ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

天神山と信濃屋

2010-02-19 21:17:14 | お気に入り
 

 白井さんの着こなしを楽しみにしていた諸兄には大変申し訳ありませんが、前回お知らせしていた通り今週木曜日の“白井さん”撮影はお休み。ならば今日は箸休めとして、次第に去り行こうとしている冬を惜しみつつ、今シーズン新たに私のワードローブに加わった服をアップしてみたいと思います。

 毎度お馴染みの銀座天神山さんでお願いしたダイヤゴナルのジャケットです。



 しっとりとした肌触りと英国風カントリーテイストの微妙な枯れ芝色の生地は、カルロ・バルベラ(伊)のウールにカシミア5%混紡のダイヤゴナル柄。シングルブレスト3ボタン段返り、バルカの胸ポケット、腰ポケットはフラップでややスラント、チェンジポケット付き、サイドベンツ、袖のボタンはやや重ねて4つ。

    

 今回も、天神山さんの幾つかあるモデルの中の一つ“CRCS(カラチェニ)”モデル。ナチュラルショルダー、広めの肩幅、ゆったりとした肩周り、緩やかな弧を描く大き目のラペルが特徴で、私のガッチリした体型に最も合っている愛すべきモデルです。

 コーディネートは、生成り色のBDシャツにチェックのウールタイを締め、インナーに前開きの黄色いニットベスト、深めのグリーンのシルクチーフを挿し、パンツはグレーフランネル、靴は明るい茶のスウェード・セミブローグ、で纏めてみました。ネクタイ・ニットベスト・ポケットチーフは私の私物で、その他は天神山さんにお借りしました。特に靴は、いつもお馴染みの天神山Iさんが信濃屋さんに在籍されていた頃から培ってきた拘りが随所に鏤められている天神山オリジナルの力作。今回のコーディネートに華を添えていただいた形となり感謝感謝です。

 

 さて、斜め一方向に走るはっきりとした綾目が特徴のこのダイヤゴナル柄のジャケット。購入に至る経緯にはちょっとしたエピソードがありました。

 このジャケットが今秋冬シーズンのおすすめとして天神山さんのブログに登場したのが昨年の7月。私もIさんから強くおすすめしていただいたのですが、その時は正直言って、“なんか地味ぃ~な色”、それから“なんかヘンテコリンな柄”という印象しかなく、特に気になったのが襟に走るダイヤゴナルの綾目の角度が左右の襟で違う点でした。私は思ったことがはっきり顔に出る未熟者なので判り易かったのでしょう、その後Iさんからこの生地をお薦めして頂くことはありませんでした。

 それから数ヶ月が過ぎ、12月になってこのブログのカテゴリー“白井さん”の撮影を始めた頃のことです。告白しますが、実はこのカテゴリーの1回目と2回目の間には“幻の回”が存在していました。何故“幻の回”なのかというと、なんと私がデジカメのバッテリーを忘れてしまい撮影ができなかったからなのです。今思い返しても赤面するほど恥ずかしく、白井さんには無礼千万なビッグミステイクでした。ただ、幸いにもその日は、白井さんがたまたまコンパクト・デジカメを、最近撮影された写真を現像する為に持参されていて、それをお借りして撮影させていただいた秘蔵の2枚があります。後日データを分けていただきこっそり保管していましたが、それがこちら!ジャン!

 

 この日の私は唯々恐縮の体で頭の中は真っ白、小さくなってシャッターを切り、メモも執り忘れ記憶が定かではないのですが、ダブルブレストのチョークストライプ・フランネルスーツ(伊、A・カラチェニ製)に千鳥格子のタイという渋い装いながら、足元には敢えてチャーチのコンビネーションを軽やかに合わせるという超ハイグレードな着こなしでした。くぅ~今もって口惜しい記憶ですが、そのお陰というと変な言い方になりますが、その時、白井さんのデジカメの中に収められていた写真を何枚か拝見させていただきました。それは白井さんがご家族の皆様と馬車道のリストランテで食事会をされたとき写真だったのですが、その実に楽しげで穏やかな雰囲気の中、白井さんがお召しになっていたジャケットが、なんと今日のダイヤゴナルと瓜二つだったのです!

 ご家族での食事会ですからそんなに気張る必要はありません。白井さんはジャケットの色を拾ったスカーフをさらりと襟元にあしらってアクセントにし、私が第一印象で“地味ぃ~”と捉えたこのジャケットを使って“大人の男の休日スタイル”をものの見事に演出されていました。“なるほど!あのジャケットはこういう風に着こなすものだったのか!”・・・まさに目から鱗の瞬間でした。ただ“細かいことが気になるのが僕の悪い癖(杉下右京風)”。ラペルの綾目の角度の違いだけはどうしても気になったので、その点を白井さんに伺うと、『あれはそういうもの。あれが自然な形。』という明快なお答え。私がその日直ぐに天神山さんに電話をして在庫の確認をしたのは言うまでもありません。

 このダイヤゴナルのジャケットは、私に服選びと着こなしの奥深さを教えてくれた大切な一着になりました。

  

 さて、今更改まって言うのも些か気恥ずかしいのですが、私が紳士服の魅力に目覚めたのは数年前の天神山さんとの出会いがきっかけでした。以来、私の体型に合わせて少しずつ補正を重ね、今日のダイヤゴナルで天神山製は全てマシンメイド(天神山さんではマシンメイドとハンドメイドの両方扱っています)のジャケットで都合9着目となりました。今はその9着を、まだまだお恥ずかしい着数ながら、なんとかやり繰りして私なりに着こなしを楽しんでいます。

 もちろん、それ以前にも必要に迫られてスーツやジャケットを何着か揃えてはいましたが、今それらは完全に箪笥の肥しになっています。それがあまり良いことでないのは分かってはいるのですが、天神山さんのジャケットと比べると素人の私でもはっきり判るくらい、その着心地とプロポーションの差は歴然としていて、以前の服にはとても袖を通す気にはなれません。もう一つ、私は極端に幅が広いイカリ肩なので、以前の既製服では首の後ろに所謂“ツキ皺”が出てしまいます。ですから、天神山さんに出会ってからは、街で見かけた服がどんなに素晴らしいものであっても、それが既製服である以上、私にとっては手の届かない服でしかありませんでした。例えそれが信濃屋さんのウィンドウに飾られた一目惚れするほどの素敵な服だったとしても・・・。

  

 記念すべき10着目は、今まで指を咥えて見ているしかなかった憧れの信濃屋さんの既製服。信濃屋流を志してからは初めてのスーツ、そして憧れの伊ダリオ・ザファーニ(セントアンドリュース製)、初めてのハンドメイド服です。

   

 肩幅と襟幅が広めでゴージ、ボタン位置があまり高くないオーソドックスなスタイルを強く押し出したシングルブレスト3ボタン段返り、控えめにほんの少しだけバルカの胸ポケット、腰ポケットはフラップ、チェンジポケット付き、サイドベンツ、小さめの袖のボタンはやや重ねて4つ。パンツは渡り幅と股上をゆったり目にとり、当然ツープリーツ(これも初)でサスペンダー釦付き、信濃屋テイスト溢れる完全別注の逸品です。

 コーディネートは、白抜きのクレリックのピンホールシャツ(これは信濃屋さんでお借りしました。)に、白井さんに頂いた虎の子のルチアーノ・バルベラのレジメンタルストライプ、迷った時は白い麻のポケットチーフ、真っ赤なサスペンダー(これもお借りしたもの)、靴は信濃屋オリジナルのUチップ。

 白井さんが『色が良いんだよこれは。』と仰っていましたが、私がまず最初に魅かれたのもこの服の色でした。柔らかい茶色のグレンチェック柄に淡いベージュのペインが入った大人しく品のある色。まさか最初に買うスーツが茶のグレンチェックになるとは予測もしていませんでしたが、良い服との出会いはこういうものなのかもしれません。

 次に魅かれたのは、素人の私がこんなことを言うのは憚りながら、その秀逸なパターン。10年後20年後も決して色褪せることは無いであろう普遍的なフォルム。何処に着て行っても恥ずかしくない服。英国的な雰囲気の服作りを信条とするセントアンドリュースと、真の大人の男の服を提案し続けている信濃屋さん、その両者のコラボレートの面目躍如といった観があります。また決定打となったのは信濃屋さんで初めてちゃんと“肩が入った”ことでした。

 

 先月末のある日のことでした。実は白井さんの撮影の日はそれに集中するため、なかなか自分の買い物はできないもの。そんな訳で、私は撮影日を外して信濃屋さんを訪れたことがありました。私は小物を中心に久しぶりにゆっくりと買い物を堪能していました。上述の理由もあって、私は今まで一度も信濃屋さんで服を買ったことは無かったのですが、その日はたまたま他のお客様もいらっしゃらなかったので、どうせ着られないけど試すだけならと、いつも私のお相手をしてくださる牧島さんといろんな上着を着比べて遊んでいました(笑)。

 そのとき、以前から“綺麗な服だな~。あんな服が着れたら良いのにな~。”と思っていたこの服に何気なく袖を通してみたところ、“カポッ”と肩が綺麗に収まったのです。“既製服の肩が綺麗に収まる”そんな経験は初めてだったので驚きました。肩が嵌ったのはセントアンドリュースのパターンの素晴らしさが一因だったのは言うまでもありませんが、実は私の体重が、昨年末に白井さんの撮影を始めてから6kg落ちていたことも理由の一つだったのかもしれません。これは心労が祟って、という訳ではなく(笑)、上手く言えませんが、“気引き締まって身も引き締まる”とでも云いますか、白井さんの着こなしを見続けることによって私の中の何らかの“意識”が変ってきたことによるものでした。ただ、私などには分不相応な服であるのは変りません。それからも白井さんの目を盗んでは(笑)この服を羽織って一人悦に入っていたのですが、遂に白井さんの目にするところとなり敢え無く“御用”。この服との巡り合せも白井さんが導いてくれたもの、と観念して今日に至りました。

 私には10年早い服かもしれませんが、着こなせた時の喜びは如何ばかりかと胸躍ります。

 最後に、天神山のIさん、信濃屋の牧島さん、撮影ご協力ありがとうございました。今日も何だかんだで白井さんに持っていかれた観がありますが、そうは言ってもお二人の介添えが無ければ今回のアップは存在しませんし、今日私のワードローブが、余計な回り道をせず最短距離で充実できているのもお二人の日頃のアドヴァイスあったればこそ。本当に感謝しています。ありがとうございました。


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