Dr. Jason's blog

IT, Engineering, Energy, Environment and Management

ヨーロッパの学位と米国流

2006-06-12 | Education
 この blog や,mixi の中のコミュニティで,学位について色々と書いているせいか,学位制度等について,相当に詳しいと思われているのかもしれない.
 

 日曜日に,マイミクでない人から,mixi のメールで
 「オーストリアのディプローム/マギスターの学位が,修士相当かどうか,日本とオーストリアで意見が別れている」
 ことについて,コメントを求めるメッセージをいただいた.

 私は教育システムや学位制度の専門家ではないが,判る範囲で答えることにした.
 ドイツ圏の事情についてはある程度は知っていたが,念のため,オーストリアとドイツの学位制度などについてインターネット上の資料を再度確認してから,少し前に返信した.

 折角なので,その返信の内容に加筆修正して,今日の blog の記事にすることにした.


 まず,何度も書いていることだが,教育システム,特に大学や大学院の教育システムは,異なる国(異なる文化圏の国)同士では,先進国同士でくらべても,内容的に互換性が無い部分が少なくない.
 また,日本の教育システムは,戦前は,当時の英国/ドイツの影響をうけており,戦後は(敗戦後のGHQの占領政策により)米国の影響を受けている.

 オーストリアとドイツは,歴史的/文化的な理由で,似通った教育システムになっている.歴史的には,オーストリアの方が先に発展した経緯があったためか,大学も,
 オーストリア最古 ウィーン大学 1365年設立
 ドイツ最古 ハイデルベルグ大学 1386年設立
と,ウィーン大学の方が古い.
 元々,ディプローム(Diplom)とマギスター(Magister)は,オーストリアでもドイツでも,大学卒業を示す学位であった.ディプロームは主に自然科学系,マギスターは主に人文科学系の分野の学位である.
 これらは,最短で4年で取れることになっているが,一般的には4-6年かかると言われている.つまり,平均5-6年だと思えば,修士相当という認識もうなづける.
# ドイツでは,大学の前に兵役がはいる.

 しかし,このオーストリア/ドイツ独自のディプローム/マギスターの制度は,ヨーロッパの高等教育の共通化のためのボローニャ宣言(1999)という協定によって,米国風のバカロレア(Bakkalaure),バカラウレウス(Bakkalaureus)すなわちバチュラー(Bachelor)とマスター(Master)のシステムに移行することになっている.


 オーストリアでもドイツでも,大学進学率は,日本の水準よりもだいぶ低い.オーストリアでは25%程度,ドイツでも20%強程度であるらしい.これは,若いうちに,職業とそれに学校を選ぶ社会システムになっているためである.
 つまり,大学へ進学する人の層が,そもそも,日本や米国とはちがっていて,既に「選別された人々」==社会的なエリート候補になっていると考えた方が良いだろう.
 また,オーストリアでは,大学の前の課程であるギムナジウム(Gymnasium)の最終試験が難しく,大学入学資格試験となっているので,通常は,大学の入学試験はない.

 近年,EUの統一や米国の文化的な浸食などによって,オーストリアやドイツの大学進学率はあがってきているようですが,現時点で20-25%程度ということは,日本なら1970年代の水準と言える.
 現在,日本の大学進学率は,男子では既に46-7%程度であり,米国は62-67%の範囲である(年によって結構違う).つまり,日本や米国では,学士の学位は,相対的ににインフレしていると言える.

 先のボローニャ宣言対応による,ディプローム/マギスター制度を,国際化==英国/米国風の学士/修士にするにあたって,バカロレア,バカラウレウス(学士)の最低終了年限が3年(平均は3.5年程度らしい)となり,このごろのドイツ語圏の産業界では,特に理工系の場合,学士の平均的な実力が,従来のディプローム/マギスターのレベルに劣っていることが社会問題となっているらしい.


 これらのことから,一般論としては,(ボローニャ宣言対応の問題がどうあれ),旧来のディプローム/マギスターの学位が修士相当であるというのは,少なくとも欧米では,通常の認識であると考えて差し支えないと思う.
 このような場合,現在の日本では,米国以外の海外のことを知らない人が多いことも問題かもしれない.

 学位は,単純に最短修了年限の比較ではなく,その背景や内容を総合的に判断する必要があるだろう.
 たとえば,日本の旧制大学は,3年の課程だったが,実際の旧制大学卒業の先生方の若いころの業績をみると,殆どの場合,旧制の学士は現在の修士レベル相当であったと考えて差し支えないと思う.これは,旧制の大学だけでなく,旧制高校の内容が高い水準であったことによると考えられる.
 また,米国の場合医師(Doctor of Medicine, M.D.)になるには,
  学部4年(物理学・化学・生物学の履修必須)
  大学院メディカルスクール(4年)
で,普通8年かる.これに対して,日本の医学部は6年の課程である(卒業後研修は2年間なので,それを入れてやっと米国並みとなる).この 2年の差は,日本で医学部を出て(国家試験もとおって)から,すぐに米国の大学へ留学するときに,問題になることがあるらしい.


 全く別の視点の話しとしては,大学/大学院の国ごとのシステムが少なからず違うにも関わらず,博士号(doctor's degree)への認識は,先進国ではほとんど統一的に確立している(概念として,互換性がある)と言える.
 つまり,どこで学位を取ったかに関わらず,「修士以下ではなく,博士号相当の学位があるかないか」で,はっきりと峻別されることだけは間違いない.




参考文献

http://www.jasso.go.jp/study_a/oversea_info_14.html
http://www.jpf.go.jp/j/japan_j/oversea/kunibetsu/2004/austria.html

http://www.jasso.go.jp/study_a/oversea_info_12.html
http://www.jpf.go.jp/j/japan_j/oversea/kunibetsu/2004/germany.html
http://www.ovta.or.jp/info/europe/germany/07policy.html

http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200511_658/065804.pdf
http://www.jsps.go.jp/j-news/data/kaigai02/27.pdf
http://www.svrrd2.niad.ac.jp/journal/journal_no11/sno11_4.pdf

http://en.wikipedia.org/wiki/Master%27s_degree
http://en.wikipedia.org/wiki/Doctor%27s_degree
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E4%BD%8D
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 数学界の長老,彌永昌吉先生... | トップ | オープンソースの過去,現在... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ギムナジウム (Jason)
2006-06-12 15:30:26
ギムナジウムについて.

 個々の科目は,5段階評価で,1をとらなければ,単位が取れる.

 最終試験は,それほど難しくない.

という個別のコメントがありました.



しかし,そもそも,ギムナジウムへ進学する人が少ない==すでに入学時に選別されている,ということも考慮する必要がありそうです.

返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Education」カテゴリの最新記事