散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

2つまたはそれ以上 ~ DSMの腰抜け訳

2014-12-16 09:37:00 | 日記

2014年12月16日(火)

 批判的なことばかり思いつくのは、自分の状態があまりよろしくないからかもしれないが・・・

 DSMの翻訳、難事なのはわかるが、日本語としていただけないところが少なくない。その点はⅣも5もあまり変わりがないようである。

 とりわけ残念なのが、「2つまたはそれ以上」といった表現の繰り返されることだ。マニュアル方式はDSMの身上で、多数の項目を列挙しておいて、そのうちいくつ該当するかで診断を決めていくから、「2つまたはそれ以上」「3つまたはそれ以上」が毎ページのように出てくる。その都度げんなりさせられる。一流の専門家が名を連ねた翻訳陣なのに、気がつかないんだろうか。全体のスタイル統一に関わるから、監訳者の専権事項ということか。

 

 何がおかしいかって?そうですか・・・

 

 「または」は不要だよね。というより、「または」があっては日本語としておかしい。「以上」「以下」という表現は、その数自体を含むというのが基本的なお約束で、小学生でも知っている。もとい、小学生なら知っている。「十歳以上」は「十歳を含む」と三国(サンコク)も明記するところ。

 ところが訳者達は、"two or more" とか "three or more" とかいった原文の "or" に引きずられて、「または、それ以上」とやってしまっている。"more" は「以上」ではないよ。「~を超える」であって、その数自体を含まないのだ。だから "or" が必要になる。和訳としては「2つ以上」「3つ以上」が正しいし、それで何の問題もありはしない。

 こういうところ、英語のルールはしっかりしている。違うな、ルールの守り方がしっかりしている。英語の字面に引っ張られて、日本語の基本ルールを見失うこちらの腰が抜けているのだ。

 ページをめくる毎に「またはそれ以上」と飽きもせず繰り返されるのが、苦痛で仕方がない。単に好みの問題ではない。これを続けていると、そのうち「以上という言葉は、その数自体を含まないのだろうか」という疑念が読み手の方に生じてきて、日本語のルールに混乱を来しかねない。無益というより有害な誤りである。

 

 小学生はきちんと守っているルールを、大人がだらしなくも守れない。そうした小さな揺らぎが、日の経つにつれてルール全体を怪しくする。僕らの社会によく見られる風景ではある。