わたしは六百山

サイゴンでの365日を書き直す 

かつらの木と少女

2005年10月25日 | ことばあそび
こちらk-603. かつらの木と少女

いなかの学校の裏門のわきに、小川が流れていた。
そこに一本の大きなかつらの木があった。
その木のうしろに少女が立っているのを見つけたのは、
10月の、ちょうど今ごろだった。

ぼくは、一人で家に帰るのがすきだった。
石をけりながら。
ある日、石が小川に落ちたとき、川面にきいろい葉が流れているのを見た。
色づいたかつらの葉が、何枚も流れてきた。
たどっていくと、かつら木の根元にその子がいた。
少女は胸の前でちいさく手をふった。
知らない子。

次の日も少女はいた。
かつらの木のわきを通るとき、背中がもぞもぞして、
石けりを忘れそうになった。
少女は口をすぼめて、うわ目使いで、こっそりわらった。
ぼくは小股歩きになって、あわてて石をけとばした
それは小川にとびおちた。
水がはねた。
ぼくのこころもはねる。

10月のちょうど今ごろ、
かつらの木のわきを通れば、
ぼくは後ろをふりむいてみる。
もしあの少女がいれば、
わらって、大きく手をふろう。


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