職場や公共の場で、気にはなるものの対処法がよく分からないのが、自分の体のにおい。一部では「スメハラ」(スメル=におい、ハラスメント=嫌がらせ)などとも呼ばれるこの問題にどう取り組むか。ポイントを専門家に聞いた。
記録的な厳冬にようやく終わりを告げ、外での活動が活発になるこれからの季節。汗をかく機会も増える一方で、気をつけたいのが体のにおいだ。
■「内」と「外」に原因
体のにおいを抑えるには「体の『外面から』と『内面から』の二つのアプローチが必要」と話すのは、体臭や汗の専門治療を行う五味クリニック(東京都新宿区)の五味常明院長だ。
まず、「外面」は、皮膚や衣類を清潔に保つことが先決。そもそも体のにおいのもとは、体外に分泌される汗や皮脂など。それらに含まれる成分が皮膚や衣類についた細菌で分解され、においが発生する。
こうした原因を防ぐには、制汗剤や専用の体ふき取り剤などを使い、皮膚に付いた余分な汗や皮脂、細菌などを抑えるといい。また、衣類の生乾き臭やカビ臭があると体臭とあいまってにおいが増幅する。これを抑えるには、洗濯方法に気を配るのも効果がある。また、においが気になりやすい靴は中敷の衛生も心がけよう。
一方、においの対策で見落とされがちなのが、体の「内面」。加齢だけが直接的な原因になるのではなく、不規則な生活習慣での偏った食事や過度なアルコール摂取、ストレス、運動不足、睡眠不足など、いくつもの因子が絡んでにおいのもとになることがわかってきた。
「中でも30代以降の男性に特有なのが、加齢臭、メタボ臭、疲労臭の3つ(右図)参照)」と、五味院長は指摘する。
「加齢によって、腸内細菌のバランスである『腸内細菌叢(そう)』が変わる、皮脂腺の酸化が進む、肥満や疲労でアンモニアを分解する肝機能が低下するなど、中高年男性の体臭は体の中に原因があると考えた方がい■定期的な運動で汗、緑黄色野菜を摂取
具体的な改善方法は「運動」と「食事」に気を配ることだという。定期的な運動で汗を流し、滞りやすい汗腺の機能を高めるのが効果的。入浴やマッサージなど、汗をかくことを習慣化するのも良い。
食事では緑黄色野菜を積極的にとり、体の「サビ」を防ぐビタミンCやポリフェノールといった抗酸化成分を取り込む。
五味院長は「腸の中を掃除する食物繊維のほか、腸内の細菌を整える乳酸菌やオリゴ糖などを取り、腸内環境を改善することが有効」だとアドバイスする。
睡眠を十分とって疲労回復をはかり、ストレスをためないよう心がけて体の機能を整えることも、においを抑えるための大事な要素だという。
体のにおいとひと口にいっても、部位や汗を出す汗腺の違いでその特徴はさまざま(左図参照)。例えば、全身にある「エクリン腺」から出る汗は、皮脂や雑菌と混ざると、干物のような乾いたにおいやアンモニア臭の原因になる。足の気になるにおいなどが代表的だ。
また、毛穴にある「アポクリン腺」から出る汗と、「皮脂腺」から出る脂肪酸は、ともに混ざり合うことで、甘酸っぱいスパイス臭やこもったカビ臭を生む。複雑なにおいで臭気が強めになるのも特徴。特にわきや陰部、頭部など、毛穴が多くて通気が悪い部位で起こりやすい。
まずは、自分の生活習慣を冷静に見直すこと、さらににおいが発生するメカニズムを知り、適切な対策を講じることが、体のにおいを抑えるために効果的といえそうだ。
自分のにおいに敏感に
男性用化粧品などを手がけるマンダムが18~68歳までの日本人男性の「わき臭」を調査したところ、91%に「中程度以上のにおい(何のにおいか明確)」があった。しかも、強いにおいがある男性の13%は「自分のにおいに気づいていない」という結果が明らかになった。
ただし、セルフケアだけでわきのにおいが抑えられない人は「わきが」の疑いも考えられる。「その場合はアポクリン腺を除去する手術もあるので、専門医に相談を」と五味院長は助言する。
「体のにおいが厄介なのは、他人の体臭は感じやすくて不快になる『被害者』になるにもかかわらず、自分のにおいは感じづらく周りに不快を与える『加害者』にもなること」だと五味院長はいう。体のにおいは個性の一つと考える向きもあるが、無頓着なのも問題だ。
(日経ヘルス編集部)
[日経プラスワン2012年4月7日掲載記事を基に再構成]
い」(五味院長)
記録的な厳冬にようやく終わりを告げ、外での活動が活発になるこれからの季節。汗をかく機会も増える一方で、気をつけたいのが体のにおいだ。
■「内」と「外」に原因
体のにおいを抑えるには「体の『外面から』と『内面から』の二つのアプローチが必要」と話すのは、体臭や汗の専門治療を行う五味クリニック(東京都新宿区)の五味常明院長だ。
まず、「外面」は、皮膚や衣類を清潔に保つことが先決。そもそも体のにおいのもとは、体外に分泌される汗や皮脂など。それらに含まれる成分が皮膚や衣類についた細菌で分解され、においが発生する。
こうした原因を防ぐには、制汗剤や専用の体ふき取り剤などを使い、皮膚に付いた余分な汗や皮脂、細菌などを抑えるといい。また、衣類の生乾き臭やカビ臭があると体臭とあいまってにおいが増幅する。これを抑えるには、洗濯方法に気を配るのも効果がある。また、においが気になりやすい靴は中敷の衛生も心がけよう。
一方、においの対策で見落とされがちなのが、体の「内面」。加齢だけが直接的な原因になるのではなく、不規則な生活習慣での偏った食事や過度なアルコール摂取、ストレス、運動不足、睡眠不足など、いくつもの因子が絡んでにおいのもとになることがわかってきた。
「中でも30代以降の男性に特有なのが、加齢臭、メタボ臭、疲労臭の3つ(右図)参照)」と、五味院長は指摘する。
「加齢によって、腸内細菌のバランスである『腸内細菌叢(そう)』が変わる、皮脂腺の酸化が進む、肥満や疲労でアンモニアを分解する肝機能が低下するなど、中高年男性の体臭は体の中に原因があると考えた方がい■定期的な運動で汗、緑黄色野菜を摂取
具体的な改善方法は「運動」と「食事」に気を配ることだという。定期的な運動で汗を流し、滞りやすい汗腺の機能を高めるのが効果的。入浴やマッサージなど、汗をかくことを習慣化するのも良い。
食事では緑黄色野菜を積極的にとり、体の「サビ」を防ぐビタミンCやポリフェノールといった抗酸化成分を取り込む。
五味院長は「腸の中を掃除する食物繊維のほか、腸内の細菌を整える乳酸菌やオリゴ糖などを取り、腸内環境を改善することが有効」だとアドバイスする。
睡眠を十分とって疲労回復をはかり、ストレスをためないよう心がけて体の機能を整えることも、においを抑えるための大事な要素だという。
体のにおいとひと口にいっても、部位や汗を出す汗腺の違いでその特徴はさまざま(左図参照)。例えば、全身にある「エクリン腺」から出る汗は、皮脂や雑菌と混ざると、干物のような乾いたにおいやアンモニア臭の原因になる。足の気になるにおいなどが代表的だ。
また、毛穴にある「アポクリン腺」から出る汗と、「皮脂腺」から出る脂肪酸は、ともに混ざり合うことで、甘酸っぱいスパイス臭やこもったカビ臭を生む。複雑なにおいで臭気が強めになるのも特徴。特にわきや陰部、頭部など、毛穴が多くて通気が悪い部位で起こりやすい。
まずは、自分の生活習慣を冷静に見直すこと、さらににおいが発生するメカニズムを知り、適切な対策を講じることが、体のにおいを抑えるために効果的といえそうだ。
自分のにおいに敏感に
男性用化粧品などを手がけるマンダムが18~68歳までの日本人男性の「わき臭」を調査したところ、91%に「中程度以上のにおい(何のにおいか明確)」があった。しかも、強いにおいがある男性の13%は「自分のにおいに気づいていない」という結果が明らかになった。
ただし、セルフケアだけでわきのにおいが抑えられない人は「わきが」の疑いも考えられる。「その場合はアポクリン腺を除去する手術もあるので、専門医に相談を」と五味院長は助言する。
「体のにおいが厄介なのは、他人の体臭は感じやすくて不快になる『被害者』になるにもかかわらず、自分のにおいは感じづらく周りに不快を与える『加害者』にもなること」だと五味院長はいう。体のにおいは個性の一つと考える向きもあるが、無頓着なのも問題だ。
(日経ヘルス編集部)
[日経プラスワン2012年4月7日掲載記事を基に再構成]
い」(五味院長)