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外伝 VIV 「エリスさん、焦る!!」 (9回表、29-0。 ノーアウト満塁。)

2016年05月25日 15時08分11秒 | ためぞうの冒険・外伝(仮+試しなど。)
 外伝 VIV




 - 貴女に届いていると、いいなと思っています。

   この小さな、音なき声が。


   私は、貴女たちの言う、

   その『クレリス』と呼ばれる者です。


   誰かと、

   こうして語らうのは、

   とても素敵な事だと思います。


   だから、嬉しくて、

   つい感情が溢れ出して・・・。


   ごめんなさい、

   今はうまく喋れないので、


   私の胸の奥の声が、

   その、・・・漏れてしまっています。 -


 レース編みのフリルに、

 純白の花飾りを胸にあしらった、

 白の絹地のワンピース姿の、

 上品そうな、見目麗しいお嬢様。


 年の頃は、17~8といった感じですが、

 落ち着いていて、

 少し大人っぽくも見えます。


 そんな彼女は、

 二階建ての白い洋館の窓辺で、

 その揺り椅子から、ゆっくりと立ち上がると、


 柔らかに差し込む、木漏れ日の陽光に、

 優しく照らされます。


 ジラから見ると、

 その表情はとても温和で、


 腰の辺りまで伸びるその髪は、

 まるで細い金糸のように美しく、


 柔らかに結われた三つ編みが、

 特に印象的な感じです。


 硝子越しからもわかる、

 その端正な顔立ちは、


 同じ女性であるジラでさえ、

 ちょっと、ドキッとさせられるほど美しさです。


 三つ編みが似合って可愛らしい、

 白のワンピース姿のクレリス。


 彼女、クレリスが、

 少年少女を見守るようにして、

 本を読んでいた、その時の、

 彼女の心の中の言葉。


 その本音にも近い、

 クレリスなりの想いが、

 庭先に立ったジラの心に、

 ちょっと遅れた感じで、

 ゆっくりと伝わってきます。


 ぼんやりとした部分もありましたので、

 それが、正しく伝わっているかどうかは、

 わかりませんでしたが、


 その彼女の声の内容は、

 こういうものでした。


- クレリス(・・・大切な人とは、


       あまりに距離が、近すぎると、

       その、とても大事な部分が、


       まるで、空気のように感じられて、

       不思議と、何かを忘れてしまうように・・・。


       ・・・。


       ですが、

       互いに、気を遣わせないという、

       その良さもありますので、


       それが、あるいは、

       自然なのかも知れません。


       ついつい、その人との時間を、

       当たり前に考えて、

       慣れてしまって、甘えてしまう。


       いざ、離れてみると、


       今日は会えないのかな?


       今週も会えないのかな・・・。


       今月もきっと、会えないんだ・・・。


       今年も結局、会えなくて過ぎちゃったね。


       と、幾年も過ぎてしまう事もありました。 



       では、そのどの辺りで、


       ・・・私は、そして、

       あなたは、気付けるでしょう。


       もっと、ずっと先になるでしょうか・・・。


       それとも、

       どうしても会いたいという理由で、

       行動するという事も、

       出来るかも知れないですし、


       そう出来ない時もあるのでしょう。


       ・・・。


       人と人との、その間に、

       生まれるその見えない糸のようなものにこそ、


       人の「心」というものが、

       宿るのではないかと、

       私は、そんな風に思えてしまいます。


       そこに、その距離など関係はありません。


       ただの一人では、

       どう頑張っても、


       それは、ただ、

       「考えている」というを範囲を、

       越えられない気がします。


       近すぎて、見えなくなる、

       大切な心・・・。


       そして、見逃しがちな、

       その、・・・小さな痛み。


       離れると、余計なことまで心配するのに、

       また会えて、しばらくすると、


       その些細な変化に、

       気付けなくなってしまっていたり。


       ・・・。


       それを繰り返して成長して、

       新たな何かが、芽生えていく事が、


       『人の想い』だと、

       今の私は、考えています。


       想い、想われるのは、

       素直に嬉しいですね。


       出会いには、感謝を。


       そして、別れには、


          「またね。」という言葉を・・・。) -



 ジラには、そういう風に聞こえたのです。

 もしかすると、

 これは、聞く者によって、違う意味に、

 聞こえる、そんな、


 彼女、クレリスの心の音。


 館の窓辺で、

 心を見透かされたように、


 恥ずかしそうな仕草を見せる、

 愛らしい乙女、クレリスです。


 慌てて照れたような、

 彼女の、その隙のある表情は、

 その人が「特別な存在」だという事さえ、

 忘れさせるように、


 白い頬に、ピンク色の紅を差して、

 まるで年下の女の子のように、

 可愛らしいのです。


 これでは、思わず、

 見ているジラの方も、

 照れさせられてしまうような、

 そんな親しみさえ、感じられさせました。


 頬を赤らめたクレリスから、

 彼女の言葉が、


 ジラの胸の奥に、

 綺麗なソプラノの声で、響いてきます。


クレリス(・・・その、

     本当に、恥ずかしいので、


     良かったら、早くこちらへ来てくれると、

     助かります。


     わかったような事を言って、

     何も知らないで、

     哲学的なものを語ったのを、

     聞かれてしまうのって、


     やっぱり、

     変だなぁ~、この人。って、

     思われているハズです・・・。


     私の姿って、

     まだ寝覚めて間も無いような、


     何ともお恥ずかしい感じに、

     映っていませんか?


     アホ毛とか、立ってないですよねっ!?


     ・・・あの、もうちょっとだけ、

     近付いて頂ければ、

     もう少し、上手くお話し出来ると思うのです。


     こほん・・・。


     そこで、じっと見学だなんて、

     放置プレイだと、見なしますからねッ!!)


 思っても見なかった、

 彼女の、その親しみのある反応に、


 ジラは、

 今まで抑えて込んでいた、緊張感から、

 ふわっと、開放されたような気にさせられます。


ジラ(あ、・・・では、

   そちらへと、伺わさせて頂きますね。)


クレリス(は、早く来てくださいねッ!!


     まだ、これ以上に、

     変な事まで漏れ出ちゃったら、

     ホントに、困っちゃいますからぁ~~っ!)



   VIV 『優しい時間。』



 クレリスにせがまれた形で、

 庭先に姿を現したジラに、


 一番に最初に気付いたのは、

 金髪の美少女、アリスちゃんです。


アリスちゃん「!? ライバル現るッ!!」


 金髪の少女から、ジラに向けられた、

 その第一声に、


 この場で「リオン」を名乗っている、

 神槍・グングニルは、


 オオッ、と!

 驚いた様子で振り返ります。


 その視線の先の、

 アリスちゃんはというと、


 自分よりも大人で、美人さんな、

 ジラの方に向かって、


 シュッ! シュッ!! っと、

 拳をすばやく突き出して、

 ファイティングポーズです。


 顔、スタイル、お色気・・・、

 あらゆる点が、負けています。


リオン「・・・そこで、

    シャドウボクシングをするのは、

    お止めなさいっ。」


アリスちゃん「バッチリ、目は開いてるわよッ!


       お兄ちゃんは、ぜーったいッ、

       振り返ったら、ダメなんだからねッ!!」


 闘志むき出しの、金髪の少女に、

 銀髪の少年の方としても、

 これは黙って、うんと頷くしかありません。


 そんな様子の銀髪の少年を、

 気遣いながら見る、執事姿のリオンも、

 その思いは、同じようです。


リオン+少年(駄々っ子って、

       変に止めると、余計にやっかいに、

       なったりしますからネ・・・。)


 そんな挑戦者(チャレンジャー)的な、

 アリスちゃんに向かって、


 ジラはこんな風に、

 煽るように、褒めてあげます。


ジラ「まぁ、なんて可愛いお嬢様なんでしょうッ!!


   サラサラの金髪に、愛らしい綺麗なお顔。

   それに、素敵なお洋服がとっても、

   似合っちゃって・・・。


   ねぇ、リオンさんっ!!

   この子、貰って帰っちゃっていいですかぁー?」


リオン「ええ、


    持て余していたので、良かったら、

    お持ち帰り下さいな。」


 両手をギュ~っ、と組んで、

 嬉しそうな表情を見せるジラに、


 照れたような顔をしながらも、

 強くこう返す、アリスちゃんです。


アリスちゃん「勝手に、話を進めないでッ!


       そもそも、私は物じゃないんだから、

       あげないわよッ!!


       なぁーんだ、リオンのアレなのね。


       ・・・リオンの女なら、

       あなたが、何とかしなさいよッ!」


リオン「もし、そうだったら嬉しい限りですねッ!!


    こんな小うるさい娘の、子守りより、


    ミス・ギャラクシー・ユニバース的な美女であられる、

    ジラさんと、

    お近付きになれると言うのならッ!」


 その浮ついたリオンの反応に、

 銀髪の少年の方も、

 すぐにこう反応します。


 少年は、この時、

 彼女ジラの正体が、

 あの緑の髪の戦乙女だと、

 気付いたのです。


銀髪の少年「ぼ、僕も是非、

      お知り合いになりたいですッ!!」


 持てるだけの勇気を持って、

 その少年が放った一言は、


 金髪の少女を挑発するのには、

 十分でした・・・。


アリスちゃん「だから、

       見ちゃダメって言ってたのにぃ!!


       そりゃ、どーせ私なんて、

       セクシーな感じでもないし、


       あんなに、肩がこりそうなほど、

       ムネも、デカくないですよーーーだッ!!!」


 また、ふてくされてしまったアリスちゃんに、


 しまったッ! っという表情の見せる、

 バツの悪そうな感じの、

 銀髪の少年のその顔を、


 冷めたような白い目をして、

 リオンとジラが、じーっと見つめます。


銀髪の少年「ぼ、僕が悪かったですッ!


      そんな、酸素薄いよっ、

      標高高いよ、

      みたいな顔をしないで下さい・・・。」


 それでもリオンとジラは、

 あの、天を突くように高い山の、

 その頂を目指すような足取りで、

 ジリジリと、少年の前に詰め寄ります。


銀髪の少年「た、助けて下さいよぉ・・・。」


アリスちゃん「お兄ちゃんをいじめちゃ、

       ダメーッ!」


 そう言って、二人を遮り、

 少年を守ろうとする、

 アリスちゃんのその姿は、


 ちょっと、見え透いた欲のようなものが、

 混ざってはますが、


 まさに、勇敢そのものです。


銀髪の少年「ありがとう、アリスちゃんッ!!」


 少年のこの言葉を、

 待っていたと言わんばかりに、

 アリスちゃんは、ご機嫌になります。


 リオンとジラは、

 計ったように見合わせると、

 上手く行ったという感じで、

 その口元を、ちょっとだけ上げて見せます。


 ・・・大人ってズルいですね。


 そう思うしかない、

 ダシに使われた、銀髪の少年でした。


 そのやり取りを、

 洋館の窓辺で見つめている、クレリスが、


 ジラの方に向かって、

 軽く手招きをしています。


アリスちゃん「あ、妖精さんのお客さんなの?」


 ジラが、うんと頷くと、

 アリスちゃんのなるほどー。

 っと、納得している様子です。


アリスちゃん「そうよねー、


       こんな美人なおねーさんが、

       リオンの女の訳、

       ないよねーッ!!


       もちろん、お兄ちゃんにも、

       興味とかないよね?」


 ジラは、そのゴージャスな、

 ライトグリーンの髪を、風に靡かせ、

 にこやかにこう答えます。


ジラ「はいっ、

   興味ゼロですョ。」


リオン+少年君「・・・そ、そんなぁ。」


 ジラは、そのまま、

 スタスターっと、館の玄関の方へ、

 向かっていきました。


アリスちゃん「オトコって、

       悲しい生き物よね。」


 リオンと銀髪の少年は、

 互いの肩に手をやって、


 ハァ~ッ、っと、

 深くため息を吐きました。



 屋敷の中に招かれたジラが、

 まず先に通されたのは、


 いろんな可愛いぬいぐるみが置かれた、

 ファンシーな感じの、乙女の一室でした。


 部屋は、それほど大きくはないですが、

 乙女の憧れ、天蓋付きのふかふかベットも、

 ちゃんと置いてあります。


 とっても、少女趣味なお部屋です。


ジラ「あの・・・、

   アリスちゃんの趣味ですか?」


クレリス「・・・。


     そう言いたいのですが、

     実は、私の趣味なのです。」


 小さなテーブルに向き合って、

 椅子に座るクレリスが、


 もじもじとしながら、

 恥ずかしげにそう言います。


ジラ「そういえば、

   目覚めがまだ完全ではないと、

   聞いておりますので、

   あまり、お気になさらないで下さい。   


   そうも、恥らわれると、

   こちらまで照れてしまいそうです。」


クレリス「あ、はい!


     えっと、

     夢を見ているような感覚なのですが、


     その私が求めているものが、

     ・・・こういう物だったりします。」


 言われてみると、

 確かに、フリルのやたら付いた可愛い服が、

 多めにクローゼットに並んでいます。


 部屋の色使いも、

 白を基調にピンクが多めです。


ジラ「可愛いのは、私も好きですよ。


   ただ、なんと申しますか、

   『戦女神』というその称号がですね、


   そういった物を、私から、

   どんどん遠ざけて行っているようで。


   ついでに・・・その、婚期もw」


クレリス「あー、わかりますっ!!


     何と言いますか、

     管理職って、そういうのありますよねッ。


     その反動で、

     部屋がこんな感じに、

     なっておりますが・・・。」


 何とも親しみのある、

 感性豊かなクレリスに、


 ジラも思わず、

 すんなりと、その心を許せそうな気にさせられます。


 この二人ならば、良き友人になれそうです。


 テーブルに用意された、

 紅茶と、いろんな形の可愛いクッキー。


 ジラが、花柄のティーカップを口に運ぶと、

 豊かな紅茶の香りが、鼻腔を抜け、

 甘過ぎないその上品な味が、


 ジラを、何だかほっとさせます。


クレリス「紅茶、上手く入れられてました?」


ジラ「はい、おいしいですね、


   飲み終わったら、

   おかわりを頂きたいくらいですよ。」


クレリス「まぁ、ありがとう、

     ジラさん。」


 クスクスと二人は笑い、

 雑談を交えながら、

 楽しい時間が流れていきます。


クレリス「時が経つのが、早く感じられて、

     退屈な日々を送っている身としては、

     とっても嬉しいです。


     えっと、それで、

     本題の方なのですが。」


ジラ「あ、はい。」


 クレリスは、グングニルを通じて、

 ジラの申し出を知っています。


 それについて、

 クレリスはこう答えました。


クレリス「折角のお申し出なのですが、


     私は、出来ればジラさんと、

     お友達になりたいので、


     これが、滅多にない、

     貴重なチャンスだとは、

     十分に、わかっているのですが・・・、


     あなたには、笑っていて欲しいのです。

     例え、どんなに離れていたとしても。」


 ジラの、「その身を彼女に捧げ、

 転生によって、自身を未来に繋ぐ」という、

 その提案は、


 こうやって、やんわりと断られました。


 今のジラには、

 そのクレリスの言葉に、

 返す言葉を、持ち合わせてはいませんでした。


 そんなジラに、

 クレリスはこう続けます。


クレリス「あの白いつるぎは、

     私の親しい友から頂いた、

     大切な贈り物です。


     その名を察するに、

     『グラム・ス』と名付けられたのではないかと。


     つるぎを託してくれた、その彼女は、

     あえて、無名だと言い張っていましたが、


     そのつるぎに宿る、

     『選定せし者』という能力から、

     使用されたつるぎが、

     ある戦神の所有していた、

     『グラム』だとわかりました。


     それをさらに鍛え直して、

     別物になるほどの輝きが、

     加えられていますので、


     原型を知っていても、

     きっと、他の方では、

     わからない姿になっている感じです。」


 ジラには、彼女の語る言葉の、

 その全てが、理解出来たわけではないのですが、


 こうも、限られた者にしか、

 知られる事を許されない秘密を、

 ペラペラと話すクレリスに、


 ジラは、その彼女の信頼を得てしまったという、

 確信と光栄に、

 その身が震える思いでした。


 ですが、ジラとしても、

 簡単に引くわけには行きません。


 相当の覚悟で、彼女との対話に臨んだ以上、

 ジラは、自身の使命を再認識させられます。


ジラ「この庭の外で起こっている出来事を、

   失礼ですが、

   クレリス様はご存知でしょうか?」


 そう語るジラに、

 クレリスは、軽い感じで、

 うん、と頷きます。


クレリス「その・・・様ってのは、やめて下さい。

     何だか、お友達っぽくないですーっ。


     クレリスちゃんでも、

     クレリスさんでも、

     なんなら、呼び捨てだっていいですので。


     えーっと、

     はい、限定解除された隔離空間で、

     行われている、

     アリスや、あの少年との事ですね。


     普段は、何食わぬ顔のリオン(グングニル)が、

     今回は、隔離空間にアリスが入った時くらいから、

     関心を持ち始めましたので、


     だいたい、

     その辺りからであれば、理解しています。」


ジラ「では、その場所に、


   『エリス』という名の少女の、

   戦乙女が居たのは、ご存知ですよね。


   彼女こそ、転生後の私なのです。


   つまり、彼女の存在を守る必要が、

   この私にはあります。」


 ジラのその言葉に、

 クレリスは、少し考えたようにして、

 こう答えました。


クレリス「では、こうしてはいかがでしょう。


     しばらく、ジラさんに逢えなくなるのは、

     とても残念な事ですが、


     その命の器(身体)を、

     一時的に、こちらで預からせていただいて、


     後のエリスさんが、

     この私を訪ね、求めて来た時に、

     お返しするというのは、いかがでしょうか?」


 ジラは、そのクレリスの配慮に、

 感謝を込めて、深く頷きます。


 クレリスが彼女、ジラの想いに、

 気が付いてくれている事に・・・。
 

 ジラは、この時、

 誰よりも早く、現時点の世界にて、


 白のつるぎ、『グラム・ス』が、

 他の、欲を秘めた何者かに、

 用いられるという事が、


 いかに脅威的で、

 破滅的な、厄災を招くのか、

 という事に気付いたのです。


 『シュヴァルツメイデン』という、

 無数の鋭い棘を持った、美しき黒い薔薇が、


 その役割を一時的にとはいえ、

 失った事で、

 露わとなった、真の姿。


 クレリスは、

 その淡いピンクの口元に、

 ティーカップを運ぶと、


 少しだけ時間をかけて、

 ゆっくりと紅茶を味わうと、


 ジラに、優しい笑みをして、

 こう言います。


クレリス「ジラさんは、すでに、

     果てなる世界のその先にいる、

     真の脅威を、


     その莫大な戦闘経験にて、

     理解しているのですね。


     まさか、『ハイデスの魔王級』を、

     たった一人で、

     誰にも悟られる事なく、

     退ける程の戦士が、


     『クランドクロス』の精鋭十二戦士に属するという、

     その十二番目の戦士、


     『絶対者』と呼ばれる者以外に、

     実在していたとは・・・。


     この事実には、さすがの私も驚きです。


     きっと、それは、

     この私だけが知りえた、


     ジラさんという、

     誇り高い、戦女神に出会えたという、
     

     とても貴重な、

     二人だけの秘密になるのですね。」


 クレリスは、

 ジラがまだ誰にも打ち明けたことのない、

 たった一度の、

 混沌(カオス)との戦いの記憶を、


 彼女は、ジラと出会ったという、

 それだけで、

 感じてしまったのです。


 それでも、

 その圧倒的な力を求めるより、

 ジラの友人になりたいと、

 それを第一に、願うような女性。


 ジラは、

 この彼女、クレリスになら、

 その全てを委ねられる気がしました。


 言葉では表せない、

 何者を包み込むような、その抱擁感。


 彼女に触れる事で得られる、

 言葉に出来ない、心地良さ。


 彼女クレリスは、

 伝承の戦乙女として、

 その神槍を振るうには、


 あまりにも優しさといたわりが、

 溢れすぎているのです。


 もし彼女が、その神槍を手にすれば、


 際限なく、

 人々にその加護や煌きを、

 背中に延びる、二対の翼から、


 一枚の羽根も無くなってしまう、

 その時でさえ、


 身を滅ぼしながらでも、

 与え続ける事でしょう・・・。


 世界の視野を、もっと大きく、

 この小さな銀河、ゼリオスを超えて、


 広げられるその最大まで広げても、

 その彼女の持つ、


 『慈愛』という、


 ただの一つしかない、

 その極めて重要な、

 属性のオリジナルが失われる事が、


 どれ程の範囲の世界に、

 深い痛みを与えるのかと・・・。


 ジラは、その想いを知ります。


 ファーストの至宝、『グラム・ス』に託した、

 伝説の工神の、深い愛情。


 『慈愛のクレリス』を守る為に、


 かの工神は、

 白きつるぎ、グラムに、


 純白の乙女の盾、

 絶対防御の『ヴァイツシルト』の加護を、

 纏わせています。


 その純粋な、工神の乙女の心が、

 理解出来たような気がしたのです。


クレリス「ほら、光で溢れた、

     あの庭を見てください。」


 そう言って、クレリスは、

 窓辺に映る、微笑ましい景色を見つめます。


 そこには、銀髪の少年を中心に、

 金髪の少女アリスと、長身のリオン、


 そして、その輪の中に、

 もう一人の銀髪の少女、

 フェノが、新たに加わっていました。


クレリス「これは、私の望んだ理想です。


     そこに、あの『セバリオス』という少年の、

     風が加わりました。」


 ジラは、クレリスの口から出た、

 その「セバリオス」という名に、

 やや、驚いた様子です。


ジラ「ええ、

   彼は良き世界の導き手となるでしょう。


   そこまで、お見通しなのは、

   流石としか答えようがありませんね。」


クレリス「あ、いえいえ。


     名前が、なんとなく分かっただけですので。

     そこまで、千里眼じゃないですよ、私。」


 クレリスとジラは、

 その景色を少し眺めた後、

 話を戻して、空いたカップに、

 紅茶を注ぎました。


クレリス「ん~、いい香りです。」


ジラ「味も、大変よろしいですよ。」


 クレリスは、少しだけ視線を、

 天井に近い、部屋の隅の方に移すと、

 
 再度、ジラを見て、

 こう語りだすのです。


クレリス「いつだったか、

     私を呼ぶ、声が聞こえたのです。


     それは、距離を関係なく、

     私の心の内側に、飛び込んで来ました。


     それが、あの庭にいる、

     アリスの声だったのです。」


 クレリスは、この世界まで来るに至る、

 その経緯を、簡単に説明しました。


 助けを求める、金髪の少女の発した、

 か細い悲鳴。


 その子の名が、

 彼女を送り出した、

 伝説の工神の乙女と、同じであった事。


 少女アリスの求めに、

 グングニルの力を借りて、

 応えたという、その事実。


クレリス「双子の姉妹は、

     『ジュエル オブ ライフ』という、

     運命の鎖に繋がれ、


     とても耐え難い苦難を、

     背負わされていると知り、


     その運命を変える事が出来ないかと、

     今へと至ります。」


 奇跡の命の泉、

 ジュエル オブ ライフの存在を知られた事で、


 争奪の対象となった、

 二人のか弱い姉妹。


 絶えず迫り来る、その数多の脅威、


 幼い少女たちに、

 あまりにもそれは過酷でした。


クレリス「私が出来る事、


     それは、一時的ではありますが、

     白きつるぎ、グラム・スの鞘を、


     小さく柔らかな、アリスのその手で、

     抜かせる事でした。


     しばらくの間は、

     リオンの剣術の技量で、

     その危機を凌いでは来ましたが、


     責任感の強いその少女は、

     愛する純真な妹、フェノを、


     それ等の穢れに、触れさせぬ為、

     とても、大きな決断をします。


     それが、彼女が、

     その手で後に作り上げた、


     暗黒のつるぎ、

     『シュヴァルツメイデン』になります。」


 金髪の少女アリスは、

 その手をあえて、

 闇よりも黒い穢れに晒し、


 一つの強大な、暗黒の力を手にします。


 それからのアリスは、

 妹フェノを守る為に、

 手段を、選ぶ事はありませんでした。


 闇の深淵に、触れるほど、

 その心までもが、

 黒く闇色に染まっていきます。


 そして、

 向かい来る脅威を排除する度、


 まるで人としての感覚が、

 徐々に麻痺するように、

 次第に、善悪の区別を失っていくアリス・・・。。


 それでも彼女が、

 深淵の淵に立ちながら、

 その理性を失わなかったのは、


 この安らぎの場所を、

 クレリスが、その想いの力で、

 ずっと維持し続けているからでした。


クレリス「邪悪なる無敗の女王、


     『邪王』の呼び名で、

     恐れられるようになった、

     彼女アリスに、


     向かって来る者は、

     次第に数を減らしていきます。

     ですが、アリスは、

     闇に染まりゆくその影響で、

     争わずにはいられない、

     そんな、身体になってしまったと、


     真の邪神に似た衝動を、


     あれでも、無意識にとはいえ、

     必死に押さえ込んでいるのですよ。」


 ジラは、邪王アリスが、

 心の奥底にある、この小さな楽園に、

 触れられる事を、


 強く恐れていたその意味を、

 クレリスの話によって、理解しました。


 もう、妹のフェノすら、

 守る対象と決めた、その時の気持ちを、


 それすらを破る行為を、

 己自らにさせぬよう、

 その初心を、忘れぬ為に・・・。


 邪王アリスにとって、

 彼女を救い得る手段は、

 万能の創世主でもなく、


 その心の中にある、

 『温かで、素敵な想い』だけしかないのだから。



 この時、

 光に満ちた庭の外側にいる、

 聖王バルエリナスは、


 かつてない脅威が、

 もうその目前に迫っている事を、

 誰よりも早く察知します。


聖王バルエリナス「!?

         ・・・まさか、

         この速さで気付かれたというのッ!!!」


 そう言って、

 その表情を、硬くしたバルエリナス。


聖王バルエリナス(・・・アリスアリサが、

         世界の最果てで、

         あの脅威と対抗している今だからこそ、


         この時を選んで、

         エグラートを訪れたというのに。


         その脅威が、

         一つだけではなかった・・・。


         私の知らないもう一つの争いが、

         この世界で、あったのだ・・・。)


 そう押し黙る、バルエリナスに、

 ルフィアは、問いかけます。


ルフィア「何が起こったのですか、

     バルエリナス様。」


 聖王は、

 この場にいる、戦闘可能な者たち、


 邪王姉妹、剣聖アレスティル、

 そして、ルフィアにこう告げます。


聖王バルエリナス「みなさん、心して聞くのです。


         これから、恐るべき脅威に、

         私たちは、遭遇します。


         六極神である、その覚悟を以って、

         来るべきその脅威と、

         戦うのです。


         この世界を、


         エクサー『エルザーディア』の管理する、

         美しい大地を持つ、この星々を、


         人々を、世界を、

         何としても、死守しなければなりません。


         でなければ、この世界そのものが、

         初めから存在しない、


         ただの星空の帳として、

         その一切が消え去ります・・・。


         我々は、

         他の全ての世界から、


         今、この瞬間、見放されたのです。」


 ただならぬ、その聖王の変化に、


 邪王フェノも、剣聖アレスティルも、

 絶大な強さを誇るルフィアさえもが、


 聖王の言う、その未知なる脅威に対し、

 決死の覚悟で、


 各々のつるぎに、

 その手を汗でにじませ、柄を握ります。


 クレリスも同じく、

 グングニルの放った斥候を介して、


 ジラとの、この穏やかな、

 対話の時の終わりを感じます。


クレリス「・・・間もなく、


     『ハイデスの魔王級』の何者かが、

     こちらへと顕現するでしょう。


     自分で言っている事が、

     無茶苦茶なのは、認めます。


     ジラさんには、

     迫り来る、大いなる悪意を退ける、


     その盾となって欲しいのです。」


 ジラは、その言葉に頷くと、

 この小さな楽園を後にする、覚悟を決めます。


ジラ「エルザードの戦女神の名を賭けて、


   全力を以って、相手して参ります。」


 クレリスの願いに応える為、


 ジラは、戦女神の魂を、

 青い瞳に強く宿すと、


 ジラの所有する、

 まだ他の誰にも明かした事のない、

 神話の中の、戦女神の槍。


 『神槍・ブリューナク』を手に、

 その戦場へと向かいました・・・。



           そのXへと、続きます。
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