お役立ち情報ブログ

日々の生活やビジネスにおいて役に立ちそうな情報を収集、公開しています。

「まさか」が現実になる超円安1ドル=150円 まっ青になる会社と業界

2015年06月13日 07時15分24秒 | 経済
もう後戻りはできない。とどまることを知らない円売りの激流は、私たちの暮らしも企業のあり方も一変させる。日銀の異次元緩和によって生まれた「超円安」社会が、この国のすべてをなぎ倒す。

■どんどん国力が落ちる

「アメリカの利上げに加えて、日本銀行による異次元緩和。このままいけば、円安水準は1ドル=150円まで確実に進みます。そうなれば、この国はこれまで経験したこともないような二極化社会になるでしょう」

こう語るのは、『永久円安』の著者でもあるジャーナリストの山田順氏だ。

膠着し、溜まっていたエネルギーが一気に噴き出すように、日本が「超円安」社会へ動き出した。5月28日、東京外国為替市場の円相場が12年半ぶりに1㌦=124円台に突入したのだ。

「今回の円安水準は、FRB(米連邦準備制度理事会)議長のイエレン氏が、年内にもゼロ金利政策を終えて利上げを開始すると示唆したのが引き金になりました。アメリカは今年9月にも利上げ実施に踏み切るという観測が強まっている。そうなると、今後はさらにドル買いの動きが進み、円安に傾くことになります」(前出・山田氏)

これ以上の円安は、是か非か-。今、日本は後戻りのできない岐路に立たされている。

これまで日銀の黒田東彦総裁は、2%の物価上昇を達成するために円安のポジティブな面ばかりを喧伝し、「心配ない」と繰り返してきた。

確かに黒田総裁が主導する異次元緩和のもとで円安が進み、トヨタをはじめとした一部の大企業が恩恵を受けてきたのは事実だ。輸出するほど収益が上がる彼らにとって、円安は大歓迎だろう。

ただし、今までは原油安で物価上昇が抑えられ、円安の「負」の影響は最小限に留められていた。その原油安も底打ちし、徐々に価格が上がりはじめている。ここから円安が進行すれば、もろに物価上昇に直結してしまう。そうなれば、消費増税によるダメージからの回復途上にある日本国内の景気は、大きな打撃を受けることになる。

「通貨の実力を測る指標に、物価上昇率の違いや貿易構造の変化を加味して算出する『実質実効為替レート』というものがある。このレートで換算すれば、1ドル=120円台の現在ですら日本円は'73年時点と同じ水準でしかないんです」(東短リサーチ代表の加藤出氏)

つまり、今日本経済の力は'73年のレベルまで落ちているとも言える。円安が進めば、さらに国力は加速度的に急落する。

こんな状況の中で、果たして円安を喜んでいる場合なのだろうか。

円安の弊害は、国内企業数全体の9割以上を占める中小企業や内需型の企業で、すでにあらわれている。多くの会社が原料コスト高騰にあえぎ、真綿で首を絞められるように蝕まれているのだ。

■もう牛丼屋にも行けない

だが、今はまだ序章に過ぎない。これから円安が進み1ドル=150円台に突入すれば、日本社会は激震に見舞われることになる。

「円安が進んでメリットがあるのは、高い技術力を持ち、海外で売れる商品を作っていて、かつ国内に工場がある企業。当然ですが、そんな企業は日本に数えるほどしかありません。

さらに円安は海外からの観光客を呼び込むきっかけになりますが、中国人観光客による『爆買い』で潤うのは三越伊勢丹や免税店のラオックスなど、非常に限定的です」(経済ジャーナリストの植木靖男氏)

まず「超円安」社会では、外食産業が軒並み瀕死の状態に陥る。

たとえば、いまや当たり前のように浸透している牛丼チェーンは、さらなる値上げでも追いつかず消滅しかねない。

「『安くて早くて美味い』の代名詞だった吉野家などは、青息吐息でしょう。

吉野家は、これまで安く食材を輸入できたからこそ、280円という低価格で牛丼を提供できたし、出店数を増やすことができた。ところが1ドル=150円になると、牛丼の値段を大幅に上げざるをえなくなる。そうなると客の減少は避けられません。これは吉野家だけでなく、松屋や『すき家』を展開するゼンショーも同じことです」(コア・コンセプト研究所代表の大西宏氏)

窮地に立たされるのは、牛丼チェーンだけではない。親しみやすい存在だったファーストフードや居酒屋、ファミリーレストランからも客が遠のいていくだろう。

「マクドナルドやワタミなど、低価格を売りにしてきた会社もコスト高に苦しめられ、値上げに踏み切るしかない。ガストやジョナサン、ロイヤルホストなどのファミレスも気安く入れる場所ではなくなる。外食産業自体が存亡の危機を迎えます」(前出・大西氏)

さらに、国内を主なマーケットにしている「内需型」の企業も厳しい戦いを強いられる。飲料メーカーも、そのひとつだ。

5月中旬、アサヒビールは9月以降の輸入ワインの価格改定を発表。アメリカ産ワインは大幅に値上がりすることが明らかになった。これまでコンビニで数百円を出せば買えたワインやウィスキーの値段が上がるとなれば、飲料メーカーの輸入事業収益は悪化する。消費増税なども相まって、アサヒビールをはじめ、絶好調のサントリーですら国内売り上げの低迷は避けられない。

外食チェーン同様、デフレ社会のなかで成長してきた小売業界にも、目を覆いたくなるような状況が待っている。

「ユニクロを運営するファーストリテイリングは、中国で生産した商品を日本に輸入するビジネスモデルで儲けてきました。

ところが円安の影響を受け、同社は昨年から商品の値上げを断行しています。今年に入っても、秋冬モノ衣類が2割値上げされることが決まっている。これが1ドル=150円水準になると、商品の値段は今よりさらに高値になります。そうなれば客足は途絶え、売り上げが減るのは明らかです」(信州大学教授の真壁昭夫氏)

そのときは、ユニクロが本格的に日本を脱出するのも、現実味を帯びてくる。真壁氏が続ける。

「柳井正社長は、これまで以上にユニクロの海外脱出を加速させるでしょう。国内市場はだましだまし値上げをしながら切り抜け、その間に海外出店をさらに展開させる。最終的には円でいくら稼いでも意味がないと判断し、円を介さずに取引を開始するようになるかもしれません」

同じ小売業界でいえば、28期連続の増収増益を達成している家具大手・ニトリもファーストリテイリングと同じビジネスモデルだけに、苦境に陥る可能性がある。

■1円の円安で損失30億円

ファーストリテイリングやニトリなどの小売業界は、長い円高時代の中、日本を飛び出し海外に工場を作ることで収益を上げるビジネスモデルを確立してきた。だが、「超円安」社会では、そのすべてが裏目に出てしまうのだ。それとまったく同じことが、電機業界でも起きている。

「自動車業界とは違い、円高時代に海外に生産拠点を分散させた家電業界は、円安に振れるほど利益が圧迫される構造になっています。

たとえばソニーは、ドル円で1円円安に振れるだけでも、実に30億円もの損失が出ると言われています。現状の120円台よりさらに30円円安になれば、単純計算で900億円の損失を出してしまう。ソニーは長い業績不振を抜け出し、構造改革によってようやく今期黒字化の道筋が見えたばかり。ですが、それも水泡に帰すことになる」(前出・真壁氏)

苦境に立たされるのはソニーだけではない。パナソニックも不安を抱えている。あるパナソニック幹部はこう明かす。

「ウチの会社でも、輸出の多い家電分野は増益になるかもしれません。ですが、原材料を海外から購入して製品を作るような部門は、原材料のコスト高によって製品を作れば作るほど損が出てしまう。社員は『このままでは、社内ですら勝ち組と負け組が二極化する』と口にしています」

■強烈な格差社会が来る

これら製造業にとって、今後工場を国内回帰させるか否かは喫緊の問題だろう。実際、シャープの業績不振が取り沙汰された頃、海外の工場を国内に戻すといった話が出たのは記憶に新しい。

円安下では、国内で製品を生産し、国外に輸出したほうが収益は上がる。中国などアジア勢に対しても、製品の競争力が回復するだろう。だが、ことはそう単純には運ばない。

「問題は、円相場が短期間で急激に変動した場合。そうなると、企業はさまざまな前提の上で計画を立てているのですが、その前提条件が根本から崩れてしまいます。原材料をどこからいくらで調達するか、その原材料をもとにどこで生産するか、完成した製品をどこで販売するか。こうした一連の事業計画をすべて練り直さなければいけません。そのための時間とコストは、実は莫大で、日本経済全体で見ても大きなマイナス要因になりかねない。単に国内に工場を移せば問題が解決する、という話ではないのです」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部部長の鈴木明彦氏)

製造業以外で苦しいのは、エネルギーを供給する電力業界だ。和光大学経済経営学部教授の岩間剛一氏はこう解説する。

「原発が止まっている今、各電力会社は火力発電に力を入れています。ですが、円安で燃料調達コストが上がれば、経営は圧迫される。特に原発比率の高かった関西電力は現在でも赤字を出し続けているので、ダブルパンチに見舞われます」

電力会社には、エネルギー原価を電気代に上乗せできる「総括原価方式」という取り決めがある。そのため、発電コストが上がっても各社に影響はないという見方もできる。だが、来年4月にはじまる電力小売り自由化の影響で、新規参入業者との激しい価格競争にさらされることになるのだ。

「電力会社も安易に電気代を上げると、顧客が新しい業者に流れてしまう。さらに今、関西電力や中部電力は首都圏に火力発電所を建設しています。都内での発電競争が激化する中、東京電力も苦戦を強いられるでしょう」(前出・岩間氏)

衣食住にかかわる製品やインフラ関連の価格が高騰し、普通に暮らすことすら難しくなる社会。「超円安」になり、私たちを待ち受けているのは、そんな世の中だ。前出の山田氏がこう警鐘を鳴らす。

「たとえ物価が上がっても、サラリーマンの給料が上がればカバーできる。ですが、この国の大半を占める中小企業には、円安のメリットはありません。給料は上がらないのに、物価だけが上がり続ける。物価が上昇しても破綻しないような一部のおカネ持ちだけが悠々と暮らし、貧しい人はどんどん貧しくなる。強烈な格差社会を迎えることになります」

アベノミクスによってデフレのトンネルを抜けたと思ったら、「超円安」による格差社会という真っ暗なトンネルが待っていた。そんな悪夢が目前に迫っている。

「週刊現代」2015年6月13日号より
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする