◇juri+cari◇

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紺野キリフキさん『ツクツク図書館』

2008-07-06 22:01:57 | 読書

本日の貸出

『ぼくだけのお姫様』 ユージ

『愛すべき妻』 山田祐二

『おれはあいつに殺される』 作者不詳

 

(紺野キリフキさん『ツクツク図書館』より)

 

前作『キリハラヒロコ』がものすごくヘンで、おもしろかった

紺野キリフキさんの第2作『ツクツク図書館』。

 

つまらない本しかない図書館を舞台に

夏でもコートを何枚も着込む新人職員の『女』

ぎっくり腰の祖母に代わって、本を元の位置に戻す幼稚園児『戻し屋ちゃん』

日本中からつまらない本を集めてくる『運び屋』

職員の誰にも頭の上がらない、気弱な『館長』など

ヘンテコな人々の奇妙な日々を描いた連作集。

 

本を読むのが仕事なのに、ぜんぜん本を読もうとしない『女』 

自分でページをめくり、本を読むネコ

ポルノ本ばかりの《ポルノ王国の部屋》を探し出した男子学生に起こる悲劇

どこからか聞こえる男の泣き声

どこかに眠るという「伝説の本」とそれを守るガイコツ

などなど不思議な雰囲気が漂うエピソードが次々と披露されます。

 

登場人物(←とくに『女』)のせりふや突飛な行動、そもそもの設定自体がとっても可笑しくて

なんども声を上げて笑ってしまいました

 

前作同様に一文一文が短く、各エピソードも短目なので気軽に読めます。

また、ほとんどのエピソードにサブストーリーがあるという構成が新鮮。

こうすること、作品の奥行きが増しているように感じました

しかも、そうしたサブストーリーが本編と同じくらい(・・・もしかしたら、それ以上に)おかしいので、次第にそっちのほうが楽しみになったほど。

 

なかでも気に入ってるのが「△変態」というサブストーリー

『キリハラヒロコ』に登場した<伝説の変態ゴトウさん>がカメオ出演しています

前作で彼のファンになった方は見逃せません 

 

どういう風におススメしていいのか、いまいちわからないのですが

冒頭↑の「本日の貸出し」が笑えた方には強くおススメします

 

なお、

職員もわからないほどたくさんの本と、それが入った小部屋がある図書館

という設定がボルヘスの『バベルの図書館』のパロディに思えて仕方ありません

実際どうなのか?、作者の次回作ともども気になっております


長島槙子さん『遊郭のはなし』(さとのはなし)

2008-07-06 00:30:30 | 読書
櫛が、落ちているのです。
蒔絵の赤い櫛なんです。
ただ、なんとなく、落ちている。
   <中略>
そうと悟られないように、何気なく落ちているんです。
捨て罠みたいなもんですよ。誰かがうっかり手を出すように、仕掛けた罠でございます。
その誰かにしか見えません。他の人には見えないのです。選ばれた誰かにしか、その赤い櫛は見えないんです。ですからその人が拾うまで、黙ってそこに落ちている。
もし、手にとって拾ったら……
死ぬんです。
櫛を拾えば日をおかず、必ず死ぬというのです。
怖ろしい櫛でございましょう……


長島槙子さんの『遊郭のはなし』(←『さとのはなし』)は、
吉原にある大桜(大きな遊郭)『百燈楼』を舞台に語られる連作集

怪談好きの若旦那が、偶然耳にした『赤い櫛』の話に興味を持ち『百燈楼』を訪れ、古くから伝わる<七不思議>について女将、幇間たちの話を聞く
という形式を採っています。


雨宿りのために入った遊郭の軒。人の気配もあまりなく、三味線の音すらしない格子の向こうで花魁が自分に微笑んでいる。
思わず店に入った男が過ごす恐怖の一夜。(『死化粧』)


猫が化けて、花魁の名代を務める(『遣手猫』)

豪遊を競い、あげくの果てに死んだ花魁を幽霊として身請けしようとする豪商の顛末(『幽霊の身請け』)

など各エピソードは個別に見れば、わりとオーソドックスな話なのですが
連作集という形式が功を奏し、後半で話が一段と面白く(=怖く)なるので

途中で油断すると、大変なことになります。



また、怪談の醍醐味の一つ、<現世>と<異界>が入れ替わる瞬間

『百燈楼』という舞台ならではの演出がたまりません。



文章が読みやすいことはもちろんのこと、

女中、妓夫、女将、内芸者……と話ごとに語り手が変わり、最後まで読むと遊郭の基本的な構成員の話を聞いたことになる、
という構成はとても面白かったです。

また、吉原や遊郭に関する基礎知識の説明が適所・適量なされている点にも好感が持てました。


吉原を舞台にしているの情交の場面もあるし、血しぶきがバッと飛ぶこともありますが
それ自体の描写は控えめなので、イヤな気分になることもありません

安心して、ぞんぶんに怖がってください