(この本もいまとなっては売れた理由がよくわからないベストセラーだった……)
♪ボ~ルパークに残飯が舞う。そのとき、無数の カモメがと~ん~だぁ~
先日、タイガースのジャスティン・バーランダーがノーヒットノーランを達成した試合もそうだったが、最近メジャーの試合で、やたらグラウンドにカモメの「闖入」が目立っている。特にデトロイト、クリーブランド、シカゴなど五大湖沿岸の球場でカモメの飛来が多いようだ。
カモメで思い出すのは、1983年8月4日、ブルージェイズの本拠地だったトロントのエキシビションスタジアムで、当時ヤンキースに在籍していたデイブ・ウィンフィールドが外野でキャッチボール中に、投げたボールが飛んできたカモメを直撃して即死させ、試合後、動物虐待容疑で一時警察に拘留された事件であるもちろん不可抗力として即時釈放されたが、この際のウィンフィールドの声明が実に傑作である。Wikipediaから引用する。
「カナダ国民が名もなき一羽の鳥を失ったことに対して深い悲しみと追悼の意を捧げる」
当然、その後トロントにやってくるたびに、ウィンフィールドはスタンドから大ブーイングを浴びたが、1992年にブルージェイズに移籍し、ワールドシリーズ制覇に貢献してからは、一転して地元の英雄として崇め奉られる存在になった。
カモメが球場にやってくるのは、おそらく球場内に落ちている残飯などが目当てであろう。姿が美しいし、日本では童謡「かもめの水兵さん」の効果でいいイメージもあるが、カモメという鳥はカラス以上に食い物にいやしく、とにかく飲み込んで胃で消化できるものならなんでも食ってしまう。上野の不忍池や上野動物園の水鳥飼育エリアなどでは、カモメがペンギンのエサを強奪する光景は日常茶飯事だし、海辺や川べりに生息する野鳥の最大の天敵も、カラスと並んでこのカモメである。
そんな生態のためか、これまでメジャーリーグのみならず、北米4大プロスポーツで、「Seagulls」もしくは「Gulls」を名乗ったチームはおよそ聞いたことがない(日本では千葉ロッテがペットマークに使っているが)。英和辞典を引いてみると、「seagull」にはカモメ以外に俗語として「港の売春婦」を意味する言葉として用いられることがあるという。ウ~ン、これはかつてのボルティモア(ベーブ・ルースが幼少期を過ごした当時の。詳しく知りたい人はルースの自伝などを読んでみてください)の雰囲気ならむしろはまりすぎかもしれない。むしろ「Seagull」があまりにも当時のボルティモアの雰囲気に合いすぎていたので、Oriole(ムク鳥)を選んだのだろうか(笑)。
実は、日本の読売ジャイアンツ(東京巨人軍)のニックネーム命名にも似たようなエピソードがある。当初、チームのニックネームとして考えられていたのは、「勝ち虫」として縁起のいい昆虫とされていた「蜻蛉(トンボ)」で、「蜻蛉軍」、英語名でDragonfliesが考えられていたという。実際、球団創立当時の公式レターヘッド(便箋)などにはトンボのマークが印刷されている。 ところが英語のdragonflyは「サギ師」「ペテン師」などを意味するスラングで使われていることが判明し、またいかにも長ったらしいということで却下、もしくは立ち消えになり、その後、大日本東京野球倶楽部が第1回のアメリカ遠征を行なった際、ビジネスマネージャーの鈴木惣太郎氏がレフティー・オドゥールの進言を受けて「東京ジャイアンツ」を選んだという経緯がある(もちろん、その後「トンボ・ユニオンズ」が生まれ、ジャイアンツOBのスタルヒンが現役生活の最後を過ごしたたのはまったくの偶然なのだが)。
そういえば、南海が戦後のプロ野球再開時に名乗った「グレートリング」のニックネームも、親会社である鉄道の車輪を意味していたつもりだったのが、とんでもない理由で進駐軍の兵士にバカ受けし、その理由がわかると、翌年から「南海ホークス」に改名したという経緯がある。メジャーにもちょっと前まで「Expos」なんてまったく複数形になる理由がわからないニックネームもあったし……。
まあ英語に限らず、どんな言葉にも、スラングとか裏の意味が付きまとうことはあるのだが、長い歴史を誇るメジャーリーグにおいてももあまり使われていないニックネームには、「それなりの意味」があると推理して、厚めの英和辞典、英英辞典を調べてみるのは、けっこういい暇つぶしになるかもしれないですね。
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