--Katabatic Wind-- ずっと南の、白い大地をわたる風

応援していた第47次南極地域観測隊は、すべての活動を終了しました。
本当にお疲れさまでした。

DROMLAN

2006-12-13 | 南極だより
飛行機が飛んでくると、空を見上げてどこから飛んできたのか、どこへ行くのかと思いながら見るのが当たり前になったのは、渡井さんのおかげ?
以前、渡井さんが昭和基地に着く前の「しらせ」から飛んでくるヘリの方角を見ていたのを思い出しました。
今回の南極だよりも、とっても渡井さんらしいです。
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2006年12月12日(火) 晴れ DROMLAN

夕食後、といっても既に白夜なので一日中明るいのだが、昭和基地に飛行機がやってきた。
ほぼ1年間真新しい文明から隔離されていた(?)隊員達にとって、ちょっとしたイベントである。
着陸するわけではなく基地の上空を一回りlow passしただけであるが、多くの隊員が見物していた。



S17の滑走路はほぼ東西方向に走っているので、カタバ風に正対するように進入するとなると、S17には西から基地の上を通ってアプローチはずだ。
しかしながらS17の目安は昭和基地であろうし、最新のナビゲーション機器を備えていたとしても目視による確認が安心だろう。
となるとリッツォホルム湾奥から露岩沿いに北上してきた方が分かりやすい。
予想通り見当をつけた方向から飛んできた。

さてこの飛行機Basler turbo はDROMLANフライトの一翼を担う。
DROMLANとはドロンニングモードランド航空網計画を意味し、南極大陸北東部にある各国基地間を航空路で結ぶ国際的なプロジェクトなのだ。
今回の着陸の目的は燃料補給。
目的の基地までの距離が長いため途中給油の必要があるのだ。
といっても基地のある東オングル島周辺には着陸できる場所がないことから、着陸地点は冬から春にかけて幾度となく訪れた大陸上にあるS17航空観測拠点。
この燃料補給のために、夏オペ用とは別にBasler用のJet-A1燃料を、S17オペレーション中に準備しておいた。

しかしながら、この時期にはもう大陸には渡れないことから、S17の滑走路は全く整備していない。
それどころか冬期間には一度も整備を行っていない。
例え整備を行ってもあっという間に雪で埋もれてしまうだろうが。
それでも南極の空を飛びなれたパイロットは、このようなコンディションでも全く苦にしないようだ。
聞くところによると、低空飛行で滑走路というか着陸地点の上を飛び状態を見極めてから着陸するという。
状態が悪ければタッチ・アンド・ゴーを繰り返して、自ら滑走路の馴らしをするという。
基地から見上げたBaslerのメインランディングギアには大きなスキーが履かせてあった。

重い機体をあれだけのスキーで支えられるのかと思うと驚きである。
しかしながら、リアはタイヤのまま。
ラインの旅客機などはリアから着地するが、どうするのだろう?
Baslerは揚力を稼ぐためメインの足を長くして、地上にいる時は機体の前方ほど高いようになっているから、着陸の時は機体が水平になるようにメインギアから降りるのかもしれない。

これほどの機動力があるのならば、個人的には今後の日本の南極観測には航空機をもっと活用させたいし、実際次第にそういう方向に進んでいくであろう。
ただしネックはS17がオングル海峡を挟んだ大陸上にあるS17にあるということ。
海氷が溶ける夏季には砕氷船をベースとした航空支援が必要だし、冬季も海氷上を雪上車で移動可能できるようになる時期は不確かだ。
通年のオペレーションには不安定要素が多すぎる。

今後の南極観測は夏季オペレーションの比重が増大していくであろう。
現代においてはなにかと短期的な成果が求められるし、1年以上日本を留守にするのが許される職場というのはそうそうない。
夏隊にしても12月から3月まで実質2ヶ月の南極滞在で、倍の日程が必要というのも効率が悪い。
航空機にしても天候など不確定要素が多く費用の問題も発生するが、これから積極的に利用していくことが求められるだろう。


-----12月12日本日の作業など-----
・O3データセット作製
・南軽の迷子沢から車庫脇への移動
・CO2, CH4, CO, O3濃度分析システムチェック

<日の出日の入>
日の出 なし  
日の入  なし  
<気象情報>
平均気温-1.0℃
最高気温1.9℃(1304) 最低気温-4.6℃(2345)
平均風速1.7m/s
最大平均風速2.7m/s風向NNW(0850) 最大瞬間風速3.9m/s風向NNW(0848)
日照時間 12.6時間

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かつての隊の書籍で、他の国の観測隊員が訪れた話をいくつか読んだことがあります。
国境のない南極では、南極条約によって各国の協力体制が取られていることは、今までにも紹介してきたとおりですが、燃料補給に他の基地に寄るということはあまり頭にありませんでした。
せっかく来てくれた?のに、見上げて手を振るしかできないのも寂しい感じはしますが、今の時期大陸へは渡れないので、どうしようもないですよね。
しかし飛んでくる方角を予想しているところは相変わらずだな、と思います。
でも、観測隊で準備した燃料を補給して目的地に向かうことができるというのは、このDROMLANという計画に貢献しているという感じがして嬉しい気持ちです。

南極にある滑走路は、数年前に南極で見られた皆既日食を撮るプロジェクト番組で見たけれど、雪を圧雪して均しているだけみたいに見えました。
S17の滑走路を整備をしていないということはこの写真のように、カタバ風が作り出したサスツルギの上に着陸することになります。

大陸ではカタバ風が常に吹いているので、滑走路の方向も一定に決めることができるのですよね?着陸するときにはカタバ風に正対するので、このサスツルギに90度の角度で着陸せずにすむのは幸いですね(かなりデコボコでガタガタしそう)。
滑走路には、写真のような黒い旗竿が立てられているのだそうです。

渡井さんが夏の日独共同観測に行くことがあれば、滑走路の写真と、使用する航空機の写真を撮ってきてもらいたいです。

DROMLANに話を戻しますが、日本の観測隊もドームふじへの人員輸送で、ケープタウンからノボラザレフスカヤ基地へはDROMLANがチャーターした大型輸送機イリューシンIL-76を利用しています。
私は、ノボ基地からドームふじへの輸送もDROMLANを利用しているのかと思っていたのですが、どうやらそうではなく、独自に民間のバスラーターボをチャーターしているようです。
47次のドームふじ航空隊はバスラーターボでARP2地点に入り、帰りはドームふじからノボ基地へ帰ったと書いてあったのを記憶しています。
45次では予定していたバスラーターボが前年にブリザードで損傷を受けたということで、ノボ基地からはドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所の所有するドルニエ機でAPR1地点へ、46次では同じくドルニエ機でARP2地点へ飛んでいるようです。
48次はどうだったのかな。

DROMLANがチャーターしているものも、そうでないものもあるようだけれど、バスラーターボは南極大陸内ではドルニエ機とともに欠かせない役割を果たしているようですね。
ドルニエ機には乗ったことがあるけれど、バスラーターボという航空機は南極のことを調べるようになってはじめて知りました。
渡井さんからの南極だよりにも書いてあるように、地上にいるときには前方が斜め上を向いているのです。
水平になっている飛行機しか知らなかったので、はじめて写真で見たときは不思議な感じでした。
第二期ドームふじ観測計画ホームページNew Year Cardに、バスラーターボの写真があります)
どうやらバスラーターボとはダグラスDC-3という70年も前(1936年)に運用開始されたという傑作機をターボプロップしてあるものなのだそうです。
(ダグラスDC-3を詳しく調べ出すときりがないほど歴史のある航空機なので、説明はWikipediaのDC-3に譲ります)
ターボプロップというのも、はじめて聞いた言葉だったのですが、原理はターボジェットエンジンと同じだけれど、燃料から得られるエネルギーのほとんど(90%くらいらしい)を、プロペラの駆動に使うエンジンのことだそうです。
南極ではジェット機が着陸できる滑走路を持っている基地はノボ基地とマクマード基地だけ(今は増えている?)だと書いてありました。
だから、ジェット機イリューシンIL-76はノボ基地に飛んでいるのですね。

これからもDROMLANが南極観測に有効に活用されることを期待しています。

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