余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(1)(2) “小菅ヒルズ”での生活 『週刊新潮』2017/4/20号

2017-04-20 | 死刑/重刑/生命犯

木嶋佳苗「遺言手記」全文(1) 〈筆を執ることにしたのは、母親への思いをはっきりと記しておきたかったから〉
■余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(1)
 季節の花を足元に果物は枕元で、香りに包まれ拘置所で夢を見る――。4月14日午後3時、木嶋佳苗被告(42)の上告が棄却され、死刑が確定することになった。獄中結婚・離婚・再婚を経るなど起伏ある日々をなお送り、刑の早期執行を請願するという彼女の告白ウィズ・ラブ。
 ***
 最高裁判決を前夜に控えた現在の心境をひとこと申し述べるなら、裁判所が真実を認める期待は皆無だから一毫の望みも持っていないということになります。
 今回、筆を執ることにしたのは、母親への思いをはっきりと記しておきたかったからです。
 4年前から私は、「拘置所日記」をブログで始め、その前年から後に小説としてまとめる自叙伝も書いていました。つまり、裁判員裁判の一審判決言い渡し直後から出版社との付き合いを始めたわけですが、母は、執筆をやめ出版社と縁を断たなければ一切の支援を打ち切る、弟妹や甥姪たちとの交流も禁じると宣告し、それは確かに実行されました。拘置所内での生活が外部の支援なしに立ち行かないのは後述する通りです。
 こういう「悪意の遺棄」、要するにほったらかしが虐待に当ることや、表現の自由に関する説明を弁護士から受けても聞く耳を持たず、支援者からの差入れ品を含む預託物は私の同意なく母が廃棄しました。その蛮行以来、私は彼女について考えることをやめていたのです。実際にサポートをしなくなった母によって否定されたも同然だった私の生命が判決で再び否定されると思う時、「ある決意」が頭をよぎるようになりました。ともあれ詳しくは最終章で触れることにします。
 2009年9月に詐欺罪で逮捕された私は2年半をさいたま拘置支所で過ごし、13年7月から“小菅ヒルズ”こと東京拘置所の2階で生活しています。長期勾留のため拘禁反応の症状が出ているという報道もありましたが、そのような事実はなく健康に暮らしております。
 それこそ数十に及ぶメディアから手記の依頼を受け、よりにもよってかねてより嫌いだと公言してきた週刊新潮にこれを寄せることにとうとう気が触れたかという突っ込みがあるでしょうし、私自身の躊躇いがあったことも否定しません。それはともかくどうせ書くのなら、この雑誌創刊以来のモットーたる「カネと女と事件」をテーマに綴るのがよろしいかということで、そのように進めます。むろん私の場合、女の部分は男になり、当局への呪詛の言葉が入ってくるわけですが。
■“手作りサンドイッチ”
 まずは、お金に相当する衣食住から。
 ヒルズにおける一日、つまり起居動作の時間帯は厳密に決まっています。
 起床は7時で就寝が21時。その間に「3時間の午睡」と仮就寝のための「4時間の横臥」が許されています。夜に10時間も睡眠をとらされるというのに、プラス7時間も眠れるはずがなく私は日中横になることはありません。不思議なことにほとんどの女子収容者が午睡と仮就寝時にスヤスヤ。
 朝食は7時20分、昼食は11時半、夕食は16時。毎食700ミリリットルの温かいお茶が配られ、各自で魔法瓶に入れ替えることもできる。飲食は点検と就寝時間以外いつでも自由に摂取可能。
 食器は、直径15センチで蓋が付いた磁器製の丼鉢に桜色のプラスチック製仕切り皿、そして大椀と小椀の4種あり、毎食その大椀に500ミリリットルの汁物がつく。給仕は、白いスモックを着た懲役受刑者の衛生係が台車を移動させながら居室前の廊下で素早く行い、湯気が立った状態で手渡す。2階のいわゆる「女区」にいるのは未決勾留者も受刑者も女子だけで、目下1名の死刑確定者も同じフロアに。
 東拘は刑事施設のなかでも食事内容の評判が高く、学校給食以上のメニューが提供されています。差入れや自己負担で540円のお弁当を注文することもできますが、自弁した場合には官給の食事が出ません。
 私は季節ごとに自分で献立を作成しています。官給の食事の他、差入れや購入で得た材料で料理らしきことをするのが楽しみのひとつで、わけてもサンドイッチのバリエーションは豊富。ヤマザキの食パン、明治屋のコンビーフ、由比缶詰所のツナ、味の素のマヨネーズ、雪印のバターにチーズ、ソントンのジャム、サクラ印の純粋はちみつ、果物などを揃えると、1斤のパンで作るサンドイッチは原価が2000円ほどに。コーヒー、紅茶、ココア、緑茶、牛乳、ジュースなどの飲料やお菓子も販売されていますし、ヒルズにいると物欲が小さくなるので、飲み物と手作りサンドイッチを口にできるだけで十分幸せです。
 性的なことを考えないわけではないけれど性欲で息苦しくなることはない。睡眠欲もたやすく満たされる状況にあり、食欲こそ人生最大の関心事と言ってはいささか大仰でしょうか。
 そう、細かなことですが、缶詰には1日2度の「開缶タイム」があり、1回につき2つ開けられる。つまり週に最大28個消費できるということになります。どの缶詰を開けようかなと選ぶ楽しさ、自弁や差入れで新しい商品が届く嬉しさ、土曜昼食にパンが出るまでの待ち遠しさ、休庁日午後に給湯がない切なさはそれぞれ深くて大きいのです。
 (2)へつづく

■余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(2)
〈裁判所が真実を認める期待は皆無だから一毫の望みも持っていないということになります〉――「週刊新潮」に寄せた手記で、木嶋佳苗被告(42)はまず“小菅ヒルズ”こと東京拘置所での生活の様子を明かした。起床は7時で就寝が21時、差し入れからの材料でサンドイッチを手作りすることもあり、〈食欲こそ人生最大の関心事と言ってはいささか大仰でしょうか〉と綴る。
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 私の身長は156センチで、秋冬は「冷えとり健康法」実践のため絹と綿の靴下を交互に4枚重ね穿きしているうえに底の厚いサンダルを履いているので、実寸より背丈があると見られることが少なくありません。
 横幅もそれなりだから大きく見えるかもしれませんが、体重はずっと60キロ台で推移しています。「身長体重を書け」――こんな指令が長身痩躯の男性記者からありました。さすが週刊新潮。これまで数えきれないほどの記者から数多の質問をされてきましたが、体重を尋ねられたことは初めてで仰天。「咳をしても一人」な空間で「太り」ということはなく、逮捕時は70キロ台でしたから、これでも少し痩せたのです。拘禁生活は活動量が少ないので確実に太ります、節制なしには。
 今の夫は、私の体型を殊の外愛しているため、ありのままに生きることができる幸福を噛み締めています。今の、ということは、前の夫もいるわけですが……。
 ヒルズでの面会は、平日のみ1日につき1度、同席できる外来者の人数は3名以内とし、1回15分。弁護人や官公庁宛以外の手紙の発信は平日のみ1日に1通という制限も。電報だけ発信通数制限がありません。
 私の生活スペースは、単独室と呼ばれる独居房。ひとつのフロアに66の部屋があります。房内は1帖分のフローリング・スペースに洋式トイレと洗面台があり、3枚の畳部分に布団や木製の文机、私物の棚に保管バッグ、衣類かご、裁判書類を置いています。埃と他人の視線からそれらを守るため、すべてをパステルカラーのタオルで覆っているのですが、部屋がすっきり明るくなり快適で一石二鳥。
 房内保管できる私物は総量が120リットル以内まで。差入れや購入量の制限は設けられていますから、人間らしい暮らしを望むなら、小まめに補充、処分、預託する必要があります。要するに、“社会”で生活する外部協力者の存在が不可欠で、その辺りも次章以降で綴るとして、変わったところで洗濯について。男子の場合は、所内の洗濯工場で下着の洗濯から乾燥までしているところ、女子には私物衣類の無料洗濯が行われていないのです。枕や布団カバー、シーツにタオルケット、毛布などの寝具類まで自己負担で清潔にしなくてはならないというわけです。
■ベターッと開脚にヨガ友
 浴室と運動場も同じ階に単独処遇者用のスペースが設けられています。東拘では、原則として「平日・毎日・居室外」において運動可能。爪切りは運動場でしか貸与されないため、週に1度だけ出て行きますが、爪切りを終えたらすぐに部屋へ戻ります。というのも、毎日午前と午後の2回、室内体操の機会があるし、1時間に1度はストレッチをしていて特に室外運動の必要性を感じないため。
 健康診断の結果はいつも良好で、肩凝りや腰痛も無縁。筋トレ本を読み、流行のトレーニングは一通り実践しています。「ベターッと開脚」に長友佑都の「ヨガ友」に、「筋膜リリース」、更に「タバタ式」がルーティン。つい先日、「1分で眠れる478呼吸法」を試したところあら不思議。20時からのラジオ寄席を待たず眠りに落ちたのです。
 ヒルズ内の、ひからびた生活に彩りを与えてくれることもあって、毎月新しい服や下着を購入しています。
 勾留中の女子にとって、警察署の留置場から拘置所に移って感動するのはブラジャーが着けられること。胸のボリュームが下や横に逃げてゆくのを防止するためのワイヤー等がなければどんな形状でも許可されます。昨今はレースが豪華なノンワイヤーも多く、ヒルズでも下着のお洒落が楽しめる。
 ブラを着ける理由というものはちゃんと存在していて、それは乳首の問題があるからで、ヒルズでは「胸ポチ」と呼ばれています。面会に行くときに廊下で、胸が透けていないか、乳首が特に目立っていないかどうか、つまり胸ポチのチェックを受けるのです。
 下着はガードルやボディスーツ類が、衣類だと35センチ以上の紐付き、フード付き、香水等匂いの付いたものは差入れNG。
 実を言うと、私の装いに対する感度が高くなったのは結婚後のこと。最初の夫が着道楽で、「女の子なんやから」と言って、妻の私にもラルフローレンとかアンタイトルなどからトレンドの服を選んでくれました。大阪出身の男なのでお値段を伝えることも忘れませんが、彼からファッションの力というものを初めて教わりました。
 座布団と下着は季節ごと、寝具は毎年の買い替え。睡眠中以外ほとんどの時間を座布団の上で過ごす私にとって、差入れの大きく分厚い座布団が欠かせません。1枚4000円ほどのお値段ですが、官給品や自費購入の薄っぺらでスポンジみたいな粗悪品とは対照的。とりわけ冬のあいだは、霜焼けやあかぎれの症状を訴える者が続出するレベルの厳寒が襲います。
 室内で凍傷になるのですから手袋は不可欠。75円で軍手が売られておりますが、これは用をなしません。私は美容のために絹の手袋を、防寒のために手首まで覆うカシミヤの手袋を愛用しています。どちらも指にフィットし、ペンを持ったときに滑らない商品です。
 税金で養われる獄中者はお金がかからず生活できていいねという指摘があることは承知しています。とはいえ、領置金と呼ばれる自己資金がなければ健康で文化的な最低限度の生活は絶対できない。食料品の自弁購入限度額・週6000円に加えて日用品、郵券類、送料などに月数万円。それ以外にタイムセールなどない差入屋の商品代を考えると、生活費は結構な金額になるのです。更に目眩がするような弁護士費用……。
 (3)へつづく
    週刊新潮 2017年4月20日号 掲載  ※この記事の内容は掲載当時のものです

 ◎上記事は[デイリー新潮]からの転載・引用です
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余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(5)早期の死刑執行を要請 『週刊新潮』2017/4/20号
◇ 余命を諦めた「木嶋佳苗」の東京拘置所から愛をこめて(3)(4) 獄中結婚・離婚・再婚は、一番尽くしてくれる人を“精選” 『週刊新潮』2017/4/20号
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