日本語の謎を解く 最新言語学Q&A
橋本陽介 著
新潮新書
2016年4月20日 発行
この本では、日本語に関する高校生の疑問に対して、言語学に基づいて明らかにしていくという方式で解説しています。
第一章 日本語の起源の謎
日本語と朝鮮語
地理的に近く、文法体系がそっくり。語順も一緒で助詞も使う。
動詞の活用による敬語が複雑に発達している。
しかし比較言語学からは、似ている単語は多くない。
ヨーロッパの言語は、簡単に単語の対応関係を見つけることが出来る。
日本語は南北の様々な言葉が混ざり合って出来ているため、他の言語との関係がよくわからなくなっているのか?
第二章 日本語音声の謎
子音
肺から上がってきた空気をいったん口のどこかで阻害して出す音のこと。
母音
息を完全にはブロックしない。だから連続して発音することができる。
第三章 日本語語彙の謎
なぜ日本語は同音異義語が多いのか?
同音異義語はたいていは漢語
中国語には声調があって違う発音になるが、日本語にはないので、同じ音になってしまう。
なぜ「ニホン」と「ニッポン」という異なる読み方が残っているのか?
おそらく日本を含む東アジア圏には漢字本位主義的な傾向があるからでは?
漢字でどう書くかが重要であって、どう読むかは副次的な問題
第四章 言語変化の謎
言語学的にいうと、一人だけ言い間違えるのは「誤用」だが、集団で使われるようになると、それはもはや言語の「変化」p84
平安時代の基本的な単語の内、滅びるか変化したのは23パーセントといわれる。
古文の試験では違うところだけが問題になるから、まるで違うような印象を持ってしまう。p89
言語というのは常に変化している。
むやみやたらと変化しているのではなく、それなりのケースが見いだされる場合がほとんど。
新聞の投書欄には「最近特に日本語が乱れている」という文書が明治時代から現代まで載り続けている。
言語の変化は、複雑すぎる場合は単純になっていき、逆に単純になりすぎれば複雑になっていく。
一方向に発展なり衰退していくものではなく、循環的に変化していく。
「正しい日本語」とは、ある時点の日本語の姿を整理して、それを人為的に規範にしたものに過ぎない。
しかし、「規範=正しい」という意識が私たちの中には確実にあり、それが「正しいものは美しい」という価値観にもつながっていく。
美しい言葉遣いだから正しいのではなく、正しいと決めたから美しいと感じているだけ。p99
それに、わたしたちは変化を嫌う傾向にある。p100
第五章 書き言葉と話し言葉の謎
「仮名」に対応するのは「真名」、つまり漢字のこと
片仮名は漢文を読むための補助機能として開発されたもの
現在でも外来語を片仮名で書く習慣が続いているが、これは片仮名がもともと漢文という外国語のためだったことに由来している。
平仮名は和文を表記するため漢字を崩して生まれた字
キリスト教を耶蘇教と呼ぶのはなぜか
耶蘇は現代中国語では「イェスー」と発音するからp109
歴史的仮名遣いの特徴は語源主義に立っていること
その最大のメリットは、発音の異なるあらゆる時代、あらゆる地域の言葉を同じ方法で表記できること
最大のデメリットは現代の発音と大きく異なっていることp116
「は」「へ」「を」が歴史的仮名遣いのまま残ったのは、助詞・助動詞の表記の仕方は伝統が最も濃い部分であり、常識的意識においてその伝統が考えられたからp117
英語はヨーロッパの言語の中でも特に発音と表記の違いが大きい言語p118
第六章 「は」と「が」そして主語の謎
日本語の文法研究が本格的に始まったのは江戸時代、本居宣長とその門下
明治になると西洋の言語学が入ってくる。それをそのまま日本語に当てはめる。
西洋の近代的な言語学と江戸時代からの研究を折衷した日本語文法を考えたのが大槻文彦
日本語では、ものごとを上から客観的に眺めるのではなく、状況の内側からの視点に同化してしまうのが普通p154
英語などのヨーロッパの言語は、原則としてものごとを客観的な視点から語る構造を持っている。
ヨーロッパ言語を母語とする人たちにとっては、日本語のように登場人物の主観的な視点に同一化してしまう文は、理解が難しいといわれている。p159
第七章 活用形と語順の謎
動詞だけでは表せない様々な意味を追加するために活用している。
第八章 「た」と時間表現の謎
第九章 同じ意味でも違う構文があるのはなぜか
Taro taught her English.
Taro taught English to her.
前者は英語を教えた結果、英語ができるようになった、というニュアンスがあるのに対し、後者は単に教えただけ
動詞の直後に目的語として置かれる場合、強くその動作が作用すると読まれるので、その結果も達成されたイメージになる。
toを使った形は、単に動作の方向を表しているだけp232
第十章 人間の認識能力と文化の謎