白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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囲碁用語について・その4

2017年12月03日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
連日囲碁用語についてお話ししてきましたが、今回で一区切りつけようと思います。
いくらでも語れそうですが、こればかりになってしまいますからね。
それでは、まずは前回の問題の解答を発表します。



<1図>
これが正解です。
正解率は如何でしたか?
フェイスブックやツイッターでの反応を見る限り、やはりしっかりと区別できている方は少ないようです。

まず、自分の石の隣に打つ手がノビ(伸び)という認識をお持ちの方が多いかと思いますが、それは少しずれていると思います。
基本形は並びでしょう。
並びは純粋に形だけを示す用語であり、そして相手の石に直接働きかけない手です。
右下の問題では白が近くにありますが、黒△が白のダメを詰めているわけではありませんね。
この並びを基本として、相手との位置関係や着手の目的によって別の名前が付けられると考えると分かりやすいでしょう。
生物の分類で例えるなら、「ナラビ科ナラビ属」「ナラビ科ノビ属」「ナラビ科サガリ属」・・・といった風になるでしょうか。



<2図>
では1つ1つ見ていきましょう。

上段左の伸びは文字通り先へ進む意図を持った手です。
白に△の所にハネられると矢印方面への進出を止められるので、それを防ぐ手とも言えます。

上段真ん中の押さえは、相手の進出を止める手です。
この手によって白が左側へ進めなくなっていますね。
左図とは出来上がりの形こそ同じですが、黒△の意味は全く異なります。

上段右の下がりは、下(盤端)に向かう手です。
前に向かう手には違いありませんが、向かう先が行き止まりですね。
基本的に地や根拠を意識した手であり、同じ形のようでも伸びとは目的が異なることが多いので、名前が違っているのです。
主に1線~3線、時々4線の時に下がりと呼ばれることが多く、5線以上では大抵伸びと呼ばれます。

中段左の這いは、相手の下に潜り込む手です。
主に隅や辺に向かって進出する目的で打たれます。

中段真ん中は左と全く同じ形ですが、中央でできると押しと呼ばれます。
白が矢印方面へ一歩先に進出していたところに、黒が後から体をぶつけていって、そちらへの道を作ろうとしているイメージです(これは這いも同じですね)。
このように中央で形ができるか、あるいは隅や辺でも自分の石が相手より上(盤端から遠い)である時に押しと呼ばれます。

中段右は引きです。
文字通り、後退する手ですね。
図は下方への進出を目指して黒×にツケたら、白×に押さえて止められたという設定です。
そのまま放っておくと黒×の石が危険なので、上方(矢印方向)に撤退しました。

下段左のブツカリは、まあ見た目通りですね(笑)。
他に突き当たりや、非公式ですが頭突きなどと呼ぶ人もいます。
定義は一歩進んで相手の石に自分の頭をぶつける手であり、着手の目的は含まれていません。
相手の石に圧力をかけたり、自分の石全体を守ったりするために打たれます。
一般的には、あまり良い形ではないとされています。
ですが、相手に対して強制力が強い手なので、先手になりやすいというメリットもあります。


如何ですか?
同じような形でも、これだけ名称があるのは面白いですね。
なお、これらの中で押さえだけは、必ずしも並びの形をしているとは限らないことを付け加えておきます。

一番ややこしいのは、伸びと引きですね。
ここに示した図では問題ありませんが、時にはその手が前に進んでいるのか後退しているのか、判別が難しいこともあります。
伸びと引きに関しては、昔ネット上で連載されていたメイエン事件簿というコラムを思い出します。
その中の1つに、囲碁用語の正しい使い方についての話がありましたが・・・。
確か棋士仲間に異端認定された王メイエン九段が、それでも地球は回っていると主張するような内容だった気がします(笑)。

囲碁用語は慣れていないと難しく感じることもあるでしょうが、違いを楽しむ気持ちで触れて頂ければ嬉しいです。
用語の正しい意味を知っていれば、解説などで見聞きした時、それだけでその手の目的が分かることもあるでしょう。
囲碁用語が分からなくても碁は上達できますが、碁の楽しみ方の幅を広げる役に立つのではないかと思います。

綺麗にまとめた風ですが、新たに書いておきたいことができたのでもう少し続きます。
冒頭の言葉は嘘になってしまいました。