京のおさんぽ

京の宿、石長松菊園・お宿いしちょうに働く個性豊かなスタッフが、四季おりおりに京の街を歩いて綴る徒然草。

ワン・ツー・スリー

2011-01-23 | インポート

 三条通から新京極へと曲がる角に、さくら井屋はある。

 いや、「あった」というべきか。

 先日、通りかかったら、休業していた。

 さくら井屋は、紙製品や和雑貨を扱った店だ。

 創業は天保年間というから、老舗中の老舗といえるだろう。

 オリジナルの木版刷りの紙製品を主に扱っていた。

 実は以前、このブログにこのお店のことを書いた。

 さくら井屋は、織田作之助の小説『青春の逆説』に出てくるのだ。

 出てくるといっても、主人公が通り抜けに使った、という程度でしかない。

 しかし、昭和初期の小説に出てくるお店が、現役で存在することに感心した。

 その場面では、修学旅行生で賑わう新京極の様子が描かれている。

 もちろんお店も修学旅行生であふれ返っている。

 それも、今は昔、だったのだろうか。

 店先の貼り紙には、木版刷り職人の減少が休業の原因と書かれている。

 なんとも寂しい話ではある。

 そういえば先年、梶井基次郎の『檸檬』の舞台である果物屋も店じまいした。

 主人公が檸檬を買った店として、表のショーウインドウにいつも檸檬が並んでいた。

 訪れる人も少なくなかったようだが、休業してしまった。

 どちらの店も当館から近く、たびたび店の前を通りかかった。

 通りかかるたび、その小説のことを思い出したものだった。

 しかし今は、そのお店が思い出されるほうになってしまった。

 こうして近現代文学の舞台となったお店などが、だんだんと町から姿を消していく。

 時の移ろいとともに、町の景色に変化があるのは、やむをえないこと。

 とはいえ、何か切ない。

 こういうことがあるたびに、行ける時に行かなくては、と強く思う。

 いつまでもそこにそれがあるとは限らない。

 古いものの多く残っている京都でさえ、そんなことを感じる。

 あの時に行っておけば‥‥、と思うことのないよう。

 観光で訪れる皆様も、悔いの残らぬよう、京都を満喫してください。

”あいらんど”