字面をなぞってはいても眼は同じところを何度も行き来してばかりで、時間だけが過ぎていく。理解力が衰えているのはやむをえないにしても、どうやら精神を集中させる力も損なわれつつあるようだ。記憶への信頼を失って久しく、このところ新しいことに取り組むのを避けようとする兆候も現われている。ただ、それが血流障害によるものであれ、アミロイドの沈着によるものであれ、病的状態であるなどと言われるとにわかに首肯しがたい。混沌とした現実を切り分け、本質を浮かび上がらせてきた近代医学にいまだ信を置いているとはいえ、この世に生を享けたものが例外なくたどる道をそのように言い切ってしまうことにはためらいを感じずにいられないのだ。
言うまでもなくアミロイドは単一の蛋白を指すものではない。Comgo red染色で橙赤色に染まり偏光顕微鏡下で緑色の偏光を呈するという特徴を共有する数多くの蛋白の総称である。アミロイドーシスはこれが全身諸臓器に沈着し、多彩な症候をきたしたものをいう。その基本病態は実質細胞が萎縮する(糸球体など)ことにくわえ、機械的にも機能を障害し(心・肺など)、ときには出血をきたす(肺・消化管など)ところにある(Fishman’s Pulmonary Diseases and Disorders 3rd ed. McGraw-Hill 1998)。
その全貌を把握するのは容易ではないけれども、まずは分類にしたがって全身性と限局性に大別するのが近道だろう(アミロイドーシス診療ガイドライン2010、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班、難病情報センターホームページ)。一方で臨床においてはしばしば単一臓器の所見が前面に現われ、そこを起点としてアプローチされることが多い。たとえばPulmonary amyloidosisも病変が呼吸器系に限局するものと全身性の病態の一部分症としてみられるものがある。
呼吸器系に単独でみられるものの多くは、異常形質細胞が産生するモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のAL(Amyloid light chain)アミロイドによる(Respirology 2001; 6: 61-64)。その病変は、肺実質の単発ないし多発性の結節、あるいは気管気管支内のプラークないし結節としてみられるものが多く、とくに前者のタイプで全身疾患に関連したものはなかったとの報告がある(Ann Intern Med 1996; 124: 407-413)。しばしば無症状で発見され一般に良好な経過をたどるとされているものの、気管気管支内に沈着するものでは閉塞症状をきたすことがあり、重篤化する例もないわけではない。また、少数ながらdiffuse interstitial patternを示すものもあるようだ(Arch Pathol Lab Med 1986; 110: 212-218)。
そしておそらくより遭遇する可能性がありそうなのは全身性アミロイドーシスだろう。その肺病変は限局性アミロイドーシスとは対照的にdiffuse interstitialにみられることが際だった特徴で、画像上interstitialないしreticulonodular patternを呈する(Respirology 2001; 6: 61-64)。沈着するアミロイドのほとんどは3種の前駆蛋白、すなわちAL、AA(amyloid-associated)、transthyretin(以前prealbuminと呼ばれたもの)のうちのいずれかに由来するが、やはりAL typeがもっとも多い。多発性骨髄腫やマクログロブリン血症、あるいはこれらの基礎疾患を伴わない原発性ALアミロイドーシスが代表である。
また、AA fibrilの前駆体であるserum amyloid A(SAA)は、serum lipoprotein component関連の急性相反応蛋白であり、IL-1やIL-6の作用により肝細胞から産生される。いわゆるSecondary amyloidosisで沈着するのはこのタイプで、想像されるようにそのほとんどが慢性炎症性疾患に関係し、以前は慢性感染症(結核やlepra、骨髄炎など)が主なものだった。原因疾患として気管支拡張症(Ann Intern Med 1996; 124: 407-413)やCOPD(Nephrol Dial Transplant 2002; 17: 2003-2005)が挙げられたりするのも慢性気道感染を伴うものだろう。ところが、最近では非感染性のものが増え、中でも関節リウマチ(RA)が9割を占めるにいたっているらしい。生検で確認されたAAアミロイドーシス患者(男性38、女性26人)を調べた研究によれば、基礎疾患はRAが42人と他を圧倒し、以下、感染症11人、炎症性腸疾患6人、その他5人であった(Medicine 1991; 70: 246-256)。まれながら固形癌症例でのアミロイド沈着も知られており、主に腎臓癌であるけれども肺癌症例も報告されているようだ(Clin Lung Cancer 2003; 4: 249-251)。さらに注目されることに、これらのAAアミロイドーシスに対して抗IL-6受容体抗体や抗TNF-α療法がおおいに有望視されているのである(アミロイドーシス診療ガイドライン2010、Expert Opin Pharmacother 2008; 9: 2117-2128)。
最後に類縁疾患であるLight chain deposition disease(LCDD)に触れておきたい。上に述べたように免疫グロブリン軽鎖が組織に沈着する場合、AL amyloidとして認められることがほとんどであるのだが、実はもう一つの様式をとることがある。それがLCDDで、このLight chain depositは組織学的にアミロイドーシスに似ているけれどもCongo red染色で染まらない(Am J Surg Pathol 2007; 31: 267-276)。びまん型と結節型の二つのパターンに分けられ、それぞれアミロイドーシスのそれに相当するという。とくにびまん型の予後はともに不良であることが知られている。とすれば一つの疑問が湧いてくるだろう。はたしてLCDDをアミロイドーシスと区別して扱うべき臨床的意義があるのだろうか。そもそもアミロイドーシス自体、沈着している蛋白が様々で、種々雑多な疾患から構成されているのだ。それなら部分的に顕微鏡所見が異なるにせよ、同じ蛋白に由来し類似した臨床病理学的所見・病態を示すものをそこに含めてもそれほど乱暴な話ではないように思えるのである。 (2011.11.14)
言うまでもなくアミロイドは単一の蛋白を指すものではない。Comgo red染色で橙赤色に染まり偏光顕微鏡下で緑色の偏光を呈するという特徴を共有する数多くの蛋白の総称である。アミロイドーシスはこれが全身諸臓器に沈着し、多彩な症候をきたしたものをいう。その基本病態は実質細胞が萎縮する(糸球体など)ことにくわえ、機械的にも機能を障害し(心・肺など)、ときには出血をきたす(肺・消化管など)ところにある(Fishman’s Pulmonary Diseases and Disorders 3rd ed. McGraw-Hill 1998)。
その全貌を把握するのは容易ではないけれども、まずは分類にしたがって全身性と限局性に大別するのが近道だろう(アミロイドーシス診療ガイドライン2010、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班、難病情報センターホームページ)。一方で臨床においてはしばしば単一臓器の所見が前面に現われ、そこを起点としてアプローチされることが多い。たとえばPulmonary amyloidosisも病変が呼吸器系に限局するものと全身性の病態の一部分症としてみられるものがある。
呼吸器系に単独でみられるものの多くは、異常形質細胞が産生するモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のAL(Amyloid light chain)アミロイドによる(Respirology 2001; 6: 61-64)。その病変は、肺実質の単発ないし多発性の結節、あるいは気管気管支内のプラークないし結節としてみられるものが多く、とくに前者のタイプで全身疾患に関連したものはなかったとの報告がある(Ann Intern Med 1996; 124: 407-413)。しばしば無症状で発見され一般に良好な経過をたどるとされているものの、気管気管支内に沈着するものでは閉塞症状をきたすことがあり、重篤化する例もないわけではない。また、少数ながらdiffuse interstitial patternを示すものもあるようだ(Arch Pathol Lab Med 1986; 110: 212-218)。
そしておそらくより遭遇する可能性がありそうなのは全身性アミロイドーシスだろう。その肺病変は限局性アミロイドーシスとは対照的にdiffuse interstitialにみられることが際だった特徴で、画像上interstitialないしreticulonodular patternを呈する(Respirology 2001; 6: 61-64)。沈着するアミロイドのほとんどは3種の前駆蛋白、すなわちAL、AA(amyloid-associated)、transthyretin(以前prealbuminと呼ばれたもの)のうちのいずれかに由来するが、やはりAL typeがもっとも多い。多発性骨髄腫やマクログロブリン血症、あるいはこれらの基礎疾患を伴わない原発性ALアミロイドーシスが代表である。
また、AA fibrilの前駆体であるserum amyloid A(SAA)は、serum lipoprotein component関連の急性相反応蛋白であり、IL-1やIL-6の作用により肝細胞から産生される。いわゆるSecondary amyloidosisで沈着するのはこのタイプで、想像されるようにそのほとんどが慢性炎症性疾患に関係し、以前は慢性感染症(結核やlepra、骨髄炎など)が主なものだった。原因疾患として気管支拡張症(Ann Intern Med 1996; 124: 407-413)やCOPD(Nephrol Dial Transplant 2002; 17: 2003-2005)が挙げられたりするのも慢性気道感染を伴うものだろう。ところが、最近では非感染性のものが増え、中でも関節リウマチ(RA)が9割を占めるにいたっているらしい。生検で確認されたAAアミロイドーシス患者(男性38、女性26人)を調べた研究によれば、基礎疾患はRAが42人と他を圧倒し、以下、感染症11人、炎症性腸疾患6人、その他5人であった(Medicine 1991; 70: 246-256)。まれながら固形癌症例でのアミロイド沈着も知られており、主に腎臓癌であるけれども肺癌症例も報告されているようだ(Clin Lung Cancer 2003; 4: 249-251)。さらに注目されることに、これらのAAアミロイドーシスに対して抗IL-6受容体抗体や抗TNF-α療法がおおいに有望視されているのである(アミロイドーシス診療ガイドライン2010、Expert Opin Pharmacother 2008; 9: 2117-2128)。
最後に類縁疾患であるLight chain deposition disease(LCDD)に触れておきたい。上に述べたように免疫グロブリン軽鎖が組織に沈着する場合、AL amyloidとして認められることがほとんどであるのだが、実はもう一つの様式をとることがある。それがLCDDで、このLight chain depositは組織学的にアミロイドーシスに似ているけれどもCongo red染色で染まらない(Am J Surg Pathol 2007; 31: 267-276)。びまん型と結節型の二つのパターンに分けられ、それぞれアミロイドーシスのそれに相当するという。とくにびまん型の予後はともに不良であることが知られている。とすれば一つの疑問が湧いてくるだろう。はたしてLCDDをアミロイドーシスと区別して扱うべき臨床的意義があるのだろうか。そもそもアミロイドーシス自体、沈着している蛋白が様々で、種々雑多な疾患から構成されているのだ。それなら部分的に顕微鏡所見が異なるにせよ、同じ蛋白に由来し類似した臨床病理学的所見・病態を示すものをそこに含めてもそれほど乱暴な話ではないように思えるのである。 (2011.11.14)