白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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隅の価値

2016年12月17日 18時04分48秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は隅の価値について、お話ししたいと思います。

囲碁では、隅は価値が高いとされています。
確かにその通りなのですが、その理由を正しく理解できている方はどれだけいるでしょうか?
著書でも触れているように、「地が大きいから」というのは、価値の中の一部でしかありません。
「四隅取られて碁を打つな」という格言がありますが、その言葉に惑わされてはいけません。

では、真の価値はどこにあるのでしょうか?
それを、実例を交えてご覧頂きましょう。



1図(実戦)
5子局の白番です。
白1と三々に入りましたが、この手の狙いは何でしょうか?

著書の帯には「中盤が終わるまで、地のことは一切考える必要がありません」と書いています。
しかし、実際に私が自分の地が増える、相手の地を減らす手を打たないかと言えば、そんな事はありません。
4子以上の指導碁ですと、平均すれば1局に1回は三々に入っています。
すると当然、自分の地を増やしたり、相手の地を減らす結果になりますが、それは目的ではありません。
地の損得はあくまで結果であり、真の目的は他にあるのです。





2図(実戦)
三々入りの後、定石通り白6までとなりました。
白が隅を確保したのですが、「地を得した」というのはプラスアルファでしかありません。
真の利益は、「根拠」です。
隅だけで生きるためのスペースを確保したので、白△の一団はかなり強くなりました。
(黒Aなどから分断される可能性があり、完全ではありませんが)
そして、隅に根拠を確保した事の価値は、自身の安全だけには留まりません。





3図(実戦)
後に、白△と打ち込む事になりました。
根拠の無い黒△を攻める形になっています。
三々入りによって、自分の根拠を確保しただけではなく、同時に相手の根拠も奪っていたのです。





4図(実戦)
白6まで、黒は嫌な事になってきました。
右下黒が危険ですし、もがいて生きるようだと周辺の石にも害が及びそうです。





5図(変化図)
では、逆に黒が隅を確保したらどうなるでしょうか?
まず、白△全体に根拠が無くなります。
すると攻められるか、それが嫌なら何手かかけて守らされる事になるでしょう、





6図(続・変化図)
黒が隅を確保した事で、自分の根拠は安泰になっています。
いずれ白1などと打ち込んで来た時も、安心して戦う事ができます。
厳しく反撃する事もできますが、黒2、4などと守っていても十分です。
隅の黒が生きているので、辺の石の守りに専念できるのです。





7図(実戦例)
隅が重要なのは、あくまでも根拠を確保しやすいからです。
地を取るために一生懸命隅を確保する方が多いですが、その発想は間違っています。
例えば6子置いている碁で黒4や12と、とにかく四隅をがっちり守り切ろうとする方が多いですが、これでは良い碁は打てません。





8図(正解)
前図の黒4では、例えば黒1など、広い所へ向かいたい所です。
何故なら黒△が強力な援軍であり、三々に入られたとしても、黒が攻められる心配はないからです。
黒13となった図を、前図と比べてみてください。
より全局を制圧しているのは、どちらでしょうか?


根拠が大事なので隅を打つのであり、地が大きいからではないのです。
隅の地を取ろうとすると、弱い石を放置したり、大勢に遅れたりします。
優先順位を間違えないようにしましょう。