(み)生活

ネットで調べてもいまいち自分にフィットしないあんなこと、こんなこと
浅く広く掘っていったらいろいろ出てきました

( ´艸`)☆更新履歴☆(´~`ヾ)

(ガラスの・Fiction)49巻以降の話、想像してみた*INDEX (2019.9.23)・・記事はこちら ※ep第50話更新※
(ガラスの・INDEX)文庫版『ガラスの仮面』あらすじ*INDEX (2015.03.04)・・記事はこちら ※文庫版27巻更新※
(美味しん)美味しんぼ全巻一気読み (2014.10.05)・・記事はこちら ※05巻更新※
(孤独の)孤独のグルメマップ (2019.01.18)・・記事はこちら ※2018年大晦日SP更新完了※

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ep第41話【架空の話】49巻以降の話、想像してみた【勝手な話】

2016-10-28 18:57:56 | ガラスの・・・Fiction
ep第40話←                  →ep第42話
********************
"困ったことになったな・・・"
気持ちばかりの変装であるキャスケットを更に目深に
かぶり直して、マヤは人知れずため息をついた。
ギュウギュウ詰めの人の群れに時折背中を抑える恐怖から
隣にいる柊あいの腕を必死につかんで体勢を整える。

都内中心部にあるとあるライブハウス
オールスタンディングの会場は若い女性の姿が多い。
何故普段とはあまりに対極にあるこんな場所にマヤの姿が
あるのか・・・。

時間は少しさかのぼる。


「ドラマ見てます!!昨日も泣いちゃった~」
そう言って柊あいはにこやかに笑った。
マヤ初主演ドラマ『Letouch of Love』で
マヤは大学生ミナトという幽霊役を演じている。
大学に通ったことがないマヤは、雰囲気だけでも
いまどきの大学生活を味わいたいと、マネージャーに相談した所
とある都内の大学の特別聴講生として
しばらくの間大学に通う手筈を整えてくれたのだが、
その時に"知り合いが一人もいないんじゃ不安でしょ"と、
昨年ドラマで共演した柊あいの通う大学にしてくれたのだ。
ドラマ撮影ののち、たまにテレビ局で会うことはあったが
なかなかゆっくりとは会話することのなかった二人だったが
大学という日常のなかで、まるで本当の
級友のように机を並べて学校生活を送る日々は
マヤにとってとても新鮮なものだった。
「マヤさんと授業受けるの、すごく楽しかったです!」
共演時、朝ドラ女優という期待から初の民放主演ドラマということで
プレッシャーと戦っていた柊あいは、女優としてマヤを慕い
それの信頼関係は今も続いている。

「ドラマの撮影はもう終わったんですか?」
「うん。先週打上げも終わって・・・・なんだか少しさびしいかな~」
「お忙しい所無理いってお時間作ってもらって、ありがとうございます。」
あいが相談したいことがあると言ってきたのは先月末の事だった。
ドラマの撮影が終わったら、というマヤの要望どおり、
12月に入るとすぐにこうして久しぶりの再会となったのだが・・・・。
"速水さんに、ばれないようにしないと・・・"
先日なぜだかあいとの交流に難色を示す真澄に
会うことを禁止されたマヤだったが、あいにくとその時には約束は決まっていた。
"速水さんがあんなこというなんて、きっと理由があるはずだけど、
 でもあいちゃんに会ってなにか問題があるはずがないし・・・"
言うに言えないまま、この日を迎えた。
"とりあえず、大原さんには報告しておいたから大丈夫・・・よね"

「ところであいちゃん、なにか相談があるって言ってたけど」
その言葉に顔を真っ赤にしたあいの様子から
マヤは相談事の種類を察した。
「もしかして・・・・・」
「い、いえ、そんな好きとかそんなことはないんです・・・
 ただ、すごく積極的で、気になってきてるっていうか・・・その・・・」
顔を真っ赤にしながらストローでドリンクの氷をザクザクと刺すあいは
本当にかわいらしい。
どうやらあいは今、とある男性にアプローチされているらしく
その誘いにどう対処するべきか悩んでいるようだ。
「好きかどうかはまだ分からないんです。正直。」
それでも、会うたびに自分の出演した作品の感想を伝えてくれたり
疲れているだろうからと甘い物を差し入れてくれたりと
常に自分を気にかけていてくれる姿勢が
徐々にあいの心の中の存在を広げているようだ。
「分かってるんです。今はお仕事に集中しなきゃいけないし、
 恋愛とか、そんなことにかまけてちゃいけないってのは・・・でも・・・」
目の前でくるくると表情を変えるあいは本当にかわいらしくて、
マヤも思わず目を細める。

「・・・・もしかして相手の方って・・・・」
個室、と分かっていても周囲が気になる二人
「・・・はい。この業界の方なんです。」
「そうなんだ・・・・・」
ふと、マヤの心を遠い記憶の棘が刺す。

"私も昔は、こんな感じだったのかな"
まだ、世の中のことなど何も知らなかったあの頃
シンデレラストーリーで芸能界を駆け上がるマヤをやっかんで
仕込まれた数々のいやがらせ
そんな中孤独に戦っていたマヤに吹いたひと筋のさわやかな風
"元気にしてるかな・・・"
まだ幼くて、愛も恋も分からなかった自分
初恋宣言なんてキャッチフレーズも、マネージャーの目をぬすんだ
束の間のデートの思い出も
その後に訪れる悲劇によってすべてかすんでしまった。

「こんなこと、マヤさんにしか話せなくて・・・」
そう言ってマヤの手を取りギュッと握るあいの真剣なまなざしは
まさに今、葛藤していることを物語っていた。

あいの相手は新進気鋭のバンドでメインボーカルをつとめるミュージシャンだそうだ。
そのバンドの名をマヤは知らなかったが、特に今年出す曲出す曲が
話題となり、CMタイアップなど一気にメジャーシーンで活躍しているバンドらしい。

「もしよかったら、一度見てもらえたらわかるかも。」
ちょうど今日ライブがあるんです、というあいに、さすがにそこまではと
断ろうとするマヤだったが
「マヤさんの目で直接確かめてもらいたい。
 ・・・・今なら、引き返せると思うから。」
と訴えてくるあいに押し切られるように、マヤはそのままライブハウスへと
連れてこられ、そして今に至る。


「顔、分かりますか?」
「う、ううん・・。私背が低いから、よく見えない・・・」
関係者枠で手配してもらったというチケットで入場した二人は
周囲に気付かれると困るためライブが始まる直前に入り、一番後ろに立っている。
"正直いい歌なのかどうか・・・よく分からないんだけど"
ステージ上で歌う樹(あいの相手)はさすがの歌唱力と
なんともいえない独特の声で、会場の女性客の視線を独り占めしていた。
"ITSUKI"と書かれたタオルを振りかざす女性もいる。
真っ暗な会場にズンズンと響く重低音そしてチカチカと点滅する
さまざまなカラーのライティングに、マヤは少し気分が悪くなってきた。
「あいちゃん・・・ごめん、ちょっと気分が悪くなってきたので・・・・」
慣れないライブ会場にすこし酔ってしまったのか、会場の外に出たマヤは
そのままロビーのソファに突っ伏してしまった。

「大丈夫ですか?」
気付くとマヤの背中を優しくさすりながら、お水を差しだす女性がそばにいた。
「あ、すみません・・・・ありがとうございます」
「リルビーのライブに来たのは初めてですか?」
そういって柔らかく笑う女性はシンプルな恰好に黒縁のメガネをかけ
胸にSTAFFと書いている札を下げていた。
「はい、友人に連れられて・・・。私こういう所初めてだからびっくりしちゃって」
「今日は特に照明が激しかったですものね」
落ち着いたら最後の所だけでも見ていってくださいね、と言い残してその女性は
その場を離れていった。
「最後はライブで初めてやる新曲のラブバラードですから」
もらった水を飲みほして、ようやく落ち着いたマヤは
いそいそと会場に戻っていった。
会場は先ほどとは一転、静かで優しい愛の曲がしっとりと歌い上げられている。
そして気のせいだろうか、樹の目線はしっかりとあいの方を向いているように思えた。
「・・・・あいちゃ・・ん?」
暗闇で見えなかったあいの顔に一瞬あたったライトが
その頬に流れる涙をきらりと輝かせていた。



「どうだった?新曲」
きみのために作った曲だよーーー
先ほどまで数千の女性を虜にしたその声が
ささやくように甘い声を発し、関係のないマヤまでも赤面してしまう。

ライブが終わり、客電が入る間際にマヤとあいはリルビーの関係者に
案内され、楽屋へと通された。
「樹がぜひにと・・・」
あれよあれよと通されたステージ裏の楽屋にほどなく現れた
樹は、想像よりずっと背も高く、スリムだが鍛え上げられた体をしていた。
「すごくステキでした。」
「初めてあいに会った時の衝撃を思い出しながら書いたんだ。
 間違いなくこれは、運命に違いないってね・・・」
あいって・・・呼び捨てにしてるのね
まるでマヤの存在など眼中にないといった様子で次々に
樹から放たれる言葉の数々、しかし不思議とマヤには
上滑りするような感覚でしか伝わってこなかった。
「また、ライブに来てよ。
 あいがいると、気持ちがのるんだ」
どこか冷静なマヤの横では、完全に夢見る少女の面持ちのあいが
両手をぎゅっと組みながら樹と話していた。

ちょっとマネージャーからの電話が、といって部屋を出たあい
唐突に樹とふたりきりにされたマヤは、何を離したらいいのかと途方に暮れる。
「君、あいの友達?」
話しかけられて顔を見上げたマヤはそこに
先ほどまであんなに甘い言葉をつむいでいたとは思えない
どこか冷めた男の顔を見つけ、驚いた。
「は、はい・・・」
「ふーん。あい、俺の事なんか言ってた?」
「い、いえ・・・。ただたまたま今日、会う約束があったので・・・」
「あ、そ。じゃあ、きみからも言っておいてよ、俺とつきあったほうがいいってさ!」
あと一息、友達の応援があればきっとね!
そういって片目を閉じておちゃめな顔を見せる樹に
マヤは違和感しか覚えなかった。

「どうでしたか?彼?」
帰りのみちすがら、あいはマヤに感想を尋ねた。
「え・・・・・・と。うん、まあ・・・」
"あの人は、やめた方がいいんじゃない?"
のど元まで出かけた言葉を、しかしマヤは飲み込んだ。
「初めて会ったばかりでまだ、どんな人かよく分からないから・・・」
でも歌は良かったよ!というマヤの言葉に
どこかほっとした様子のあいは
「ですよね!すごくいい歌でしたよね!」
と満足そうに笑顔を見せた。

私の無責任な一言で、彼女の幸せを邪魔することになったら
だめだよね。
でも、
もし私がなにも言わなかったら、彼女は彼を選ぶのだろうか。
それがもし、彼女にとってよくない道だったら・・・。


**
12月中旬、芸能界は年末イベントが盛りだくさんだ。
大きな音楽特番に、マヤは今日ゲストとして参加する。
『Letouch of Love』の主題歌を歌う歌手が出演するため
その応援と、いよいよ放送される最終回の番宣のためだ。
「なかなか似合っているじゃないか」
毎年恒例の大型特番、歌手だけでなく役者やバラエティタレントなど
数多くの有名人が終結するお祭りのようなこの番組は
芸能関係者にとってもかなり重大なものとなる。
真澄もマヤに同行していた。
「本当に素敵なドレス・・・・。いいんでしょうか。」
「いいじゃないか。どんなに華やかにしてもしたりないということはない」
君のためというより俺が見たいんだ、とまではさすがに言わず
真澄は自分が個人的に用立てたドレス姿のマヤを優しく見下ろした。
「・・・・馬子にも衣裳とか・・・思ってるでしょ」
「・・・・いつから人の心が読めるようになった」
ひどい!!やっぱりそうだったんだ!!といってむきになると
一気に幼さが戻るマヤ。
そんな彼女の表情が楽しくて、つい思ってもいないことを言ってしまう。
"おれもまだまだ青いな・・・"
笑いを隠すように口元に手をあててマヤの相手をしているところに
由比隼平とそのマネージャーが近づいてきた。
「北島さん!それに速水社長・・・・。ご無沙汰しています」
「由比さん!ついこの前まで、毎日のように会っていたのに、
 たった数日会わないだけで随分と久しぶりのような気がしますね」
ドラマの打上げパーティー以来再会だが、二人ともなんだか数年来の
知り合いのような雰囲気である。
「俺、こんな大きな番組でるの初めてで緊張してるよ」
北島さんが頼りです・・・と頭を下げる由比に、マヤも緊張がほぐされる。

「そろそろだから、マヤちゃん」
荷物は預かるわ、というマネージャーの言葉にマヤはバッグを
渡しながら自身の携帯をちらりと確認している。
なにかメッセージでも届いたのだろうか、一瞬ちらりとこちらを見ると
いそいそと携帯をバッグに戻してそのまま大原に渡した。

マヤ達出演者は会場に設営された豪華な円卓に、
そして真澄たち関係者は別会場に設けられた大きなモニターのある
部屋で今夜の生放送を見守っていた。
次から次へと現れる歌手による素晴らしいステージ
合間合間に映し出される芸能人客席
豪華なスターの競演は、まさに年末を感じさせる。
真澄もモニターを伺いながら次から次へと関係者たちと
談笑という名目の業務をこなしていた。
何気ない一言や、ちょっとしたつながりが
後のビッグビジネスを生み出す世界だ。
「いやー、今年も大都さんにおおいにしてやられましたな」
古だぬきたちが周囲に集まり、腹の中とは真逆の
胡散臭い礼賛の言葉を真澄にかけてくる。
「国際映画祭は取るわ、ドラマ映画はヒットするわ、
 おまけに舞台では鉄板の『紅天女』をお持ち・・・」
この世界は大都芸能を中心に回っているようですな・・・
そういって高らかとから笑いを響かせる他事務所の重鎮
そのすべてににこやかかつ冷たい微笑で対応する。
「時に速水社長、何歳になられましたか」
「先月34になった所です」
年を聞かれた後の話題は決まっている。
「なるほど・・・・ご結婚は・・・・、されていないのでしたかね」
わざとそうして過去の婚約破棄を持ち出してくる
「速水社長程の方でしたら、よりどりみどりになる気持ちも分からんでもないですなー」
空虚な腹の探り合いを続けているうちに
番組も終盤が近づいていた。

ふと見上げたモニターに一瞬マヤの顔が映る。
「・・・・なんであんな顔してるんだ?」
画面は既に切り替わっていたが、真澄はマヤが
いつになく険しい顔をしていたのを見過ごさなかった。
「大原君、今は誰のステージだ?」
ステージ上では男性バンドの演奏が続いている。
「ええと・・、ああリルビーですね」
昨年末から急速に人気を上げてきたバンドグループだ。
「この曲は確か、今年一番のヒット曲だったな」
「はい、バンド楽曲としてはここ最近で異例のヒットとなっている曲で
 恐らく年末初出場が決まった音楽番組でもこの曲をやると言われています」
巷でよく聞く曲だから、マヤも聞いたことくらいはあるかもしれないが
それでも普段演劇に没頭しすぎて一般のはやりなどに疎くなりがちな
あの子が、それほど詳しく知っているとも思えない。
なぜあんな顔をしたのか、これといった理由が思い当らないまま
番組はフィナーレを迎えた。


「お疲れ様!!」
舞台以外での長丁場はやはり疲れる。
ドレスでは少しはしたないと思いつつ、マヤは大きく肩を回した。
「普段とは違う雰囲気だから、ヘンな筋肉使っちゃった気がするよー」
隣を歩く隼平も同じ気持ちのようだ。
「北島さんは今日はこのままあがり?」
「はい、なんだかもう眠くて・・・」
言いながらマヤの口からあくびが飛び出す。
「やだ、ごめんなさい・・」
「ははは!大丈夫。みんな同じだから」
見回せば確かにそこかしこに背伸びやあくびをしている芸能人がいる。
「よかった、速水さんのいない所で・・・」
見つかったらまたなんて言われるか分かったもんじゃない、と
笑うマヤに、どことなくぎこちなさげに由比が聞いてくる。
「あの・・・・北島さん。もしかして速水社長って・・・」
「え?なんですか?」
周囲の音にかき消されてうまく聞き取れなかったマヤが聞き返すと
隼平は思い直したように
「ううん、なんでもないよ。速水社長もお忙しいだろうね」
と言葉を終えた。
渋滞する芸能人の流れに身を任せ、ゆっくりと控室に戻るマヤと隼平
なんとなくの雑談を続けながらも、マヤは番組開始直前に受けた
あいからのメッセージが気になっていた。

"今日、樹さんに会おうって言われました。私も決心して伝えようと思います!!"

一度しか会ったことのない相手だが、その後どんなに思い返しても
マヤには樹があいのことを本当に思っているのか確信が持てなかった。
"あいちゃんに、ちゃんと言った方がいいのかな・・・"
逡巡していた時に突然当の本人の曲が始まった時は本当にびっくりした。
ライブで聞いたことのある曲は、今年一番のヒット曲だということ
だったが、マヤはあの日に見た、樹とかいうボーカルのどこか冷めた顔が
フラッシュバックして思わず顔をゆがめてしまう。
"それに今日会うって、この生放送が終わってからだと深夜になっちゃうじゃない"
だめだ、夜遅くにあいちゃんを出歩かせては!と
今からでも急いであいに連絡しようと思ったその時、
マヤの目の前にいつかのあの女性が現れた。
「あ・・・この前はお世話になりました」
この前のリルビーのライブで気分を悪くしていたマヤを
介抱してくれたその女性は、最初は誰だか分からない様子だったが
すぐに思い出したらしく
「え、あの時の女の子って、北島マヤさんだったんですか!!」
とひどく驚いていた。
あの後は大丈夫でしたか?と聞いてくる彼女は
以前と同様とても控えめで質素ながら物腰は柔らかい。
「では・・・私はこっちなので」
最後まで丁寧なあいさつで、彼女はマヤの元を離れていった。
「あ、また名前聞きそびれちゃった・・・」
「知り合いだったのか?あの人と」
「ええ、この前ライブ会場で・・・って、あ!!!はやみさん・・・」
「ライブ会場?」
「い、いえ、なんでしょう??なんていうか・・・その・・・
 知り合いというほどでは・・・って、あ、速水さん、あの方ご存じなんですか?」
いつの間にかマヤと隼平の側に来ていた真澄に
うっかり先日のあいとの約束をばらしそうになったマヤは
慌てて話題を変えた。
「なんだか怪しいな・・・・・。まあいい。きみは誰だかわからない人と
 話していたのか?彼女はあれだろう、リルビーのマネージャー・・・・ということに
 表向きなっているが・・・・」
ボーカル、樹の奥さんだーーー

真澄の最後の言葉が、マヤの脳内で鐘のように鈍く響き渡った


**
「一体どういうことなんだ!!」
ちゃんと説明しろ!と怒鳴る真澄に
「だからとにかく今は急いで下さいって!あいちゃんが危ないの!!」
「あいちゃんって・・・柊あいか?って君もしかして柊あいと会ったのか?
 俺があれほど会うなといったのに!」
「だから、小言は後でゆっくり聞きますから、とにかく今は急いで!!」
「人をタクシーの運転手扱いするとはな、まあいい。あとでじっくりと
 聞かせてもらおう。事と次第によっては・・・・・」
ただじゃおかないからな、とすごむ真澄は見たこともないような恐ろしい顔をしていた。

あいに言い寄っていたバンドのボーカル樹が既婚者だと知ったマヤは
着替えもせずに真澄を引っ張って慌ててあいが約束しているという
樹との待ち合わせ場所に急いでいた。
「速水さんはどうして、あいちゃんと会っちゃダメって言ったんですか?」
どちらかというと怒られる側のはずのマヤの口調はむしろ問い詰めるようだ。
「・・・・・ここしばらく、柊くんをマークする雑誌記者がうろうろしていたんだ。」
偶然ゴシップ雑誌の記者が何かを追跡する様子を見かけた真澄は
何となく気になりその様子を聖に追わせていたらしい。
結果、その記者のターゲットが柊あいであることが分かったのだが
特に問題のある行動をあいがするはずもなく、結局目的は何なのか
分からずじまいだったそうだ。
「・・・しかしあの記者がなんの裏もなくただ適当に調査するとも思えない。
 万が一何か問題に巻き込まれてはと、君が近づくのを制しておいたつもりだったんだが・・・」
このじゃじゃ馬娘には全く効果がなかったな、と悪態をつく。
「・・・・で、樹さんの奥さんっていうのは?」
人の話を無視して・・・と怒りが収まらない真澄だったが
マヤがとにかくあいを心配しているのは分かるだけに、今のところはとりあえずと
怒鳴り声を抑えた。
「まだリルビーが鳴かず飛ばずのバンド時代から彼を支えてきた女性だ。
 結婚したのは数年前だったが、結婚直後にメジャーデビューが決まり
 戦略的に妻帯者であることは隠されたようだ。
 ま、いわゆる糟糠の妻というやつだな・・・・と言っても」
君には分からないだろうがな、という真澄の嫌味も、今のマヤには通じない。
「そのことを知っている人は?」
「・・・・業界内でもほとんど知られてないんじゃないか。
 インタビューでも独身をほのめかす発言をしているし、
 彼の女遊びの激しさのほうが、この世界では有名なくらいだ」
「・・・・・・」
自分の勘は正しかった、という思いよりも今はただ
あいの事が心配でたまらなく、余計なお世話でももっと早くに
印象だけでも伝えておけばよかったと後悔していた。
「そこの角をまがった所だな」
ここまでしか車は入れない、という真澄に言葉とほぼ同じタイミングで
マヤは車を飛び出した。
「・・・・あ、待て、マヤ!!」
真澄の声も届かず、マヤは慣れないヒールで夜の繁華街裏路地を走る。
"んもう、この靴走りにくい・・・!!"
深夜の裏道は、都心でも暗くて人影もよく見えない。
ようやく闇に目が慣れてきたところで、マヤは
十数メートル先にあいと、恐らく樹であろう人影を発見した。
「あ!いた!」
二人は連れ立って地下に入るバーへと向かうようだ。
「・・・・あれはマズイな・・・」
いつの間にか追いついた真澄が険しい声を出す。
「え?」
「きっと彼らはあの店に入るつもりだ・・・」
「ですね・・・・」
「柊あいは何歳だ?」
「えと、確か・・・19歳・・・・あ!!」
「そうだ。」
未成年が、深夜の酒場に出入りしている所など
写真誌にでも撮られたら一発で終わりだ。
「あいちゃん!!」
慌てて駆け寄ろうとするマヤを、黒い影が追い抜いて行った。

「え?」
「てめえ、愛実に何してんだよ!!」
その影はマヤの横をすり抜けるとそのまま一直線に樹の方へと向かい
隣のあいの腕をつかむと二人の間に割って入り
勢いそのまま樹に強烈なパンチを浴びせた。


**
「すみません・・・・。私の軽率な行為で皆さんにご迷惑をかけて・・・」
大都芸能社長室で、あいは神妙な顔をしたまま頭を下げた。
これでかれこれ何回目だろう。
うつむきながら何度も何度も謝るあいがかわいそうで、
マヤもずっとその肩をさすっている。
「とりあえず、何もなくて良かった・・・・」

深夜の大乱闘は、騒ぎが大きくなる前に真澄と
どこから来たのか聖によって迅速に収拾され
とりあえず人目を避けて落ち着く場所ということで大都芸能へとやってきた。
「結婚・・・・してたんですね。」
マヤから事情を聴いたあいは、甘い言葉と歌にその気になり
樹の下心に気付かないまま流されそうになっていたことに
意気消沈していた。
「ばかみたい・・・。勝手に浮かれて、勝手にその気になって」
あの人は全然、私の事好きなんかじゃなかったんだ・・・・
そう言って疲れたように微笑む顔が痛々しい。
「そんなこと・・・。少なくとも樹さんはあいちゃんのことかわいいと思って・・・・」
「そんなわけあるか。あいつの女好きはこの業界じゃ有名だろ」
ほいほいとついていった愛実が悪い。
もしかしたらここにいるだれよりも不機嫌かもしれない顔で
あいに対してきつい言葉を浴びせたのは、
氷水で右手を冷やす由比隼平だった。
いてて・・・と右手をかばうしぐさを見せる隼平に
「だからって、芸能人同士の乱闘は褒められたものじゃないがな」
とタバコの煙と共に真澄からの言葉が落ちる。
「ごめんねゆいちゃん、こんなことになって・・・・」
隼平の膝をさすりながら、今度は隼平に対して何度も頭をさげる
あいの様子を見ながら、そもそもの疑問が湧いてくる。
「・・・・・ところで、お二人は知り合いなんですか?」
そういえばさっきからあいちゃんのことあいみって呼んでますけど・・・という
マヤの質問に
「愛実、私の本名なの。」
あいみだと発音しにくいから芸名をあいにしたのだという。
「ゆいちゃんは、私の小さいころからのご近所さんで、幼なじみ・・・っていっても
 私が勝手につきまとっていただけだけど・・・」
その時ようやく今日初めてのあいの笑顔をみることができた。
「また、迷惑かけちゃったね。」
ゆいちゃんに・・・といって隼平を見上げたあいに対して、
隼平は何とも言えない顔でその視線を逸らした。
「・・・たく。もう俺が見てなくても大丈夫だと思ってたのに・・・」
お前はやっぱりまだまだ子どもだな、と頭をくしゃくしゃにした。
「ゆいちゃん、髪がっ・・・」
「うるさい」
あいの長い髪がその表情を隠すようにゆらゆらと揺れる
「・・・・・断るつもりだったの」
あいの声が小さく漏れる。
「私の事好きだっていってくれたり、歌をプレゼントしてくれたり
 確かにドキドキすることがいっぱいで、もしかしたらこれが恋なのかなって
 思ったりもしたんだけど・・・」
でもね、といって隼平の右手をとり、それを氷水の中でギュッと握った。
「ここなら安心って気持ちになれなかった。
 一緒にいて、心地いい気分になれなかったの、私。」
だから断ろうと思った、自分が遊ばれているとも知らずに。
「だから、バカだなって。調子に乗って本当に好きになってもらったと勘違いして・・・」
「バカだよ。バカなんだから・・・・」
今日ぐらいは思い切り泣け
その言葉を合図に、あいから堰を切ったように涙と声があふれてきた。


「本当に、ご迷惑をお掛けしました。」
あいが所属事務所の関係者に引き取られて、部屋はマヤと隼平、そして真澄の
3人になっていた。
「とっさのこととはいえ、やはり軽率な行為でした。それで・・・」
あいつは、大丈夫でしょうか?と苦虫をかみつぶしたように
隼平が真澄に聞いた。
「ああ。まあ・・・・・大丈夫だろう。」
このままで済ますわけにはいかないがな・・・という
真澄の言葉の真意を聞くのがこわくて、隼平はそのまま深くを
問うのをやめた。

番組終了直後にマヤと真澄の会話を聞いていた隼平は
その人物が柊あいーー幼なじみの愛実だと知り、二人の車を後ろから追いかけた。
事情はよく分からないが、とにかくあいの身に危険が迫っていることだけは
間違いない、それがとにかく隼平を駆り立てたのだ。
「でも、由比さんとあいちゃんが知り合いだったなんて知りませんでした。」
「まあね。」
どことなくはにかんだような隼平の表情に、マヤは以前隼平が話していた
幼なじみの事を思い出した。
「もしかして・・・・・由比さんが前に言ってた・・・」
「さ、さて!!!俺もそろそろ失礼しようかな!」
慌てたようにそそくさと立ち上がった隼平は、あらためて真澄の方に向き直ると
「とにかく、愛実を助けてくれて本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた。
改めて見た真澄の様子は、髪は乱れて無造作にかきあげられ
シャツもズボンからはみ出し、靴も随分と汚れている。
先ほどの騒動がうかがい知れる格好、しかしそんなことなんでもないとばかりに
悠然とタバコを吸う姿は、まるでモデルのように様になっていた。
"たとえどんなことがあっても、守りたい物があるとはこういうことを言うのだろうか・・・"
「すごいですね、速水社長は」
「ん?何がだ」
「いえ・・・。俺も、もっと強い人間になりたいと思います。そして・・・」
大切な人を、守れるように・・・・
その言葉に、真澄はうっすらと目を細めた。
「強くなろうとすることはないさ。守りたい物があれば人は必然的に強くなれる」




隼平が去った後の社長室
「・・・・・さてと。」
マヤにとって不穏な気配が漂う。
「どこから説明してもらおうかな・・・・」
背中から聞こえる真澄の声が凍る。
「ええと・・・・・あの・・・・」
なんだか眠くなってきちゃったな~~~~ぁ
ゆっくりと立ち上がろうとするマヤをぐいっと胸中に引き込んで
真澄はどかっとソファに寝転がった。
「ずいぶんと痛めたものだな」
傷だらけのマヤの足を真澄が優しくなでる。
「まったく君は、無茶ばかりをして。」
俺の心臓を止めたいのか、とマヤの髪に顔をうずめる。
「・・・ごめんなさい。」
「本当に分かっていっているか?」
「渡し、速水さんの言うこと聞かずに勝手なことして・・・・
 ちゃんと話せばよかった・・・」
「そんなことじゃない」
真澄がひときわ強くマヤを抱きしめる。
「もしかしたら君自身にもなにかあったんじゃないかと
 俺が心配しなかったとでも思っているのか」
幸い今回はあいも、そしてマヤも事が深刻になる前に対処することができた。
「今後も君の周りには大小さまざまな甘い罠がまちかまえているだろう。
 そのすべてを"大都芸能"という傘で守れるわけではないんだ」
「はい・・・」
「事の次第に関わらず、何かあったら、何もなくても、俺に言え」
「はい・・・」
絞り出すような真澄の声は決して怒っているわけではないのに
マヤの心を締め付ける。
「俺のせいか・・・?」
「え?」
「俺が、いつの間にか君が話しづらい雰囲気を作っていたのか?」
「そんなことっ・・・・」
慌てるマヤを閉じ込めて、真澄が大きく息を吐いた。
「難しいものだな。君も俺も。」
そばにいることに慣れたようでいて
未だにどう接していいのか、分からなくなる時がある。
それでも・・・・
「言葉が全然響いてこなかったんです・・・・」
「・・ん?」
「樹さんの歌や言葉、とても愛情あふれた言葉なのに、
 全然伝わってこなかった・・・・。あれはきっと」
本当の言葉じゃなかったからーーーー
「どんなに愛してるって口に出されても、思ってなかったら意味がない。」
速水さんーーー
「私、速水さんの言葉は分かります。たとえ音として耳に伝わってこなくても」
魂が直接受け止めるから
「わたし、すごくすごく愛されているんですね、速水さんに」
「・・・・マヤ?」
気付けばマヤは真澄の腕の中で深い眠りに落ちていた。
「マヤ・・・・・君は本当にいつか俺の心臓を止めるんじゃないか」
どこかでついた頬の汚れを優しくぬぐい、真澄は起こさないようにと
ゆっくりマヤを抱え上げた。


**
「・・・ったく。なんなんだよ。計画丸つぶれ。」
よりにもよってなんであんな奴が。
殴られた頬をさすりながら、樹が悪態をつく。
「もう少しであの女落とせるところだったのに」
樹があいをターゲットにしたのは、単に今一番注目されている
若手女優だったからに他ならない。
もし表ざたになってもそれはそれで注目を集め
知名度UPにつながるだろうし
つきあってみてつまらなければ適当にあしらえばいい。
もしそれなりの女だったら・・・・ま、その時はその時
「しかしまあ、あの地味な友達がまさか北島マヤだったとはな。」
今日の歌番組でマヤを見つけた時は正直びっくりした。
あの日のあの子がまさか有名な女優だとだれが分かるだろう。
「こんなことなら、北島マヤねらっとけばよかったか」

「少しも懲りていないようですね」
気配を感じさせずいきなり樹の前に現れたその男は
長い前髪が顔のほとんどを覆い、表情が見えない。
「ん?お前誰だ?」
「あなたをこの業界から葬り去る事なんてわけないことなんですよーー」
冷徹な声が樹を刺す。
「ふ・・・、お前誰だ」
「・・・ましてやもし、北島マヤに手を出そうとしたら・・・・」
そういうと男は樹の胸倉をつかんで塀に押し付けた。
「この世に存在できると思わない方がいいですよ」
ささやくようなその声は、それが脅しなどという生易しい物ではないことを
いやというほど樹に知らしめる。
「わ、わかった、分かったから・・・」
ようやく解放された樹に、更に冷たい声が落ちる。
「とりあえずこのままでは済まないことは覚悟しておくように」
分かったのなら今すぐこの場を立ち去れという男の声に
樹は従うしかなかった。


「さて・・・次は・・・」
おもむろに振り向いたその男ーーー聖唐人は
ビルとビルのわずかな隙間に光るものをみつけるや
素早い動きでその光源の持ち主を捕まえた。
「とりあえず、そのデータを頂きましょうか」
影に潜んでいたその男・・・・雑誌記者のカメラを奪い取った。
「データは消すから!せめてカメラだけでも返してくれ」
「・・・・私はあまりデジタルに詳しくないものでね。」
言葉とは裏腹にスムーズな動きでデータを消去すると
取り出したメモリーを一気に破壊した。
「念のためこちらは持ち帰って確認させて頂きます」
とカメラを持ち上げた。
「くっ・・・お前誰だ。」
「名乗るほどの物ではありません。ですが・・・ま、確かにカメラを
 奪われては仕事になりませんね」
後日代償はお支払いします、そういうと聖は
表情を崩さないままその男に捨てセリフを残して去っていった。
「言われた通りに動いた方が賢明ですよ、実話プレス編集長 高取修さん」




大晦日の大型音楽番組に初出場し、一気にスターへの道を
駆け上がるかと思われたリルビーだったが
年明け早々ゴシップ雑誌にボーカル樹が結婚しているという記事が
掲載され、ミーハーな女性ファンに冷や水を浴びせることとなった。
記事自体は樹を中傷するものではなく、むしろ好意的に
下積み時代を支えた妻と二人三脚で活動しているという内容で
イメージダウンとなるものではなかったが、
これまでのどこか危なくて女性を惹きつけてやまない魅力を売りにしていた
戦略は、根本的に見直さざるを得なくなり
もし今度女性スキャンダルが発覚すればそれこそ命取りになりかねない状況に
追いやられたのだった。

「最大限の温情だな」
記事のコピーを読むと、真澄はすぐにそれをゴミ箱に突っ込んだ。



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~~~~解説・言い訳~~~~~~~~
ドタバタしちゃう~♪ドタバタしちゃう~♪
いっつも紅天女の稽古に明け暮れる12月、
今年はそれがないのでね、ここぞとばかりにバッタバタ~~

とりあえず、これまで忘れそうなくらいか細く張っていた
伏線ともいえない謎の線は今回ですべて回収されたと
思われます。

これでまっさらな気持ちで年を越せます。
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