散日拾遺

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アクビに国境は・・・ない(自律神経系讃仰)

2013-09-06 07:04:38 | 日記
2013年9月6日(金)

火曜日の朝、京葉線の車内。
向い側の三人がけの席に女性が二人、ひとりは30代、もうひとりはその母親か、観光客らしい装いで、言葉の調子は中国人らしい。
二人ともけっこう日に焼けている。日頃はどこでどんな生活をしているんだろう。

何を話してるのかな、少しぐらい分かれば面白いんだが、残念ながら少しも分からない。ディズニーランドからの帰り道か、それとも幕張に出かけるところか。
お母さんらしいほうがこちらをチラと見たので、あわてて笑顔を作ってみたが不発。
あっさり視線を背けられた。

これ、中国人(と思われる人々)には、うまくいった試しがない。
誰とでも笑顔を交わせるアメリカ人の方が、たぶん変わっているんだけどね。

そのうち、お母さんが大きなアクビをした。
それに答えるように、娘さんがもっと大きなアクビをした。
そしてめでたく僕も特大のアクビをしながら、きわどく手で隠した。
一緒にアクビすると母娘の親密に割り込んで、申し訳ないような気がしたんだな、たぶん。

***

アクビはうつる。このコミュニケーションは言語の障壁を易々と超える。
アクビの伝播の生理的基盤は自律神経系。
自律神経系は不思議なシロモノで、個体の環境適応を支える一方できわめて強いコミュニケーション性を備えている。意外に知られていないけれど。

自律神経系が交感神経系と副交感神経系の拮抗的な二重構造をもっていることは、中学校生物水準の知識かな。それより「交感」「副交感」という言葉なんだが、英語では何というかというと、

sympathetic nerve 交感神経
parasympathetic nerve 副交感神経
sympathetic/parasympathetic つまりそこに sympathy が隠れているのだ。

これを「交感/副交感」と訳した先人は誰だろう?苦心の翻訳と思われるが、これは「共感/副共感」であってもよかった理屈だ。

翻訳に難癖をつけているのではない。そうじゃなくて、そもそも欧州語で(para)sympathetic nerve と命名した人(々)は、このシステムの強いコミュニケーション性をよく知っていたといいたいのだ。

アクビはうつる。うつるのはあくびだけではない。
不安も緊張も、怒りも恐怖も、弛緩も疲労も、およそ情動的な現象はすべて自律神経系を介して伝播する。
安心や希望も伝播してよいはずだし実際伝播するのだろうが、不快な情動の伝播ばかりが目立つのは、たぶん適応上の問題だ。危険な猛獣に遭遇した者の恐れを迅速に伝えられるかどうかは、集団全体の生存に関わってくる。SOS信号の伝達はすべてに優先する。逆にプラスの価値をもつ情動の伝播は、貴重なものだけれど生存にかかわる緊急性が低い。

低い、かな。
津波襲来の直前には、負の情動が警告信号として伝わることが緊要だ。
けれども津波が去った後の復興の段階では、安心と希望の気配が全体に広がることが、きわめて大きな価値をもつだろう。

快適な良い感情こそ、伝われかし。
それが伝わり得ることを、アクビが立証している。

・・・一緒にアクビしてもいいですか?
(誰か中国語に訳してください・・・)






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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
通勤電車 (kokomin)
2013-09-07 16:59:40
電車で隣に座った人の感情も伝わります。座ろうとするときの動作でおきる風とか、座り方とか、咳払いとか、荷物の扱いとか…。これもsympatheticですよね。自分が座る場所や、前に立つ場所を選ぶとき、なんとなく感じが良い人の隣や前を選んでいて(考えず身体感覚で)これって快の感情が伝わっているのかな~。目立たないけど、こんな感情のやりとりがある通勤ってやっぱり疲れますね。
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