昭和・私の記憶

途切れることのない吾想い 吾昭和の記憶を物語る
 

女の まこと

2020年08月28日 14時54分48秒 | 8 大和撫子

新撰組血風録
海鳴りが呼ぶ
司馬遼太郎 著 『 新撰組血風録 』 に、此れは無い。
昭和40年 ( 1965年 ) 12月5日 放送の テレビ映画の中にあったものである。
私はテレビの再放送を観て、此を記憶したのである。
だから、文章が拙いと云うなよ。


山崎烝の許嫁 久江               山崎烝 やまざきすすむ
・・・若き日の小川知子 

鳥羽伏見の戦で敗れた新撰組は大阪城へ退却する。
山崎烝は瀕死の重傷を負っていた。
大阪出身の山崎は許嫁がいた。
甲斐甲斐しく 山崎を看病する許嫁の久江を見て、
「 山崎君は監察という役目柄、休みの日などなかったろうから、

二人で会うことなど ほとんどなかったんじゃねえかな、かわいそうに・・・・ 」
原田左之助がそう呟く。
「 しっかり食べさせてくれ 」 と、医者は言う。
しかし、もう山崎は何ひとつ喉を通らなかったのだ。
「 もう たすからない 」・・・久江は決意する。

これから新撰組は、退却する幕府軍と共に海路 江戸に向かう。
江戸で新撰組の再起を図るためである。
もう自力では立ちあがれない山崎、江戸までの航海に耐えるだけの体力はない。
「 山崎君、君はここに残って ゆっくり静養するんだ 」
と、近藤が 諭す。傍らには、心配そうに見つめる土方もいる。
「 近藤先生、私を連れていって下さい 」
「 ありがとう、山崎君。しかし その傷では無理だ。
なーに、すぐ直るさ。傷が治ってから 亦 一緒に戦おう 」
しかし、己の死期が近いことを知っている山崎は、どうしても江戸に行くという。
「 私は武士です。こんなところで死にたくはありません。新撰組の隊士として戦場で死にます。
どうか、私を連れて行って下さい。  近藤先生。  土方先生 」
死を覚悟している山崎の鞏固な意志に、近藤も土方も負けた。
そして、山崎の意を汲んでやるのである。
「 よし、山崎君、一緒に江戸に行こう 。そして戦おう 」
どうせ永くない命、
近藤も土方も、せめてその最期は 山崎の希望を叶えてやりたかったのである。
それが 『 武士の情け 』 というもの。  『 友情 』 というもの。
「 ありがとうございます、近藤先生。土方先生 」
山崎の両眼から涙が溢れる。

山崎の意識がなくなった。昏睡状態になった。
駆けつけた医者が首を横に振る。愈々駄目か・・・・。
近藤が、久江に言う。
「 あなたは山崎君の為に一生懸命尽してくれた。私からも礼を言う。ありがとう 」
山崎烝の兄が言う。
「 久江さん、あなたにはここまで、弟の為に充分していただきました。
弟は幸せだったでしょう。
弟に代ってお礼を申します。ありがとうございました。
しかし、弟はもう助かりません。助からないのです。
許嫁とはいっても、未だ祝言を挙げたわけではない。
あなたはまだ若い、これからは あなたの為にだけに生きて戴きたいのです。
あなたの為を想って言うのです、もうお帰りなさい 」
「 いいえ、私くしは帰りません。
私くしは烝様の妻と・・・そう想っております 」
「私くしは、妻として、 夫の門出を見送りとうございます」
「 お兄様、どうかお願いです。私くしのこの想いを叶えてやってください 」
「 久江さん・・・・」
「 私くしは山崎烝の妻でございます 」
「 あなたはそこまで山崎君のことを・・・・」
近藤は絶句する。
傍らで腕を組んだ侭 黙して語らず、土方は天を仰ぐ。
「 久江さん、ありがとう 」
山崎の兄も、久江の悲壮な決意に打たれた。

薩長の官軍は、既に幕軍に迫っている。
幕軍から、一時も早く乗船せよとの司令が下り、その準備の真っただ中であった。
「 よし、これから祝言を執りおこなおう。
歳さん、全隊士を集めてくれ 」
近藤は、久江の 『 女の まこと 』 に感銘を受けた。
そして、久江の 『 女の まこと 』 に 報いようと、山崎と久江との祝言を敢行したのである。
全隊士が見守っている。
昏睡状態、意識のない山崎に、補助する隊士が、三々九度の盃を口に運ぶ。
続いて、久江が盃を口にした。
「 これで、久江さんは 新撰組 山崎烝の妻と成った。おめでとう 」
新撰組隊士一同が祝盃を挙げる。 
茲に久江は山崎烝の妻となったのである。

「 なんて綺麗なひとなんだろう。
こんなに綺麗なひと、みたことがない。
このひとは日本一の幸せもんだ。
しかし、山崎君は祝言を挙げたことすら、分らないのだろうな・・・ 」
原田左之助はそう想った。

まさにその時
ドーン
そこに、官軍からの砲弾が炸裂する音。
「 一刻も早く 江戸へ向かう戦艦富士山丸に乗船して下さい 」
と、幕府の役人が駆けつける。
意識のないまま、担架で運ばれる山崎烝。
これが山崎にとっての出陣なのだ。
それを見つめる 妻 久江。
武士の妻として、戦場へ向ふ夫を見送るのだ。
しかし、これが夫である山崎烝を見る最後でもある。今生の別れでもある。
そんな、妻 久江の心懐を慮る土方歳三。
「 久江さん、あなたのこれからについては、新撰組で出来る限りのことはするつもりです。
あなたは もう 直参旗本山崎烝の奥方です。武士の妻に相応しい駕籠を用意しております。
どうかこれに乗ってお帰りなさい 」
これが新撰組隊士、山崎烝の妻 久江にしてやれる、土方歳三の せめてもの慮いであったのである。
今や、許嫁の久江ではない、新撰組隊士 山崎烝の妻として帰るのである。

明治元年 ( 1868年 ) 一月四日、富士山丸は出港した。
山崎烝は昏睡状態のまま 意識の恢復がない。
隣の船室では沖田総司が横たわっている。
血を吐いて、もはや動けなくなった沖田総司に付き添いの斎藤一が言う。
「 沖田君、山崎君も頑張っているんだ 」
「 そうですね、山崎さんも頑張っているんですよね 。私も負けては居られませんね。
でも、この船、よく揺れますね 」
又 別の船室の原田と永倉は、
「 あのひと、綺麗だったなあ。  あのひとは、日本一の幸せもんだよ 」
と、祝言を振り返りながら、原田左之助が言うと、「 そうかなぁ? 」 と、永倉新八。
「 そうだよ、そうにちがいない」
「 でも、あれでよかったんだ 」
自分自身にそう言い聞かせる二人であった。

山崎の容態が急変する。
駆けつける近藤と土方。
原田も居る。永倉も居る。斎藤も居る。
「 山崎君 !」
額に汗をかいて魘されている山崎に、近藤は問いかけるが その声は届かない。
「 もう、これまでか・・・・」
誰もがそう想ったその時、突然、カッと眼を見開いた山崎。
「 久江、出陣だッ ! 久江、出陣だ ッ! 」
と、絶叫すると、息を引き取ったのである。
「 山崎君は、久江さんと夫婦になったこと・・・分っていたんだ 」
と、近藤の言に皆が頷く。
「 山崎君の死は、戦場での戦死である。立派に葬ってやりたい 」
との、近藤の懇願に、
「 海軍式 『 水葬 』 で送りましょう 」
と、艦長は最高の礼で以て 此に応えるのである。
全隊士の見守る中、山崎烝の柩は海に放たれた。
海兵隊が射はなつ 弔銃の音で、沖田は山崎の死を知るのである。
海鳴りのする夜であった。

イメージ
白無垢の打掛の前で、一人、夫を慮る妻の久江。
山崎烝の柩が海に沈んだその瞬間。
白無垢の打掛が、大衣桁から ハラっと、くずれ落ちた。
久江は夫の山崎烝が、今 死んだことを直感するのである。
そして、海鳴りのする夜。
白無垢の打掛を纏った 妻 久江も亦、海に身を投じ夫 烝のもとへ逝った。
山崎烝の妻 久江の覚悟の死であった。

忘れらることはない・・私の記憶である。
私の心懐に在る、女の まこと の物語である。
なんと 切ないのであろうか。

日々の生活の中で得た感動や教訓、此を己が体験として記憶する。
しかしこの事、なにも実体験から得たものだけとは限るまい。
読書の中から、映画や演劇の中から、得たものとて同じなのである。


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