余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(3)(4) 獄中結婚・離婚・再婚は、一番尽くしてくれる人を“精選” 『週刊新潮』2017/4/20号

2017-04-20 | 死刑/重刑/生命犯

木嶋佳苗「遺言手記」全文(3) 獄中での結婚・離婚・再婚は〈一番尽くしてくれる人を“精選”した〉
■余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(3)
 木嶋佳苗被告(42)は“母親への思いをはっきりと記しておきたかったからです”と遺言手記を書いた理由を説明する。現在、木嶋被告と母は断絶状態。母からの支援は打ち切られ、預託品も同意なく破棄されてしまったと明かす。
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 「男と事件」についても母のことと無関係ではありません。弁護人以外の面会や書類の受け渡しを禁じる接見禁止が解けて半年が経過した12年冬、防寒用の下着がなかったので現金書留で代金を添えて頼んだところ、彼女からは「買って送ることはできない」と。その時は仕方なく家族でも恋人でもない男性に頼んだわけですが、ちょうどその後から初婚相手の男性との交流が始まりました。私は社会ではもっぱら愛人稼業で結婚の経験などありません。
 バツイチでふた回り上の彼とは拘置所内外の恋がそうであるように、文通と面会を重ね、15年3月に40歳で結婚。詳細はブログを辿ってもらうとして、この彼が「前の夫」となるのは翌年秋。春から協議をし、9月に離婚が成立しました。
 なんとも目まぐるしい動きに説明をつけるのは難しいのですが、きっかけは夫から「交通事故で怪我をして入院中だ」と連絡を受けたこと。弁護士と友人が見舞いに行き確認したところ、重傷で退院の目処が立たない、飲酒運転だったため夫の過失割合が大きくて賠償額も高く、示談交渉に時間を要する案件であると知らされたのです。まさに“事件”でした。
 夫は、私を巻き込み迷惑をかけることが更にあっては申し訳ない、籍を抜いた方が良いのではないか、と提案してきた。言うまでもなく、私の支援の中核を担ってきたのは彼なのです。
■尽くしてくれる人を“精選”
 逡巡しつつも、面会や差入れのスケジュールが狂って生活に差し障りが出るなかで離婚協議を始め、一方で再婚相手を探すことにしました。一度結婚したことで、色恋抜きの人生は考えられなくなった。幸い、異性として私に好意を持ってくださる男性は何人かおりましたので、一番尽くしてくれる人を“精選”したということになります。
「一般企業に勤める年上の会社員」という条件は、婚活サイトを利用していた時から変わりません。そのなかで、元夫とのこともあり、次の夫は初婚で子どものいない若めの人にしようという考えは頭にありました。
「俺はどんなに過酷でもずっと守っていくので結婚してください」と告げられて再婚した夫は逮捕前からの知り合いで、悩みを相談するうちに段々と愛が芽生えていく。もっとも、愛と結婚と幸せは必ずしも一直線に繋がっているものではない、私はそんな風にも思う。
 結婚とは扶養義務と責任が生じる法的な契約であると、離婚協議で学びました。愛情とは無関係に入籍した瞬間から婚姻費用が生じます。入籍後に契約を破れば慰謝料を支払って財産分与するものだと理解してもらうため、再婚相手には婚姻に係る民法の条文と判例を読ませてから、婚姻届と離婚届に署名押印してもらいました。離婚届は誓約書代わりです。私のような立場でも、いや、だからこそ、配偶者がいるということは人生を豊かで楽しいものにします。夏目漱石の『門』に登場する宗助と御米のように、夫婦の抱える闇と幸せが獄中結婚にも存在する。それでも伴侶と接していると理屈抜きで救われる瞬間があり、夫婦には不条理な問題を克服できる力があると気付かされたのです。
 夫婦関係に関する新聞記事で気になったのが『夫のちんぽが入らない』の著者インタビュー。ローションを使えば少し入るけど裂けて流血すると。身体の繋がりがなく、子供がいなくても夫婦として寄り添って生きて行くのは私も同じですが、社会にいてセックスなしの夫婦って想像がつかない。世間にはペニスは大きいほど良いという幻想がありすぎですが実際はどうでしょう。私が20代の頃、「週プレ」で読んだ中場利一のエッセイに巨根の人物が登場していました。「戦闘前の状態で28センチ」で「先が下につくどころか、床に横たわって湯の流れを止めてる」長さ。今は『一生、遊んで暮らしたい』という文庫にまとめられていますね。
(4)へつづく

木嶋佳苗「遺言手記」全文(4) 〈死刑確定者の自衛手段です〉養子縁組により元夫を養父に
■余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(4)
〈バツイチでふた回り上の彼〉と木嶋佳苗被告(42)が獄中結婚したのは2015年3月。その翌年9月に離婚するも、〈一度結婚したことで、色恋抜きの人生は考えられなくなった〉彼女は、〈逮捕前からの知り合い〉という男性と再婚に至る。
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 さて、9月に離婚した私は9月に再婚できると思っていました。頃しも昨年6月に民法第733条が改正され、女の再婚禁止期間が半年から100日になったばかり。私は刑事施設に拘禁されているのだから懐胎するわけがなく、したがって待婚期間が経過する前に婚姻届が受理されると考えても不思議はないでしょう。
 ところが、役所も法務局も、拘置所長が発行する在所証明書に「再婚禁止期間100日」の適用を除外できるだけの証明力はない、という見解を出したのです。そして「民法第733条第2項に該当する旨の証明書」の添付を求められました。
 この証明書は全て医師が記載するもので、私の場合、診察日において尿妊娠反応が陰性であるから離婚成立日以降に懐胎していない、との判断を書いてもらえば良い。そこで、拘置所の医務に尿検査と証明書の作成を願い出ました。すると1週間後に「婚姻届を提出するための検査は矯正医療の範囲外である」と告知されたのです。ならばと、東京矯正管区長に審査の申請をしても結論は同じ。結局、この裁決書が届いたのは再婚禁止期間終了が目睫の間に迫った師走のことです。
 ちょうど「100日カウントダウン」の間に刑事施設での強姦事件や出産のケースを調べたら、実際に幾つも事例があり、驚いたものです。なるほどと理解し、離婚から4回目の生理がきた100日目に婚姻届を提出し、受理されました。
■養父と養母
 では元夫との関係はどうなったのか。
 春に重傷を負って病床に臥せっていたものの、晩秋には快復。面会室においてそれこそ激越な口調で、「また結婚しよう」と言い出したときは心が痛みました。再婚の予定があることは伝えておらず、それは今もなお……。週刊新潮の大ファンである元夫は、この記事で事実を初めて知ることになる。
 元夫のことを当時も、そして今でも愛しているけれど婚約者を裏切ることはできない。再思三考の末に元夫には養子縁組を提案。婚姻届の翌日にその届を提出して受理され、晴れて私の養父となりました。
 図らずも、獄中で結婚、離婚、再婚を経験することになった恰好ですが、その後、最高裁で弁論公判が開かれた今年2月、若い頃から慕い尊敬している女性との養子縁組も受理されました。これらは偏(ひとえ)に、上告棄却され、死刑確定者の地位になったときの処遇に備えた自衛手段です。
 刑事収容施設法により、死刑確定者が文通や面会、物品の授受などの外部交通を権利として保障されるのは、親族、弁護士、教誨師のほかは重要用務の処理のためだけ。それ以外は、「必要とする事情があり、かつ、拘置所の規律及び秩序を害するおそれがないと認められる相手」に対し、「最大5人まで外部交通許可権を与える」とあり、所長の判断に基づくと言うけれど、明確な基準などない。
 法務省は、死刑確定者の拘禁の本質について「外部交通の遮断を含む社会からの隔離」にあり、刑罰に伴う制裁として「外部交通を含めた行動の自由を剥奪し、厳しく制限することも許される」と考えています。無実を訴えている私は非人道的な処遇に対抗すべく、婚姻と養子縁組によって確実に交流できる親族を増やしたというわけです。
(5)へつづく
 週刊新潮 2017年4月20日号 掲載  ※この記事の内容は掲載当時のものです

 ◎上記事は[デイリー新潮]からの転載・引用です
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【63年法務省矯正局長通達】
法務省矯正甲第96号
昭和38年3月15日
死刑確定者の接見及び信書の発受について
 接見及び信書に関する監獄法第9章の規定は、在監者一般につき接見及び信書の発受の許されることを認めているが、これは在監者の接見及び信書の発受を無制限に許すことを認めた趣旨ではなく、条理上各種の在監者につきそれぞれその拘禁の目的に応じてその制限の行われるべきことを基本的な趣旨としているものと解すべきである。
 ところで、死刑確定者には監獄法上被告人に関する特別の規定が存する場合、その準用があるものとされているものの接見又は信書の発受については、同法上被告人に関する特別の規定は存在せず、かつ、この点に関する限り、刑事訴訟法上、当事者たる地位を有する被告人とは全くその性格を異にするものというべきであるから、その制限は専らこれを監獄に拘置する目的に照らして行われるべきものと考えられる。
 いうまでもなく、死刑確定者は死刑判決の確定力の効果として、その執行を確保するために拘置され、一般社会とは厳に隔離されるべきものであり、拘置所等における身柄の確保及び社会不安の防止等の見地からする交通の制約は、その当然に受忍すべき義務であるとしなければならない。更に拘置中、死刑確定者が罪を自覚し、精神の安静裡に死刑の執行を受けることとなるよう配慮さるべきことは刑政上当然の要請であるから、その処遇に当たり、心情の安定を害するおそれのある交通も、また、制約されなければならないところである。
 よって、死刑確定者の接見及び信書の発受につきその許否を判断するに当たって、左記に該当する場合は、概ね許可を与えないことが相当と思料されるので、右趣旨に則り自今その取扱いに遺憾なきを期せられたい。
    記
一、本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合
二、本人の心情の安定を害するおそれのある場合
三、その他施設の管理運営上支障を生ずる場合

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余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(5)早期の死刑執行を要請 『週刊新潮』2017/4/20号
余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(1)(2) “小菅ヒルズ”での生活 『週刊新潮』2017/4/20号
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