白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第10回 剛腕丈和

2017年09月29日 23時49分21秒 | 書評
皆様こんばんは。
昨日の書評で、1つお伝えし忘れていたことがありました。
古典名局選集シリーズは、恐らく全て絶版になっています。
碁の本は寿命が短いですね・・・。

ですが、日本棋院の電子書籍にて復刻されており、パソコンやスマートフォン、タブレットで読むことができます。
値段も安くなっているのでおすすめです。

さて、ついでと言ってはなんですが、今回は同じシリーズの1冊をご紹介しましょう。



本書の主人公は本因坊丈和です。
歴代の名人の中でも屈指の実力の持ち主であり、知名度も高い方でしょう。
ただ、人気は必ずしも高いとは言えません。
それは棋風によるところもあるでしょうが、一番の理由は盤外での権力闘争に力を入れ過ぎたことでしょうね。
盤上で白黒つけず、政治力で名人位に就いた丈和にはダーティーなイメージが残ってしまいました。

ただ、当時の事情も勘案する必要があるでしょう。
名人就位運動を起こした時点で、丈和は既に40歳を超えていました。
全盛期はとうに過ぎていた筈で、丈和もそれを自覚していたようです。
それでも実力は紛れもなく碁界一でしたが、当時の名人にはただ一番であるだけでなく、二番手以降と別格の強さが求められました。
ハンデを与えた上で勝たなければならず、ここが現在のタイトル戦とは大きく違うところです。

そして、名人位の持つ権威も大変なものであり、名人になれば碁界を支配できると言っても過言ではありません。
本因坊家を束ねる立場でもあり、丈和にかかる責任は重大でした。
権謀術数を巡らす姿は美しくありませんが、必ずしも責められるものではないと思います。

さて、人物の評価はさておき、丈和は素晴らしい作品を多数残しています。
本書のタイトルにもなっているように、丈和と言えば剛腕というイメージがあります。
優れた大局観を持ちながらも、全力で戦って相手を打ち倒しました。
戦いの碁が好きな方なら楽しく鑑賞することができるでしょうし、良い教材にもなるでしょう。

本書の解説は高木祥一九段です。
この世代の棋士の勉強法として古碁を並べることは必須であり、碁の骨格作りに大きく影響を与えています。
それだけに、本書は技術的な解説にとどまらず、高木九段の丈和への強い思い入れが表れていると思います。
ただ手順を追うだけでなく、当時の対局姿を想像しながら並べるとより楽しめるのではないでしょうか。
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