ダークフォース続き(仮)新規です

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ダークフォース 第二章 VII

2009年09月22日 20時26分53秒 | ダークフォース 第二章 前編
    Ⅶ
 
 レムローズ王国の王宮のさらに奥にある小さな居場所。
 エリクと呼ばれる第三王子は、その限られたかごの中の世界で月日を重ねていた。
 普段のエリクは、麻色をした厚手の外套でその身を覆い、深々とそのフードを被っている。
 他者と会う時も出来るだけ、言葉少なに挨拶を交わし、自分が女性であるというその正体を、王の言いつけ通りに、ひたすらに隠し続けていた。
 しかし、師であるハイゼン候と、二人の兄との面会の時には、自分で縫った白地の木綿のドレスに着替え、少しだけオシャレに気を使った。
 外界との接点の薄いエリクは、ドレスの仕立ても給仕たちのそれを真似て作ったものであり、彼女たちの持つハンカチにあるレース編みの刺繍が気に入ったのか、独学でそれを学び、ドレスにそのレースの刺繍を施してみたりもした。
 そのドレス姿でいる自分を見ると、二人の心優しき兄たちは、いつにも増して、にこやかな笑顔を見せてくれるのだ。
 ハイゼン候は、感情をあまり表に出す方ではなかったので、それを褒めてくれる事はないのだが、目元の辺りが少し優しくなるそれを見るのも、エリクにとっては嬉しいことだった。
 この三人以外に、他人との接点がないといっていいエリクにとって、二人の兄とハイゼンの存在は、この世界の全てと言っても過言ではなかった。
 故に、このような軟禁生活のような状態が続いていても、エリクはそれを不満には感じなかったし、また、それを少しでも不満に感じて、この愛すべき三人にその事を悟られるのは、エリクにとっては耐えられない事と言えた。
 この小さな世界には、笑顔が溢れている。
 エリクはそれで、十分に満足であった。
 だからこそ、大事にしたかった。
 自分の、小さいかも知れないが、優しさで溢れたこの楽園を。
 そして、今年もまた、レムローズ王国はその大地を深い雪に覆われる季節を迎えていた。
 レムローズ王国の王都エーザヴェスは、王国内でもやや北側に位置し、その更に北となると永久凍土が広がっている。
 故に冬ともなると、厚い雪に閉ざされた王都は完全に孤立した状態になり、街道は雪に埋もれ、国内での流通も大きく制限されるが、自然の作り出すその雪の外壁により、王都エーザヴェスは難攻不落の要塞都市へとその姿を変える。
 外の気温は零下30度から、時に零下70度にまで下がり、身を隠す場所を持たぬ者は次の春まで、雪の中に埋もれるという悲惨な運命を迎える。
 しかし、それを憂いだハイゼン候が、その半生をつぎ込んで完成させた王都エーザヴェスの地下通路により、家を持たぬ民もそこに居場所を移すことで、冬の厳しい寒さからその身を守ることが出来た。
 地下通路とはいっても、かなりの規模の空間が広がっており、地熱のおかげで地上よりも過ごしやすい。
 人が増えてきた昨今では、商いも活発に行われるようになり、建設計画のその見事さから、この巨大な地下空間は、エーザヴェス・第二の都市と呼ばれるような賑わいも見せ始めていた。
 フォルミ大公国との戦いで、快勝を収めた二人の兄、ローヴェントとカルサスの二人は、その地下通路を使って凱旋し、勝利の報告を愛しい姫・エリクに届ける為、王宮の方へと軽快に足を進めていた。
 その途中で、長兄のローヴェントは、次兄のカルサスに言う。
「ガルトラントにも勝ち、フォルミにも勝利した。今年の冬も、手に入れた土地をかの国々に返還してやることで、多額の賠償金を手にすることが出来る。これで、一、二年は、民たちの暮らしも豊かになるだろう」
 体躯の良いカルサスは、ウンウンと頷きながらこう応えた。
「完全に滅ぼしてしまっては、賠償金を得ることも出来ませんしな。仮に滅ぼし、領土を大きく拡張したとしても、その土地の民と我が国の民を同時に養うのは難しい」
 長い黒髪の美しいローヴェントは、領土拡大や皇帝位といったものより、自国民の生活を安定させることを最初に考える、非常に良心的な若き君主であった。
 レムローズ王国の実権は、ほぼ彼の手中に収まっているといえたし、次兄のカルサスは彼に協力的だった。
 しかし、ローヴェントは、今もなお重ねているその侵略行為には早々に見切りを付けたいと考えていたし、どうすれば自国の国力のみで、民たちを潤わせることが出来るのかという議題に、ハイゼン候と共に真剣に取り組んでいる最中であった。
 ローヴェントは言う。
「まずは、エリクへの土産でも買っていこう。この通路の先に、なかなかいい花屋があったと思うんだが、お前も花を買うのはよしてくれよ、カルサス」
 するとカルサスは、それをフフンと鼻で笑って、兄のローヴェントのこう言った。
「ハッハッハッ、すまんな兄貴。オレはすでに、知り合いの仕立て屋のコネで最高級のレトレア織の絹織物を取り寄せてもらっている。エリクが生地を欲しがっていたからな」
「な、なんだと!? それでは私はただの引き立て役ではないか。我が貧乏王家に、そんな高級品を買うゆとりなどあるかっ!! さっさと返品しろ、二週間以内ならなんとかなる!!」
 不意を突かれたローヴェントは、カルサスにそう言うが、聞く耳も待たずといった感じで、カルサスはしたり顔をしてこう返す。
「この深い雪の中で、帝都レトレアまで二週間で返品とかムリだよ兄貴。諦めて、金払っといて。どうせ、財布の紐は兄貴が握っているんだし」
「お前に財布を渡したら、穴が開くわッ!!」
 ローヴェントは納得いかない感じで、仕方なく花屋で出来るだけ良い花を選ばせて、ついでにケーキも買っていく事にした。手ぶらというわけにもいかず、かといって、カルサスに付けられた差は、その場のショッピングで埋められるようなものでもなかったが。
 ローヴェントは複雑な表情をして、右手に花束を、左手にケーキの箱をぶら下げた。
 エリクがそんなことを気にするような子ではないことくらい、二人の兄たちは十分に理解していたが、やはり互いを意識してか、1ミリでも先に出ておきたいという男心がある。
 また、その気持ちがお互いを切磋琢磨しているとも言えたので、喧嘩しながらもその仲の良さは誰もが羨むほどであった。
 この冬、エリクは十五歳の誕生日を迎えた。
 運命の時まで、あと一年を切っている。
 
 エリクの居場所は、謁見の間や、華美な貴賓室の並ぶ、贅の限りを尽くされたレムローズ王宮の、その裏手にあたる。
 そこは、以前は倉庫として使われていた質素な造りの部屋で、多少の改修は成されていたものの、王族が住むにはとても似つかわしくない、古びて寂しい部屋であった。
 そんな軟禁状態にありながらも、エリクはその空間を長い時間をかけ、少しずつ直していき、今では古びた倉庫のような部屋も、豪華とまではいかないものの、とても工夫の凝らされた可愛らしい一室へとリフォームされていた。
 華美を好むレムローズ王や、一昨年他界した王妃は、このような場所には立ち入らない為、そこまで上等な部屋に作り変えられているなど知る由もなく、世話役を任されているハイゼン候は、エリクの元を訪れると、しばしば大工の真似事をし、エリクが必要とした材料は、マントの奥に隠して持ち込んでやったりもした。
 王宮内は暖に満たされているが、その裏手に通じる崩れかけの石壁の通路からは、ビュンと隙間風が吹きぬける。
 北の大地に育ったとはいえ、二人の王子たちも少しだけ寒い思いをしながら、その鉤型の回廊の奥にある天使の待つ部屋へと、それぞれの想いを託した荷物を手に、カツッ、カツッと石畳の上に音を立てながら、足を進めていた。
 途中、二人は、ハイゼン候とすれ違う。
「これは、ローヴェント王子に、カルサス王子」
 一礼するハイゼンに向かって、二人はいったん顔を見合わせると、少し遅れて挨拶をする。最初に口を開いたのは、兄のローヴェントである。
「これは、ハイゼン殿、ご苦労様です」
 弟のカルサスもそれに続く。
「師匠が先に見えておられたとは、いやはや、任務とはいえ、有り難いことです」
 二人ともどこか言葉がぎこちなかった。
 それもそのハズ、ハイゼンに、手にしたその下心を見透かされたような気分だったからである。
 二人とも、彼、ハイゼンには頭が上がらない。
 彼は、二人にとって得難い師であったし、何より、何者からもその麗しの君を守ってくれる守護者でもある。
 いわば、愛しの人の、その父親的存在なのである。
 よって、彼の機嫌を損なうような真似は、二人には決して出来ない。
 ハイゼンは、二人の王子がここに訪ねて来るのを察して、先にエリクの部屋を後にしたのだが、彼ら二人の、その不自然な姿が可笑しかったのか、あえて手土産の方には目をやらず、少しだけ口元を緩めた。
「エリク様が寂しがっておられます。エリク様も、お二人のその元気な顔を見られれば、心も安らかになりましょう」
「は、はいっ!!」
 二人は快活の良い返事をして、ハイゼンに一礼すると、その足取りを軽くして、天使の待つ部屋へと向かった。
 ハイゼン候、公認で会えるとなると、もはや気掛かりは何もない。
 普段は、彼の目を盗むようにして、エリクに会いに行く二人だっただけに、自然とその気持ちの方まで軽くなる感じがした。
 そうしている内に、エリクの部屋の扉が見えてくる。
 扉は新しいものに取り替えられており、それは品格のある木製のものだ。その扉に合わせて、壁のタイルもシックなものに取り替えられてある。そこには、ハイゼン候の日曜大工の腕が光る。
 二人は部屋の前に立ち、一度、コホンと咳払いをして襟を正すと、コン、コン、っと扉をノックする。
 すると、扉の向こうからゆっくりした足音が近付いて来る。
 開かれる扉から、暖炉の明かりが漏れ出してくると、とても優しい顔をした天使が、背の高い二人の兄たちを、見上げるようにして出迎える。
「いらっしゃいませ、お兄様方。さあ、こちらへ。すぐに、あったかい物でも入れますね」
 二人は揃って、エリクのその眩いばかりの微笑みにドキッとさせられる。
 レムローズの薔薇姫の美しさは、日を立つごとに磨かれており、会うその度に二人の兄たちは、エリクのその美貌に魅了されていった。
 エリクはさらに心の方まで純粋に育っており、その穢れなき心に触れると、小さな雑念や迷い事などは洗い流され、二人の兄たちは自然と、彼女に対する紛れのない心からの笑みが浮かんできた。
 二人が通されたその一室には、暖炉の明かりと温もりが満たされており、パチパチっと小気味良い音が、暖炉の方から聞こえてくる。
 補修された木製の椅子には綿の入ったクッションが取り付けられており、テーブルには、白い木綿のレースの刺繍の入ったクロスが敷かれていた。その、手間のかかったレース編みが、女の子らしさというか可愛らしさをアピールしている。
 板を打ち付けただけだった壁も、いまは暖色系の壁紙に覆われており、使い勝手のよいように、手製の棚が取り付けられている。
 その棚の上からエリクは、貴重品であるレトレアンティーの入った箱を取り出し、惜しげもなくその茶葉を使うと、ミルクと角砂糖をティーカップに添えて、テーブルに着いた二人の兄たちに差し出した。
 エリクは手製の白い木綿のドレスに、ベージュ色のエプロン姿である。
 そのあまりの愛らしさに、折角の手土産を渡すことを忘れ、二人の兄たちは未来の新妻(願望)の姿にだらしなく見惚れていた。
 エリクは紅茶の入ったカップをテーブルの方に置くと、すぐさま、良い香りの漂ってくる方へ姿を消した。
 この兄たちの訪問を、事前にハイゼンに耳打ちされていたエリクは、少し奥にあるキッチンで、様々な形のクッキーを焼いて用意していたのだ。
 それらがテーブルに並べられると、エリクも席に着いて、その両手で愛らしく頬杖をつくと、二人の兄の方を見つめてこう言った。
「クッキーは、自信はありませんが、紅茶は一級品です!! しっかり、飲んでくださいねっ」
 ローヴェントもカルサスも、このままエリクの調子にその身を任せていたい気分になったが、贈り物をテーブルの下に引っ込めたままでは、あまりにも格好がつかないので、まずはローヴェントの方が、エリクへのプレゼントをそっと差し出した。
「花とケーキなんだが、よかったらと思ってな」
 と、恥ずかしそうに差し出すローヴェント。
 さすがに稀代の英雄と呼ばれるローヴェントであっても、好きな女性(ひと)を前にしては、これくらいが限界である。
 ローヴェントから花とケーキを受け取ったエリクは大喜びをして、早速、その席を立つと、素早く花瓶に花を移し、それをテーブルの真ん中に置いた。ケーキの方も一度キッチンに運ばれると、三人分の白磁の皿に取り分けられ、それぞれのカップの横に置かれる。
 花瓶の花々は絶妙な色彩感覚で生けてあり、箱から取り出されたケーキも、わずかな時間で施された繊細なアメ細工のおかげで、高級感が漂う仕上がりとなった。
 それらは、二人の兄たちを感心させる。
 エリクが再度、席に着くと、テーブルはより華やいだものへと生まれ変わっていた。
「ローヴェント兄様のおかげで、紅茶に負けないものが用意出来ましたっ!! 私のクッキーだけでは、やっぱり寂しいですもんね」
 そんなことはないと、ローヴェントはエリクの焼いたクッキーを口にする。
 お世辞抜きに、涙が出るほど美味いクッキーで、バターと砂糖のバランスが素晴らしく、甘いのに後味がサッパリとしている。焼き加減もサクサクで最高だ。
 ローヴェントは、しみじみとそれを味わい感涙するが、エリクは冗談が過ぎるといった感じで笑っている。
 カルサスの方も、それを口にするがやはり美味い。
 さすがにカルサスも、このタイミングで自分のプレゼント渡すと、またエリクを席から立たせる事になるのを気遣い、やはり後で渡すことに決めた。
 花やケーキとは違い、早く出した方がよいという類の物でもなかったし、レトレア織の包みは少し大きいが、それ以上にカルサスは体躯が良い為、マントの奥に隠すのは簡単だった。
 よく考えればエリクにこの段階で、のどから手が出るほど欲しがっている絹織物の、しかもその最高級品にあたるレトレア織など渡したら、彼女の頭の中から二人の存在は跡形もなく消し飛んでいたことだろう。
 結果的に正しい判断をしたカルサスは、レトレアンティーを口に運びながら、エリクのその弾けんばかりの笑顔を楽しんでいた。それは、ローヴェントの方も同じで、見慣れた相方よりも、麗しき美姫の方へと自然と視線は行くものである。
 エリクはとても明るい正確な上、おしゃべりも得意な方だった為、多少、二人が口下手であったとしても、会話はリズム良く交わされた。
「今度、お兄様方にあげる手袋を編もうかと思っています。本当は編み上げてからそう言った話をするべきなのでしょうけど、ついさっき、ハイゼン様からカシミヤの毛糸を頂いたもので。やはり、ここはハイゼン様の分も気合入れて編むべきでしょうね!! 当然、そうなると私の分は余りませんがッ!!」
 ローヴェントもカルサスも顔を見合わせて、毛糸の手袋を受け取る偏屈じーさんの照れる顔を思い浮かべた。
 二人とも、その時のハイゼンの顔は見ものだと、ニヤついてはいたが、三人分しかない手袋をエリクの為に辞退する勇気は持ち合わせてはいなかった。
 やはり、どうしても欲しいモノであるし、エリクが冗談で言っているのもわかっていた。
 ただ、エリクの性格上、辞退すると本気でくれない為、冗談であってもそんなレアアイテムを取りこぼすわけにはいかない、二人の兄たちであった。
「何を、ニヤついているのですか。さては、この私の手には毛織物の手袋より、軍手の方がお似合いだとでも思っているのですね。・・・そうです、よくご覧なさい! この私の手は、働き者の良い手なのですッ!!」
 そう言うと、エリクは二人に両手を、パッと広げて見せる。
 それは、実にしなやかで細い指先をした白い手であり、タコの一つもない、彫刻のように完璧で美しい手であった。
「さあ、兄上様方! この手に、その恵まれた王子として、甘やかされて育った上品な御手を当ててみるのですよ!!」
 二人の兄は、エリクのその繊細で小さな手に見惚れていた為、少し反応が遅れる。
 ローヴェントはかろうじて間に合わせるが、カルサスの方はエリクに半強制的にその手を押し付けられ、その表情がハッとなる。
 柔らかなその小さな手のひらから、エリクの体温が伝わってくる。
 二人の兄たちは、エリクと良く顔を合わせてはいるものの、直接、その肌に触れる機会など皆無であった為、どうしていいものやらわからず、ドキドキと心音だけを高鳴らせた。
「はい、測定完了。これで、正確に手袋を編めると思いますっ」
 そう言って、両手をパンっと合わせたエリクに、やられたといった感じの顔をさせられた二人だった。
 楽しい時間というものは、どうしてこうも早く流れ去ってしまうのだろう。
 エリクと共に過ごす数時間というものは、それこそあっという間であり、同時にそれは二人の記憶に残る、貴重な時間でもあった。
 エリクは何時でも会いに来て欲しいと、嬉しい事を言ってくれるが、ハイゼン候の手前、そう足しげく通う事は、はばかられたし、何よりエリクの存在は、レムローズ王室の秘密なのである。
 今や、英雄とまで呼ばれるようになった兄弟が、それこそエリクの部屋を頻繁に出入りしていては、周りの者たちに怪しまれる。
 ハイゼンの使用人たちなら、さほど問題もないし、彼らは口も堅く忠義に厚い。
 が、一歩、宮廷の表舞台に出たならば、そこは絢爛豪華で、様々な欲望の蠢く、醜い戦場が待っている。エリクの件が、うわさ話が大好きな御婦人たちの耳にでも入れば、間違えなく権力闘争の道具として使われてしまう。
 王は病に伏せっており、第一王子のローヴェントに付くか、第二王子のカルサスに付くかで、にわかに王室内は揺れていた。
 当の本人たちは、そんなくだらない話に興味はなかったし、どちらかの王子を担ごうとする貴族たちも、玉座の脇に堂々と立つハイゼン候の鋭い眼光を浴びれば、自然とその鳴りをひそめた。
 二人の王子たちは、エリクにそれを悟れないように部屋を後にする。
 二人にとってのこの楽園を汚す者が現れるなら、二人は共に手を取り合って、全力でそれ等を排除したことだろう。
 エリクの部屋を立ち去る間際に、カルサスは例の包みを二人からの贈り物だと言って、エリクに手渡した。
 勿論、エリクは飛び上がって喜んだが、ローヴェントはカルサスのその何気ない気遣いがとても嬉しかった。
 煌びやかな王宮へと戻る途中の鉤型の回廊で、ローヴェントは歩きながらカルサスにこう言った。
「すまんな、気を使わせて」
「ハハッ、気にするな、兄貴。払いは、どうせ兄貴なんだしな!!」
「このっ、・・・フフ、ハハハ!」
 こうして、二人の兄弟は肩を抱き合いながら、冷たい隙間風の吹き抜ける回廊を、談笑しながら、歩いていく。
 レムローズ王国の冬は長く、エリクならばすぐに手袋を編み上げてくるだろう。
 ローヴェントがその手袋をはめる真似をすると、カルサスも負けじと両手にはめる真似をして見せた。
 しかし、二人とも言葉には出さなかったが確実に意識していることが一つあった。
 最愛の人である、エリクを失うその日まで、もう一年を残していない。
 来年の冬をこうやって、三人で迎えることは、もう、ないのかも知れない。
 ・・・楽園を踏みにじる者が、この地へとやって来る。
 彼の名は、セバリオス。
 神界フォーリナの主神にして、エグラートの絶対的な神。
 二人は、神と戦う事を決意するのに、何の躊躇いすら感じなかった。
 自分たちの天使を奪いに来る神など、敵以外の何者でもない。
 勝算はなかった。
 勝てる自信すら持てなかった。
 だが、エリクの、彼女の笑顔を守る為なら、二人の兄は、たとえその身が砕けようとも、自ら望んで戦うことが出来た。

 決戦の時は、近い。

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