白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第17回 厚みの教科書

2018年07月28日 16時56分03秒 | 書評

皆様こんにちは。
都内はかなり雨が強くなってきました。
こんな日は家に閉じこもりたいのですが、うっかり予定を入れてしまいました。
大きな傘を持って出かけようと思います。

さて、本日はこちらの本をご紹介します。



「決定版! 厚みの教科書 基本戦略からアルファ碁流まで」 著・加藤充志九段

まずは本書のまえがきの1行目を引用しましょう。
"私が「厚み」と「模様」の違いに気付いたのは棋士になってからでした。"
いきなり衝撃的な一文ですね。
これはすなわち、どんな棋力であっても、厚みと模様の区別が付いていない方がいらっしゃるということです。
実際、多くの方が最も苦手としている分野であることは間違いありません。
そもそも、苦手であることを自覚していない場合も・・・。

私の指導法においても、厚みと模様(または勢力)の違いを正しく認識して頂くことは重視しています。
盤上の状況を正しく認識できなければ、自然な手を打つことは難しいですからね。

本書では、厚みと模様には大きな違いがあることや、それぞれの価値や活用法について、実例を用いながら解説されています。
厚みと模様は見た目は似ていますが、その活用法は正反対になることもあるのです。
本書を読んでから、囲碁観が大きく変わる方も多いのではないでしょうか?

ちなみに、本書の第1章では囲碁AI「ZEN」の対局を取り上げていますが、本書の中ではレベルが高い内容になっていると思います。
厚みと模様の違いがあまり理解できていない方は、飛ばして第2章以降を読んでも良いでしょう。
まずは厚みの活用法、模様ができた時の考え方の違いを、しっかりと感じて頂くことが大切です。
1周した後に戻ってくれば、格段に理解しやすくなっていることでしょう。

ところで、本書では模様派の代表である武宮正樹九段が厚み派ではないと言及しています。
この事実もまた、ほとんどの方がご存じないでしょう。
こういったことも分かるようになると、プロの対局を観戦しても違った見え方をするようになるのではないでしょうか。

ちなみに、補足しておきますと、武宮九段の白番の打ち方は厚い碁だと思います。
薄い石をつくらず、じっくり打って追い込んでいくことが多いです。
本書で紹介されている大竹英雄名誉碁聖との対局は、その典型でしょう。
また、最近は黒番も模様派というよりも厚み派寄りになっていると思います。

最後に、注意点を述べておきます。
本書はプロの対局を題材にしているため、当然ながら所々で高度な手も出てきます。
ただ、それらの手そのものを真似しようとする必要はありません。
大事なことは、考え方を身に付けることです。
「この壁は厚みだから、囲わずに戦いを起こそう」
「この模様は薄いから、入られないように囲っておこう」
実戦で、自然とこんな考えができることになることを目指しましょう。