検察を支配する「悪魔」 田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)講談社 2007年12月5日 第1刷発行[2]

2010-02-20 | 本/演劇…など

検察を支配する「悪魔」 田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)講談社 2007年12月5日 第1刷発行[2] 
 ◇ 検察を支配する「悪魔」田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)講談社 2007年12月5日第1刷発行[1] の続き

p153~ マスコミは検察の言いなり---田中
  大マスコミは検察の言いなりやからね。
  現場で見ていても、新聞やテレビといった大マスコミは、検察に上手にコントロールされているという感じがする。大マスコミによる検察批判なんて考えられませんね。
  特捜の扱う事件は、下手に情報が漏れると、事件が潰れかねない。だからマスコミへのガードは非常に堅く、記者が接触できるのは、たとえば東京地検の場合、特捜部長と副部長に限定されていて、第一線の現場の検事への接触は禁じられている。もし、これを破ったら、検察への出入りは禁止です。接触した検事も異動させられる。
p155~
 一方、取材する側の司法記者から見れば、特捜が手掛けるのは社会的な影響の大きい事件なので、スクープできれば手柄になる。裏を返せば、他社に抜かれるとクビが危ない。そこで夜討ち朝駆けで、特捜部長や副部長から情報を聞き出そうとするわけだけれど、覚えがめでたくないと、喋ってもらえない。
  検察に不利益なことを少しでも書く記者には、部長も副部長も一切、情報を教えません。だから、どうしても検察側の代弁に終始してしまう。
  仮に、これに疑問を感じて、独自の取材を展開し、すっぱ抜いて報道したら、「てめえ。事件を潰す気か」と、検察側の怒りに触れる。記事を書いた記者だけでなく、その社の人間は、出入り禁止。情報がまったく入ってこなくなる。マスコミにとっては致命的な状況に置かれるわけです。
  検察とマスコミでは上下関係ができていて、マスコミは検察に対しては無抵抗状態というのが現実です。
  2005年の年初、東京地検特捜部長の井内顕策が、「マスコミはやくざ者より始末におえない悪辣な存在です」と書いた文書を、司法記者クラブに配布するという事件があった。しかし、そこまで誹謗されても記者たちは何の抵抗もなしです。どこの新聞社も記事にもできなかった。
p156~ 大衆迎合メディアが検察の暴走を許す---田原
 マスコミを踊らすなんて、検察にとっては朝飯前なんですよね。
  最近の事件で言えば、堀江貴文の事件。堀江は拘置所に入っているにもかかわらず、マスコミには堀江の情報が次々と出てきた。あれは検察がリークしたとしか考えられない。
  最近はとくに意図的なリークによって世論を煽り、有罪にできなくとも、世論に断罪させて社会的責任を取らせようとする傾向が強くなったように思う。
  情報操作によって世論を喚起した事件として思い出すのは、沖縄返還協定を巡って1972年に毎日新聞政治部記者、西山太吉と外務省の女性事務官が逮捕された外務省機密漏洩事件です。
  西山記者が逮捕されたとき、「言論の弾圧だ」「知る権利の侵害だ」という非難が国民の間で上がった。
  そこで、検察は起訴状に「西山は蓮見(女性事務官)とひそかに情を通じこれを利用し」という文言を盛り込み、批判をかわそうとした。この文言を入れたのは、のちに民主党の参議院議員になる佐藤道夫。
  検察のこの目論見はまんまと成功、西山記者と女性事務官の不倫関係が表に出て、ふたりの関係に好奇の目が注がれ、西山記者は女を利用して国家機密を盗んだ悪い奴にされてしまった。
  本来、あの事件は知る権利、報道の自由といった問題を徹底的に争う、いい機会だったのに、検察が起訴状に通常は触れることを避ける情状面をあえて入れて、男女問題にすり替えたために、世間の目が逸らされたわけです。
  西山擁護を掲げ、あくまでも言論の自由のために戦うと決意していた毎日新聞には、西山記者の取材のやり方に抗議の電話が殺到、毎日新聞の不買運動も起きた。そのため、毎日は腰砕けになって、反論もできなかった。
  さらに特筆すべきは、検察の情報操作によって、実はもっと大きな不正が覆い隠されたという事実です。『月刊現代』(2006年10月号)に掲載された、元外務省北米局長の吉野文六と鈴木宗男事件で連座した佐藤優の対談に次のような話が出てくる。吉野は西山事件が起きたときの、すなわち沖縄返還があったときの北米局長です。
  その吉野によると、西山記者によって、沖縄返還にともない、日本が400万ドルの土地の復元費用を肩代わりするという密約が漏れて、それがクローズアップされたけれど、これは政府がアメリカと結んだ密約のごく一部にしか過ぎず、実際には沖縄協定では、その80倍の3億2000万ドルを日本がアメリカ側に支払うという密約があったというのです。
  このカネは国際法上、日本に支払い義務がない。つまり、沖縄返還の真実とは、日本がアメリカに巨額のカネを払って沖縄を買い取ったに過ぎないということになる。
  こうした重大な事実が、西山事件によって隠蔽されてしまった。考えようによっては、西山事件は、検察が、佐藤栄作政権の手先となってアメリカとの密約を隠蔽した事件だったとも受けとれるんです。
  西山事件のようにワイドショー的なスキャンダルをクローズアップして事件の本質を覆い隠す手法を、最近とみに検察は使う。
  鈴木宗男がいい例でしょう。鈴木がどのような容疑で逮捕されたのか、街を歩く人に聞いてもほとんどがわかっていない。あの北方領土の「ムネオハウス」でやられたのだとみんな、思いこんでいるんですよ。しかし、実は北海道の「やまりん」という企業に関係する斡旋収賄罪。しかも、このカネは、ちゃんと政治資金報告書に記載されているものだった。
  興味本位のスキャンダルは流しても、事の本質については取り上げようとしないメディアも悪い。いや、大衆迎合のメディアこそ、検察に暴走を許している張本人だといえるかもしれませんね。
p164~ 裏金づくりを告発寸前に逮捕された公安部長---田原
 田中さんと同じように検察から付け狙われて不当逮捕された三井環(たまき)の事件に触れたい。
  大阪高検の公安部長だった三井は捜査情報を得ようとした元ヤクザから飲食や女性の接待を受けたなどとして、2002年に収賄や公務員職権濫用などの罪に問われて、逮捕、起訴された。
  この事件の背景にあったのが、調査活動費(調活費)と呼ばれる検察の裏金。ある検事正が夫人をともなってゴルフを楽しむなど、検察上層部が調活費を不正に使用していることに義憤を感じた三井が告訴をしようとした矢先の逮捕でしたね。このタイミングから見ても、口封じを狙って逮捕したとしか思えない。
  調活費は、そもそもは、検察庁が治安維持の目的で過激派などを調査するために設けられた予算だった。その性格上、使途は明らかにできないとし、外部のチェックを受ける必要もないということで検察庁の裏金づくりに使われていた。
  三井によると、ピーク時の1998年には、6億円近いカネがプールされていたそうですね。ただし、この調活費を使えるのは、検事総長をはじめ、最高検次長検事、各高検の検事長、各地検の検事正ら検察の上層部に限られていた。これを利用して私的に流用していた上層部もたくさんいた。ゴルフに行ったり、クラブで遊んだりですね。
  この調活費、検事総長や法務大臣はその存在を公式には認めていないけれど、あったに決まっている。
■法相も検事総長も偽証罪---田中
  三井の事件、検察の内部にいた僕らからするとちゃんちゃらおかしい。2000年まではわけのわからん調活費なる裏金は確かにありました。
  だって、僕自身、上司に頼まれて、調活費を引き出すための領収書をせっせと集めてたんですから。プールされた調活費で、検事正に、僕らもゴルフや料亭に連れていってもらっていた。素直に、「ありがとうございます」ですよ。
  なのに、法相も検事総長も国会で現在も過去もないような答弁をしているんやからね。偽証罪に問われてもおかしくない。かたや、三井は組織ぐるみでやっていた検察の不正を覆い隠すために、罪人にされてしまったのだから、気の毒ですね。
  調活費は、今はなくなったけれど、それに近いものはある。それは、選挙違反を検挙したらもらえる特別報奨金です。
  殺人や窃盗といった事件は、この管内では1年間にどれだけあると、統計からおおまかに読めるので、年間の予算がつけられるけれど、選挙違反は見通しが立たない。
  そこで、公職選挙法の捜査に関しては、法務省の予備費のなかから支出されることになっている。だから、選挙違反を検挙すれば、特別報奨金も出るんです。僕らのときは、公判請求で、ひとりにつき5万円だったかな。
  略式で、罰金なら3万円。起訴猶予で1万円。起訴猶予は、ざっくばらんにいえば、「犯罪になるけど許しますよ」だから、本人が知らない間に被疑者に仕立て上げて、起訴猶予でボンボン落として、予算を分捕ることもできるわけですよ。
  やり過ぎると、本庁から目をつけられるから、無茶苦茶はやっていなかったけれど、そういう手口も使っていました。これも一種の裏金づくりですよ。
  もっとも、誤解のないように言っておきたいのは、選挙違反の摘発は儲けたいからやるわけじゃない。日本の選挙は昔から馴れ合いで、カネをやってうんぬんだから、ある程度の選挙違反は摘発して、警鐘を鳴らさなければならないという使命感のほうがもちろん強い。
  かといって、なんでもかんでも摘発し、やりすぎると、政治に混乱をきたし、かえって国民の不利益につながってしまう。だから、どっかで拾い出さなければならん。選挙違反の摘発は、検察や警察にとっては、ワーッと騒いで警告を発するお祭りみたいなものです。
  (2008/02/23~2010/2 up 来栖)
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