散日拾遺

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サバイバーズ・ギルト/アップサイクル

2014-10-25 07:14:17 | 日記

2014年10月25日(土)

 サバイバーズ・ギルト survivor's guilt とは、災害や戦争などで犠牲者が出た場合に、生き残った者が亡くなった者に対して抱く罪悪感のことである。相手の犠牲と引き替えに自分が生き延びた(たとえば救命胴衣を譲ってもらったというような)事情がある場合に限らない。というよりも、そのようなケースは別に考えるべきで、そうした事情がないにも関わらず、一般に生存者は犠牲者に対して説明のつかない罪悪感を抱きがちである。戦争しかり、震災しかり。そしてこのことは、人の道徳・倫理の根源に関わる現象ではないかと思う。生きることにまつわる根源的な罪悪感である。

 そうした大きな問題については項をあらためるとして、取り急ぎ書き留めたかったのは、いわゆる「リストラ」に際して職場でもそれ(サバイバーズ・ギルト)が生じていることだ。人員整理の対象にならず「生き延びた」職員が、切られた元・同僚に対して何とも言えない申し訳なさを感じる。いっぽうでは人員削減のツケが確実に回ってきて、労働荷重は目に見えて増強され、罪悪感を呑みこんでいく。ワークシェアということを、なぜかどうしても始めることのできない僕らの社会の現実を、ある患者さんが教えてくれた。

***

 木曜だったか、テレビで「リサイクル」ならぬ「アップサイクル」が話題にされていた。たとえば使用済みのタイヤチューブが婦人用バッグに化ける。「わたしら主婦は荷物が多いので、見た目よりも強さと弾力がありがたい」とユーザーの言、タイヤチューブはうってつけの素材で、ビジネスパーソンにも主婦同様ありがたい話だ。

 消防服も、もともと丈夫で耐火性があるから、同じく上物の素材になる。それを見て、浦河の消防署の一コマを思い出した。町の風景を撮影するため、消防署の火の見櫓へ登らせてもらう階段の踊り場に、等身大の人形(ひとがた)らしきものが置かれていたのである。気になって訊いてみたらまさしく人形で、放水用のホースの廃物を切り貼りし、中に砂を詰めて人の体重ほどに調整した自作品、訓練に使うのだそうだ。

 「既製品は高価なので」と、これはおっしゃる通りで、救急処置の講習用に使う人形なども恐ろしく高いのである。消防訓練などはきわめて公益性が高く、全国の消防署に標準配備するとすればある程度の数が見込めるだろうから、国の責任でしっかりした製品を支給すれば良いのにとも思うが、案外自作品のほうが優れていたりするかもしれないね。

 カート・ヴォネガットは「消防」という仕事を神聖視していたフシがあり、『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』には特にそれがよく現れている。むべなるかな。

 今日も地が平安でありますように。あるいは、今日こそ地が平安でありますように。

 


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