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厳しい状況の中四段昇進を狙う里見香奈女流四冠を応援したい

2015年11月30日 05時33分11秒 | 時事放談: 国内編

将棋の里見香奈女流四冠が四段昇進して、プロ棋士になってくれることを願うファンのひとりです。とはいえ、将棋のことは何も知りません。ゆえに、女流棋士の現状をまとめたこの記事はとても勉強になりました。記録しておきましょう。

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壁を打ち破れ、女流棋士・里見香奈の挑戦
将棋ライター・後藤元気
2015年11月25日 05時20分

 将棋の女流棋士が誕生して40年余り。私たちは、女性として初のプロ棋士誕生という歴史的な瞬間を目撃するかもしれない。将棋の世界でプロとは四段以上のこと。その一歩手前の奨励会三段リーグで戦っているのが里見香奈女流四冠だ。三段リーグに参加する30人は、里見を除いてみんな男性。俊英ぞろいのリーグで2位以内に入るのはかなりの狭き門だが、近年の女流棋士の実力向上は目覚ましい。先輩女流棋士たちが抱いた夢は、果たして実現するのか。

女流棋士は別枠、男性とは実力差があった

 里見香奈にはふたつの顔がある。ひとつは女流棋士として女流名人・女流王位・女流王将、倉敷藤花の四冠を預かる立場。もうひとつは史上初の女性による奨励会卒業、四段昇段を目指して三段リーグを戦う立場だ。女流棋界では第一人者であっても、羽生善治名人らを擁するプロ将棋界では、まだスタートラインにすら立っていないのである。

 女流棋士とは1974年に日本将棋連盟(以下将棋連盟)によって作られた制度である。当初は報知新聞主催の女流名人位戦(現在は女流名人戦)のみだったが、2015年現在は六つのタイトル棋戦が実施されている。そのうちの四つを保持するのが里見香奈なのだ。

 女流棋戦は男性に参加資格がない。いわば女子ゴルフなどのスポーツと同じ制度と考えてもらうのがわかりやすいだろう。将棋は頭脳ゲームなのだからスポーツのような男女差はないのではと思われるかもしれないが、少なくとも女流棋士制度発足の時期には明確な棋力差があった。現在、竜王戦など多くのプロ棋戦は女流棋士に出場枠を設け、男女が対戦することは珍しくないが、対戦スコアでは男性が女性を圧倒している。

 女流制度発足の当初、女性最強とされていた蛸島彰子は10代で奨励会に入り初段まで進んだ。もっともそれは「指し分けで昇級」という特例による恩恵にあずかったため。仮に特例で四段昇段を果たしていたとしても、男性と伍して戦っていくのは難しかったはずだ。

 つまり女流棋士制度および女流棋戦は、将棋を指す女性の立場を守り、育成していくために誕生したのである。もちろん将棋連盟にも、女性に普及活動を担ってもらいたいという考えがあった。蛸島をはじめとする将棋の強い女性は女流棋界の中で活躍し、普及面でも多大な貢献を果たした。将棋連盟の狙い、そして願いは今日において大きく花開いているといえるだろう。

林葉も中井も、みんな壁を突破できず

 さて、そろそろ奨励会に話題を移そう。奨励会の正式名称は新進棋士奨励会といい、1935年にプロ棋士養成機関として発足した。基本的には6級から三段までのクラスがあり、四段に昇段したものをプロ棋士とする。

 ここでの6級はアマ四段程度の実力。また女流の段級とは別のものだ。掛け値なしの実力勝負で昇級が争われ、男女問わず一定の成績を収めればプロ棋士になることができる。三段まではお茶をいれる人、四段になったらお茶を飲む人対局料が発生するのも四段になってからである。

 また奨励会には年齢制限があり、現在の規定では「満21歳の誕生日までに初段に満たない場合。満26歳の誕生日を含む三段リーグで昇段できなかった場合は退会」となっている(三段リーグには勝ち越しによる延長など、緩和制度あり)。

 過去に奨励会に入会した女性は、先の蛸島彰子をはじめ十数人にのぼる。林葉直子や中井広恵は入品(初段昇段)できずに退会1993年には矢内理絵子、碓井(現・千葉)涼子、木村(現・竹部)さゆりの3人が入ったものの、やはり級位を脱することはできなかった。後に女流棋界で活躍する甲斐智美、香川愛生、岩根忍、伊藤沙恵らも初段には手が届かなかった

 筆者は矢内、碓井、木村と同年に奨励会に入会したため身近で見てきたが、気苦労は相当なもののように感じられた。100人近くの男子のなかに女子3人。10代の多感な時期に分け隔てなく接することは、どちらの立場からも難しかった。

 公言する・しないは別として、根底には「あいつらは奨励会がダメでも女流棋士として生きていける。自分たちは奨励会を勝ち抜くしかない」という思いもあった。男性は年齢制限を迎えると無職になる。女性はたとえ奨励会を退会しても、華やかな女流棋士の道が残っている。その差は天と地ほどもあるので、女性との対戦で負けるわけにはいかなかった

 本来、将棋は切磋琢磨せっさたくまして強くなっていくものである。ぶつかり稽古のような研究会や、深夜まで先輩棋士の対局を観戦して勉強するような方法は、女性だからという配慮のせいで遠ざけられた。本人たちが強く望めば可能だったのかもしれないが、それをいま言っても詮ないことだ。少なくとも男性奨励会員が容易に手に入れられた「将棋が強くなる環境」を、同じように与えられていたとはいいがたい

 女性が奨励会を卒業して四段、プロ棋士になることはできないのか。そんな停滞した雰囲気を打破したのが、本稿の主役・里見香奈である。

日々勉強の天然キャラクター

 里見香奈は1992年に島根県出雲市に生まれた。家族が指している将棋に興味を持ったのは5歳のころで、小学校高学年のときにはアマ女流の全国大会を制している。2004年に女流プロ2級になり、08年に第一人者の清水市代を破って初タイトルを得た。その後も棋戦優勝、タイトル獲得を重ねて女流棋界での地位を確立。そして11年5月に奨励会編入試験を受験し、合格。1級での入会を果たした。

 女流歴代最強ともいわれる里見の力は、奨励会でも通用するのか。その答えは結果で示された。12年1月に、現行規定では史上初となる初段昇段を勝ち取ったのだ。

 もっとも初段はゴールではない。13年7月に二段、同年の12月に三段に昇段し、いよいよ女性による奨励会卒業が現実的なものなってきた。この時期の里見は連日、大阪の関西将棋会館に顔を出し、日々練習と勉強に明け暮れていたという。その熱心さは、ある棋士が「里見さんよりも勉強している人がこの世界でどれほどいるか」と話すほど。

 二十歳前後の女性といえば、ファッションや化粧などに興味を持つのが自然な年頃だが、里見はそういうものに頓着しなかった。やぼったい服装の見本市のような奨励会員たちでさえ、「里見さんはどこで服を買っているんだろう」と首をかしげたとかなんとか。

 対局の前にはゲンをかついでカツ丼を食べ、好きなものを聞けば、食べ物と限定したわけではないのにノータイムで「たこやき!」と答える。家族的な雰囲気のある関西の棋士や奨励会員は里見の頑張りを認め、そのほがらかで天然気味のキャラクターを受け入れた。いわゆる将棋が強くなるための環境が整ったのだ。

 里見はその間も女流棋戦で圧倒的な強さを見せ、史上初の女流五冠を達成。14年4月から始まる三段リーグに向けて視界良好……と思われた矢先の暗転。里見が体調不良を理由に半年間の休場届を提出したのである。

 これにより里見の対局は、タイトル保持棋戦の限定的な参加のみとなった。三段リーグは第55期から57期まで欠場。年齢制限のある三段リーグでの欠場は、そのまま女性初の四段昇段が遠ざかることを意味する。

 里見が女流棋戦に復帰したのは、15年1月のことだった。その後は周囲の心配をよそに勝ち星を重ね、女流最多連勝記録となる21連勝を達成。8月には第58回三段リーグへの参加を発表した。はたして里見は三段リーグを突破できるのか。

すでに23歳、年齢的には厳しい戦い

 現在里見は23歳。奨励会の年齢制限が満26歳と定められた後の三段リーグで、23歳以降に三段リーグに初参加して四段昇段を果たしたのは2人しかいない。第16回に26歳で昇段した勝又清和(現・六段)と、第51回に25歳で昇段した上村亘(現・四段)である。ほとんどの昇段者は10代後半から20歳そこそこで四段になっている。年齢においては、厳しいといわざるを得ない。

 里見の強みは、女流棋戦においてタイトル戦の大舞台を数多く戦ってきたこと。少なくとも三段リーグを戦う奨励会員に対しては、圧倒的ともいえる経験の差がある。三段リーグの雰囲気に慣れ、体調が万全になれば成績は自ずと上向くだろう。

 もうひとつ挙げるとすれば、里見の将棋がまだ洗練されていないこともプラスに働くかもしれない。将棋を覚えたころから詰将棋と実戦を主体に成長してきた里見は、序盤戦術よりも終盤の寄せ合い、腕力勝負が持ち味だ。

 ある人は女流棋士として頭角を現してきた時期の里見の将棋を見て、「美濃囲いを覚えたら格段に強くなる」と笑っていた。振り飛車を指す人なら誰でも知っている美濃囲いを、当時の里見は採用していなかったのだ。さすがに今は通り一遍の定跡を指しこなすが、周囲と比較して達者とはいえない。ここは将来的に大きな伸びしろがありそうだ。

 里見の三段リーグ突破の可能性は、現在の三段陣との棋力差がはっきりしない現状ではなんともいえない。仮に里見に相応の実力が備わっていたとしても、30人からなる18回戦のリーグで上位2人に入るのは至難の業である。

 たまに棋士との酒席で「いま三段リーグに入って1期で抜けられる人は、棋士のなかでどのくらいいるだろう」という与太話になることがある。一応は誰々さん、誰々さんと名が挙がるのだが、最後は「でも自分は絶対に、地獄のような三段リーグには戻りたくない」というオチがつく。少年時代には「おらが町の天才」と呼ばれたような人が一心不乱に将棋に打ち込み、年齢制限の恐怖と向き合わなければいけないのが、奨励会であり三段リーグなのだ。里見が首尾よく四段になれば、誰かが四段になれずにこの世界を去る。

 間違いなく言えるのは、里見には他の奨励会員と同じく三段リーグを抜ける可能性があり、決して非現実的な話ではないということだけである。

 なお現在奨励会の有段者に西山朋佳二段と加藤桃子初段がいる。ともに20歳の伸び盛りで、近いうちに三段リーグ入りしてくるかもしれない。西山は14歳、加藤は11歳のときに奨励会に入った。戦いの場を女流棋界に置かなかったのは、より早く、より厳しい環境で棋力を伸ばすためだ。

 西山の将棋は相手を力任せにブンブンと振り回すような腕っぷしと、抑えきれないほどの気の荒さが魅力になっている。加藤は腰を落ち着けて読みを重ねていくタイプ。たぎる闘志を自制できる精神面の強さは、上位に行くほど大きな武器になっていくことだろう。

 関西には16歳1級の中七海もいる。年齢が若ければそれだけ可能性が広がり、期待が大きくなるのが奨励会という場所。彼女たちの動向にも、ぜひ注目していただきたい。

奨励会以外に編入試験の道も

 最後に余談を少々。以前にアマチュアからプロ編入試験を経て四段になった棋士に、瀬川晶司(現五段)今泉健司(現四段)がいる。編入試験が実施されたのは当時の瀬川アマの嘆願によるものだったが、その後に制度が整えられ、以下のように定められた(概要)。

 (1)過去1年間に該当アマ棋戦を優勝した者は、三段リーグ編入試験を受験することができる。試験は原則奨励会二段と8局指し、6勝で合格。

 (2)男性プロ公式戦において、最も良いところから見て10勝以上、なおかつ6割5分以上の成績(目安は10勝5敗)を収めた者は、フリークラス(四段、プロ棋士)編入試験を受験することができる。試験は新四段5人を相手に3勝以上を挙げれば合格。

 (1)の三段編入試験はアマチュアのみの適用だが、(2)のフリークラス編入試験は女流棋士にも適用される。現在、女流棋士に参加資格があるプロ公式戦(一般的に男性棋戦と呼ばれる)は年間に最大で10棋戦。女流タイトル保持者であれば継続的に、それこそアマチュアとは比較にならない局数の男性プロ公式戦を指すことができる。

 里見は奨励会員であるため男性プロ公式戦に参加できないが、奨励会をやめて女流棋士に専念すれば別のルートで四段になる可能性が出てくる。良いところ取りで10勝5敗の成績をとった女流棋士はいないものの、うまく星が固まればありえない数字ではない。

 女流棋界に目を移すと、打倒里見を目指して研さんを積む二番手グループの層が厚くなってきた印象がある。現役奨励会員の加藤と西山を除いても、上位10人くらいは誰がタイトル戦の舞台に立ってもおかしくないという情勢だ。ちなみに香川は14年に、男性プロ公式戦で良いところ取りで3勝1敗の成績をとっている。勝ったのは持ち時間が5時間の棋戦2局と、4時間の棋戦1局。早指し棋戦ではなかったところを見ると、長時間対局に適性があるのかもしれない。

 先日、里見の師匠の森けい(※)二九段に会う機会があったので、(2)の制度の話をしてみた。森九段は「それは知らなかった。里見さんも知らないかもしれないね」と前置きしたあとで、「でも里見さんは奨励会を抜けることに意義を感じていると思うよ。ふっふっふっ」と目を細めた。

 将棋界が現在の形をもって続くかぎり、いつかは女性の奨励会卒業者が出るだろう。ごく近い未来に訪れるのか、遠いものになるのかはわからない。もし自分がその場に立ち会えたら、心からの拍手を送らせてもらいたい。

 ただその拍手は男性が卒業したときと変わらない。それが実力勝負を勝ち抜いた人への礼儀であり敬意だと思うからだ。

 ※「けい」の字は、へんが難しい字体の「渓」という字の右側、つくりが「ふるとり」。

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将棋連盟のよくわからないのは、年齢制限を設けていることです。何歳になっても、チャレンジできるようにすればよいのに、時代錯誤です。

ともあれ、悪法であっても、法は法。里見三段は、不満も持たずに、謙虚に26歳までの四段昇進を狙っているはずです。すばらしいことです。

目的達成のために、おしゃれにわき目もふらないのも立派。恋や結婚など、大目標の前では邪魔なものですから。

こういうひたむきな若者には、いつでも熱い感動をもらいます。里見三段の大願成就を願ってやみません。がんばれ、里見三段!


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