新連載「主婦が新聞読んで聞いてみた」では、商社出身のフリーライターで主婦の楢戸ひかる氏が、新聞を読んで疑問に思ったテーマを、主婦目線で調べて読者の方々と共有します。
『配偶者控除』。主婦なら、何となく気になる言葉だ。今年5月2日の日経一面トップ記事は、「配偶者控除17年に新制度」。ムムム!? これって、主婦の生活にどう関係してくるのだろうか? 税理士の福田真弓先生に聞いてみた。
○主婦的視点で要点箇条書き
政府は配偶者控除の検討に入り、法案が成立すれば17年1月から新制度が導入される
妻の年収に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める「夫婦控除」を創設する案が軸
上記は「働く女性を後押しする」とのメッセージを社会に訴える狙いもある
○そもそも、配偶者控除って、何ですか?
「配偶者控除とは、配偶者のいる人を税金面で配慮する制度です」と、福田先生。その根底には、「所得税とは、『所得そのもの』ではなく、『その所得を得た人に課税をする』という考え方がある。独身の人と、家族を養っている人とでは、税金を払う力は後者の方が弱い。そこを考慮し、「配偶者を養っている人は、税金の負担を軽くしてあげますよ」というのが配偶者控除の基本的な考え方。たとえば夫の年収が600万円程度なら、配偶者控除を受けることで、夫の税金が1年間で約6万円(月額およそ5千円程度)安くなる。
○夫婦控除って、何ですか?
配偶者控除の前提として、「配偶者の稼ぎを得る手段はたいていパートだろう」というものがあった。共働き世帯が増えている現在、ここが、実態とそぐわなくなっている。
「夫婦控除とは、夫婦それぞれの基礎控除38万円を合わせた76万円を、妻の収入にかかわらず夫婦の控除額とする仕組みです」と、福田先生。基礎控除とは、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」に必要なお金だ。このお金には課税できないことになっており、所得がある人全員に適用される。控除を夫婦単位で行うことで、妻は配偶者控除などには縛られず働くことができる。
なるほど! 記事の始めに「妻の収入に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める」と箇条書きした一文が、急にくっきりとした輪郭を帯びて頭の中に入ってくる。
○妻が月11万円稼いだら、社会保険料は1万6千円
「でも実は税金の議論よりも、本当に気をつけるべきは、社会保険料の壁(妻の収入130万円越え)なんですよ」と、福田先生が指摘してくれた。ここでちょっと整理してみよう。いわゆる「扶養の範囲」といっても、「所得税」と「社会保険料」では、そのラインが違う。
収入と所得の違いなど話始めるとキリがないので、今回は、ザックリと妻の収入が社会保険の壁を超える年収130万円(月額およそ11万円の収入)の場合の所得税と社会保険料の額を試算してもらった。
(※他に考慮すべき2点 - (1)夫が配偶者控除を受けられなくなるので、夫の税金増、(2)夫の会社から支給される家族手当の支給基準が「妻の収入103万円以下」の場合が多いので家族手当が受けられなくなる可能性)
どうだろう? 税金額と比べて、いかに社会保険料の負担が大きいか、おわかり頂けるのではないだろうか? もっとも、社会保険料を自分で払うことのメリットもある。厚生年金保険料を払っているということは、将来もらえる年金が増えるということだし、勤務先の健康保険に入った場合は傷病手当金の対象になるなど、扶養の範囲内の場合より社会的保障は厚い。
○社会保険の壁が106万円(月額およそ8万8千円の収入)に!
しかし、2016年10月から、社会保険の壁が106万円に下がってしまう。つまり税金と社会保険料のラインが、ほぼ揃い、月額およそ8万8千円の収入があれば、税金も社会保険料を支払うことになる。
「今後、国の仕組みは働く妻に対して中立な制度に変化していきます。子育ての時期など、自分のライフサイクルとのバランスを考えながらも、税金、社会保険料にさほどとらわれない方がいいのかもしれません。人生を長い目で見て、働ける状況なのであれば、自分の可能性にトライしてみては?」と、福田先生。
「自分の可能性、か」。ふんわりとした雰囲気を漂わせながらも、凛としている福田先生からこう言われると、とても説得力があった。
(※本文と写真は関係ありません)
○プロフィール:福田 真弓(ふくだ まゆみ)
税理士。相続税専門の税理士法人、大手証券会社プライベート・バンキング部に勤務した後、独立。個人の税金に関する相談・提案業務、執筆、講演などを行っている。著書に「必ずもめる相続の話」「必ずもめる相続税の話」(ともに東京経済新報社)、共著に「身近な人が亡くなった後の手続きのすべて」(自由国民社)他があり、新聞雑誌へのコメント、雑誌記事の執筆、講演なども多数。「税理士福田真弓オフィシャルサイト」はこちら。
○筆者プロフィール: 楢戸 ひかる(ならと ひかる)
1969年生まれ 丸紅勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。メルマガ「主婦が始める長期投資」(メルマガ申し込みは、「主婦er」より)を書き始めて、視野の狭さを痛感。新聞を真面目に読もうと決意し、疑問点は取材に行く所存。
『配偶者控除』。主婦なら、何となく気になる言葉だ。今年5月2日の日経一面トップ記事は、「配偶者控除17年に新制度」。ムムム!? これって、主婦の生活にどう関係してくるのだろうか? 税理士の福田真弓先生に聞いてみた。
○主婦的視点で要点箇条書き
政府は配偶者控除の検討に入り、法案が成立すれば17年1月から新制度が導入される
妻の年収に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める「夫婦控除」を創設する案が軸
上記は「働く女性を後押しする」とのメッセージを社会に訴える狙いもある
○そもそも、配偶者控除って、何ですか?
「配偶者控除とは、配偶者のいる人を税金面で配慮する制度です」と、福田先生。その根底には、「所得税とは、『所得そのもの』ではなく、『その所得を得た人に課税をする』という考え方がある。独身の人と、家族を養っている人とでは、税金を払う力は後者の方が弱い。そこを考慮し、「配偶者を養っている人は、税金の負担を軽くしてあげますよ」というのが配偶者控除の基本的な考え方。たとえば夫の年収が600万円程度なら、配偶者控除を受けることで、夫の税金が1年間で約6万円(月額およそ5千円程度)安くなる。
○夫婦控除って、何ですか?
配偶者控除の前提として、「配偶者の稼ぎを得る手段はたいていパートだろう」というものがあった。共働き世帯が増えている現在、ここが、実態とそぐわなくなっている。
「夫婦控除とは、夫婦それぞれの基礎控除38万円を合わせた76万円を、妻の収入にかかわらず夫婦の控除額とする仕組みです」と、福田先生。基礎控除とは、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」に必要なお金だ。このお金には課税できないことになっており、所得がある人全員に適用される。控除を夫婦単位で行うことで、妻は配偶者控除などには縛られず働くことができる。
なるほど! 記事の始めに「妻の収入に関係なく夫婦の所得から一定額の控除を認める」と箇条書きした一文が、急にくっきりとした輪郭を帯びて頭の中に入ってくる。
○妻が月11万円稼いだら、社会保険料は1万6千円
「でも実は税金の議論よりも、本当に気をつけるべきは、社会保険料の壁(妻の収入130万円越え)なんですよ」と、福田先生が指摘してくれた。ここでちょっと整理してみよう。いわゆる「扶養の範囲」といっても、「所得税」と「社会保険料」では、そのラインが違う。
収入と所得の違いなど話始めるとキリがないので、今回は、ザックリと妻の収入が社会保険の壁を超える年収130万円(月額およそ11万円の収入)の場合の所得税と社会保険料の額を試算してもらった。
(※他に考慮すべき2点 - (1)夫が配偶者控除を受けられなくなるので、夫の税金増、(2)夫の会社から支給される家族手当の支給基準が「妻の収入103万円以下」の場合が多いので家族手当が受けられなくなる可能性)
どうだろう? 税金額と比べて、いかに社会保険料の負担が大きいか、おわかり頂けるのではないだろうか? もっとも、社会保険料を自分で払うことのメリットもある。厚生年金保険料を払っているということは、将来もらえる年金が増えるということだし、勤務先の健康保険に入った場合は傷病手当金の対象になるなど、扶養の範囲内の場合より社会的保障は厚い。
○社会保険の壁が106万円(月額およそ8万8千円の収入)に!
しかし、2016年10月から、社会保険の壁が106万円に下がってしまう。つまり税金と社会保険料のラインが、ほぼ揃い、月額およそ8万8千円の収入があれば、税金も社会保険料を支払うことになる。
「今後、国の仕組みは働く妻に対して中立な制度に変化していきます。子育ての時期など、自分のライフサイクルとのバランスを考えながらも、税金、社会保険料にさほどとらわれない方がいいのかもしれません。人生を長い目で見て、働ける状況なのであれば、自分の可能性にトライしてみては?」と、福田先生。
「自分の可能性、か」。ふんわりとした雰囲気を漂わせながらも、凛としている福田先生からこう言われると、とても説得力があった。
(※本文と写真は関係ありません)
○プロフィール:福田 真弓(ふくだ まゆみ)
税理士。相続税専門の税理士法人、大手証券会社プライベート・バンキング部に勤務した後、独立。個人の税金に関する相談・提案業務、執筆、講演などを行っている。著書に「必ずもめる相続の話」「必ずもめる相続税の話」(ともに東京経済新報社)、共著に「身近な人が亡くなった後の手続きのすべて」(自由国民社)他があり、新聞雑誌へのコメント、雑誌記事の執筆、講演なども多数。「税理士福田真弓オフィシャルサイト」はこちら。
○筆者プロフィール: 楢戸 ひかる(ならと ひかる)
1969年生まれ 丸紅勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。メルマガ「主婦が始める長期投資」(メルマガ申し込みは、「主婦er」より)を書き始めて、視野の狭さを痛感。新聞を真面目に読もうと決意し、疑問点は取材に行く所存。