散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

トランプ談義の帰り道

2017-02-02 09:11:29 | 日記

2017年1月29日(日)に遡って・・・

 単位認定試験のお手伝いに専任教員も出かけるのだが、むろん実働部分はすべて学習センターのスタッフが担っていて、これは相当たいへんな業務である。途中で引き上げるのも申し訳ないが、万事御下命通りということで、入れ替わりに出てこられたQ先生と引き継ぎかたがた小歓談。Q先生は政治学者なので、つい話はそちらへ行く。

 「トランプ、大統領になっちゃいましたね」

 「う~ん」

 やっぱりそのことですかといった表情。それから考え考え、僕にわかる程度のことを話してくださる。

 「誰がなっても大きな動揺がないようにシステムを作ってあるわけですけれど、想定を超える動揺の大きさですからね。ここだけの話、これまでだったら失脚するか暗殺されるか。まあしかしデモクラシーについて言えば、僕などのように延々ギリシア以来の歴史を日頃から追っていると、あまり慌てもしません。歴史の中ではデモクラシーというやつは基本的に人気のないもので、ここ1世紀ほど例外的に表舞台に立たされただけですから」

 「長い歴史の中を、打たれ強く生き延びてきた?」

 「まあそんなぐあいです。」

 "England muddles through." という言葉があったっけな、"Democracy also muddles through." ってとこか。

 「ヨーロッパは大丈夫でしょうか?」と訊くと、先生頷いて、

 「アフリカがカギでしょうね。」

 「アフリカ?」

 「中東の難民があふれ出すことによってヨーロッパの本音が引き出され、EUが危機ってことになったわけです。しかし本当に危ないのはアフリカですよ。中東だけでこの状態なのに、アフリカがパンクしてそこからの難民があふれ出したら、もうヨーロッパはもたないでしょう。遠い向こうの話のようだけど、日本の場合は北朝鮮の問題があります。いずれ瓦解したときに生じる難民の流れを、日本はどう受けとめるのか受けとめないのか、問題は既に始まっているんです。それからね・・・」

 一息入れた。

 「マクロの問題とは別に一人一人の内面の問題もあるわけです。システムが機能しなくなって、神のごとき強権的なリーダーが台頭する状況で、人々がものすごく不安になっているでしょう、特に我々のほとんどは先生と違って信仰をもちませんから、」

 「・・・私、そんなこと開示しましたっけ?」

 「いろんなところで漏れうけたまわってます。ともかく信仰なき者たちの不安は、人が今考えている以上に大きいと思いますよ。カルトが流行るのもこういう背景のあることでね・・・」

***

 5分間に教わることが山ほどあり、専門家とは話してみるものである。しかし信心のことなんか、どこでバレるのかな。年末のお楽しみ会を「クリスマス会」と呼ぶ件だって、敢えて内心の不服を表さずにおいたのに。

 水曜日の指定医更新手続きに写真が必要なので、最寄り駅前の3分写真に立ち寄ると先客がある。カーテンの下から男ものの靴が覗き、外に立った女性が事細かに世話を焼いている。赤い枠、見えるでしょ、アゴを引いて、引きすぎ!サイズを選ぶのよ、サイズ、頭傾けないで、瞬きしちゃダメよ・・・

 息子さんの受験かなと微笑ましく、三月並みの温かさを幸いのんびりと待つ。やがて撮影し終わって出てきたのは、僕より少し若いぐらいの壮年の男性。御主人であらせられましたか、目が合って思わずへどもどしてしまった。三村智保九段にちょっと似た、忍耐強そうな口元である。じゃ先に帰っててね、ドラ焼きでいい?ドラ焼きね。

 僕もひとつください、などと呟きながら、まだ温かい椅子に座った。顔が画面の下に外れてしまう。ドラ焼きが好物の三村もどきさん、あんがい座高が高いんだね。

Ω

 

 


三年寝太郎とアレン・セイ

2017-02-02 07:13:44 | 日記

2017年2月2日(木)・・・5日ぶり、手が震える・・・

 ma_ko さま、コメントありがとうございました。

 私の疑問は単純なことです。日中の労作を同程度に維持した場合、60代よりは70代、70代よりは80代の方が疲労は大きいはずで、その回復にもより時間がかかるから睡眠時間は長くなるのが道理でしょう。実際には加齢に伴って日中の労作は減じていくでしょうが、体力が低下した分に応じて労作を減らしていくなら、睡眠時間は同程度に維持されるはずです。現実に高齢者の睡眠時間が少ないのだとすれば、それは体力が低下する以上に労作を減らしているからではないでしょうか。

 だから、「現に高齢者では睡眠時間が短縮している」という調査結果があったとしても、対象者の日中の活動性を検討しなければその意味づけはできないと思います。それが、「どんな状態の高齢者にどんな調査をした結果なのか疑わしい」と書いた真意でした。日中それなりの活動を維持している高齢者ならば、疲労回復のための睡眠時間は十分とるべきで、そこを確認しないで「年取ったら睡眠は短くてかまいません」などと言えるものでしょうか。

 以上は理屈ですが、それを支える強力な実例が私の両親です。今年めでたくそろって90代に入りましたが、ここ数年はたいへん規則正しく8~9時間の睡眠をとり、日中マメマメと体を使う合間に短い昼寝などもしています。以前よりも疲れやすくなった分、こまめに休養をとっている様子が実感され、その最も大事な部分が睡眠であると感じるのです。

 むろん個人差というものはたいへん大きいものですから、一概に決めつけることはできません。ma_ko さまのお父さまはどんな日常でしょうか。せっせと体を動かしておいででしたら、やっぱり睡眠は大事になさいませと、ヤブ医の石丸から申しあげます。個人差と言えば、私のところは確かに寝坊助の家系かもしれません。「世の中に寝るほど楽はなかりけり浮世の馬鹿は起きて働く」が家訓・・・これは冗談ですが、『三年寝太郎』の話は御多分にもれず大好きです。

 そうそう、前に書いたかもしれませんが、日系人作家・イラストレーターのアレン・セイ(この「日系」には複雑な意味があります)が、三年寝太郎物語を "The Boy of the Three-Year Nap" と題する絵本に仕立て、1993年に刊行されて全米で大好評を博しました。アレン・セイ(1939-)には『おじいさんの旅(Grandfather's Journey)』(2002)という名作があり、これはアメリカ人にも日本人にも強く推奨したいものです。商品説明にもあるように、「日本にいればアメリカを思い、アメリカにいれば日本を思う」という「おじいさん」に投影された著者自身の感慨は、人間のアイデンティティについて根本から考え直させる契機を含んでいるように思われます。

    

Ω