ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

チョークストライプのフランネルスーツ&ヘリンボーンツイードのコート

2010-01-08 13:16:26 | 白井さん
 “七草をゆるり過ごすは夢の中”

 正月休みと流行りモノはあっという間に過ぎてしまうのが世の常で、松の内が明ける頃には街を往く人の足取りの早さもすっかり日常のそれを取り戻しますが、ただ今年の私に限って云えばこれほど休み明けが待ち遠しかった年はありませんでした。往来せわしい横浜は馬車道を私は誰にも負けない速足で信濃屋さんへと向かいました。改めまして、皆様今年も宜しくお願い致します。

  

 さて、早速2010年最初の“白井さん”はどんな装いを・・・以前、このブログではお馴染みの銀座・天神山の店長Iさんはそのブログ上でご自身の仕事始めのスタイルをビシッとダークスーツでご披露されていたので、もしかしたらIさんのお師匠である白井さんもダークスーツかな?なんて想像していたのですが見事正解でした。斯く謂う私も年頭にあたって、昨年末に“さる方”からプレゼントして頂いた“取って置きの虎の子”のネクタイを締めて臨みました。

 『お!良いネクタイしてるね~笑!』と白井さん。

 『ありがとうございます。昨年末に“さる方”から頂戴したものなんです笑。』と私。

 “さる方”は目の前にいらっしゃるその人。私の“取って置きの虎の子”は白井さんから初めて、そして思いもかけず戴いた白井さん私物の青みがかった菫色が鮮やかなの古いバルベラのレジメンタルストライプのタイでした。実は元旦のアップでちらっとご紹介済みだったのですが、あまりに嬉し過ぎてこれ以上はとても書けません(照)。

 前置きが長くなり申し訳ありません汗。こんな遣り取りから2010年はスタート。白井さんの仕事始めはチョークストライプのフランネルスーツ、そしてコートはヘリンボーンツィードです。

  

 96年に“A CARACENI(ア カラチェーニ)"で仕立てたチャコールグレイにチョークストライプ(因みに『蝋石縞・・・な~んて、そんなこと言っても他所じゃ通じないよ。蝋石知ってる?』と仰っていました汗。もちろん知ってますよ蝋石笑)の入ったフランネル素材のダブルブレスト・スリーピース。同じカラチェーニといっても何種類かあるようで、私はあまり詳しくないのですが、白井さんは『ア!カラ。ア!カラ。』と“A(ア)”の部分を強調して連呼されていましたので余程特別な品のようです汗。プレーンな白シャツにタイは古いバルベラのもの。“迷ったときは白!”(この格言は以前白井さんから教えていただきましたが、この日白井さんが迷ったか狙ったかは定かではありません)の格言かチーフは白を挿し、足元は『何にでも合わせ易く履き心地がとても気に入っていて、新橋の大塚製靴でオールソールリペアしてもらったくらい。』と仰る伊シルヴァーノ・ラッタンツィ製のスウェードの一文字にソックスはチョークストライプの色と合わせてかライトグレーのソッツィ(伊)、という着こなし。

 ここで少し余談・・・靴の撮影のとき『以前白井さんにお話した、靴をいっぱいお持ちで私のブログにコメントを下さる方が、昨年のサクソンのスウェードシューズを内側からの撮影した写真が良かったとお褒め下さったんですよ。』と私が言うと、『ああ、昔のフローシャイムをいっぱいお持ちの方?』と白井さんはよく憶えていて下さり、そう言いつつ靴の内側を。私が『その方は昔、元町で初めて白井さんにフィッティングして頂いたボストニアンのコードヴァン・・・』と言いかけたところですかさず白井さんが『サドル?ああ~あれかぁ』と懐かしそうに思い出され、『そうですそうです。そのサドルは今でも大切な思い出の品なんですって。』と言った私の言葉に白井さんは『そうですか。宜しくお伝えください。』と仰っていました。という訳で“おじおじさん”!、お伝えいたしましたよ笑。



 この日も白井さんは舌好調!始まりはこの日お召しになっていたシャツのお話。『イタリーの○○○○○(有名シャツ屋さん)で採寸して作らせたんだけど、襟がぴろっと外に撥ねちゃうし、着心地は悪いし、袖は短いし、おまけに値段は高いし・・・マッタク・・・』と憤懣やるかたないといったご様子。私は『だったらお召しにならなければ・・・汗』と心の中で呟きつつも、そんなところもまた“白井流”なのか!(考えすぎか)と心のメモに書き留めました。白井さんが“とっても良い人だよ~”と仰る某国民的時代劇ドラマの大スターと競馬観戦されたお話。デビュー前横浜で活動されていた宇崎竜堂さんが阿木耀子さんと挙げられたささやかな披露宴の思い出。“ブルースウェードシューズ”はエルビス・プレスリーで有名だけど、元はカール・パーキンスの曲。だから信濃屋オリジナルのブルースウェードシューズには“パーキンス”と名付けたというちょっとマニアックな話。逆に、白井さん愛用のコロンのことや、懐にいつも忍ばせて(白井さんの上着の内ポケットはいつも何かでいっぱいいっぱいな状態です笑)いるクラシックな柄模様の表紙と質の良さそうな紙を使っているメモ帳のことを私から質問させていただいたり、とお話は尽きません笑。そんな中、白井さんが不意に『あの袋、コヴァ?』と何やら思い出したご様子。コヴァ(COVA)とは伊ミラノの目抜き通りモンテナポレオーネで古くから営まれているカフェの名で、日本では数年前に新宿の高島屋にコヴァ・ジャパンが出店。私は職場が近いので、ときたま平日の午後などすいている時を狙ってはエスプレッソをちびりちびりと啜っていて、白井さんが不意に思い出されたのはこの日私がお年始に皆さんでと想いたち新宿で求め、先に信濃屋のスタッフの方にそっとお渡ししたお菓子の紙袋についてでした。さてもしてやったり哉、さすがは白井さん僅かな瞬間を見逃しません。実は昨年末のティンカーティのお話を受け、珈琲と甘いものが大好きな白井さんならきっとコヴァもご存知だろうなと思い敢えて狙わせていただきました。ただし私がお持ちしたのは申し訳程度の一番小さい包み(何せ値が張るものですから苦笑)。でも『へえ~日本にもコヴァがあるんだね。ミラノで買ってきたのかと思ったよ。』と白井さんもちょっとびっくりのご様子でした。もちろんその後のおしゃべりが白井さんのミラノの思い出から再スタートしたことは言うまでもありません。余計な話ですがつい嬉しくて書かせていただきました。

  

 というわけで白井さんとの貴重なお時間の98%は実はいつもこんな具合で、ついついお話に夢中になってしまい特に今回はちょっと写真は少なめ・・・涙。ただ、『もっといっぱい撮ればよかった~』と嘆いていた私に、いつもお相手くださる信濃屋さんのベテランスタッフMさんが『○○くんのブログらしくて良いじゃないですか笑』と優しくフォローしてくださり有難い限りでした。そうそう、それもまた楽しからずや、ですから笑。

   

 楽しい時が過ぎるのは早いもの。この日のお帰りは80年代のルチアーノ・バルベラ製のツイードコート。シングルブレスト、ターンナップカフ、フレームドパッチポケット、ディープセンターベント、微妙な色合いの大きなヘリンボーン柄が一際目を惹くラグランスリーブコートは当時たった4着のみの扱いで、あっという間に売り切れた(うち一着は白井さん所有・・・汗)という幻の名品。信濃屋さんではそういった例が実に多いらしく、特に良品をお求めの方は当の白井さんが最大のライバル!『これは良い!と思えば値札も見ないで買っちゃうよ。』そう公言する白井さんが相手です。うかうかしてチャンスを逃せばもう二度とお目にかかれないといったことになるそうです。お手元はお馴染みのステッキとエルメスのペッカリーグローブは前回と色違い(確かライニング無しか)。

 

 昨今のボルサリーノではまずあり得ない、ぶ厚いフェルトに長い毛足と美しい毛並。『こんなの今ではなかなか無いよ。』と白井さんが仰る昔々の帽子はそのボルサリーノ製のファー・ラビット。『ゴッドファーザーⅡ』でやくざが被っていた帽子の色、リチャード・ギアが『コットンクラブ』のラストシーンで、このブログで以前ご紹介した白井さんがお持ちのものと同じ帽子を被っていたことなど、お帰りの間際までお話は尽きず、やはり白井さんにとって帽子は重要なアイテムのようです。更にこの日のマフラーはかつて信濃屋さんで扱っていた日本製のもの。穏やかな黄色が印象的なカシミア糸を実に目の細かいガーゼ織りでふわっと柔らかく仕立てた、こちらも今では手に入らない幻の一枚は白井さんも殊にお気に入りなのだとか。

 前述のMさんは、『白井さんは、現代ではあり得ない質の高い品々がちゃんとあって、洒落者と呼ばれる人々がそれらを見、手にし、愛用していた時代を知っている人。今の人が追いつくのはなかなか至難の業ですよ。』と仰っていました。半生を最も身近で白井さんを見てきたMさん。その言葉の重みには私如き俄仕込みが千万言を費やしてもその足元にすら及びません。馬車道店頭ウィンドウのディスプレイをご担当されているMさんとは、春物一番窓を是非一枚撮らせいただけるようお願いもしましたのでお楽しみに。

 

 さて、最後にまたまた余談ですが、この日は私、お休み前ということもあり、疲れた体を癒すため、信濃屋さんのごく近所にある、以前このブログでもご紹介し、昨年末のクリスマスパーティーでもお世話になったイタリアン『パネ・エ・ヴィーノ』へ撮影後ちょっと寄り道。お気に入りのパスタ・ボロネーゼを食しつつ、いつもお相手くださる店長のKさんとの話題はここでもやはり信濃屋さんや白井さんについて笑。Kさんはかつて帝国ホテル内の数あるレストラン、レ・セゾンやラ・ブラスリーはもちろん大阪・上高地まで、の全てをご経験された大変優れたカメリエーレ=給仕長さんで、いつも鮮やかな手際で、あくまでもスマートに、でもちょっとおとぼけなサービスを魅せてくれます。内外のホテルにもお詳しいKさんは白井さんともお話が合うのでしょうか、『白井さんはいつも最高のホテルにお泊りになられていますよ。』との情報もこっそり教えていただきました。因みに前述の素敵なメモ帳は白井さんがフィレンツェの5星ホテルでゲットされたものでした。

 信濃屋さんのスタッフのお一人で、大きな外国人の中に混じっても見劣りしないほどの美丈夫であるYさんは、外見とは対照的に柔らかい物腰が魅力的な方。でも『いつも前菜、パスタもすっ飛ばしていきなり肉料理を召し上がるんです。』(Kさん談)という元高校球児のYさんはやはり体躯同様実はワイルドな方ということが判明。因みに白井さんも肉料理が大好物。一時体調を崩されていた白井さんですが、最近は食も戻り以前と変わらぬ元気を取り戻していらっしゃるようです、とKさんは安堵したご様子でした。

 元気といえばKさんは更にこんなエピソードを。昨年のある昼時、いつものようにランチを召し上がっていた白井さんの隣のテーブルのOL風の女性が食後のお化粧直しをその場で開始。白井さんはそれを見るとやにわにその無作法ぶりを一喝!!店内に居た白井さん以外の全ての人にとっては正に青天の霹靂。辺りがシーンと静まり返る中、初めはその女性も負けじと白井さんをキッと睨み返したそうですが、残念ながら最後は『負けちゃってました。』(Kさん談)とか。何せあのいでたちの紳士が泰然自若としてずんと座って構えているのですから如何な無法の徒も敵いませんでしょう。焼ける前(戦前という意味だそうです=白井さん談)にお生まれになった漢こそ畏るべし。相手が悪かったですね、とその女性には聊か同情いたしますが、『お食事は食堂で お化粧直しは化粧室で』こんな標語が頭に浮かぶ、近年稀に見る痛快なエピソードを聞かせていただきました笑。