吉松ひろむの日記

高麗陶磁器並びに李朝朝鮮、現代韓国に詳しい吉松ひろむの日記です。大正生まれ、大正ロマンのブログです。

昭和初期 大阪から小樽 七

2006年10月31日 08時25分51秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  七                          
 ビー玉の謎
 ぼくは父の汽車の時間表を手にした。
 ウメちゃんちで教わった漢字のおんよみで読める駅もある。
 きょうとの京は読めたが都をとと読むのを知った。
 おいしい弁当はすぐからになった。母がリンゴをだしてくれた。
 森永のミルクキャラメルもくれた。
 遠足のときよりもっとすごいごちそうやった。
 なんとか賀と書いた駅札が見えた。これはつるがと言う日本海でいちばん大きい海軍の港町と父が言う。
 つるがを発車してながいトンネルをぬけて絵本にあった軍艦が波をけってはしる光景を頭にえがいているうちにねむってしまった。
 大きな川にかかる鉄橋を渡るレールの音で目覚めたら朝になっていた。
 いつのまにかぼくのよこに学生服を着たお兄さんがすわっている。
 …ぼくちゃんよく寝ましたか?…とお兄さんがにこにこ顔で聞いた。
 …うん!軍艦にのったらいつのまにか汽車の夢やった!…
 ぼくはねぼけ顔をこすって答えた。
 …いま通った川は神通川やて、父さんの故郷はこの川の上流の神岡町や、子供の頃はこ  の川でよう泳いだがァ!…と窓外をみながら父がつぶやいた。 
 つぎはとみやまや!大きな駅やからおいしい弁当もあるやろ!…とぼくは時間表を見て言った。
 …よう読めるね、とみはとと読んで富山と言うよ…としろい顔にあごにひげのみえるお兄さんが言った。
 …うん、ぼく、大阪で朝鮮の友達にむつかしい漢字習うたんや…
 …朝鮮の?…
 …そうや、どもりやけど秀才や、千字文の漢字むつかしかったでェ!…
 …きみは凄いこと習ったね!千字文は朝鮮のしゅしがくのにゅうもんの書物ですよ!…とお兄さんは感心した顔になった。

昭和初期 大阪から小樽 六

2006年10月30日 05時18分01秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  六                          
 ビー玉の謎
 列車のすぐむこうで機関車がシャーッ!シャーッ!と騒いでいる。
 重い客車に何百人もの人やかもつを乗せて、山坂をはしりぬいてきょうとについたんやから、シャーッ!シャーッ!とさわぐのもあたり前と思った。
 そうや!すっかりべんとうをわすれとった。
 …母ちゃんべんとうほしい!…
 ぼくは父ちゃんが梅田で買うたべんとうを思い出して言った。       
 …ちーとはやいけんが食べるかい!…                       母はあみ棚から弁当を下ろした。  
 父は小さな瓶からコップにうすい黄色の水…もちろん酒やった…をついでは飲みながら …小樽はまだ街にぎょうさんの雪がのこっちょるがァ!…と言った。
 ぼくは土佐のいなかの弓うちまつりで見た真っ白い雪を思い出したがつもった雪の上を歩いた記憶はない。
 あの時はばぁちゃんの背中やった。
 …雪やったらスキーできるんやろ!…
 …できるもなんも、街がスキーじょうでスケートじょうや!…
 ぼくは絵本で見たスキーのいさましい姿を思った。 
 …ぎょうさんつもるんやろな!…
 …お前の背丈をこすほどつもるでェ!…
 ぼくはおそろし!とつぶやいた。
 大阪のほうがなんぼええかわからんに、なんでそんな雪だらけのところへ?…と大人はどうかしとる!と思った。
 べんとうはごはん箱とおかず箱とふたつもついとった。ふたをとるといままでかいだこともないごちそうのええ匂いがあたりにたちこめよった。
 絵本の竜宮さんみたいなごちそうがぎっしり箱につまっている。
 一、二、三、とかぞえて、たまご焼き、ハモ焼き、金時甘煮、牛肉つくだに、栗、こうなごの釘煮、赤いふちのカマボコ、だいこんとにんじんとレンコン、ゴボウの煮物、竹の子、はまぐりの佃煮、ヨウカンにタクアンと十二ケもあるぞね…と母が数えた。

昭和初期 大阪から小樽 五

2006年10月29日 00時12分28秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  五                          
 ビー玉の謎
 いよいよホームに入る時間がきた。
 ウメちゃんが先にぼくの手を握った。
 おどろくほど強い力でにぎったまま手をひっぱった。
 …ウメちゃん、がんばって中学へ雪や!父ちゃんにたのんでチョンチュウおんちゃん  に手紙書いてもらうさかい!… 
 ぼくはそういって手を振りほどいた。
 シュー!シュー!と機関車がおおきないきをしている。
 阿倍野橋の上からかいだ匂いがすぐそばからしてきた。鉄工場の鉄が焦げる匂いがした。 ぼくの乗る客車は前から二番目で窓のしたに赤い横線がはしり、Ⅲの字が見えた。
 座席からも匂いがした。
 チョンチュウおんちゃんとこにあったエナメルの匂いだった。
 外より車内があたたかいのは座席のしたに熱い蒸気が通っていると母が言う。
 いつのまにか父の姿が消えている。するとまもなくにこにこした顔の父がさっき見たいい匂いの駅弁の四角いオリを三ケも抱えて乗り込んできた。
 夕方に出発した列車は夜行列車で明日の午後、遅く青森につくと言う。
 父と母はそろって座り、ぼくはゲンちゃんにもろうた幼年クラブの古い本を座席に広げた。なんど見てもタンクタンクロウは面白かった。
 汽車は日のおちた夜の町並みをはしっている。
 ゆっくり街の灯りが窓外を流れてゆく。
 時々シグナルがチャンチャン!となって過ぎてゆく。
 鉄橋のかかる川を渡り、やがて静かな森を通った。
 いつのまにねむったんやろ!目覚めるときょうとと書いた駅札が目に入った。









        
                        

昭和初期 大阪から小樽 四

2006年10月27日 05時02分04秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  四                          
 ビー玉の謎
 梅田駅には驚いた。
 住吉さんの祭りより多い大勢の人々でまちあいしつはわんわんしている。       ハイカラなかっこうしたおんちゃんたちやぼうしをかぶってええとこのおばはんたち、かっこうのええ駅員、風呂敷せおったしょうばいにん、だいがくせい、ちゅうがくせい、女がくせい、しるしばんてん姿のおっさん、、着物姿の若い女、はかまをつけ、ひげをはやしたじじい、いいにおいをふりまきながら大きな箱にべんとうをぎょうさんつんでせをそっくりかえりながらホームへ急ぐ青色の服に赤いぼうしのおんちゃんたち…ぼくはあれ買うてもらう!と心がわくわくした。
 チョンチュウおんちやんとウメちやんがぼくを見送りに来ている。
 ウメちゃんは顔をほてらせて待合室の長いいすにこしかけ、足をぶらぶらしながら高いてんじょうを見ている。
 …ウメちゃん!池のカメつないどったやろ!逃げんようにたのんまっせ!…
 ぼくはウメちゃんの横顔を見ながら言った。
 一度逃げられた住吉さんのカメのかわりにウメちゃんが阿倍野ケ池でつかまえた子カメやった。
 チョンチュウおんちゃんがカメの背のふちに穴を開けてタコひもでくいにむすんでいたが、ときどきひもがきれることがある。
 ぼくはかたいカメのせなかをちいさな枝でひっぱたいて、こんどひもきったら百かいたたくでェ!と五日まえにいうたばかりやった。
 …ま、ま、まぃにーちみ、みるさ、さかーい!…
 やっと下むきながら答えたウメちゃんの頬がぬれていた。
 いよいよウメちゃん、チョンチュウおんちゃんと別れる時がきた。
 ほんとうはぼくも別れがかなしいんやけど、機関車の匂い、心がかきまわされるような汽笛がほえたり、シャーシャー!と機関車がいきをはく音でぼくのかなしみはどこかへとんでしもうた。
 日はとうにくれて駅は人と電気のあかりで祭りのような騒ぎが続いていた。

昭和初期 大阪から小樽 三

2006年10月26日 05時15分01秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  三                           ビー玉の謎  三
 …金谷さん!さっき釜山中学出られたと聞いたが、ええ家の出で幸せやがァ、わしは中  学三年の春、醤油雑貨をいとなんどった家がつぶれてもうて学校は退学するは、兄弟  はばらばら、ぜんぶワヤや!…
 …それはお気のとくや、パルチャや!…
 チョンチュウおんちゃんは顔を曇らせた。
 …わしは絵がすきでびじゅつの学校をのぞみよったがなんもかもワヤや!…
 絵が好きと言う父の顔をぼくは見た。
 …やはりそうや、ヒロくんにかいてもろた桶つくりのワシのはちまき姿、タナにかざっ  とるさかい!ヒロくんはかっこういちばんの絵描きやでェ!…
 ぼくははずかしゅうになった。
 校内クレヨン画てんらんかいで低学年のほうの金章もろうた絵は水にもぐるゲンゴロウの親子をかいた絵やった。…かっこういちばんはおおげさや!…
 …わしのかわりにせがれはびじゅつ学校へいかせるつもりやがァ!…
 父はじまんそうな顔になった。
 チョンチュウおんちゃんもちゅうがくをでた時、ヤンバンだった家がなにかがおきてきょうだいしんせきがばらばらになって、日本にくればお金もたまるいうてやってきた話をした。
 チョンチュウおんちゃんがときどき口にするパルチャは家がかたむいてきょうだいがちりぢりになるうんめいやそうな。
 チョンチュウおんちゃんはごちそうになったお礼や言うて、青い色のみっつのあしがついたやきものを父に渡した。
 父はきちょうなこうろや!たからや!たいせつにするがァ!と大喜びだった。

昭和初期 大阪から小樽 ニ

2006年10月25日 08時01分03秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  二                           ビー玉の謎  二
 …これはしおからというて、父さんの故郷の富山名物やがァ!見ためはくろいが味はて  んかいちやがナ!…
 父は飴玉のはいるような大瓶の真っ黒くてみみずがぎょうさんつまったようなものをだした。
 母も初めてじゃという。
 小皿にとってチョンチュウおんちゃんとウメちゃんとぼくと別々においた。
 …わしも子供の頃ようたべたョ!海にちかいので!…とチョンチュウおんちゃんが口にいれるなりつぶやいた。
 …失礼やが朝鮮で中学校へ行かれたときいちょりますが…
 父はかたわらに置いた一升瓶から酒をチョンチュウおんちゃんの白い茶碗に注いで聞いた。
 …これはこれはおおきに!酒はドブロクしかやっとらんので腹がびっくりしてます、遠  慮せんといただきます!…中学校は釜山中学やったが卒業してから面役場へ勤めまし  た…
 チョンチュおんちゃんはにこにこして飲み干して言った。
 …これもうまい北海道名物やで…
 父が透き通った茶色い棒をふくろからとりだして見せた。
 でてくるもるはみたこともないものばかりや!。
 …これはサケトバ言うて鮭の干物やでェ!頬がおちるほどうまいもんやて!…
 父は皆の前に二本づつ茶色い棒を置いた。
 ウルメをやいたような匂いがしたので少し口に入れた。
 歯でかむと父がいったように魚のおいしい味が口中に広がった。
 …わしはみたこともない!…
 チョンチュウおんちゃんも口にいれた。
 …よしまつ先生のおかげで口がまがるほどのご馳走や!…
 チョンチュウおんちやんは顔を赤くして礼を言った。
 ウメちゃんのだい好物の真っ赤な大きいリンゴがおぜんの上に山盛りに置かれた。
 …これは最近出来た余市二号や!甘さはさいこうやでェ!…
 父がにこにこしてひとつの皮をむき始めると香ばしい匂いがしてきた。
 前におくってもらったリンゴよりずっと香りがつよいリンゴだ。
 ウメちゃんは嬉しそうににこっとした。

昭和初期 大阪から小樽 一

2006年10月24日 07時40分23秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期 大阪から小樽  一                           ビー玉の謎  一
 小樽に転校して四年が過ぎ、小学六年生になって上級中学校に進学準備に入った頃、小学校へ入る前後に過ごした故郷の土佐、そして大阪時代の思い出の風景に父の面影を自覚したのはたったの三回しかない。自覚と言うより記憶と言った方が正しい。 
 四才の春、東京から大阪への旅は父母と一緒のはずだったが列車内での父の記憶は雲の彼方である。
 四才の記憶は東京上空に飛来したツェッペリン飛行船が真っ青の空にぽっかりうかんでいる光景しかない。父はあるいはなんらかの事情で母と別居して小樽で織物問屋の支配人に出世していた弟を頼って東京からひとりで小樽に旅立ったのだろうか…しかし大阪の父の記憶があるのはどうしたことか?父が大きな桶に生きてるタコを手つかみで入れた光景…これはきっと近くの堺に釣りにでかけた時の獲物かも…もうひとつは前にも記したように急な腹痛を起こしてぼくの腹をさすってくれた父の顔とそばに銅の金だらいが光っていた。そして木の絵の描きかたを教えてくれたこと…塀にとまって獲物をねらう蜘蛛…ぼくの一番嫌な、そして恐るべき虫…につかまえた蠅をあたえている父の顔…これはまちがいなく大阪時代に父と過ごした風景だった。
 これらの記憶はすべて五才頃の記憶である。コンタニウメキチと言う吃りの朝鮮人の秀才とは兄弟のように仲良しで阿倍野ケ原の自然の天地をわがもの顔で遊びふけたのもわずか一年くらいだった。
 しかしこの一年はぼくにとっては数年にも思われる充実した日々であった。

 ついに白いバスが十三間通りの彼方から土けむりを巻上げてやってきた。
 五、六人ほどの男と女の客がおりた。
 母が言った眼鏡をかけ、鼻のしたにチョビ髭の背のこんまいおんちゃんが大きな手荷物を道端において手をふった。
 ぼくの手も自然に上がった。
 …むかえにきてもろうておおきに!もう二年生になったんかャ!…
 にこにこして父は言った。
 …この子は友達か?…
 …そうや!ウメちゃんや!ぼくのにいちゃんみたいな秀才やでェ!…
 …ごくろうさんやな!…
 ぼくとウメちゃんは先にたって歩きだした。

昭和初期の大阪 六十三

2006年10月23日 06時18分58秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期の大阪  六十三                             金谷点柱(こんたにてんちゅう)
 …ヒロちゃん!ほんまか?わしはヒロちゃんの家と親戚つきあいやったが、やはり別れ  る時がきてもうた!おお!パルチャやパルチャや!ヒロちゃん!…
 そうつぶやいたチョンチュウおんちゃんの眼から涙がこぼれた。
 …パルチャはわかれるかなしみやな!…ぼくが言うとウメちゃんは裏の材料おきばの陰ににげてもうた。
 ぼくも悲しゆうなって家に戻んで母ちゃんのそばで泣いた。
 …人間はあって別れてまたあっての繰り返しよ!ウメちゃんのおかげでおまんも成績が  ようなったき、いつまでもわすれたらあかん!これからも頑張りいや!…
 母も鼻をつまらせながら言った。
 小樽の父がやってきた日は雲ひとつない青空がひろがっとった。
 ぼくとウメちゃんは十三間道路の住吉前で早くからのりあいバスのくるのをまちよった。 時々おおきな貨物自動車がつちけむりをまきあげてはしった。
 ウメちゃんはさっきから下をむいたままやった。
 …ウメちゃんの大好きなリンゴ、父ちゃんげょうさんもってきよるでェ!元気ださんと! ぼくがそう言った時…こ、こ、こーれ、と家をでるときからにぎっていたウメちゃんの白い右手を開いてぼくの眼のまえにさしだした。
 みると青緑いろのビー玉やった。
 …こんな王様ビー玉はじめてや!ぼくにくれるんか?…
 ウメちゃんは唇をかみながらうなずいた。
 しかし重さがちがうだけか、すんだ青緑いろはいままでみたこともない美しさやった。 …これビー玉であらへん!たからもんや、たからもんや!…とぼくは大声でさけんだ。

昭和初期の大阪 六十ニ

2006年10月22日 00時30分20秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期の大阪  六十二                             金谷点柱(こんたにてんちゅう)
 …母ちゃん!ウメちゃんがうめだ駅に行ったと言うたんや…けったいやでェ!阿倍野の  機関車みただけでにげだしたウメちゃんがなんで梅田駅に行ったんや!?…
 …ほんにおかしいのぅ!けんど北海道へ行くための青森行き列車は梅田からでるきのぅ!  ウメちゃんの言うたのはでたらめでもないき…
 …けどまだ行かへんのやでェ、やはりおかしいわ!…
 …ウメちゃんはミコさんといっしょかも知れへんわ…さきのことがわかるかもしれん! …ミコさんって誰や?金光さんのおばはんか?…
 …金光さんは先生でもなかなかあたらんき、それよりカムロギの信心修行が大事なんよ …
 …ふーん、なんやようわからんわ!…
 ウメちゃんの言うたことがほんまになりそうやった。
 まもなく北海道の父がこの春に大阪へ迎えにくる手紙がきたとある日、やっと小樽にミシン工場が建って、女工員さんもなんとかそろって、いま工場の宿舎で見習いをしよるそうじゃ…と母ちゃんが教えてくれた。
 まもなくぼくが二年生になるのを待って、迎えに来るらしい。
 ぼくは東京で生まれ、四才で母の実家の土佐の田舎にあずけられ、ばぁちゃんといっしょに暮らし、一年生にあがるため母が土佐の田舎に迎えにきていよいよこの春に二年生かとおもったらまた北海道や!ぼくだけウメちゃんといっしょにおる!…
 …そんな訳のわからんこと言うもんじゃないない、子供は両親とくらすのがいちばんじ  ゃけん!ウメちゃんはええ子やったけんどあきらめなあかん!…
 母は厳しい顔して言った。
 ぼくはウメちゃんちに飛んで行った。
 …ウメちゃんほんまや!ほんまや!梅田もほんまや!…
 ぼくは靴をなげすてるようにぬぎすててウメちゃんちに上がって叫んだ。
 チョンチュウおんちゃんもウメちゃんも口あけたまま驚いてなにも言えんかった。

昭和初期の大阪 六十一

2006年10月21日 07時54分38秒 | 玄界灘を越えて
昭和初期の大阪  六十一                             金谷点柱(こんたにてんちゅう)
 …母ちゃん!ウメちゃんは秀才やけど、タカマガハラついとるんやろ!…
 ある日、朝ごはんを食べながら母に聞いた。
 …なんじゃねそのタカマガハラは?金光さんのかい?…
 …そうや、雨がくるとか天気がようあたるんや!…
 …どこにもそんな子はおるもんじゃ!母さんの子供の頃にもそんな子おったぞね!…
 ぼくはウメちゃんはチョンチュウおんちゃんの言う通り、カミサマの入った子やと思った。
 こないだ、北海道のお父がいつくるんやろ?と聞いた時、きゅうに顔をかなしそうにしよったがなんやろう?とぼくは心配になった。
 …ウメちゃん!こないだ聞いた北海道のお父の話、どうなったんやろ?…
 ある日曜日、チョンチュウおんちゃんが用事で遠くまででかけたので、ウメちゃんちの仕事場で聞いた。
 …あ、あ、あーかん、のゃ!ヒ、ヒ、ヒーろちゃん、が、ほ、ほ、っかーいどうへ、い、  いてまうんや!…
 …ぼくはいかんでェ!ここにおるんや!心配せいでええわ!…
 …そ、そ、やない!二、二年生にな、なったら行くでェ!…
 …ぼくが言うとるんや!行かへん!行かへん!…
 …う、うめだえ、えきへ行ったんや、ぼ、ぼく!…
 ぼくはウメちゃんが時々どきっとすることを…とチョンチュウおんちゃんが言うたんはほんまやと思った。
 ウメちゃんが一人で梅田駅に行くわけもないのに…けったいな子や。