【裁く時】第3部判断の重み(2)死刑か無期かー流れを変えた連続上告。日本の死刑状況についてー安田好弘

2009-05-23 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

【裁く時】第3部判断の重み(2)死刑か無期か 流れを変えた連続上告
産経ニュース2009.5.22 22:51
  平成8年1月に検事総長に就任した土肥孝治(75)=現弁護士=は、死刑判決の激減ぶりに強い危惧(きぐ)を抱いていた。凶悪事件が減ったわけではないのに、5年に7件あった死刑確定数は、6年以降、3年連続で3件になっていた。
 理由は明らかだった。4人を射殺した永山則夫(死刑確定、9年執行)の第1次上告審で最高裁が昭和58年に示した死刑の判断基準、いわゆる「永山基準」の影響だ。9項目の判断基準の中でも「被害者の数」がことさら重視されるようになっていた。
 永山事件の第2次上告審に関与した元最高裁判事、園部逸夫(80)は「以降、被害者が1人なら死刑でなくてもいいという雰囲気が下級審に生まれたのでは」と話す。実際、被害者が1人という視点のみや、被告が反省しているといった主観的な事情を理由に、次々と死刑が回避された。
 「こんな状態が続けば被害者家族は癒やされず、強烈な恨みとなって残る。そして司法への信頼は失われてしまう」
 検事総長就任から1年後、この状況を打破すべく、土肥はある決断を下した。
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 検察庁は9年1月から10年1月の間、死刑を求刑したにもかかわらず、1、2審とも無期懲役になったり、2審で1審の死刑判決が破棄されて無期懲役になったりした5つの事件について、異例ともいえる連続上告に踏み切った。
 結果は、高裁に差し戻されたのは1件だけ。残り4件は上告を棄却された。だが、この中で最高裁が示した判断は、検察の問いかけに十分こたえるものだった。
 《被害者が1人でも諸般の事情を考慮して極刑がやむを得ないと認められる場合がある。被告人のために酌むべき事情があるとしても、過度に重視することは適当ではない》
 それから約10年。被害者1人でも悪質性が重視される傾向が強まり、死刑判決も増えた。今年3月には名古屋地裁で、闇サイトを通じて知り合い、金を奪うために偶然通りがかった女性=当時(31)=を殺害した男3人のうち2人に死刑、自首した1人に無期懲役が言い渡された。
 土肥は今、「あのときの行動はむだではなかった。流れを変える大きなきっかけになった」と実感し、「裁判員裁判になってもこの流れは変えたらいけない」と強く願っている。
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 死刑と無期懲役の境界線。それは日本の法曹界の永遠のテーマといっても過言ではないだろう。現在でも、1、2審で判断が分かれるケースは少なくない。このため、一般市民が審理に加わる裁判員裁判では、ある程度明確な基準が必要という意見も根強い。
 これに対し、被告3人全員の死刑を求めている名古屋闇サイト事件の被害者の母、磯谷富美子(57)は疑問を投げかける。「被害者の数で自動的に量刑が決まるなら、裁判をする意味があるのでしょうか」
 集中審理となる裁判員裁判で、どこまで審理を尽くせるのかという課題も残る。永山の弁護人を務めた大谷恭子(59)は「裁判は、犯した罪がどれだけひどいことか痛みを喚起させ、改悛(かいしゅん)の情を引き出す過程でもある。死刑判決を急いではならない」と訴える。
 裁判員制度に向け、全国の裁判所で500回以上の模擬裁判が開かれてきた。しかし、1度も死刑は扱われていない。課題の検証すらないまま本番を迎える。
 =敬称・呼称略
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【用語解説】永山基準
 昭和58年に最高裁が示した死刑選択の基準。(1)犯行の罪質(2)動機(3)態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性(4)結果の重大性ことに殺害された被害者の数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状等各般の情状-の9項目を挙げ、「罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」とした。
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永山則夫事件 判決文抜粋
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