きれいなきれい〈田添公基・田添明美のブログ〉

「いたずら(田添明美)」は左下の
カテゴリーから入って下さい

ひみつ      田添明美

2020年09月29日 08時04分32秒 | 「いたずら」田添明美

ひとっこひとりいない夜

けっぺき家の夜の子は
だれにも踏まれていない
道を歩こうとし

そんな道はないと考え
たちつくした

それを見ていた
夜は子供をさらい
道の上空においた
だれの足あともない道である

子供はふいに笑い

ちいさな夜を放ちはじめると

笛のように
息をすい
自分の歩はばで歩きだした

ようやく
うかんで
あるけるようになった子供だ

大きなかいなで
つゝむようにして
見守る
夜はそれを
ひみつにする

夜のおやこに
星がふりそそいだ夜の
  話だ


          R2.9.18


炎       田添明美

2020年09月28日 07時47分27秒 | 「いたずら」田添明美

参道に
赤い炎と
青い炎が
向きあってもえている

がらんとした
この夜更けに

誰が
お参りを
しているのだろう

月にてらされた
影は
ひそひそと
願いごとをつぶやいている

抱いた
影の子らにあたらしい着物をかぶせ

わたくしたちが
消えず在るように
わたくしたちの子らもまた
そうありますように

本坪鈴が鳴る

それぞれの
夜に
しんしんと
影があらわれるたび

赤い炎と
青い炎が
うかびあがる


         R2.9.18
 


なわとび     田添明美

2020年09月26日 08時34分52秒 | 「いたずら」田添明美

なわがゆれている
なわを持つ二人の子が
お入りなさい
お入りなさい
といっている

なわが飛べない子がいる

風が飛びこんでいって
すっと
飛んでみせる

何度も
何度も

なわの中で
飛んでみせる

次は
あなたの番よ
次は
きっとね

じっと見ていた
その子の頬が赤らんで
ふっと
その子は飛べるようになる

          R2.9.17

 


一日      田添明美

2020年09月24日 07時50分37秒 | 「いたずら」田添明美

ひたひたと
夜は走った

ある窓辺に佇ち
受け継がれた子守歌のように
(おやすみ)をいい

また
べつの窓辺に佇ち
(おやすみ)をくりかえし

仕事にいそしみ
朝まで夜は眠らない

交代の時間がくる

「さあ 今度は自分の番だ」

朝のやわらかなふとんに包まれ
夜は眠りだす

夜にも、
朝の子守歌がきこえる


         R2.9.16
 


無人      田添明美

2020年09月23日 09時19分32秒 | 「いたずら」田添明美

夏に
最後の住人が出ていった

築80年以上の木造アパートは無人となった

道路からアパートまで
幅2メートル弱の小道が続くが
夏草の勢いに負け
小道はふさがれてしまった

ずっと
前から朽ちかけていたのだ

もうここに家は建たない
小道が細すぎるからだ

がらんと、壊れていくしかない

けれど
廃屋となるだろう空き家は
 すぎ去った昔を考えている
 ここで生まれたもの
 ここから嫁いでいったもの
 ここに孫を見せにきたもの
 そして
 ここから見送ったものたちを

楽しげに
物干し場から
声が
聞こえてくるのだ

(おはようございます
(おはようございます
 今日はいい天気ね、


         R2.9.16