沈丁花
春になるといつも気分がしずむ
テレビでむかしの歌をうたっている
「あなた、死んでもいいですか」*
どきりとし そこだけあたまのおくにしみこみ
強制的なくりかえしが
とめられなくなる
「あなた、死んでもいいですか」
ぼくは 死んだほうがいい という感じになってくる
いっそうからだが重く
「早く死ね」
歌といっしょにつぶやく声もはじまる
妻が お薬 呑んだ? という
医者は 薬 かえてみようか という
けっきょく量をふやす
へとへとになって帰ると
庭に何年かまえに植えた沈丁花が
はじめてつぼみをつくっていて
かすかな
かおりを感じる
気分がゆるんでいる
歌が「あなた、かわりはないですか」にかわる
翌日いっきにひらいたきつい花のかおりが
閉じた家のなかにもかすかにはいってくる
かおりといっしょに薬だけは呑む
もうちょっと生きられるような気がする
今は かわりないよ
*阿久 悠作詞「北の宿から」
都はるみ歌
2003(H15)08・27