2017年1月29日(日)に遡って・・・
単位認定試験のお手伝いに専任教員も出かけるのだが、むろん実働部分はすべて学習センターのスタッフが担っていて、これは相当たいへんな業務である。途中で引き上げるのも申し訳ないが、万事御下命通りということで、入れ替わりに出てこられたQ先生と引き継ぎかたがた小歓談。Q先生は政治学者なので、つい話はそちらへ行く。
「トランプ、大統領になっちゃいましたね」
「う~ん」
やっぱりそのことですかといった表情。それから考え考え、僕にわかる程度のことを話してくださる。
「誰がなっても大きな動揺がないようにシステムを作ってあるわけですけれど、想定を超える動揺の大きさですからね。ここだけの話、これまでだったら失脚するか暗殺されるか。まあしかしデモクラシーについて言えば、僕などのように延々ギリシア以来の歴史を日頃から追っていると、あまり慌てもしません。歴史の中ではデモクラシーというやつは基本的に人気のないもので、ここ1世紀ほど例外的に表舞台に立たされただけですから」
「長い歴史の中を、打たれ強く生き延びてきた?」
「まあそんなぐあいです。」
"England muddles through." という言葉があったっけな、"Democracy also muddles through." ってとこか。
「ヨーロッパは大丈夫でしょうか?」と訊くと、先生頷いて、
「アフリカがカギでしょうね。」
「アフリカ?」
「中東の難民があふれ出すことによってヨーロッパの本音が引き出され、EUが危機ってことになったわけです。しかし本当に危ないのはアフリカですよ。中東だけでこの状態なのに、アフリカがパンクしてそこからの難民があふれ出したら、もうヨーロッパはもたないでしょう。遠い向こうの話のようだけど、日本の場合は北朝鮮の問題があります。いずれ瓦解したときに生じる難民の流れを、日本はどう受けとめるのか受けとめないのか、問題は既に始まっているんです。それからね・・・」
一息入れた。
「マクロの問題とは別に一人一人の内面の問題もあるわけです。システムが機能しなくなって、神のごとき強権的なリーダーが台頭する状況で、人々がものすごく不安になっているでしょう、特に我々のほとんどは先生と違って信仰をもちませんから、」
「・・・私、そんなこと開示しましたっけ?」
「いろんなところで漏れうけたまわってます。ともかく信仰なき者たちの不安は、人が今考えている以上に大きいと思いますよ。カルトが流行るのもこういう背景のあることでね・・・」
***
5分間に教わることが山ほどあり、専門家とは話してみるものである。しかし信心のことなんか、どこでバレるのかな。年末のお楽しみ会を「クリスマス会」と呼ぶ件だって、敢えて内心の不服を表さずにおいたのに。
水曜日の指定医更新手続きに写真が必要なので、最寄り駅前の3分写真に立ち寄ると先客がある。カーテンの下から男ものの靴が覗き、外に立った女性が事細かに世話を焼いている。赤い枠、見えるでしょ、アゴを引いて、引きすぎ!サイズを選ぶのよ、サイズ、頭傾けないで、瞬きしちゃダメよ・・・
息子さんの受験かなと微笑ましく、三月並みの温かさを幸いのんびりと待つ。やがて撮影し終わって出てきたのは、僕より少し若いぐらいの壮年の男性。御主人であらせられましたか、目が合って思わずへどもどしてしまった。三村智保九段にちょっと似た、忍耐強そうな口元である。じゃ先に帰っててね、ドラ焼きでいい?ドラ焼きね。
僕もひとつください、などと呟きながら、まだ温かい椅子に座った。顔が画面の下に外れてしまう。ドラ焼きが好物の三村もどきさん、あんがい座高が高いんだね。
Ω