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ダークフォース 第三章 Ⅰ

2020年12月09日 22時53分37秒 | ダークフォース 第三章 前編
   Ⅰ

 この世界には、
 『魔王』と呼ばれる存在に、対なすように存在する者がいる。
 人々は、彼の事を人類の希望と呼び、過度の期待を込めてこう呼称する。

  『勇者・アレスティル』と。

 本人の意思など無視して、彼は勝手に英雄に祭り上げられ、そしてその行いは常に称えられた。
 彼はただ、自由に生きたかっただけなのに、人々の視線はそれを許しはしない。
 また、彼にはそれなりの実力もあった。
 アレスティルという名の青年は、ギーガと呼ばれる厄災にたった一人で立ち向かい、助けを乞う人々の為に、手にしたその剣を振るう。
 彼の所持する剣は、名を『聖王剣・エルザード』という。
 その鞘は未知の宝飾で彩られており、それは見る者の誰をも魅了するほどの細工で、その片刃の刀身は、氷よりも冷たく青い光を湛えており、不思議なことにアレスティル以外には、その剣を抜くことは出来ない。
 まさに、『聖剣』と呼ぶに相応しい剣だ。
 だが、その聖剣を手にしていたおかげで、いつの間にか彼の勇名は高まっていき、それにつれて周囲の期待もますます高まっていった。
 アレスティルは正直、この剣のことを疎ましく思ってもいたが、何故かそれを手放すことが躊躇われた。
 こうして聖剣と共に戦いの日々に明け暮れていたアレスティルだったが、人々から頼られては感謝され、そして事が過ぎて平穏が戻ると人々から、アレスティルの存在は忘れ去られ、また困ったときは、思い出したかのように神頼みされてしまうという事を、ごく最近まで繰り返していた。
 アレスティルは人々が言うように、自分がもしこの世界を救えたなら、その時、おそらく自分は不要になるであろうし、また救済した後も新たに起こり得るであろう厄介ごとに巻き込まれていくのだろうな。と思いつつも、その身を常に危険に晒しながら、人々の期待に応える働きをしていた。
 彼自身のことを少し語ると、彼、アレスティルは、色白の金髪碧眼の美男子で、線が細く、長身である。
 ただ、本人は口下手なだけなのだが、その印象はとてもクールで、まるで絵に描いたような美しい勇者像をしている。腰に帯びた聖剣もそれに華を沿え、その存在感は他を圧倒する。
 根が純朴はわりに頭は切れるので、人々の善意も悪意も感じ取った上で、利用されるがまま、ギーガを討伐してきた。
 その名声を高めるにつれ、自然と誰も見たことのない高みを目指させられている自分の背中に気付くアレスティル。それは、彼をさらに辛い戦いへと追い込む試練でもある。
 その時、彼はこう自分に言い聞かせて、自身を納得させていた。
「能力があるのならば、行使すべきである。それが良い結果をもたらしているのであれば、私の行動にも意味があるというもの」、と。
 アレスティルは孤独だった。
 彼には過去の記憶というものがほとんどない。
 気が付いた時には、彼のその手には聖剣があり、どうしてもそれ以前の過去が思い出せないのだ。
 外見もその時からほとんど変わってはいない。五年は経つというのに、外見は16~7歳のままだ。
 アレスティルは何かの呪いでも受けているのだろうと、その事を深く考えもしていなかったが、それよりも悲しいことは、思い出せる人というものが、頭の中に誰一人としていないという事だった。
 私は一体、誰の為に、戦っているのだろう。
 アレスティルは、そんな弱気になる自分の心に言い訳をしては、変わらない日々をただ繰り返していた。
 そう、・・・あの日までは。

 アレスティルがティヴァーテ剣王国を抜け、その北西に位置するセバリオス法王国の領内に入った時、アレスティルは「彼女」と出会った。
 どの国にも同じようなことが言えるのだが、国境付近ともなると都から離れている為に、守備軍の数も少なく、防備は手薄である。
 ノウエル帝の名の下、各国は帝国という形でまとまっている為、逆にその辺りへの軍備の増強は、隣接する国といらぬ緊張を高めることにもなる。
 よって、仮に人の暮す集落にギーガが現れても、その規模によって見捨てられることも決して珍しくはない。
 どの国々も戦力は有限で、まして数人から多くて十数人という小さな生存圏を守る為に、貴重な高レベル戦士や数百、数千の軍隊を、多大なる犠牲を覚悟してまで派遣しようなどとは思わないし、そんなことは第一、都に住む数百万の人々が自分たちの身を守ることを優先して、許さないだろう。派遣しただけ中央は脆くなるのだから。
 実際に、正義感を振り回してギーガ駆除に総動員をかけた国家が、瞬く間にその兵数を打ち減らされ、滅びた例もある。
 大陸最強の名を冠するティヴァーテ剣王国や、それに並び立つ北東の軍事国家・レムローズ王国は、戦士数も兵力も充実している為、独自の対応策でそれに当たっているが、各国がかの大国らのように有り余る兵力を有しているわけではない。
 アレスティルにとって、辺境で人々がギーガの被害にあっているのを目撃するのは、そう珍しいことでもなかったし、むしろ、その性格上、救済を求める人々の方へと吸い寄せられているようなアレスティルであった。
 独自で高い防衛力を誇る都になど彼は興味はなかったし、大勢の人々から英雄様や勇者様だと煽てられて、お守り代わりに長期に渡る滞在を求められるのもあまり好きではなかった。
 故にアレスティルは、こうして流浪の旅を続けながら、水と食料を分けてもらう為に、しばしば人の暮らす集落を訪れていた。
 そして、僅か数件の民家の立つその荒野で、アレスティルは目を疑うような光景に出くわした。
 少女が、・・・たった一人のプリエステス(女僧侶)が、一個大隊をも潰滅させるほどに強力なギーガを複数相手に戦っていた。
 人々を守るようにして、自らを盾としてギーガの強撃を防ぎ、手にしたメイスで襲い掛かるギーガどもを振り払う。
 基本、ギーガは黒い塊のような不安定な存在だが、彼女が相手にしているそれは、獣や人型に近いシルエットをしている。それだけの形状を維持出来ているというだけでも、アレスティルは過去の戦闘経験から、いかにそれらが強敵であるかということを容易に見て取れた。
 アレスティルが聖剣の柄に手をかけ、抜刀の姿勢を見せると、それに気付いた少女はアレスティルに向かって、こう言った。
「お心遣い、感謝します。私は大丈夫です、それよりみなさんを安全な場所に。そして、あなたも早くこの場から離れて下さい。・・・誰も守れなくては、この力に意味はないのですから」
 その言葉に、アレスティルはその蒼い瞳を大きく見開き、言葉を無くした。
 彼女は『戦士』だ。
 それも、とても気高い心を持った。
 アレスティルは迷った。
 彼女の為に、戦いたい。
 しかし、それは彼女の意思に、戦士としての誇りに反することになる。
 アレスティルは、生まれて初めて、自分を守ると言われたことに手が震えた。
 こちらを見て微笑む彼女に、初めて人の温度を感じさせられたような、そんな瞬間だった。
 傷だらけになりながらも、法衣を纏うその栗色の髪をした天使は、微笑みを見せてくれている。
 きっと、いまこの瞬間も、苦しいに違いない。何度となく死線を潜り抜けてきたアレスティルには、それがわかる。
 アレスティルは冷静に周囲を見回すと、生まれて初めて目にする悪魔との戦いに、震えて身動きすら出来ない人々に向かって、
「さっさと立ち上がれッ!! 生き残りたければ自分の足で逃げろ!!!」
 と、声を荒げる。
 住民たちはアレスティルの大声に、まるで悪夢から覚めたかのように我に返り、子供たちを抱えて、小道を奥へと逃げ出していった。
 アレスティルは全員が見えない距離へと逃げ切るまで、その場でじっと立っていた。
 その立ち姿は威風堂々としており、人々はそのアレスティルの姿に、助かる希望を見出した。
 アレスティルとしては、別にそういう意味で立っていたわけではなく、ただ彼女が危機に陥る事があるようなら、有無を言わさずギーガどもをなぎ払うつもりでいた。
 そのつもりでアレスティルは、一閃でケリを着けられる間合いにギーガどもを捉えていた。
 アレスティルはこの時すでに、聖剣へと静かなる錬気を始めており、抜刀と同時にその奥義によって敵を殲滅出来るように、静寂にも似た沈黙を保っていた。
 その姿を見て彼女は言う。
「あなたも、どうか早く」、と。
 死闘を演じる彼女には、アレスティルの姿がぼやけて見えている。
 彼女はアレスティルにさえ、ギーガどもの攻撃の余波が届かぬように、背面にライトフォースの盾を形成していた。これは彼女にとっては、かなり不利な条件である。
 アレスティルがその場に留まれば、彼女は全力でギーガにあたることは出来ない。
 しかも、彼女は僅かにだが押され始めている。住民たちを長時間にわたって守り続けていたしわ寄せだ。
 アレスティルに、彼女のその守りの壁は、あまりにも心地が良すぎた。
 まるでそう、天使の羽にでも包まれているかのように。
 彼女が次の言葉を言いかけた、その刹那。
 アレスティルは道理ではなく、心で動いた!!

 アレスティルの碧眼に、銀光が流れる・・・。

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