むすぶ つなぐ

「悪の枢軸」とされる国から思いつくまま……。

できること、できないこと

2008年10月10日 02時21分31秒 | Weblog
映画「闇の子供たち」を先日観た。
文庫とは違った設定もあり、あらためて衝撃を受けた。

悲惨な現実を前に、一人一人は何ができるのか。
江口洋介扮する新聞記者は、「目の前の1人を救っても、また同じことが起きる。それよりも、見たままを伝えるのが仕事だ」と話す。
一方、宮崎あおいが演じるNGO職員は、なりふり構わず「目の前の1人を救うこと」にこだわり、問題をややこしくする。

そんな宮崎を江口は「バカ」呼ばわりしながら、自分も「これでいいのか」と自問する。それでも記者として現実を切りとることに専念する。
同じ目的で走りながら、2人の心は重なることはない。
簡単な方程式では解けないテーマだ。

  ×   ×

「カンボジアでは、ビール1杯のお金で、子供の性が買われる。そんな現実をどう思いますか」
宮崎あおいにぴったり重なる女性を以前取材したことを思い出した。
きっかけはインターネット上で探した小さな講演会だった。

「特ダネ」でもなんでもなくても、記憶に残っている取材はたくさんある。
自分だけでなく、人の記憶に残る記事が書ければ、これほど幸せなことはない。何か現実を少しでも変えるものであればさらにいい・・・


  ×   ×

 <関連取材>


◆ひと:中川香須美さん=カンボジアの児童買春問題に取り組む

 ◇多くの子どもが暴力や差別の被害者--中川香須美(なかがわ・かすみ)さん

 日本を含めアジアや欧米から来る多くの男に買われていく子どもの性。「若い子と交渉することで活力が得られるという誤った考えや、HIV感染を避けるために狙われる」。最貧国の一つ、カンボジアの「相場」は最低5000リエル(約150円)。観光ついでの買春も増え、子どもは人身売買、暴力、差別の対象となり苦しんでいる。

 高校時代に見た1枚の写真がきっかけだった。旧ポル・ポト政権の虐殺被害者の頭蓋骨(ずがいこつ)。「知らない異国の現実に衝撃を受けた」。ブランド品を着る“普通の女子大生”になっても、カンボジアへの関心は消えなかった。大学院を経て97年に現地に渡り、大使館勤務や地雷撤去運動に従事。目の当たりにしたのは、内戦と貧困に追いつめられる女性や子ども。現地NGO(非政府組織)職員となり、買春の実態調査や啓発に駆け回る。
 貧困家庭の子どもが親から売春を強要される。買春者が逮捕されても金を払えば簡単に釈放される。腐敗した現実と向き合い、「子どもが路上に追いやられる環境を少しでも変えたい」と願う。

 同国の大学で唯一の「ジェンダー学」を講義する教員にもなった。「性別に関係なく、一人一人に限りない可能性がある」と学生に強調する言葉は、自らへの鼓舞でもある。「現場に足を置いた学者になるのが夢。弱い立場の女性や子どもが逃げ込めるシェルターをこの国でつくりたい」。笑顔の奥に強い意思がのぞいた。
                    <文・鵜塚健/写真・山田耕司>
■人物略歴
 神戸市出身。大阪大大学院修士課程修了。プノンペン市内に単身で暮らし、現地の人権擁護NGOに所属し、大学教員も務める。34歳。

06年8月28日 毎日新聞朝刊