上田龍公式サイトRyo's Baseball Cafe Americain  「店主日記」

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ゴジラがWBCに出るためのプロセス、教えます!

2005年12月28日 | Baseball/MLB
松井秀喜がワールドベースボールクラシック(WBC)への出場を正式に辞退した。当然のことである。
ヤンキースと新たに、総額5000万ドルを超える新たな長期契約を結んだばかりだ。1000万ドルプレーヤーはメジャーでも一流の証と言っていいが、しかし一方ではもしちょっとでもケガや不振が長引けば、球団側に契約を破棄されたり、他球団へトレードされるケースは、最近のメジャーでさんざん目にしているケースだ。松井がお金を払ってくれるヤンキースや、それを支えるNYのファンへのロイヤリティーを選択したのは、プロのプレーヤーとして当たり前なのである。

そもそも、強化委員会もなく、監督もホークスの現役指揮官である王さんを据えるなど、いったい「日本代表チーム」とは何なのだろう?「WBCの開催と参加は急に決まったことだから」は通用しない。1999年のシドニー五輪アジア予選からプロ選手が参加しているし、昨年のアテネにはオールプロで全12球団から選手が加わっている。
代表チームを名乗るからには、しかも70年を超える歴史を誇る日本プロ野球ならばなおさらのこと、五輪やWBCで好成績を挙げるのは、ベースボールの普及・発展のためにも当然の責務である。しかし、それはただプロのオールスターを編成すればいいというものではない。
まず、ちゃんと野球を知っている強化委員長(GM)が、代表の采配に専念できる監督とコーチを選任し、さらに1年後、2年後の大会だけでなく、それこそ10年後、20年後を見据えて、小学生のレベルから将来の代表候補を見つけ出して、野球界全体で育成に乗り出さなければならない。

そのためには、まず、日本学生野球連盟(大学野球、高校野球)や日本野球連盟(社会人野球)を何としても説き伏せて(そのためにどんな世論による圧力をかけてもかまわない。なぜなら、彼らにも最終的には利益になるのだから)、統一の「指導マニュアル」「指導者ライセンス制度」を制定すべきである。中学生以下の「シニア・ジュニアユース」世代については、あまりにも利権が入り乱れすぎており、プロ野球、学生野球、社会人野球の管轄下で、新しい全国組織を作るべきだ。
そうした体制の下で、次の施策を至急実行してもらいたい。

①統一指導マニュアルの導入 
これはたとえばスキー界における「全日本スキー教程」のようなものだと考えてもらえばいい。つまり、科学的・合理的理論に基づいた選手への指導法・育成法を野球規則委員会のもとで作成し、ベースボールに携わるすべての組織、チーム、企業、学校、指導者、選手、フロントがこれを遵守することを義務付けるのだ。もちろん、カービングスキーの登場で「シュテムターン」が「スキー教程」から削除されたように、時代の変化に応じて、内容は柔軟に変更されなければならない。
②段階的指導者ライセンス制度の導入 
1.ジュニアユースレベル(小・中学生) 2.ユース・カレッジ&シニアレベル(高校生・大学生・社会人) 3.プロフェッショナルb.(ファームの監督・コーチ、一軍のコーチ、ユース・カレッジ&シニアレベルとプロ二軍レベルの代表チーム監督) 4.プロフェッショナルS級(クラブチーム、フル代表の監督)に分類して、講習及び試験を実施して、合格した者にライセンスを支給。野球の指導者になるすべての人間は、ライセンスがなければ教えられない制度を導入する。高野連がプロ経験者のみに定めている「監督就任には教職経験2年以上必要」の差別条項(これは訴訟の対象にもなりうるのではないか?)と、逆にアマならば誰でもなりたい放題、近所の野球好きのオッサンでもOKという(極論すればそういうことになる)バカな規定は即刻廃止する。
③「強化委員会」「普及委員会」の組織化
1.各レベルの競技レベルと代表チーム育成強化のため「強化委員会」を組織し、専任の委員長と各委員、及び各代表監督とコーチを置く。
2.ベースボールの幅広い年齢層での普及発展を図るため、「普及委員会」を組織。少年野球の指導のほか、女子野球シニア野球、軟式野球の普及発展プログラムを立案・実行するほか、野球のできる場所を確保する活動を展開する。
3.審判学校の設立
④「日本ベースボール協会」設立準備委員会の立ち上げ
日本プロ野球機構、日本野球連盟、日本学生野球協会が合同で設立し、近い将来の統一組織化へ向けての活動を行なう。そのシンボルとして「代表チームの強化」「国際大会での好成績」が目的としてあれば、松井が代表チームに参加するモチベーションを高めるのは確かだろう。松井は、「目的の見えない代表チーム」に参加する意義を感じていないのだ。

シドニーへのプロ選手派遣問題から、プロ野球もアマ野球もただただ「メダル」のみしか頭になく(それもきちんと結果につながらず)、何のために代表チームを作り、国際大会での好成績を目指すのかという視点が欠如していた日本サッカー協会がJSLをプロのJリーグに発展させたのは、「フル代表を強化してワールドカップに出場、好成績を収めて、それをもってサッカーの普及・発展を図る」のが目的だった。だからこそ、プロ化して5年にしてW杯初出場、9年目には決勝トーナメント進出、12年目には予選トップでの3続W杯出場を果たせたのである。

また、将来の少子化に向けて、サッカー協会は早くも「女性」「シニア層」での競技人口増加に着手しているが、野球界にそんな動きは皆無である。それどころか、高野連などはプロ野球でさえ差別条項を撤廃した女子選手の登録を依然として拒否しているばかりか、数年前までは甲子園での女子生徒マネージャーのベンチ入りさえ認めていなかった。かと言って、男子とは別に女子の全国大会を作る動きがあるわけでもない。全国には、男子に混じって練習だけの野球部活動を行なっている女子の高校球児が少なからずいるのに、高野連はそれを無視し続けている。

そもそも、日本野球界の為政者たち、そしてファンは、なぜ野茂英雄やイチロー、松井秀喜がメジャーリーグに新天地を求めたのかをもう一度考えるべきであろう。彼らはプロもアマも内輪の既得権を守ることばかり考え、組織も競技も選手もそしてメディアやファンのレベルアップも進まない日本野球に愛想をつかして海を渡ったのである。そうした人材の流出があっても、依然として日本球界の旧態依然振りは変わらない。プロ野球OBの自称大物が、「イチローや松井は日本の野球界に世話になったんだから、給料の1割を還元しろ」などとパーティーの席で公言するのは、何をかいわんやである(「オヤブン」が人の稼ぎの上前ハネるようなコト言っちゃいけません。あ、オヤブンだからハネるのか=笑)。こういう考えがはびこる日本野球のために松井がWBCに出場すると言ったなら、私は逆に不出場を勧めたであろう。

多くのサラリーや名誉を手にしたメジャーのトッププロを代表チームに加えるためには、球界側がこれほどの改革を断行する必要があるのだ。もし、松井を「非国民」「裏切り者」呼ばわりする連中がいたら、私は徹底的に彼らを糾弾することを躊躇するものではない!

上田龍公式ウエブサイト「Ryo's Baseball Cafe American」
http://www.k2.dion.ne.jp/~ryoscafe/
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