丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

最良の伴侶 ~ショートSF~

2008年07月03日 | 作り話
 そろそろ結婚しなくちゃいけない。ユリアがそう思ったのも無理はない。そろそろ三十歳が近くなってきた。それほど結婚願望が強い方ではないけれど、子供は産みたい。死ぬまで一人っていうのはやっぱり寂しいような気がする。そうだな、やっぱり結婚しよう。
 ユリアは結婚相談所へ登録する事にした。昔は恋愛結婚が主流だったようだが、最近はそんな賭けみたいな事はしないのだ。理想の相手を探して、理想の子供を産む。そのためにはしっかりと調査して、確実に相手を見つけなければならない。
 それから一週間して、結婚相談所からパソコンにメールが入った。添付ファイルにはユリアのパートナー候補のデータが入っていた。
「この人は、どうかしら。背も高いし、体格も悪くない。……でもちょっと顔が好みじゃないなぁ。あ、この人は? 見た目はバッチリじゃない~? ……でも、ちょおおおっと、IQがねぇ……」
 ユリアはあれこれ悩みながらデータに目を通す。
 十人目のデータを開けた時、ユリアの心臓がキュンっとなった。
「この人よ! この人こそ、理想のパートナーだわ!!」
 ユリアはドキドキしながら結婚相談所にメールを送る。

 メールを送ってから初めての週末。ユリアは朝からソワソワしながら家の掃除に励んでいた。隅から隅まで掃除機をかけて、床を磨き上げる。台所もぴかぴかに磨き上げて、お料理の準備もばっちり。そして、……ベッドのシーツも新品に換えた。
「ああ、ドキドキする」
 ユリアは自分を落ち着かせるためにハーブティーを入れた。それをゆっくり飲んでいると、少し心臓の高鳴りが収まってくるような気がする。
 その時、インターホンが鳴った。
 ユリアは飛び上がり、玄関に向かってダッシュした。勢い込んで扉を開ける。
「こんにちは。結婚相談所から参りました、タツヤと申します。ユリアさん……ですよね?」
「は、はい!」
 ユリアは目の前に立っている青年をぽ~っと見つめた。すらりと高い身長、ごつくはないけれどしっかりした肩幅と胸板。長い足。黒い髪に黒い瞳。そして少し幼さの残る、優しい、整った顔立ち。
「入らせていただいて、よろしいですか?」
 耳に染みるような柔らかい声。ユリアは赤面しながら頷いた。
「ど、どうぞ」
 タツヤは礼儀正しく中に入り、ユリアが用意したテーブルに着く。ユリアもドキドキしながらタツヤの前に座った。
 小さなテーブルを挟んで、理想の男性と二人きり……。ああ、神様、どうしよう。心臓がドキドキして、今にも口から出てきそうよ。
「改めまして、今回は僕を選んで下さって、どうもありがとうございます。既に相談所から説明があったかとは思いますが、これから一週間はお試し期間となっております。僕が本当に貴女のパートナーに相応しいか、充分に検討してください。お気に召さない場合は、いつでも返却OKです。」
「返却なんて、そんな……」
 ユリアは慌てて頭を横に振った。タツヤはにっこりと笑いながら手を差し伸べる。そしてユリアの両手を優しく包み込んだ。
「一週間、宜しくお願い致します」
 ああ、もう駄目。神様、私はこの人と結婚します! そしてこの人の子供を産みます!!
 
 そして一年が経ち、ユリアは子供を産んだ。黒い髪に黒い瞳、本当に可愛らしい男の子。
「お父さんにそっくりね」
「そうだね、本当によく似てる」
 赤ちゃんにおっぱいを飲ませるユリアの横には、タツヤの姿があった。
「可愛いなあ。赤ちゃんってこんなに小さくて、可愛いものなんだな」
 目を細めながらタツヤは赤ちゃんのほっぺを突っついた。
 ユリアは幸せを噛み締める。なんて幸せなんだろう。タツヤは優しい。とんでもなく優しい。私と赤ちゃんのためになら、何でもしてくれる。やっぱりタツヤは最良の伴侶だわ。


「所長、シリアルナンバー690502、コードネーム・タツヤは無事にカップリングに成功しました」
 結婚相談所「ベスト・パートナー・コーポレーション」の一室では白衣の研究員が所長に成果の報告をしていた。
「うん。良かった良かった。これでまた一人、正常な人類が増えると言うものだ」
 所長はユリアのファイルを書棚にしまった。

 優秀な理想の子供を産むために、多くの女性が精子バンクに走るようになったのは二十世紀の後半からだった。理想の遺伝子を求め、精子を買い、子供を産む。そんな事を望む女性は二十一世紀に入り、爆発的に増えた。そして二十二世紀になると、結婚という制度はほとんどこの世から消え去った。
 そして今……。
 あまりにも女性達は選り好みをしすぎたのだ。皆が同じような優秀な遺伝子を求めすぎたばかりに、地球上に存在する人類の遺伝子パターンは極めて種類が少なくなってしまった。その結果、近親相姦の確立が驚異的な数字に跳ね上がったのだ。そしてそれに反比例して人口は激減していった。
 このまま行けば人類は近親相姦を重ね、ついには絶滅する。
 そんな危機的状況から這い上がるため、科学者と政治家達は苦渋の決断をした。地球上に存在する全ての人類の遺伝子が登録制となり、勝手に結婚し子をなす事は禁止された。
 生殖可能な女性に、問題の無い遺伝子を持った男性型アンドロイドがあてがわれる。そして健全な精子を持った男性には、その精子を回収するために(決して勝手にあちこちにばら撒かないように)理想の女性型アンドロイドがあてがわれる。こうして生まれた子供は、また管理下におかれる。
 何世代もかけて、もう一度、多様な遺伝子パターンを作り出し、人類を絶滅から救い出さなければならない。悲しいかな、勝手に出会って、勝手にセックスして、勝手に子供を作る時代はもう遥か遠い昔の話であり、そして同時に今の人類の遥かな夢であった。
 所長は溜息をつきながら呟いた。
「絶滅危惧種、人類か……。大昔、こんな事を言ったヤツがいる。『世界は一家 人類は皆兄弟』……莫迦だよなあ。人類皆兄弟になったら、人類は滅びちまうのに。」



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2 コメント

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なんだか怖いSF (カミュ)
2008-07-03 09:19:31
リアルにありそうな話。実際、まわりの友人の子は男が多いし、イブと7人の子供たちを書いた著者は将来的には男は絶滅するって言ってました。村上龍じゃないですが、全ての男は消耗品であるってことかもしれませんね。消耗品、代替可能品、擦り切れるまで働いて奥さんより早く死ぬ……。なんだかな~(阿藤快風に言ってます)
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リアル (ちえぞー)
2008-07-03 23:32:42
>カミュさま
実はモデルというか、きっかけになった恐ろしい実話がありまして。それはまた書きますね。

それにしても、独身男性の夢をぶち壊すような話かもしれませんね(笑)。
いやいや、世の中にはちゃんと幸せな夫婦もたくさんいますから、大丈夫ですよ!
最良の伴侶をゲット!してくださいね
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