日本人イスラム教徒ゆとろぎ日記 ~アナー・イスミー・イスハーク~

2004年に入信したのに、2003年入信だと勘違いしていた、たわけもんのブログです。

『ニュースの裏側がよくわかる イスラム世界の人生相談』を読んで

2006年05月18日 00時53分47秒 | イスラムライフ
ヒジュラ暦1427年ラビーウ・ッサーニー(4月)20日 ヤウム・ル・ハミースィ(木曜日)
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 なんだか、小学生の夏休みの宿題の読書感想文みたいなタイトルだな。
 昨日、『ニュースの裏側がよくわかる イスラム世界の人生相談』(西野正巳:編訳、太陽出版、2006年4月20日第1刷、1400円+税)という本を買って読んでみた。

 本屋に「イスラーム入門」という類の、似たり寄ったりの内容の本があふれている中で、異彩を放っている。イスラーム国の新聞・雑誌などに寄せられた、ムスリムの人生相談を訳した内容の本。

 真剣に相談して、真剣に答えている方には申し訳ないが、あちこちで苦笑してしまった。
 はっきり言って「ゆるい」。
 この場合の「ゆるい」は、漫画家のみうらじゅん氏が提唱した「ゆるキャラ(ゆるいキャラクター)」の「ゆるい」と同じニュアンス。何言っているんだかわからない人もいると思うけど。

 昔、『月刊住職』という、坊さんの専門誌を読んでいたら、相談コーナーで「ピアノを買おうと思うのですが、寺院の備品という扱いで税金の優遇措置を受けられないでしょうか?」という相談が載っていて、全身から力が抜けたのを思い出す。

 しかし、今回読んだ本はもっと素晴らしい。暴走気味とも言える内容の質問に対し、迷走気味とも言えるお答え。
 
 例えば「日本で長年暮らしていますが、日本人へのイスラームの布教がうまく行きません。どうしたらいいでしょう?」という質問。
 実際はもっと長い質問文で「イスラム国には悪徳が満ちています」なんて書いちゃっているし。どこの国の人なんだ? 

 でも、ハッサン中田考氏も『イスラームのロジック』の中で「現在のイスラーム世界の国々は、王政であると共和制であるとにかかわらず、例外なく構造的に腐敗した軍事独裁政権であり…」と痛烈な批判をしているし、以前なにかで読んだ記事でもアメリカ在住の熱心な年配女性ムスリマが「アメリカは嫌いだけど、今のイスラーム国家は腐敗しているからもっと嫌い」と書いていたから、ここらへんはまだいい。

 回答も回答で、

 「アラブ近代文学やアラブ近代詩には、日本人を称賛するすばらしい詩や論説がたくさんあります。こうした文学作品も、私たちと日本人の距離を縮めるのに貢献してくれています」

なんて、ほとんどの日本人が知らないような文学を持ち出してきているし。本当にそんな文学作品がアラブにあるのか?

 さらに、アラブ諸国やインドの新聞記事の引用はもっとすごい。

 「日本人は、自分たちが信仰すべき宗教を探していた。そして、日本人は最良の宗教を選択するために、諸宗教会議を開催し、様々な宗教の代表者をその会議に招いた。
 当時、エジプトのアズハル大学のイスラム法学者だったアリー・ジャルジャーウィー師は、この会議に参加するために自腹で日本に行った。同師は広大な土地を売却し、そのお金で日本行きの船便の切符を買った。同師は日本に数ヶ月間滞在し、後に日本での体験について『日本への旅』という本を書いた」

 へぇー、小説『世界の宗教 どの教えが優れているのか?』(シャフィック・ケシャヴジー:著、小林修:訳、徳間書店、2000年1月31日初刷、2000円+税)みたいなことを実際に日本もやったことあるんだ。知らなかったな、勉強不足だ。
 それにアリー師の『日本への旅』も読んでみたいな。

 …なーんて感動しながら次の行を読んだら、「この話は、もしかしたらフィクションであり、事実ではないのかもしれません。」などと書いてあって、震度5くらいの激しさで脳みそをシェイクされた。感動させておいてフィクションかよっ!?

 女性からの性転換手術の可否についての相談への回答の中では、「以前、エジプトのアズハル大学で医学部の男子学生が女性への性転換手術を受け、大騒ぎになったことがありました」なんて、さらっと書いている。私の頭の中の方が大騒ぎである。あのアズハル大学でそんな事件があったとは…。

 「嘘は許されないかどうか?」という質問の中では「害のない嘘は、もはや人々の日常生活の一部になっています」なんて言っているし、さらに「エイプリルフールに嘘をついちゃいけないのでしょうか?」とか「最近、私たちの間では霊を呼び出すのが流行していて、子どもたちも学校の勉強そっちのけです」とか、「いったいどこの国の話なんだ?」状態満載!

 はっきり言って、日本におけるイスラームのイメージは、まだまだ「よい」とは言い難い。教条主義で縛り付けられるような印象が一般にはまだ強いのだ。
 そんな中で、イスラーム国の普通(でもないか)の人々が、素朴な質問をぶつけている姿を紹介した本という意味で画期的だ。
 だけど、これを読んだ人は別の意味でイスラームに偏見持っちゃうかもなぁ。「イスラム教徒っちゅうのはオモロイやつらじゃのぅ」なんてね…。