昭和初期の大阪 五十九
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
…母ちん!ぼくの歯かゆうてグラグラシよるでェ!
きのうかたい豆かんだととき、したのまえから三番目の歯がカチンとなった。
…痛むんかい?…
…かゆいのや!…
…前歯は大切じゃけん、おひるから歯医者へ行ったらええき…
…いかんでェ!はいしゃの近くの匂いは嫌いや!…五年生のマッちゃんも嫌いや!…
…においは関係ないない!…
ぼくは、今はなんともない!と言った。
土曜日のごご、ぼくはウメちゃんと阿倍野ケ原の池へ行った。あしのねもとにどじょうがぎょうさんおるでェ!…とウメちゃんに聞いたからや。
そっとちかずくと少し大きいおやぶんどじょうがぷくっと合図の泡をだしてそこへ潜って行くとけらいどじょうがまねてブクプクしてもぐった。
ウメちゃんがチョウチョウとりのあみをもってきた。
水際のそとからしずかにあしのねもとをさらうとあみのそこにどじょうが五ひきもはねとった。
ウメちゃんはどじょうを煮てたべるとおいしゆてたまらん!と言葉をながくのばしておしえてくれた。
二十ぴきもあみですくって野原をかけだした。
だれがこさえたんやろう、くさ結びに足を取られてまえのめりにころんで顔を地面にぶったがどじょうはウメちゃんがたけかごにいれとった。
歯をガーンとぶって小石みたいのが口にのこった。
ぐらぐらしよった歯がおれたんや。
…ウメちゃん!歯おれてもうた!…
ぼくはぺっと石ころみたいな歯をはきだした。
するとウメちゃんは…そ、そ、れなーげたーらあ、あかん!父、父ちやーんにき、き、かんとあ、あかん!…チ、チーウイや!と叫んでくさむらのぼくのちいさいおれた歯をひろった。
ちうい!ってなんや?…
ウメちゃんは答えずすごい早さでかけだした。
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
…母ちん!ぼくの歯かゆうてグラグラシよるでェ!
きのうかたい豆かんだととき、したのまえから三番目の歯がカチンとなった。
…痛むんかい?…
…かゆいのや!…
…前歯は大切じゃけん、おひるから歯医者へ行ったらええき…
…いかんでェ!はいしゃの近くの匂いは嫌いや!…五年生のマッちゃんも嫌いや!…
…においは関係ないない!…
ぼくは、今はなんともない!と言った。
土曜日のごご、ぼくはウメちゃんと阿倍野ケ原の池へ行った。あしのねもとにどじょうがぎょうさんおるでェ!…とウメちゃんに聞いたからや。
そっとちかずくと少し大きいおやぶんどじょうがぷくっと合図の泡をだしてそこへ潜って行くとけらいどじょうがまねてブクプクしてもぐった。
ウメちゃんがチョウチョウとりのあみをもってきた。
水際のそとからしずかにあしのねもとをさらうとあみのそこにどじょうが五ひきもはねとった。
ウメちゃんはどじょうを煮てたべるとおいしゆてたまらん!と言葉をながくのばしておしえてくれた。
二十ぴきもあみですくって野原をかけだした。
だれがこさえたんやろう、くさ結びに足を取られてまえのめりにころんで顔を地面にぶったがどじょうはウメちゃんがたけかごにいれとった。
歯をガーンとぶって小石みたいのが口にのこった。
ぐらぐらしよった歯がおれたんや。
…ウメちゃん!歯おれてもうた!…
ぼくはぺっと石ころみたいな歯をはきだした。
するとウメちゃんは…そ、そ、れなーげたーらあ、あかん!父、父ちやーんにき、き、かんとあ、あかん!…チ、チーウイや!と叫んでくさむらのぼくのちいさいおれた歯をひろった。
ちうい!ってなんや?…
ウメちゃんは答えずすごい早さでかけだした。