆にいうと、多くの経験を積み、
それを体得している本当のプロだからこそ
水で洗うという本道に則ってできるのだ。

もうひとつ!

まだ洗う段じゃないきものだった場合は
いくらこちらが洗いますと出しても

「これ、まだ洗う必要ないよー。
 もうちょっと着なよ。
 あんまり洗っちゃうと、生地がへたるんだよねー。
 もったいなからやめときなよ」

と江戸前のさっぱり軽い口調で返されるのだ!
ああ、信頼度がまたアップだわ・・・といつも思う瞬間だ。
自分の仕事に誠実であり、だけどそれをくどくど云わない。
かっこいいなあ、ちくちょう。


されど、悲しいことに高橋さんの跡を継ぐ人はいない。
だから高橋さんの腕の恩恵にあやかれるのは今である。


生洗い(きものの形のまま洗う)、
洗い張り(きものを解いて洗う)はもちろん、
縮んだお召とか、ほどけた刺繍とか、
たんすの奥にしまってあり、経年によって浮き出てきたシミ、
カビとりもOK。
ほんとうにきれいにしてくれる。

http://www.kos-mos.com/oteire/index.html

気になっているけど、見るのが怖いから
奥にしまったままの、大切なきものや帯があったら
秋櫻舎にご連絡ください。


そういうわけで。
何が云いたかったかというと、
高橋さんは現きもの界にとって
大切な存在なのだ、ということです。




お酒をこぼしても大丈夫。




蕎麦のつゆがはねたって大丈夫。
パスタもね。




あれ、煙草は・・・?
穴を開けちゃったらどうするんだろ。
飲み屋とか、道ですれ違いざまにってのは
意外とありそうだよね。
今度、高橋さんにきいてみよう。



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