【衝撃事件の核心】 朝青龍を手玉に取った男-。大相撲の元横綱朝青龍(31)=本名ドルゴルスレン・ダグワドルジ=に「モンゴル開発のために1兆円を投資したい」などと持ちかけて現金約1億円をだまし取ったとして、今年11月に会社役員の男ら2人が詐欺容疑で警視庁に逮捕された。警視庁や捜査関係者によると、男は自分を「元首相でもめったに面会できない人物」とVIPに見せかけて、荒唐無稽なもうけ話を持ちかけ、大金を引き出していたという。モンゴル出身の大横綱がハマった手口とは…。(大泉晋之助)
■優勝直後、高級ホテルの中華料理店で…
平成21年2月初旬。東京・新宿の京王プラザホテルにある高級中華料理店で、元横綱朝青龍は老齢の紳士とともにテーブルを囲み、モンゴルの未来について熱く話し合っていた。
向かい合っていた老紳士は、後に警視庁捜査2課に詐欺容疑で逮捕されることになる会社役員、菊地武雄被告(77)=詐欺罪で起訴。この席を仲介した知人女性からは「以前からモンゴルを支援したいと考えている資産家」と、元横綱に紹介されていた。
前月の1月場所で歴代単独4位の通算23回目の幕内優勝を果たしたばかりの元横綱は、相次ぐスキャンダルや引退説など暗いムードを吹き飛ばし、得意の絶頂にあったのかもしれない。この日、機嫌よく菊地被告の話に耳を傾けた。
捜査関係者によると、この後、2人は急速に親交を暖めるようになり、頻繁にお互いに食事に招待し合うようになった。
■偽プロフィル、M資金…怪しい話が続々
「小泉純一郎元首相が(菊地被告との)面会を望んだが、実現するまでに6カ月かかった」
菊地被告について、元横綱は周辺を通じてこんな風に伝えられていた。通常の部屋でも1泊5万円ほどはする京王プラザホテルを定宿にしていた菊地被告は、VIPに見えた。
しかし、それはまったくの虚像だった。実際は、菊地被告の経営する会社はほとんど稼働しておらず、莫大な資産など持っていなかった。ある捜査関係者は「あちこちにいろんなもうけ話を持ちかけては、いろんなスポンサーを招き入れ、カネを引き出し、ホテル暮らしを続けていたようだ」と話す。
しかし、元横綱はそれに気づかなかった。話術は巧み。あるときは、「カナダにいろいろな島を持っている」などと言ってみ、自分が世界を股にかける資産家であるようにもほのめかす。「裏付けのない虚偽のプロフィル」(捜査関係者)を、元横綱は信じ込んでしまったのだ。
自分は、GHQ(連合国軍総司令部)が日本占領下に接収したとされる通称「M資金」の運用を任されている-。
菊地被告は、ある日、こんな話まで持ち出してきた。「M資金」話は、日本では詐欺師がカネを引き出すためによく使われる常套手段で、プロの投資家はまず引っかからない。しかし、モンゴル出身の元横綱は、そんな荒唐無稽な話も信じてしまったのだ。
■フィリピンに1兆円の金塊 信じてしまって1億円を
「祖国で開発事業をしたい」
ある日、元横綱は、菊地被告にこう申し出て資金協力を求めた。捜査関係者によると、元横綱は前年にモンゴル国内の鉱山の開発権を入手するなど祖国の開発に入れ込んでいた。
すると、菊地被告は、1兆円もの資金提供と事業への助言を快諾した。しかし、それだけでなく、逆に元横綱に、一時的にカネを貸すように求めてきた。
「フィリピンに保管している金塊を溶かせば現金になる。そのためには保管先への延滞料支払いが必要になる」
フィリピンに1兆円の金塊があって、それを溶かすためには、当面、1億円が必要だというのだ。後になって考えてみれば、1兆円もの金塊を菊地被告が保有しているはずがないのは明らか。しかし、菊地被告がVIPだと信じ込んでいた元横綱は同年4月上旬、自分のマネジャーを通じて2回に分けて計約1億円を、菊地被告の共犯として逮捕・起訴された熊田隆春被告(63)の口座に振り込んでしまった。
■ようやく気づいた元横綱 警視庁に相談
1兆円出資話は、すぐに、実現性が乏しい話だったことが発覚する。菊地被告が、借りた1億円すら返済期限になっても返さなかったからだ。
4月中旬の段階で、菊地被告側に送金した計約1億円の返済期限は、すでに数日が経過していたが、いくら催促しても、菊地被告は弁明を繰り返すばかり。元横綱は、あきらかにいらだちを見せた。
「モンゴルで農業開発の計画がある。待ってほしい」
捜査関係者によると、6月には、菊地被告は元横綱をなだめるためか、こう持ちかけてきた。元横綱側は農業開発の真偽を確認するため同月下旬、モンゴル国内の予定地とされる場所に、菊地被告を連れ立って視察に向かう予定も立てた。しかし、この視察計画も菊地被告の都合で直前に中止になったという。
その後も、1億円は返済されず、菊地被告は「今度カネが入る。それで返済する」と弁解したり、「私は逃げも隠れもしない」などと開き直ったりするばかり。
元横綱もさすがに“被害”に気づいた。今年3月ごろ、警視庁に相談。捜査の結果、菊地被告らは逮捕された。
■1億円はほとんど使われていた
同課によると、菊地被告らは逮捕後、容疑を認めたものの、元横綱が出資した約1億円はほとんど使われてしまっていたという。
菊地被告らの口座もほとんど底をついており、現状では元横綱への返済の見込みも厳しい。もちろん、菊地被告は1兆円の金塊など、保有していなかった。
モンゴルから日本に来て大横綱となった朝青龍。多額の資金を祖国で投資しており、大実業家としても知られている。その投資意欲を逆手に取られて、もてあそばれた心境はいかほどのものなのだろうか。
■優勝直後、高級ホテルの中華料理店で…
平成21年2月初旬。東京・新宿の京王プラザホテルにある高級中華料理店で、元横綱朝青龍は老齢の紳士とともにテーブルを囲み、モンゴルの未来について熱く話し合っていた。
向かい合っていた老紳士は、後に警視庁捜査2課に詐欺容疑で逮捕されることになる会社役員、菊地武雄被告(77)=詐欺罪で起訴。この席を仲介した知人女性からは「以前からモンゴルを支援したいと考えている資産家」と、元横綱に紹介されていた。
前月の1月場所で歴代単独4位の通算23回目の幕内優勝を果たしたばかりの元横綱は、相次ぐスキャンダルや引退説など暗いムードを吹き飛ばし、得意の絶頂にあったのかもしれない。この日、機嫌よく菊地被告の話に耳を傾けた。
捜査関係者によると、この後、2人は急速に親交を暖めるようになり、頻繁にお互いに食事に招待し合うようになった。
■偽プロフィル、M資金…怪しい話が続々
「小泉純一郎元首相が(菊地被告との)面会を望んだが、実現するまでに6カ月かかった」
菊地被告について、元横綱は周辺を通じてこんな風に伝えられていた。通常の部屋でも1泊5万円ほどはする京王プラザホテルを定宿にしていた菊地被告は、VIPに見えた。
しかし、それはまったくの虚像だった。実際は、菊地被告の経営する会社はほとんど稼働しておらず、莫大な資産など持っていなかった。ある捜査関係者は「あちこちにいろんなもうけ話を持ちかけては、いろんなスポンサーを招き入れ、カネを引き出し、ホテル暮らしを続けていたようだ」と話す。
しかし、元横綱はそれに気づかなかった。話術は巧み。あるときは、「カナダにいろいろな島を持っている」などと言ってみ、自分が世界を股にかける資産家であるようにもほのめかす。「裏付けのない虚偽のプロフィル」(捜査関係者)を、元横綱は信じ込んでしまったのだ。
自分は、GHQ(連合国軍総司令部)が日本占領下に接収したとされる通称「M資金」の運用を任されている-。
菊地被告は、ある日、こんな話まで持ち出してきた。「M資金」話は、日本では詐欺師がカネを引き出すためによく使われる常套手段で、プロの投資家はまず引っかからない。しかし、モンゴル出身の元横綱は、そんな荒唐無稽な話も信じてしまったのだ。
■フィリピンに1兆円の金塊 信じてしまって1億円を
「祖国で開発事業をしたい」
ある日、元横綱は、菊地被告にこう申し出て資金協力を求めた。捜査関係者によると、元横綱は前年にモンゴル国内の鉱山の開発権を入手するなど祖国の開発に入れ込んでいた。
すると、菊地被告は、1兆円もの資金提供と事業への助言を快諾した。しかし、それだけでなく、逆に元横綱に、一時的にカネを貸すように求めてきた。
「フィリピンに保管している金塊を溶かせば現金になる。そのためには保管先への延滞料支払いが必要になる」
フィリピンに1兆円の金塊があって、それを溶かすためには、当面、1億円が必要だというのだ。後になって考えてみれば、1兆円もの金塊を菊地被告が保有しているはずがないのは明らか。しかし、菊地被告がVIPだと信じ込んでいた元横綱は同年4月上旬、自分のマネジャーを通じて2回に分けて計約1億円を、菊地被告の共犯として逮捕・起訴された熊田隆春被告(63)の口座に振り込んでしまった。
■ようやく気づいた元横綱 警視庁に相談
1兆円出資話は、すぐに、実現性が乏しい話だったことが発覚する。菊地被告が、借りた1億円すら返済期限になっても返さなかったからだ。
4月中旬の段階で、菊地被告側に送金した計約1億円の返済期限は、すでに数日が経過していたが、いくら催促しても、菊地被告は弁明を繰り返すばかり。元横綱は、あきらかにいらだちを見せた。
「モンゴルで農業開発の計画がある。待ってほしい」
捜査関係者によると、6月には、菊地被告は元横綱をなだめるためか、こう持ちかけてきた。元横綱側は農業開発の真偽を確認するため同月下旬、モンゴル国内の予定地とされる場所に、菊地被告を連れ立って視察に向かう予定も立てた。しかし、この視察計画も菊地被告の都合で直前に中止になったという。
その後も、1億円は返済されず、菊地被告は「今度カネが入る。それで返済する」と弁解したり、「私は逃げも隠れもしない」などと開き直ったりするばかり。
元横綱もさすがに“被害”に気づいた。今年3月ごろ、警視庁に相談。捜査の結果、菊地被告らは逮捕された。
■1億円はほとんど使われていた
同課によると、菊地被告らは逮捕後、容疑を認めたものの、元横綱が出資した約1億円はほとんど使われてしまっていたという。
菊地被告らの口座もほとんど底をついており、現状では元横綱への返済の見込みも厳しい。もちろん、菊地被告は1兆円の金塊など、保有していなかった。
モンゴルから日本に来て大横綱となった朝青龍。多額の資金を祖国で投資しており、大実業家としても知られている。その投資意欲を逆手に取られて、もてあそばれた心境はいかほどのものなのだろうか。