散日拾遺

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臨床雑記 011 喪の作業 ~ 穏やかな

2013-10-12 11:47:46 | 日記
2013年10月12日(土)

Yさんが父上を送ってから一か月半。
まだそんなものか、受診のたびにYさん自身の確実に変化していることが、時間の密度を高めている。

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 メールを整理していたら、八月に父が入院した前後のものが目に留まったんです。姉とのやりとりが主なんですけど、メールって発着時刻が秒単位で記録されているから、すごくリアルに記憶がよみがえるんですね。
 急ぎの時で姉が相手なのに、とても丁寧な言葉を自分が使っていて。少し年が離れているし、「です、ます」を使う傾向は日頃からあったんですけど。
 で、入院の時にお医者様が、「ちょっときびしいかも知れない」という言葉を使っていらしたんです。私はそれを「在宅を続けるのはきびしい」という意味にとったのだけれど、後から考えてみると、もっと本当に「きびしい」意味だったみたいなんです。
 いえ、恨んだり責めたりということではなく、その後の経過ですぐに分かりましたから。ただ、伝えたつもりと受け取ったことが、こういうふうにずれるんだなあと思って、自分が福祉の仕事をしているだけに、気をつけなくちゃって思ったんです。

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 いろんな人に支えていただきました。ゼミの先生が「お花を贈らせていただくわね」っておっしゃったのに、なかなか届かないので忘れていらっしゃるのかなと思ったら、三日ほど前に。どうやら四十九日あけを待っていらしたみたいなんです。わが家はキリスト教だからそういう発想がなかったのだけれど、またひとつ勉強しました。
 別の友達で、タロットが趣味という人がいて。いえ、あれは占いではないんですって。内省の道しるべとでも言うんでしょうか、ええ、カードを使うんですけど。
 私、death というカードを引いちゃったんですよね、それで「やだなぁ」って言ったら、「あら、death は『再生』を意味するのよ」って。ああそうなんだ、キリスト教なのかしらって思いました。
 彼女が「カラオケルームに行きましょう」って。静かで邪魔が入らないし、お部屋代と飲み物代を払うだけだから、いちばん便利なんです。そんな使い方があるんですね。

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 私が父を亡くしたって聞いた利用者家族の方が、「つらいことがあったのに、いつもと変わらず働いている姿に感動しました」って言ってくださって。
 変わらなかったりしないんですよ、ほんとは。暇さえあれば泣いてばかりで、みっともないぐらい顔が腫れてたんですけど、仕事に行くだけは行って。仕事になってたのかどうかも、わからないんです。それでもそんな風に言われて驚きました。ええ、嬉しかったです。

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 母は遺骨をしばらく置いておきたいみたいです。「お父さんと一緒にいたいから」って。私、こういうことは規則で決まってるのかと思ったら、お坊さんが「いつでもいいですよ」と言ってくださって。それが良かったらしくて、初めは「お父さん、どこへ行っちゃったんだろう」って言ってた母が、ここ数日は「お父さん、ここにいるみたい」って安心し始めた様子で。
 はい、そうなんです。先祖代々のお墓がお寺の付属で、訳を話したらお坊さんが構わないと言ってくださったので。ただ「納骨は仏式で行います」って。お坊さんが帰られたら、皆で讃美歌を歌おうかって言っています。
 え?牧師さんに?そうですね、お願いしてみましょうか、来てくださるかしら、お寺の墓地に。

 私はお骨よりも遺影ですね、不思議なもので、鏡みたいなんです。遺影が微笑んでいる時もあるし、ちょっと寂しそうに見える時もある。こちらの心が映るんですよね。反射?投影?さあ、どちらでしょう。ともかく、私の心を映す鏡なんですよ、父の遺影が。

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