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南信長さん『現代マンガの冒険者たち』

2008-07-19 01:34:06 | 読書
朝日新聞等でマンガに関する連載・コラムを執筆している南信長さんのマンガ評論集『現代マンガの冒険者たち』


6つのテーマ―ビジュアル、Jコミック、ギャグ、ストーリー、少女―ごとに

代表的なマンガ家5~8人を取り上げ、各ジャンルの特徴と、それがどのように進化・形成されてのかを描きます。


たとえば、ストーリーマンガに関する4章「〈物語の力〉を信じる者たち」では

まず、序に当たる「〈ストーリーテラーたち〉の世界観」で

手塚治虫を中心に〈ホット⇔クール〉を縦軸、〈日常⇔空想〉を横軸にした図表を用い

ストーリーマンガを書くマンガ家がどのような志向性、世界観を持つのか俯瞰します。

ここに登場するマンガ家は、本宮ひろ志さん、ちばてつやさん、安野モヨコさん、浅野いにおさん、とり・みきさん、藤子・F・不二雄さん、荒木飛呂彦さん、山田芳裕さんなど約80名。


次に、代表的なマンガ家―浦沢直樹さん、諸星大二郎さんと星野之宣さん、福本伸行さん、弘兼憲史さんと本宮ひろ志さん、さそうあきらさん―について、彼らの作品の特徴、前の世代からの影響を詳説します

また、筆者がとくに注目するマンガ家について短い解説が加えられます―
本章では、細野不二彦さん、柏木ハルコさん、ゆうきまさみさん、島田虎之助さん、藤田和日郎さん、笠辺哲さんの5名。



一般にマンガの評論というと、個別の作品への思い入れ(=思い込み)が優先しすぎて絶叫調になったり

あるいは、エクリチュールやら社会学等の議論を念頭においたがために、なんだかわからない内容になったりしがちですが

本作はそのいずれとも無縁。



確かに、筆者は本書で

よく「マンガが面白くなくなった」なんて言う人がいるけれど、それはその人が面白いマンガを発見できなくなっただけの話である。面白いマンガはたくさんある。


とマンガ愛を熱く語っていますが、作品の分析に「愛」や「熱さ」を持ち込みません。

作品そのものと作者のインタビューだけをもとに作品の解説を行い、客観性を保持しようと努めます。
作品の売り上げやブームをあまり重視しない点や、同様の理由からと思われます。


この点には好感が持てますし、なにより読みやすくていいです。



個人的に興味深かったかったのが、浦沢直樹さんが《将棋の駒》論について触れている箇所。

《将棋の駒》論とは、浦沢さんの言葉によれば「桂馬は桂馬の動きしかできない」ということ

これを浦沢さんは作り手の言葉として語りますが、読み手もこのことを自戒しなくてはいけないなと思いました。

ややもすれば、作品や登場人物への思い入れが強くなりすぎるあまり、作品そのものを味わいきれなくなるからです。



本書は1冊通読するのも面白いのですが、
各章の冒頭に掲載されている、作家の分布表(←大傑作です)だけ見ても楽しめますし、
マンガを読むたびに、その作品がどのような文脈に位置するのかを確認したり、
新しく読むマンガを決めるときの参考にしたり、といろいろな読み方ができます。


1年間に100冊程度はマンガを読むという方であれば、必携ともいう作品です。