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“まるで銀幕から抜け出してきたような!”
今日はこの台詞がぴたりと嵌る。紳士の夏服は斯くあるべし。“新”を愛でた前回の着こなしから一転、今回は“古”を尊ぶクラシックスタイル。忘れてはならない。“着こなしのフィールド”を端から端まで目一杯使うのが“白井流”なのだ。
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屋外で白井さんの撮影をしていると、馬車道を行き交う人々の中には、白井さんの着こなしに興味を惹かれて足を止める方が毎回必ず居る。今回は特に多かった。足を止める程ではないにしても大抵の人は白井さんに視線を送らずにはいられないようだ。“判る人にも判らない人にも判る”これも“白井流”だ。
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軽やかなライトグレーのダブルブレスト・スーツはチェーザレ・アットリー二(伊)のス・ミズーラ。遠目一本のストライプだが、非常に細かなピンストライプ2本一対が狭い間隔で走っており、尚且つその間隔が、狭い→やや狭い→狭い→やや狭い、と一対ずつで交互に変わり、まるで“服地”という平面上に“ゆらぎ”を感じさせるかのような視覚効果がある。見る人に涼やかな印象を与えるまことに見事な夏服である。
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スーツばかりではない。小物も涼やかな印象作りに一役買っている。
フレンチカフのシャツはシャルベ(仏)。普段お召しのものよりは若干襟が小さめだそうだ。今日はボウタイ効果で胸襟が大きく開きシャツの白が一段と際立つ。袖口には表が角型、裏が丸型のゴールドのカフリンクスが華を添えている。
ブルー・ブラック・イエローのレジメンタル・レップの蝶ネクタイは非常にクラシックな逸品。
『これは古いね~(笑)。恐らくブルックス(ブラザース)かリベッツ・オブ・ボストンのものだと思うよ。ある人からのいただきものなんだよ。』
世の中は広いもので、白井さんに服飾のプレゼントをされる方がいらっしゃるのだ!その方もやはり非常な洒落者だそうだ・・・当たり前か(苦笑)。
いずれの品も“涼”を念頭に置かれての選択であろう。
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足元を軽やかに演出するのは、アレンエドモンズ(米)のウィングティップ・コンビネーション。控え目な表情ながらこちらもチャーチのコンビネーションに劣らぬ逸品だ。
これは以前、うっかり書き忘れてしまったことなのだが、白井さんは、通常見えるように並べて保管している他の靴とは違い、チャーチのホワイトバックスなどの夏場に使う所謂“白い靴”は、焼けによる変色を防ぐため、オフシーズンは箱に入れて仕舞っておき、シーズン前になると箱から出すようにされているとのこと。
そして、完璧なコーディネートの最後のワンピースはジェームズ・ロック(英)のパナマ帽だ。
白井さんは冬場のコートスタイルにはほぼ100%帽子を戴くが、夏場はそうでもない、と伺っていた。だが、やはりというか当然よくお似合いであるし、パナマ初登場ということもあってすっかり興奮した私はついうっかり詳しいお話も伺い忘れ、尚且つアップの写真も撮り忘れてしまうという体たらく(汗)。でもまあ、トップの大きな写真などはかなり良い画が撮れたと自負もしている。
私が勝手に調べたところ、今日の帽子は“オプティモ”もしくは“筋入り”などと呼ばれる形だそうで、パナマとしては“中折れ”よりも更にクラシックなスタイルなのだとか。やはり今日の着こなしのテーマは“古(いにしえ)”で決まりのようだ(笑)。
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ここで余談。
今日は珍しくいただきものの蝶タイをされていたが、白井さんはこれまで実に多くの品を人に“あげちゃって”いるそうだ。それはこのブログの取材を通じて知ったことだが、お話を伺っているといったいどれだけの品数が白井さんの頭上を、傍らを、前を、足元を通り過ぎていったのか?それはそれは見当もつかないくらいの膨大な数と思われ、当然私のごとき未熟者には、それら通り過ぎて行った品々から得た多くの経験が白井さんの血肉になっているとは理解しつつも、
“何故あげちゃうんですか?”
という疑問が浮かんでくる。もちろん考えても栓なきこととは重々承知しつつも、以下は私の勝手な憶測だが、その疑問についてはこれ!といった明確な理由は無いのではないか?と思っている。白井さんは買うときも“直感”なら、手放すときも“直感”なのではないのかしら?・・・と、なんとなく(ずいぶん無責任ながら)そう思うのだ。
白井さんはご自身を“コレクターではない”と仰っている。
ワードローブはご自分の“感覚”に沿うものでなければならないし、不変の美学あればこそ常に“変化”するものであり、品数の多寡は二の次(程度の問題はあるが)、と思われているような気も(これまたずいぶん無責任ながら)するのだ。
誤解を招く物言いをしてしまった。以上はあくまでも全て私の勝手な憶測であり、素人の手前勝手な“独り言”と思し召しいただきたい。こればかりは白井さん以外の誰にもわからない“超々高度な問題”。これまでよりも更に奥深い領域に踏み込んだテーマであることは間違いない。私がもう少し大人になったら伺ってみたいと思う。手前味噌で恐縮だが、今はもう少し、黙ってこれらの素晴らしいポートレートを眺めるのが良いのだろう。