餅つき
餅をつく音に目がさめた。
はね起きて見ると、
土間の大釜の上に積んであるせいろうからは、盛にゆげが上がつてゐた。
おかあさんは取粉をのし板の上にひろげて、餅のつき上るのを待つていらつしやる。
おとうさんは きね、おばあさんは こねどり、おぢいさんは大釜の火をたいていらつしやる。
にいさんが奥の間に、餅を並べる所をこしらへてゐた。
「 お早う。」 といふと。
「 よく目がさめたね。今四時を打つたばかりだ。」 と、にいさんがいつた。
つき上ると、おばあさんが餅を臼の中で丸めて、おかあさんの所へ持つていらつしやつた。
おかあさんはそれを二つにちぎつて、ぐるぐるまはしていらつしやつたが、
忽たちまち きれいなおそなへになつた。
二臼目で小さなおさなへが幾かさねか出來、三臼目からは、のし餅が出來た。
四臼目の時は、おぢいさんも手つだつてつかれた。
二かさね目のせいろうから、ゆげが上るまでに、少し間があつた。
其の時にいさんが
「 私にもつかせてみて下さい。」 といひ出すと、おぢいさんが
「 とてもまだ。」 とおつしやつたが、
おばあさんは
「 まあ、ついてみるがよい。」 とおつしやつた。
いよいよ にいさんがつき出した。
始めのうちは勢がよかつたが、間もなく腰がふらつき出して、
ふみしめてゐる兩足が、きねをふり上げるたびに動いた。
おとうさんが
「 せいは高くても、まだだめだ。」
と おつしやつたが、
それでもとうとう一臼だけはつき上げた。
八時頃には、すつかりすんだ。
おしまひの一臼には、小豆やきな粉をつけて、うちでもたべ、近所へも配つた。
・・・国語読本巻八 第十四課