わたしは六百山

サイゴンでの365日を書き直す 

ホッ・ヴィ・ロン(あひるの孵化卵) ベトナム便り 16

2006年03月05日 | 日本語教師
こちらk-603.(写真は 街角にて・ごみを拾って生活する女性たち)
概してベトナム人の学生は、会話の暗唱が得意です。
AとB、2人の会話(問いと答え)5~6往復ぐらいなら、どのレベルのクラスでも10分足らずで覚えてしまいます。
Ho^さんは21歳、どんぐり眼(まなこ)のかわいい女性です。首都ハノイから100Kmほどの都市からここHCM市に来ています。大学に通い、アルバイトをして、そのうえ日本語を勉強しています。
さすがに、勉強中は眠いと見えて、よくあくびをしています。
このHo^さん、とてもプライドが高いのです。あくびをしてばかりいて、発話をいっさいしないとき私が「Ho^さん、だいじょうぶ?」と、気遣って言ったつもりでも、注意されたと思い、口をむすび頬をふくらませて、私の気遣いを拒否します。そのうえ、こんなときは必ず次の回の授業をボイコットし(休み)ます。(2回ほどボイコットされました)
ベトナム人の先生の授業の時もやはり眠いのでしょう、そこで教えられる語彙や文型はほとんど覚えていません。
ところが、Ho^さん、会話の暗唱はだれよりもはやく、うまくできます。
わたしは、教科書の会話練習の部分を演習させるとき、よほど難解でベトナム人に無関係な語彙(たとえば 大阪城公園 など)でない限り、黒板に会話全部を書き写します。
あとは、黒板を見ながら、リピート、教室を二つに分けたQA、そしてペアワークとつなげて行きます。この間に、黒板上に書かれた文を、黒板消しでアトランダムに消していきます。つまり会話文を虫食い状態にしていくのです。
そうすると最後には黒板の上には何もなくなりますが、学生には、会話が覚えられなかったという敗北感を与えたくないので、クラスの状況を見ながら、この消し取り具合を変えて行きます。
Ho^さんは、このときばかりは目を輝かせます。
そして、どんな 言い回しの難しい会話でも、あっという間に覚えてしまうのです。そのうち、もうぜんぶ消しても大丈夫だ、と訴えます。他の学生のようすを見ながら、やがては全部消してしまうのですが、Ho^さんの相手方が出てこないときがあります。そんな時はわたしがその役を務めなければなりません。わたしは、今まで、どこを消そうかとか、次は誰にどの役をさせようかとか考えていたのですから、文を完全に暗唱できるわけではありません。
「ちょっと待って・・・」と言って、口の中で文を唱え必死に覚えます。そしてHo^さんの相手を務めます。「ん?」と、時には私がつかえてしまうときもあります。すると、必ず教室から「*****」とみんなの援助があります。「ありがとうございます」と私はその文をもらいます。
Ho^さんは、難なく会話を完了させます。そして、またあくびをします。

このHo^さんのバイクの後ろに乗って、先日、ホッ・ヴィ・ロン(H・V・L) を食べに行きました。(授業のあと)
これは、孵化する前のアヒルの卵をゆでたものです。
この、ベトナムならではの食べ物は、レストランでは決して食べることができないそうです。
同じクラスのPhさんと、彼女のご主人も一緒です。
卵の中のひよこを食べるわけですから、ひよこの羽毛はどうやって吐き出したらいいのか、骨はどうするのか、目玉がでてきたらどうしようとか、食べてみたい好奇心と食べたことのない不安感が交錯します。
5分ほどHCM市の中をバイクで回って、ようやくH・V・Lの看板を見つけ、その看板の家の裏庭のような薄暗いところで、ちいさなテーブルを囲みました。
食べ方を丁寧に教えてもらい、そっと口に入れました。
「うまい」
塩とこしょう、それにとうがらしをつけるようにして(殻の中に入れて)食べるのですが、これが、絶妙な味です。ゆでたまごの淡白さと、肉の重厚さが交じり合った深みのある味です。そして、少し食べたら中にある汁を殻に口をつけて飲みます。生のうまさが舌に広がります。
H・V・Lには香草が添えられています。これをちぎって、塩コショウをつけて食べます。さわやかな香りが次の食気を誘います。
この日はなんとなく、ご主人が一緒のPhさんの主催でした。
Phさんは私に3個のH・V・Lをたのんでくれました。
3個とも食べろ、というのですが、私は「一個目は ああおいしい、二個目は まあまあ、三個目は うーん ちょっと」と言って3個目は食べませんでした。
みんなで大笑いして、この日のイベントは終わりました。
H・V・Lは一個3000ドン(22円)ですから、まったく庶民の食べ物と言っていいでしょう。
すごい食材をベトナムの人たちは発見したものです。
ところが、このH・V・L 、一個目のはよかったのですが、二個目のはまだ日が浅かったためか、肉になった部分が少なく、硬いゆで卵という状態でした。
つまり、殻の外から食材としての孵化の適期を知るのは、難しいのです。
そこで、この道には、適期を見分ける名人がいるんだそうです。

そうそう、心配していた ひよこの羽毛や骨や目ですが、薄暗い裏庭では見てもわかりませんでしたが、食べてみた感じでは、どこにもそんなものはありませんでした。(昼間見れば、足とか頭とかわかるはずです)
まずは、安心です。みなさんもどうぞ。
でも、レストランでは食べられませんから、街をあるいて探してください。この間はフロントカーを押して売り歩くおばちゃんも見かけました。やはり 一個3000ドンでした。

帰りはまたHo^さんのバイクのうしろに乗って帰ってきました。


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