ロス疑惑 「人権とメディア」山口正紀. 白石さん事件再捜査. 弁護側が保護請求取り下げ.

2008-09-27 | 社会

週刊金曜日08年6月20日号[人権とメディア]山口正紀
三浦さんの長期拘束――日本社会は、なぜ怒らないのか
 サイパンで「逮捕」されてからすでに約四カ月、三浦和義さんの不当な身柄拘束が長期化している。日本で十数年に及ぶ裁判の末に無罪が確定した人が、米国で同じ罪状で逮捕され、その逮捕状の有効性を問う審理の間も身柄拘束を解かれない。これはもう、外国権力機関による「拉致・監禁」だ。
 だが、日本政府は邦人保護の義務を果たさない。逮捕後、疑惑報道を再燃させたメディアも、この重大な人権侵害に関心を示さない。
 三浦さんは、「銃撃事件」二審無罪判決(九八年)後、数多くの冤罪被害者の支援に取り組んできた。その活動で知り合った人たちは、ロス市警の「逮捕」を許し難い犯罪と受けとめ、「三浦和義氏の逮捕に怒る市民の会」を結成、一日も早い解放を求めて活動している。
 三浦さんはサイパンの裁判所に保釈請求し、人身保護請求を申し立てた。ロスでも三月、逮捕状の無効を求める申し立てを行なった。ロス郡地裁の審理では、検察側がロスへの身柄移送を求めたが、裁判所は五月の第二回審理で「移送は不要」としつつ、逮捕状の有効性については判断を保留した。
 審理の争点は、一事不再理と共謀罪。カリフォルニア州法は〇四年、「外国での判決には一事不再理の原則を適用しない」と改正された。それは改正前の判決にも及ぶのか。これについては四月、同州サンディエゴ郡地裁がメキシコ人の裁判で「遡及処罰の禁止」を理由に訴追を取り消す判断を示した。
 問題は共謀罪。逮捕状には(1)殺人罪((2)殺人共謀罪の二罪が書かれており、「日本では共謀罪は裁かれていないから一事不再理に該当しない」と検察側は主張する。弁護側は「三浦さんは殺人の共謀共同正犯に問われたのだから、無罪判決は実質的に共謀罪にも及ぶ」と、一事不再理の適用を求めている。
 裁判所は日本の裁判記録の提出を求めた。逮捕状の容疑事実と日本の裁判で審理された事実が、「共謀」も含めて同一かどうか判断するため、と思われる。それには裁判記録の英訳・検討が必要なため、審理は七月一九日まで延期された。
 三浦さんは日本の裁判で、ロス在住のO氏との「共謀」による殺人罪に問われた。一審はO氏を無罪と認めながら、「氏名不詳者との共謀」として三浦さんを有罪とした。二審は、それもありえないとして無罪判決を言い渡した。まさに「共謀の事実」が否定されたのだ。
 にもかかわらず、ロス市警は再び逮捕し、「共謀」で裁判にかけようとした。そのために三浦さんは身柄を拘束され続け、高額の弁護士費用から裁判記録の英訳費まで重い負担を余儀なくされている。
 こんな理不尽が許されていいのか。三浦さんの闘いや二審無罪判決を知る人は憤る。だが、怒りは日本社会全体に広がらない。多くの人が今も、三浦さんを「ほんとうはやった」と思い込んでいる。そう思わせてきたのが「ロス疑惑報道」というメディアの犯罪だ。無罪判決が出ても詳細を伝えず、報道犯罪に頬かむりしたメディアは、今回の不当逮捕で再び三浦さんを「容疑者」にし、大騒ぎした。
 三浦さんは五月三〇日、政府に米国の捜査共助要請に協力しないよう求める行政訴訟を起こした。逮捕直後、町村信孝官房長官は「協力の意向」を表明した。だが、日本の行政府が「確定した無罪判決」を無視して行動することは国際捜査共助法でも憲法上も許されない。その確認を求める初めての裁判だ。
 しかし、この提訴にもメディアは関心を示さない。翌日の新聞は各紙とも一段十数行のベタ記事。その記事でも「三浦容疑者」だ。
 六月九日、「怒る市民の会」は衆議院議員会館で「一事不再理と共謀罪を考える院内集会」を開き、議員とメディアに参加を呼びかけた。弘中惇一郎弁護士らが日米弁護団の取り組みを報告した(「市民の会」HPに詳報)が、全国紙・テレビには報じられなかった。大切なことは伝えない――メディアと権力の「共謀」罪を問おう。
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三浦元社長の移送一時的に停止、新たに人身保護請求審理へ
(読売新聞 - 09月26日 23:12)
 1981年のロス疑惑「一美さん銃撃事件」を巡り、米自治領北マリアナ・サイパンで拘置中の元輸入雑貨会社社長、三浦和義容疑者(61)(日本で無罪確定)の弁護側は26日、北マリアナ連邦地裁に、ロサンゼルスへの三浦元社長の移送取り消しと即時釈放を求める人身保護請求を行った。
 連邦地裁は移送を一時的に停止し、29日に審理する。三浦元社長の弁護側などが明らかにした。 三浦元社長の移送を巡っては、北マリアナ上級裁判所が12日、移送許可を決定。北マリアナ最高裁も23日、弁護側の上訴を退けたため、弁護側が「身柄拘束は憲法違反」として、新たに連邦地裁への請求を行った。
 ロサンゼルス郡上級裁判所は26日午後(日本時間27日午前)、三浦元社長が逮捕状の破棄を求めた訴訟で、逮捕状が有効かどうかの判断を示す。
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逮捕状、共謀容疑は有効=日本で裁かれずと認定-疑惑銃撃で三浦元社長・ロス地裁
(時事通信社 - 09月27日 07:01)
 【ロサンゼルス26日時事】1981年のロス疑惑銃撃事件で、米自治領サイパン島で今年2月に逮捕され、拘置中の元会社社長三浦和義容疑者(61)=日本で無罪確定=の逮捕状取り消し請求に対し、ロサンゼルス郡地裁のバンシックレン裁判官は26日午後(日本時間27日午前)、殺人罪を無効とする一方、共謀罪は「日本で裁かれていない」として、有効とする決定をした。殺人罪については、同じ事件で再び罪に問われない一事不再理を適用した。
 検察は共謀容疑だけでも訴追手続きを進めるが、弁護側が上訴すれば、上級審で確定するまで予備審問などの訴追手続きに入れるか微妙で、攻防が長期化する可能性がある。検察は三浦元社長のロス移送手続きを進める意向だが、サイパンの弁護団は連邦裁判所で阻止を求めて徹底的に争う構えで、早期実現は不透明だ。 
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ロス疑惑逮捕状、殺人罪は無効・共謀罪は有効…郡上級裁決定
(読売新聞 - 09月27日 07:29)
 【ロサンゼルス=飯田達人】1981年11月のロス疑惑「一美さん銃撃事件」を巡り、米自治領サイパン島で拘置されている元輸入雑貨会社社長、三浦和義容疑者(61)(日本で無罪確定)が逮捕状破棄を求めた訴訟の第5回審問が26日午後(日本時間27日午前)、ロサンゼルス郡上級裁判所で開かれ、スティーブン・バンシックレン裁判官は「逮捕状は殺人罪については無効だが、殺人の共謀罪については有効」とする決定を出した。
 三浦元社長側は控訴するとみられるが、今後、検察側は三浦元社長をロスに移送し、刑事手続きを進める方針だ。

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<三浦元社長>白石さん事件も再捜査 殺人容疑で米ロス当局
(毎日新聞 - 09月28日 02:41)
 【ロサンゼルス吉富裕倫】81年のロス銃撃事件で今年2月に米自治領サイパンで逮捕された元輸入雑貨販売会社社長、三浦和義容疑者(61)について、米ロサンゼルスの捜査当局が、79年に変死体で発見された白石千鶴子さん(当時34歳)事件についても殺人容疑で再捜査していることが分かった。捜査関係者が「元社長をめぐる事件全体を再捜査する中で、白石さんの事件についても捜査している」と明らかにした。
 白石さんは79年に渡米後、行方不明になった。この年ロサンゼルス郊外で女性の変死体が発見されたが、84年、歯型鑑定から白石さんと確認された。三浦元社長は、当時白石さんと交際中だったとされ、死後に白石さんの口座から426万円を引き出していたことが判明している。三浦元社長は、白石さんと重なる時期に渡米していたが、事件への関与は否定し、日米いずれの捜査当局からも立件されなかった。
 日本の刑法では殺人罪の公訴時効(当時15年)が成立しているが、カリフォルニア州に殺人罪の時効はない。ただ、捜査関係者は、新証拠の有無や訴追の可能性については明らかにしなかった。
 三浦元社長は、ロス銃撃事件の逮捕状無効の申し立てをロサンゼルス郡地裁に起こしていたが、26日(現地時間)、同地裁は殺人容疑の逮捕状を無効、殺人の共謀罪での訴追を有効とする決定を出した。このため、元社長は、現在拘置されているサイパンからロサンゼルスへ移送される見通しが強まっている。
 【ことば】白石千鶴子さん変死事件 三浦和義元社長の元交際相手だった白石千鶴子さん(当時34歳)が79年3月、米国・ロサンゼルス入りした直後から行方不明になり、母親が捜索願を提出した83年に捜査が始まった。ロス市警は84年、歯型のX線写真から79年5月にロス市中心部から北西約35キロの荒れ地で発見された変死体を千鶴子さんと断定した。「ロス疑惑」の一つとして日米当局が捜査したが立件できなかった。

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三浦元社長、ロス移送へ  弁護側が保護請求取り下げ
 【サイパン(米自治領)29日共同】1981年の米ロサンゼルス銃撃事件でサイパン拘置中の元会社社長三浦和義容疑者(61)=日本では無罪確定=の弁護側は29日、サイパンを管轄する米連邦地裁に人身保護請求の取り下げを表明、地裁のマンソン判事はこれを承認した。元社長の身柄は近くロサンゼルスに移送される。
 2月の逮捕から約7カ月、事件の審理に向けた司法手続きがロサンゼルスで始まる。元社長はこれまで逮捕の不当性を主張してきたが、弁護人によれば同日朝、「今はロサンゼルスに行く時だ」と語り、自ら移送に同意した。
 ロス郡地裁が逮捕状容疑のうち殺人の共謀を有効と判断したことを受け、方針を変えたとみられる。
 マンソン判事は取り下げ表明を受け、サイパンの連邦地裁が人身保護請求の審理のために出していた移送の一時停止命令を解除。ロサンゼルスの司法当局による移送要員派遣など、準備が整えば移送が開始される。
2008/09/29 09:51   【共同通信】


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